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第13話 詩織に迫る脅威(中編)

 僕が相良にSPの派遣を指示してから暫しの時間が経ったのだが、阿久比は僕に罵声を飛ばし続けていた。

 だがしかし、僕は勿論のこと朱璃や沙苗も完全に無視を決め込んでおり、返答を返してはいない。

 下手に返答を返せば、返した分だけ阿久比がヒートアップするのが目に見えていたからである。

 詩織はというと、阿久比が罵声を発する度に身体を震わせ続けてはいるが、僕と相良の通話内容が聞こえていたらしく、ほんの僅かにだが身体の震えは治まってきているのを、背中越しに感じられた。



 僕はというと、こんな状況下なのに不謹慎にも背中越しに伝わる詩織の体温にドキッとしてしまっていた僕の視界に、数台の黒塗りの高級車が此方に近付いてくるのが見えた。

 そして更に僕の耳に、段々と此方に近付いてくるパトカーのサイレンが聞こえてもくる。

 阿久比を睨み続けていた朱璃と沙苗も、黒塗りの高級車が近付いてくるのとパトカーのサイレンに気付いたようで、阿久比の方から僕へと視線を向けてきたので、僕が呼んだという意味を込めて2人に頷いてみせる。

 僕が頷いたことにより安心した表情を僕に見せる2人。

 それとは対照的に阿久比はというと、聞こえてくるサイレンの音に対して周囲を見回していた。

 見回している阿久比の表情は完全に焦り顔となっていた。

 正直言って僕は阿久比の焦り顔に対して笑いそうになっていたのだが、それを悟られないようにしながら近付いてくる黒塗りの高級車の方に視線を向けるのだった。



 そして遂に数台の黒塗りの高級車が僕らがいる側の道路に停車し、黒の上下スーツをビシッと着こなした男が何人も降りてきて、僕らの傍に近付いてくる。

 だけど僕は目を見開いてしまった。

 スーツ男達の先頭に立ちながら近付いてくるメイド……否、黒色に金糸の刺繍とスカート部分に純白のフリルが特徴的のメイド服を着た女性である我が瀬戸崎家副メイド長の望月 桃花(もちづき ももか)さんだったのだから。

 そんな僕を他所に、僕の前に辿り着いた桃花が口を開く。


「お待たせ致しました俊吾様。

 俊吾様の要請により30名のSPと私を含む6名のメイド護衛隊、只今参上致しました。

 これより俊吾様、詩織様、朱璃様、沙苗様の身辺警護に入らせて頂きます」


 そう桃花が言った後、一斉に僕ら4人に頭を下げる黒服達。

 その桃花を含む黒服達に、驚きから正気に戻った僕は言った。


「と、とりあえずご苦労。

 ……ってか、何で副メイド長及びメイド護衛隊副総長の桃花までいるの?」


「それはですね俊吾様、単に私が来たかっただけです♪」


「「「「「…………………」」」」」


 僕の疑問に対しての桃花の回答に、僕ら4人と黒服達とメイド護衛隊5人は無言となる。

 自分以外の全員が無言となったことに対し、不思議そうな表情をした桃花が口を開く。


「あれ? 皆様は何で無言なんでしょう。

 もしかしなくても私、のせいでしょうか?」


 これに対し僕は一言。


「……今月と来月の給料10%カット決定」


 僕がそう呟いた瞬間、桃花は僕に詰め寄ってきながら言う。


「な、何でですか!?

 私は何もしてないのに~ッ!!!」


「何もしてないって……。

 だって桃花はさっき自分で『単に私が来たかっただけです♪』って言ったからだけど?」


 詰め寄って来た桃花に言った僕の言葉に、全員がウンウンと頷く。

 この瞬間、桃花は絶望した表情をして項垂(うなだ)れながらしゃがんでしまう。


「……あのさぁ桃花、言い難いんだけど見えちゃってるからね?

 何がとは言わないけど……」


 僕がそう言いながら視線を逸らすと、桃花は絶望した表情を一変させ、ニヤニヤしながら立ち上がって僕の目を見て言う。


「あれれ~? もしかして俊吾様……私の見ちゃったんですか~?

 これはもう責任を取ってもらわないとですね~♪」


 桃花のこの言葉に、僕はこめかみを押えながら言う。


「……やられた。

 ……っていうか桃花! 朝に俺を起こす時は毎回毎回だよな、僕の顔の上に立ちながら起こすの。

 だから今更見えても何も感じないんだよな」


「とか言いつつも俊吾様、視線が微妙に逸れてますよ~?

 ほんとは嬉しいくせに~♪ このこの~♪」


 と、桃花と僕との漫才?の蚊帳の外に置かれていた阿久比が僕らを怒鳴ってくる。


「おい1年!! 何なんだよこの黒服共はよ!!

 しかもパトカーのサイレンの音まで近付いてきてるしよ。

 お前、通報しやがったな?」


 と言ってきたので、僕はい……おうとした所で桃花が言った。

 それと同時に、黒服達とメイド護衛隊が素早く僕らの周囲を固める。


「……俊吾様に対して貴方は何なんですか?

