第15話 渋谷にて皆と買い物デート?
阿久比が刑事達により大会議室から出ていってから暫しの時間が経った後、泣き腫らした表情をしながら詩織が残った僕らに言う。
「皆様にご迷惑をおかけしましたこと、申し訳ありませんでした。
それと共に助けてもいただき、ありがとうございましたっ!!」
そう言ってから皆に頭を下げた詩織にお爺様が声を掛ける。
「詩織嬢、頭をお上げなさい。
ここに集まった皆が詩織嬢の力になりたいと思っての事。
だから詩織嬢の感謝は受け取るが、謝罪するのは違うと儂は思っておる。
無論、儂だけでなく皆も思っているであろうがの」
その言葉に僕らも詩織を見ながら頷く。
「詩織嬢が小さい時から付き合いがあるし身内だとも思ってるから、謝罪なんていらないよ。
力を貸すのは当然のことだし……それ以前に俺は警察だから犯罪を取り締まる義務があるしね。
だから困った事があれば、俊吾を通じてでもいいから相談してきてくれ。
最もだが、俺が動く前に俊吾がいち早く行動を始めるだろうけどな!」
「俊吾様の身内同然の御方である詩織様の力になるのは当然のことに御座います。
ですから、私共にも謝罪は不要に御座います」
「詩織さんには以前、私の家のことで助けていただいたのです。
ですから恩返しの意味も込めて、今回は微力ながらお力添えさせて頂きました。
と言っても、私は彼を睨みつけていたに過ぎなかったですが……」
「皆様の言う通りだと思いますよ、詩織さん。
感謝は受け取りますが、私にも謝罪は不要ですよ?
それ以前に私も沙苗さんと同様に、何のお役にも立ててはいなかったと思いますので……」
「だから詩織、僕らに謝罪はしなくてもいいんだよ?
それに詩織には笑顔が一番似合ってると僕は思ってるよ」
「皆さん……ありがとう……ございますっ!!」
皆からの言葉に詩織はまた泣きそうになりながら、感謝の言葉と共に再び頭を下げる。
それから暫くして、兄貴が口を開く。
「そういえば俊吾。
今からでも学園に向かうのかい?」
そう聞かれた僕はチラッと壁に掛けられた時計で時間を見た後に返答する。
「いや、流石に今の時間帯から学園には向かわないよ。
それに僕らは学園に向かう気力は残ってないしね」
「……確かにそうだったな。
野暮なこと聞いて悪かった。
さて、無事に決着したことだし解散するかい?」
兄貴の提案にお爺様が口を開く。
「うむ、それでいいのではないかと儂は思う。
俊吾はどう思う?」
「はい、僕もそれで依存はありませんよお爺様」
「うむ、それでは解散するとしよう。
儂も学園に戻らねばならぬからお先に失礼するぞ。
また夜に屋敷で」
そう言ってからお爺様は大会議室から出ていった。
その後に続くように僕らも大会議室を後にし、警視庁1階ロビーへと移動する。
ロビーに移動した僕らに、桃花が話し掛けてくる。
「皆様、お車を正面入口前に回してきますので、暫しこのロビー内にてお待ちください。
では俊吾様、失礼致します」
「うん、頼んだよ桃花」
そう桃花に言って見送った僕に、朱璃が声を掛けてくる。
「お兄様? 学園に向かわないということは、屋敷に戻るってことでしょうか?」
「そうするつもりだけど、朱璃は何処かに寄りたい場所でもあったのかな?
あったのなら寄るけど?」
すると朱璃は少し思案した後、再び口を開く。
「でしたら渋谷に寄ってもらっても良いでしょうか?」
「渋谷に? 別に構わないけど……何か買う物があるのかい?」
「何時も使っている化粧品の残りが少なくなってきましたので、予備を買っておこうかと思いまして」
「分かった。 なら渋谷に寄ってから屋敷に戻ることにしよう」
「ありがとうございます!お兄様!」
そう言いながら嬉しそうな表情で僕に飛びついてくる朱璃。
だけどね朱璃さん……此処は警視庁なんだから少しは自重して欲しかったよ、兄の心情としては。
だって僕らを暖かい目で周りの警察関係者の皆様が見てくるから、ね……。
ほら、だから沙苗も僕の左腕に抱きつ…い…てき……って沙苗?
何で君まで僕に抱きついてくるのでしょうかねぇ。
ああ、周りの視線が更に生暖かくなったじゃないか!!
……詩織までもが僕の正面から抱きついてきているんですが、見てないで何とかして下さいよ皆さん!!
