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第14話 詩織に迫る脅威(後編)

 先行した阿久比を追う形で警視庁へと向かう僕らと、桃花率いる瀬戸崎家護衛隊。

 僕の隣にいる詩織の様子はというと、身体の震えはすっかり落ち着いていた。

 僕と詩織が乗ってるのは警視庁の警護車両で、最重要人物の警護を担当する警官が乗る為のものである。

 だけど何故か兄貴が運転しており、この車両には兄貴の部下である女性刑事と僕と詩織の4人しか乗っていない。

 朱璃と沙苗が乗っている車両も警護車両であり、そっちの方は兄貴の部下である女性刑事3人と朱璃と沙苗が乗っている。

 兄貴の部下には何故か女性が多いのだが、兄貴に聞いても何で女性の部下が多く配属されているかについての理由は不明との事。

 兄貴が選んでいる訳では無い、ということだけは言っておく。



 話が途中から脱線してしまったので元に戻すが、まもなく警視庁に到着すると兄貴が僕と詩織に言ってきた。

 その際、警視庁に到着してからの流れについての説明があった。


「俊吾、間もなく警視庁に到着するんだけど、警視庁に着いて以降の流れについて説明しておくよ。

 警視庁に到着後、俺らは警視庁内の大会議室へと移動する。

 先行した阿久比も既に大会議室内に居るはずだから、合流する形となるね。

 その大会議室の場において……阿久比との決着をつけることになる。

 護衛には俺の部下達と桃花率いる護衛隊が着くから、阿久比が俊吾と詩織嬢と朱璃と沙苗嬢には危害を加えられないようにするから安心して欲しい。

 それと俊吾、阿久比との決着の場には爺さんも同席するって言ってたぞ」


「流れは分かったけど、何でお爺様が?」


「孫のように可愛がっていた詩織嬢を苦しめ続けていた阿久比を成敗したいらしいんだわ。

 通話した時の爺さんの話し方、完全にブチ切れてたから……大会議室での話し合いは荒れること必須だな」


「俊ちゃんのお爺様……怒らせると怖いからね。

 だけどそれ以上に……俊ちゃんが本気で怒った時の方が遥かに怖いけど……。

 ただでさえ俊ちゃんは瀬戸崎財閥グループ会長という肩書きだけでななく、───の一員だから、ね。

 後者の方を知ってるのは瀬戸崎家の身内と護衛部隊と私を含む家族、それから政府の大臣クラス以上と警視庁の一部のみ。


 俊ちゃんのその表情を見るに……沙苗さんに正体を明かすつもり、だよね?

 それから俊ちゃんが瀬戸崎財閥グループの会長であることを……あの男に、だよね?」


「本当はまだ沙苗嬢には明かして欲しくはないが……俊吾のその表情を見ると、明かすつもりのようだな

 詩織嬢が最後に言ったことは、明かす必要があるだろうからね。

 爺さんがいる時点でバレるだろうし、ね」


「……ああ、明かすよ。

 沙苗は既に僕の……いや、瀬戸崎家の身内だからね」


「……分かった。 俊吾がそう決めたのならば、兄貴である俺からはもう何も言わないよ。

 っと、話し込んでいたら警視庁に着いてしまったな。

 降りて大会議室に向かうとしよう。

 決着の場、にな」


「ああ」「うん」


 兄貴にそう返事を返した僕と詩織は車から降り、もう1台の方から降りてきた朱璃と沙苗と再び合流し、兄貴の後に続いて大会議室へと向かっていった。

 無論、兄貴の部下達と桃花率いる護衛隊に周囲を守られながら。




 警視庁内の大会議室に着いた僕らは、兄貴の後に続くように中に入る。

 入ると既に阿久比が長いテーブル席に座っており、その周囲に兄貴の部下が立っていたのだが、大会議室内に入ってきた僕を睨みつけた後に、詩織の方に視線を移してニヤニヤし出した。

 そして更にこの場には僕のお爺様も阿久比とは対面となる形で席に着いており、入ってきた僕らに気付いて声を掛けてくるのだが、その視線は阿久比を捉えていた。


「俊吾よ、今回は大変なことに巻き込まれたようだな」


「ええ、お爺様」


「それから詩織嬢も災難であったな……。

 まさかこの男が未だに詩織嬢に付き纏っていたとは、な。

 ()()()に警告した筈なのだが、な。

 何の反省もしていなかったようだな……」


「今回は俊ちゃんがいたから私は大丈夫です、繁信(しげのぶ)お爺様。

 ただあの時に助けて頂いたこと、今でも感謝しております」


「なに、礼には及ばぬよ。

 あの時は、()()()()()()()傍を通ったに過ぎないのだからな。


 それにしても、朱璃までもが今回のことに巻き込まれていたとはのぅ……」


「私もそう思います。

 私よりも、詩織さんの方が遥かに辛いことかと」


「うむ、そうであったな……。


 して、そちらのお嬢さんが例の報告にあった沙苗嬢かな?」


「は、はいっ! お初にお目にかかります!