 通報したから何だっていうのです?

 貴方が俊吾様方に何かしたから通報されたのではないですか?」


 桃花のやつ、僕との会話を邪魔されて完全にブチ切れてるなぁ。

 そう僕が思っている中、阿久比は桃花に反論してくる。


「俺は通報されるようなことは一切してねぇよ!!

 そこの1年が俺の婚約者たる詩織を渡さねぇから、渡すように言っていただけだ。

 次いでとばかりに女共も渡せとは言ったがな。

 それ以前に、だ。 いきなり現れたこの黒服共とお前は何者だ?

 その1年と関係でもあんのか?」


「なるほどなるほど……貴方は馬鹿ですか?」


「はっ? 俺が馬鹿ってどういうことだよ!?」


「通報されるようなことは一切してないなら、何でパトカーが私達が乗ってきた車の後ろに停車したんでしょうねぇ~?」


 その桃花の言葉の通りに道路の方を見る僕ら。

 確かに()()のパトカーが停車した所だね。

 まぁ、それを見て阿久比は驚きと焦りの表情をし始めたけども。

 そんな阿久比のことなど他所に、阿久比の言葉に続くように桃花は言う。


「ま、まじでパトカーがいやがる……」


「……状況は貴方が見た通りだと思いますが、先程の質問にお答え致しますね。

 この黒服達と私を含むメイド達は護衛になります。

 私が何者かについては……明かしても問題なさそうですので言いますが、瀬戸崎家副メイド長兼メイド護衛隊副総長の望月 桃花と申します。

 以後、お見知り置き下さらなくとも結構でございます」


「ん?瀬戸崎家? その1年は何処かのお坊ちゃんってことか?

 だとしても俺の家格の方が上だろうから問題はないな」


 桃花の自己紹介に対してそう言う阿久比だが、桃花は僕らにしか聞こえない声量で呆れたように言う。


「瀬戸崎家、と私が言ったことを含めてのあの発言……馬鹿としか言いようがないですねぇ~。

 この日本で瀬戸崎家よりも家格が上の家などあるはずもないんですがね。

 そのことをまるで理解していませんね、あの方は」


 桃花のこの言葉に呼応するように朱璃達も続く……無論、阿久比には聞こえないくらいの声量で。


「桃花さん、瀬戸崎家と聞いた上でのあの発言なのですから……あの方が理解することはないかと」


「私もそう思います。

 俊吾の家よりも家格が上はないでしょうに……」


「……俊ちゃんの家が日本で1番上。

 俊ちゃんの家よりも上位は有り得ない」


「自惚れるつもりは無いけど、僕の家よりも家格が上の家は聞いたこともないよ」


 そう、僕らがコソコソ話してることが気に触れたのか、阿久比が怒鳴り声を上げる。


「おいお前ら! さっきからコソコソと何を話してんだよ!!

 いい加減に女共をこっちに渡せよ!!

 どれだけ無駄な時間か分かってんのか1年?

 時計を見ろよ、時計をよ!

 既に遅刻だろうが!!

 お前がさっさと渡さないせいで、皆勤賞を逃しちまったじゃねぇかよ。

 だから1年、罰としてそのメイド達もこっちに渡せ!

 お前に拒否権はねぇからな?」


 阿久比のこのとち狂った発言が終わった瞬間、紺色の上下のスーツを着こなした男性が僕の傍に現れ、口を開く。


「俊吾、随分と威勢のいい奴に絡まれてるな?