そんな僕らの光景を、正面に車を回してから僕らを呼びに戻ってきた桃花にバッチリと見られてしまう。
「俊吾様……この僅か数分の間に何があれば詩織様方が抱きついている、という状況になるのですか?」
そう言いながらジト目を僕に向けてくる桃花。
「……僕が知りたいくらいだよ、桃花。
最も、詩織達のこの行動の意味は分かってるんだけどね。
無論、桃花が僕に対して思っている想いに関してもね」
「……何で俊吾様は他の男性と違って鈍感じゃないんでしょうね。
っと皆様、早くお車に乗って下さい!」
僕の言葉を受け、ほんの僅かに頬を赤く染めた桃花に追い立てられるように僕らは車に乗り、警視庁を後にする。
警視庁を後にした僕らは、桃花に指示を出して渋谷へと向かう。
朱璃が買いたいと言った化粧品を求めて。
それから暫くして渋谷に着いた僕らは、車から降りて朱璃が求めている化粧品が売っている店を目指し、人がごった返す中を歩き始める。
店へと向かう中、僕の左隣を歩いていた沙苗が僕に言ってくる。
因みに僕の左隣に沙苗と桃花、右隣には朱璃と詩織が並んで歩いているという構図である。
そして僕らの周囲には間を空けて歩く護衛達……なんだけど、黒服の男達はともかくとして、メイド服を着たメイド護衛隊は目立っていて、注目を浴びていたとだけ追記しておく。
「俊吾、私は初めて渋谷に来ましたが……何時もこんなに人で溢れかえっているのですか?」
「まぁ、毎日こんな感じだよ。
だけど朝と夕方と夜、休日の方が更に人で溢れてるよこの渋谷はね。
それから───」
沙苗が言った"渋谷には初めて来た"という言葉に引っ掛かりを覚えたが、それには触れずに僕は沙苗に渋谷のことを掻い摘んで説明していく。
「───渋谷については理解しました。
俊吾、丁寧な説明をありがとうございます」
「いや、礼には及ばないよ。
もっと詳しく説明したかったんだが、話すと長くなりそうだったからね。
まぁ、それはまたの機会にってことで」
「はい!その時はまたよろしくお願いしますね、俊吾」
そう僕に沙苗がお礼を言い終えたタイミングで、朱璃が言う。
「あっ、お兄様! この店が私の目的地になります!」
そう言って朱璃が指差した方向を見ると、そこには【ドルティア渋谷本店】があった。
ドルティアは全国各地に出店している総合テナントショップで、朱璃が使っている化粧品も含めた様々なジャンルの商品を取り揃えている店である。
渋谷に……というよりも、朱璃が指差している建物が本社であり、その親会社が瀬戸崎財閥グループだったりする(但し、世間一般には未公表)。
そのドルティアを見上げながら僕が苦笑いしているのに気付いた朱璃が僕に聞いてくる。
……実をいうと朱璃は、ドルティアが瀬戸崎財閥グループの傘下企業の1つであることを知らないのである。
あ、沙苗もか。
この中で知っているのは、詩織と桃花と護衛達のみである。
「お兄様? ドルティアを見上げながら苦笑いしていらっしゃいますが、どうかしたのですか?」
「いや、なんでもないよ朱璃。
ただ単に大きいなと思ってね(本当はここの会長と鉢合わせしたくないだけだなんて言えない……)」
「確かに大きいですよね!
さて、では皆様参りましょうか!
私が求める化粧品売り場は6階になりますので。
それと中は広いので、はぐれないようご注意下さい!
まぁ、お兄様にくっついていれば大丈夫だと思いますが」
そう言った朱璃は有言実行とばかりに僕の左腕に自身の腕を絡ませると、引っ張るようにグイグイと中に入っていく。
それに追順するように残りの3人が、僕の手を掴んだり背中によじ登ってきましたよ、うん……。
因みに背中によじ登ってくるのは詩織以外にはいません………あ、桃花もだったよ。
そんなわけで僕ら一行はエレベーター乗り場へと向かう……というよりも朱璃が僕を引っ張ったまま一直線に目指していたから向かう他なかったのです。
買い物客でごった返す店内をグイグイと進むこと約10分後、僕らはエレベーター乗り場前に辿り着く。
辿り着いた僕らは待ち時間なくエレベーターに乗ることに成功し、6階へと向かった。
エレベーターが6階で停止した後、降りた僕らはというと……相変わらず僕の腕をグイグイ引っ張りながら人の並を掻き分けて進む朱璃に苦笑しながらも、化粧品売り場へと向かっていく。
そして歩く?こと約数十分後、遂に僕らは朱璃が普段使っている化粧品が売られている売り場前に辿り着く……のと同時に僕は詩織に苦言を言う。
「……詩織、目的地に着いたから僕の背中から降りて欲しいんだけど?」
「仕方がないから降りる。
私も化粧品を見たいから」
そう言ってから詩織がようやく僕の背中から降りてくれたおかげで、背中が一気に軽くなった……と思ったらまた僕の背中が重くなる。
「何で桃花が僕の背中に乗っかっているのか聞いてもいいかな?
……僕以外に見え───」
「───嫌なので直ぐに降りますっ!!!」
「だったら最初から乗ってこなければ良かったんじゃないのかな?」
「詩織様が羨ましかったんです!!