 さ、沙苗と申しますっ!!」


 僕のお爺様を前にして、沙苗は緊張して(ども)りながらも何とか自分の自己紹介を終える。

 但し、苗字は名乗らずに下の名前だけであったが……。

 沙苗の心情を省みると、無理もないことかなと僕は思った。



 その後も暫しの間、僕らはお爺様との会話をしていたのだが……阿久比の怒声を受け、僕らと阿久比の話し合い?は唐突に開始された。

 その際に僕らも席に着席したと付け加えておく。


「ようやく来たと思えば俺を放っておいて会話しやがって!!

 そもそもの話だが、何で俺は警視庁に連れてこられたんだよ!!

 連れてこられるようなことを、俺は一切してねぇのによ!

 その辺の説明をしろよ!!っていう前に、このジジイは誰だよっ!!

 ()()()もこのジジイは名乗りもせずに"俺の"詩織を連れて行ってしまったからよ!!」


 これに対しお爺様が口を開く。


「そう言えばあの時も今もまだ名乗っていなかったな、小僧よ。

 儂は瀬戸崎財閥グループ副会長の瀬戸崎 繁信という。

 隣にいる俊吾の祖父になる。

 それと小僧、目上に対する口の利き方がまるでなっておらんが……今まで何を学んできたのだ?うん?」


 お爺様の自己紹介に対し、阿久比は目を見開いて驚きながらも口を開く。


「せ、瀬戸崎財閥グループの副会長だとっ!?

 それにそっちの1年の祖父……ってことは、だ。

 つまり1年のお前も瀬戸崎ってことか?」


 目上に対する口の利き方がなってない……という部分をまるっと無視した阿久比が僕を見ながらそう言ってきたので、僕も名乗る。

 但し、肩書きはまだ伏せたままで。


「私立城西学園高校1年、瀬戸崎 俊吾と申します。

 して、隣にいる繁信お爺様の孫でもあります。

 以後、お見知り置き下さらなくとも結構ですがね」


 最後の僕の皮肉の言葉が癪に触ったのか、阿久比は声を荒らげる。


「だから何度も言っているだろうがっ!!

 1年の分際で目上の俺に対する態度じゃねぇ───」


「───それを先輩が言う資格はないですよ?

 お爺様の方が先輩よりも遥かに目上なのですから、ね。

 だから先程のお爺様に対する先輩の口の利き方は……絶対にあってはならないことなんですよ?

 お爺様に指摘されても先輩は無視したようですが、ね」


 僕のこの指摘に対し、阿久比は言う。


「何を言うかと思えばそんなことか。

 何で俺がこの態度を貫くのか教えてやろうか、1年?ん?

 そんなのは簡単さ……俺がこのジジイよりも立場が上なんだからよ!! 当然のことだろ?

 こんなのは小さい子供でも理解出来ることだぞ?」


「「「「「「………………………」」」」」」


 阿久比のこのとち狂った発言に対し、大会議室内にいる全員が無言となる。

 それをいいことに阿久比は更に言葉を続ける。


「皆して黙ってどうした?ん?

 ようやくこの場にいる誰よりも俺が上だということを把握したようだなっ!!

 だから誰もが黙りなんだろ? そうなんだろ?

 なんとか言ったらどうなんだよっ!!


 あ、もしかして俺の親父が怖いのか?

 だから誰もが黙りなのか?

 だったら話ははえぇな……詩織と女共を黙って差し出せ。

 そしたら俺はお前らには何もしないと約束してやる!

 嫌だろ?自分の人生が終わるのは、な?

 そうならない為には、俺の言う通りにする他ないって訳だ!

 そういうわけだから……詩織、お前が先にこ───」


 阿久比の言葉は最後まで続くことはなかった。

 何故なら、それを遮ったのは詩織なのだから……。


「───いい加減にしなさいっ!!