 あれが誰かについて教えてくれないか?」


「……来るのが遅いよ、兄貴。

 彼は城西学園高校2年の阿久比 昇……僕らの1年先輩であり、詩織にしつこく付き纏うストーカーだよ。

 それと、詩織を襲った奴でもある」


 それを聞いた兄貴の目つきと雰囲気がガラッと変わる。


「……なるほど、彼が例の人物か。

 前回は詩織嬢への接近禁止命令を出したはずだが……さっきの発言を聞くに、まるで反省していないようだね」


「ああ。 現に兄貴も聞いた通り、女性を物扱いだからタチが悪いよ。

 それに阿久比の父親が瀬戸崎建設の専務をしているらしく……事は瀬戸崎財閥グループ全体の信用問題に関わってくる」


「……だろうね。

 本部に場所を移した方が良さそうだね。

 これ以上、周囲に迷惑をかけ続ける訳にもいかないだろ?」


 兄貴の言葉に同意しようとした時、僕のスマートフォンから着信音が鳴る。


「悪い兄貴、相良から電話が来たから出るわ」


「相良からか……分かった。

 気にせずに出るといい」


 悪い、と兄貴に言ってから僕は通話をタップする。


『いまお時間は宜しいでしょうか?』


「ああ、大丈夫だ」


『俊吾様が調べるようにと言った瀬戸崎建設の専務について分かりましたので、お電話した次第にございます』


「丁度、兄貴も傍にいるから報告してくれ」


『俊介様も近くに……これは好都合でございますな。

 では、お言葉に甘え報告致します。

 瀬戸崎建設の専務である阿久比……フルネームを阿久比 翔太(しょうた)と言いまして、今から5年前に専務になった男にございます。

 家族構成は、妻である美奈子(みなこ)、長男である昇、長女である美智瑠(みちる)、次女である美紅(みく)の5人家族。

 翔太という男は専務という地位を悪用し、会社の金の横領をしているだけでなく、息子である昇が犯してきた数々の犯罪を揉み消していました。

 また、息子である昇は脅迫・強姦・ストーカーといった犯罪に手を染めており、常習化していました。

 ただ、妻である美奈子と2人の娘達に関しては、翔太と昇の犯罪には一切関わっていません……というよりも2人の犯罪の数々等は知る由もない事かと思われます。

 尚、翔太の横領に関しての証拠は既に瀬戸崎財閥グループ本社会長室に届け済みと共に、昇が犯した犯罪の証拠も揃っております』


「……分かった。

 専務に関しては全体会議にて処分を検討……するまでもなく懲戒解雇及び告訴するという旨を即座にグループ全体に周知すると同時に警察に通報せよ。

 それとこの際だから、グループ全体で他にも不正がないかどうかの調査を即座に実行せよ!!

 こんな不祥事は二度と起こさせてはならないから徹底的にやれ」


『畏まりました。

 直ぐに手配・実行致します。

 もし他にも不正を行っていた者がいた場合はいかが致しますか?』


「問答無用で懲戒解雇処分を僕の名で言い渡せ。

 犯罪に手を染める者は、瀬戸崎財閥グループには要らない。

 だが、弱みを握られた等による物だった場合は処分内容を検討しなければならないから僕に報告をして欲しい。

 それから、不正を働いた者の家族が何も知らなかった場合は補償することとする。

 路頭に迷わせる訳にはいかないから、ね」


『畏まりました。

 他に何か御座いますか?』


「いや、他には何もないかな。

 調査と報告、ご苦労だった」


『ありがとうございます。

 それでは失礼致します』



 相良との通話を終わらせた僕は、兄貴に言った。


「聞いた通りだよ、兄貴」


「話は全て聞いていたから、専務については直ぐに逮捕状を請求した後、令状がおり次第、即座に逮捕出来るように手配する。

 という事で君は直ぐに裁判所に逮捕状の請求手続きを行い、令状がおり次第、即座に身柄を拘束してくれ。

 絶対に逃がすなよ?」


「了解でありますっ!!」


 僕と相良との通話内容を聞いていた兄貴は、傍にいた部下の刑事に命令を下す。

 兄貴の命令を受けた刑事は素早くパトカーまで走っていき、この場から離脱していった。

 部下である刑事を見送った兄貴は、阿久比に近付いていく。

 そして阿久比に言う。


「君が阿久比 昇君だね?」


 兄貴に自分の名前を言われた阿久比は、(ども)りながらも口を開く。


「だ、誰だよお前!!

 け、警察が俺に何の用だよ!!」


 阿久比にそう言われた兄貴は懐から警察手帳を取り出し、阿久比に見せながら言う。


「俺は警視庁捜査一課課長兼生活安全課課長で警視正の瀬戸崎 俊介という。

 そして、昇君が暴言を吐いていた相手の兄でもあるよ」


 兄貴の自己紹介に驚きの声を上げる阿久比。


「あの1年の兄で……け、警視正だと!?

 さ、流石に警視庁の警視正には親父でも……揉み消すことは無理だろ、これ……」


「……揉み消す、とはなんの事だい昇君?

 まあいいや、とりあえず場所を移そうか……警視庁に、ね。

 逃げようとは考えない方がいいよ?

 君にとって不利になるだけだからね。

 だから……大人しく来てくれるよね?」


「……は、はい」


 一瞬だけ逃げる素振りを見せた阿久比だったが、僕のSP達や多くの警官達に囲まれたこの状況で逃げ出すのは無理だと悟ったのか、阿久比は兄貴の部下に促される形でパトカーに乗せられ、警視庁へと向かっていった。

 それを見届けた兄貴は僕らの方に向き直ってから言った。


「さて俊吾、俺らも警視庁に向かおうか」


「分かった」「は、はい」「分かりました」「うん」


 僕ら4人は兄貴にそう返事した後、僕と詩織・朱璃と沙苗に別れる形でパトカーに乗った。

 僕がパトカーに乗る際、僕は桃花に指示を出した。


「桃花、SPを10人とメイド護衛隊は警視庁に同行してくれ。

 残す人選は桃花に一任する」


「畏まりました、俊吾様」


 そして僕らを乗せたパトカーと桃花率いる護衛の一行は、阿久比を追う形で警視庁へと向かう。

 詩織を苦しめる阿久比との決着をつける為に────








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