ですが……衆人観衆の中では、やめときます。
俊吾様以外の異性には……見られたくないですので」
そう言って頬を真っ赤にしてモジモジする桃花の頭を、僕は撫でながら言った。
「……それが賢明な判断だと僕は思うよ」
「っ!?はい!!」
「さて桃花、僕らも売り場内に入ろうか」
そう言いながら、僕は桃花に手を差し出す。
僕が差し出した手を、桃花は恥ずかしがりながらも自身の手を乗せてくる。
それを掴んだ僕は、桃花の手を引いて売り場内へと足を踏み入れる……恋人繋ぎで。
売り場内に足を踏み入れた僕と桃花は、先に売り場内に入っていった朱璃達を探しつつも、2人で様々な化粧品を見ながら店内を歩く。
それから少しして、ある化粧水が置かれている棚の前で立ち止まった桃花が僕の方を見て言う。
「俊吾様、この化粧水が欲しいです!!」
そう言って桃花が手に取った化粧水には、
【これを使用した後に自分が恋している男性と出掛けると、その人と恋人になれる】
と書かれている。
要は、世の女性達が恋する男性を虜にする為の化粧水だと推測出来た。
願かけに近い感じだとも思える商品である。
その化粧水を僕に買って欲しいと言ってきた桃花の目は真剣そのものだった。
だから僕は桃花に言う。
「その化粧水は桃花へのプレゼントとして僕が買うよ」
「……っ!?ありがとうございます!!!」
そしてその後、朱璃達に見つからないように僕らはレジに向かい、商品を購入後に僕は約束通りに桃花へと渡す。
ラッピングされた化粧水を僕から渡された桃花は、嬉しそうな表情をし、胸の前で大切そうに両手で抱え込む。
だけどその後、朱璃達にバレた僕が皆にも化粧品を買わされたのは言うまでもない話であった。
朱璃達にも買わされたが、皆の笑顔を見ることが出来た僕は満足だった。
それ以降も様々な売り場で買い物をしまくった僕らは、沢山の袋を持ちながらドルティアを後にし、車へと向けて渋谷の街を歩く。
「……皆、これは流石に買い過ぎじゃない?」
「お兄様? この位の量は女性にとっては普通ですよ?」
「そうですよ俊吾様!! 女の子にとってはこの位の量は当たり前のことです!」
「私は……渋谷でのお買い物が初めてでしたので、はしゃいじゃった上で沢山買ってしまいました」
「俊ちゃん、これが世の中の女性達の姿だよ?
でもね俊ちゃん……俊ちゃんも私達のことを言えないくらいの量を買ってるからね?」
「……すみません」
確かに詩織のご指摘通り、僕も大量に商品を購入している為、皆と同じ様に両手一杯に袋を持ちながら歩いているのだ。
だけど出費に関しては驚く事に、5人全員が買った商品の合計金額は約7万である。
そのことを僕は全員に伝える。
「まぁ、大量の商品を買った僕らだけど、掛かった費用は5人合わせて約7万円位だけどね」
「「「「………えっ!?」」」」
「そういう反応になるよね。
でも事実しか僕は言ってないよ?」
「私達が持ってきた商品を次々と俊ちゃんはブラックカードで決済してたから、10数万円はいってるのかと思ってた。
だから正直言って今、7万と聞いて驚いている」
「……だって僕を含めて、皆が持ってきた商品の何れも1000円前後だったから。
高級品を一切買ってないからこその7万以内、というわけです」
「「「だって高級品は量が少ないし好みじゃないから!」」」
「それに加えて、瀬戸崎家と桜坂家は普段から倹約してますから尚更かと。
両当主様が贅沢嫌いなのも影響していますね」
そう言う桃花に僕は言った。
「……だって高級品は量が少ないから、僕のお腹が満たされないんだもん」
「俊吾様が言っているのは、高級食材を使った料理では腹が満たされないから……という意味ですよね?」
「うん、そうだよ。
要するに庶民派ってこと!」
「「「ああ、納得です」」」
「え?庶民派?高級食材嫌い?お腹が満たされない?
皆さんのお話について行けない自分がいます……」
「あ~……沙苗を置いてけぼりにする気はなかったし、混乱させるつもりもなかったんだけど……すまん」
「い、いえ! 俊吾が謝る必要はないです!
皆さんが庶民派と言っていた意味を、後程私にも教えて下さいね!」
「分かった。
さて、気付けば車まで戻ってきてたようだね」
「話してるとあっという間」
「はい、詩織さんの仰る通りですね」
「確かにそうですね」
「では屋敷まで戻ろう。
桃花、安全運転で屋敷まで向かってくれ」
「畏まりました。
それでは皆様、お乗り下さい。
安全運転で迅速に屋敷まで向いますので~♪」
この桃花が言い放った最後の言葉に、僕と朱璃は一気に不安になる。
「「一気に桃花の運転で大丈夫なのか不安になってきた……」」
僕と朱璃の言葉通りに不安は見事に的中する。
アクセル全開で屋敷までリムジンを"快速列車に匹敵する速度"で桃花は運転しやがりましたよ、うん……速度以外の交通ルールはしっかりと守れていたけど……
そして瀬戸崎家に到着後、桃花が皆から5時間に及ぶ説教を受けたのは言うまでもないことであった────
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