 さっきから黙って聞いていれば貴方はっ!!

 一体、どの口がこの場で貴方が一番立場が上だと言ったのですか!?

 貴方はまるで理解していない……何で皆して黙っているのかを!ですっ!!」


 詩織の突然の大声にたじろぎつつも阿久比は反論する。


「と、突然大声をあげてなしたんだよ詩織……。

 この場で俺が一番上なのは紛れもない事実だろ?

 だって俺の親父は……瀬戸崎建設の専務なんだからよ」


 これに対し、先程よりも少し大きな声で言う。


「貴方に呼び捨てされるだけでも虫唾が走るのでやめていただけますか?

 先程私が言いましたけど、理解していないようですのでもう一度言いますが……どの口でご自分が一番立場が上だと言うのですか?

 はっきり言って貴方は……この場にいる誰よりも一番立場が低いですよ?

 最初の方の俊ちゃんのお爺様の自己紹介を、貴方は聞いていなかったのですか?

 はっきり言っていましたよね……"瀬戸崎財閥グループ副会長"である、と。

 つまり貴方の父親が専務をしている瀬戸崎建設は……瀬戸崎財閥グループの一傘下企業の1つに過ぎない、ということですよ?

 だから貴方が繁信お爺様よりも立場が上だと言うのは有り得ないことなんですっ!!


 それから貴方は私が何者なのかについて、ご存知なのですか?

 知った上で貴方は私をストーカーし、あまつさえ襲ったのですか?」


 普段の詩織からは想像もつかないような大声に、僕は内心で驚いていた。

 その詩織に対し、阿久比が答える。

 だがその答えは……僕達の想像とはまるで違っていた。


「……だからなしたんだ?

 君が何者かなんて、俺が知るわけないだろ?

 ただ単に俺は、君の容姿がいいから俺の物にしたかっただけなんだからな」


 阿久比のこの言葉を受け、暫し絶句していた詩織が口を開く。


「……そうですか、貴方にとって容姿のいい女性は物扱いですか。

 私が何者か、なんてのも貴方にとっては関係ない……というのが分かりました。

 そんな貴方に私の素性を教えた所で、貴方は動じないでしょうが言います。

 桜坂財閥グループの現会長である"桜坂 厳正(げんせい)の娘"が私、桜坂 詩織となります。

 その私を貴方はストーカーし続けた挙句に襲ったのですよ!?


 貴方に分かりますか!? 私がどれだけの恐怖を味わい続けついるのかを!!

 何時また貴方に襲われるとも分からない恐怖の中を過ごす日々を!!

 そんな貴方のことを……私は既に被害届を提出していますからね?

 そしてそれは受理済である、ということもお伝えしておきますね」


 詩織が最後に言った"被害届を提出して受理済である"という部分に反応した阿久比がまた声を荒らげて言う。


「てめぇぇぇっ!! なに余計なことをしてくれてんだよっ!!

 何でお前は俺の物になろうとしない!

 何でお前は俺を拒み続けるんだよ!

 何で……何でなんだようぅぅぅぅっ!!!

 何で誰も俺の命令に従わないんだよ!!」


 この言葉には詩織でなくお爺様が答える。


「……何で詩織嬢が貴様に靡かないのかを分かっていないようだな。

 そもそもの話だが、貴様は自分本位が過ぎる以前の話だ。

 今まで何を学んできたのか知らぬが……貴様がこの場で一番立場が下だということを自覚しろ!この大馬鹿者がぁぁぁぁぁっ!!!

 さっきから黙って聞いておれば好き放題言っておるが……儂からすれば貴様なぞ唯の小僧に過ぎぬからな?

 貴様の立場程度で儂をどうにかしようなど……100年早いわぁぁぁぁぁっ!!!


 無論、儂以外のこの場にいる全員をどうこすることも、貴様とその父親には到底無理な話だからな?

 儂が無理と言った理由については……俊介、この小僧にも分かるように説明してやれ」


 最後の最後でお爺様は、説明するべき部分を兄貴に丸投げする。


「……やれやれ、そこで俺に振るのかよ。

 昇君、シンプルに言うと君の父親は間もなく横領罪等の罪により逮捕されることになる。

 よって、昇君にはもう何の立場も存在しないことになるね。

 最も昇君……君は詩織嬢への度重なるストーカー行為及び強姦未遂の容疑で逮捕状が出ている。

 更に君には他にも数多の犯罪を犯してきたという証拠も揃ってるから、簡単には社会に戻ってくることは出来ないと思ってもらいたい。

 今までの君の話を黙って聞いていたが、自分が罪を犯したという自覚がないようだからね。

 それでは現時刻11時15分をもって、阿久比 昇を詩織嬢へのストーカー及び強姦未遂の容疑で逮捕する。

 彼に手錠を」


「「はっ!!」」


 阿久比への説明をした兄貴が最後に罪名を述べ、部下に阿久比の手に手錠を掛けるよう指示を出す。

 兄貴の指示を受けた部下の1人が手錠を取り出し、阿久比の腕に掛けようとしたその時、阿久比が暴れ出す。


「ふ、ふざけんじゃねぇよ!!

 何で俺が逮捕されなきゃなんねぇんだよ!!

 俺は悪くねぇっ!

 悪いのは俺の物にならなかった詩織だろうがっ!!

 逮捕すんならあの1年のガキだろうがよっ!!

 彼奴が俺の詩織を奪って行った事が原因なんだからよ!!


 おいお前ら!俺に触んじゃねぇっ!触んなって言ってんだろうがっ!おらぁっ!!」


「ぐっ……」


 逃げようと必死になって暴言を吐きながら暴れる阿久比は、手錠を掛けようとしていた兄貴の部下のお腹を蹴り飛ばす。

 お腹に蹴りを入れられた男性刑事は、蹴られた際にくぐもった声を上げつつも、なんとか阿久比の両手首に手錠を掛ける。

 阿久比が蹴りを入れるのを見ていた兄貴が言う。


「昇君……いや、阿久比 昇。

 警察の公務を妨害したとして公務執行妨害の罪状を追加することとする。

 暴れれば暴れるだけ不利になるだけだから、大人しくしたまえ!!」


 兄貴にそう言われた阿久比は、手錠を掛けられたまま大人しく自分が座っていた椅子に座る。

 それを見ていた僕は阿久比の目を見ながら言う。


「……自己紹介以降に黙って聞いていたけれど、貴方に僕のもう1つの肩書きを言っておくよ。

 瀬戸崎財閥グループの現会長にして瀬戸崎家当主が僕であることを、ね。

 貴方のあの往来で語った瀬戸崎建設に勤務する自分の父親が専務だと言う発言を……僕は黙って見ている訳にはいかなかった。

 貴方には分からないだろうけれど……その貴方が言った数々の軽率な発言によって、瀬戸崎財閥グループ全体の信用を大きく失墜させた、ということを自覚して欲しい。

 そしてその軽率な発言により、瀬戸崎財閥グループに勤める全社員やその家族を路頭に迷わせかねない事態にまで発展しそうになっている……ということも、ね。

 貴方にその責任を追う覚悟があったのかい?

 その覚悟もない上で、あの発言をしていたのなら……瀬戸崎財閥グループを預かる者として絶対にお前を許しはしない!!


 刑務所の中で自分がどんな罪を犯したかについて、しっかりと反省して欲しい」


 そう阿久比に言った僕は、もう何も話すことは無いという意味を込めて兄貴を見る。

 僕の意を汲んだ兄貴が部下へと指示を出す。


「阿久比 昇を連行せよ」


「「はっ!!」」


 兄貴の指示に従い、男性刑事2名が阿久比を立たせた後に両脇を固めながら大会議室の出入口へと向かっていく。

 更にその背後からは3名の男性刑事が続く。


 阿久比が刑事達に連れられ大会議室から出ようとしたまさにその時、阿久比の方は向かずに詩織が口を開く。


「……最後に貴方に言っておきます。

 例え貴方が反省し、何年になるか分からない刑期を終えて社会に出てきたとしても……貴方が私にしたことは一生許す気はありません。

 そして私は初めから───貴方のことを異性として見ていませんでした。

 私が言いたかったのはこれだけです……うぅ……っ………」


 そう阿久比に言った後に僕の胸に顔を(うず)め、静かに泣き始める。

 そして詩織の言葉を聞いた阿久比は最後に、


「………ははっ……初めから脈なしだったんだ、な………」


 と言ったのを最後に、刑事達に付き添われながら大会議室から出ていった。

 阿久比が逮捕されたことにより、ようやく詩織は彼の呪縛から開放される日を迎えたのであった────









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