閑話2 沙苗が自由になった日・後編
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俊吾の正体を知ってから暫くして、俊吾の屋敷で働いているメイドさんが応接室のドアをノックしてから入ってきた。
応接室内に入ってきたメイドさんが私達に一礼した後、俊吾に来客者がいると伝えてきました。
時刻が既に午後8時を過ぎてからの来客の知らせに対し、少し考えた素振りを見せた俊吾だったが、来客を知らせに来たメイドさんに案内をするように伝えていました。
それを聞いたメイドさんは、一礼した後に応接室から退出していきました。
それから程なくして、再びドアをノックしてから先程のメイドさんが来客者の女性を伴って応接室内に入ってきました。
その来客者の女性は、私と同じ城西学園でクラスメイトの桜坂 詩織さんでした。
詩織さんが瀬戸崎家に訪れた理由ですが、私が瀬戸崎家に入っていく様子を、隣にある自宅の自室の窓から見えた為、気になったからだそうです。
詩織さんといえば、誰もが知っている桜坂財閥グループのご令嬢なのですが、俊吾の幼馴染みだということを……私は今日、初めて知りました。
私の恋敵の登場に、私は内心……動揺してしまいました。
そんな私の心情を他所に、俊吾に座るよう促された詩織さんが私を見ながら『こんばんは、沙苗さん。 隣に座ってもいいかな?』と声を掛けてきたので、私も詩織さんを見ながら『こんばんは、詩織さん。 はい、どうぞ』と返答を返しました。
私の返答を聞いた詩織さんは、私の右隣に腰掛けました。
詩織さんが腰掛けたタイミングを見計らったかのように、遥さんが彼女の前のテーブルの上に置いた紅茶を、遥さんに一言礼を言ってから一口だけ飲んでからテーブルの上に置きました。
紅茶をテーブルの上に置いた詩織さんが口を開こうとした時、再び応接室のドアをノックする音が聞こえてきました。
その音に反応した相良さんがドアに向かって言いました。
『入ってきなさい』
『はい、失礼致します』
『今は来客中ですよ? 一体、何事ですか?』
『来客中に申し訳ございません、俊吾様、相良様、メイド長、西園寺様、桜坂様。
それがその……西園寺財閥グループ会長の西園寺 誠二郎様がお越しになられまして。
どうすれば良いかの判断を仰ぎに来ました』
メイドさんが告げた言葉に対し、私は驚くのと同時に……なんで私が此処にいることが分かったのですか、お父様はっ!?ということで頭がいっぱいになってしまいました。
そして、自身の血の気が引いていくのも……。
そこで私はハッとしてから思い出したのです。
西園寺家で自由を縛られてた私のスマホは、私の行動を監視する為に両親がGPSを探知出来るようにしていたことを、です……。
だからお父様は、私が帰ってこないことに業を煮やし……GPS探知機能を使って私の居場所を調べ上げた後、私が俊吾の家に居ることを突き止めたからこそ……今こうして瀬戸崎家に連絡もせずに尋ねてきたのだろうという事実に、です。
そして、政略の道具として私を西園寺家に連れ戻す為に……。
ですが、自分の父親が尋ねてきたと聞いてから不安と恐怖に怯えていた私に気付いた俊吾が私の左隣に移動してきた後に、優しい口調で『沙苗さん、大丈夫だから僕に全て任せて欲しい』と声を掛けてくれました。
それを聞いた私は、不安と怯えが治まっていくのを感じました。
私にとって想い人の言葉は、正に救いの言葉に他ならなかったからです。
詩織さんも私に『何か良くないことが起こりそうな予感がしますが、私も沙苗さんを守ることにしますね』と言ってくれました。
まぁ、私は無意識のうちに俊吾の胸に顔を埋めてしまいましたが……。
それから暫くして、あからさまに"不愉快です"という表情をしていたメイドさんに案内される形で、私の大嫌いな父親が応接室内に入ってきました。
応接室内に入ってきて早々に誠二郎が発した言葉は、非常識にも程がある言葉でした。
ほんとにこれが、西園寺財閥グループのトップに君臨する男が言う言葉ですか?という感じでした……。
それに対して応対する俊吾と詩織さんは、私と同じ高校生ですか?と、疑ってしまうくらいの対応力で、私の父親と対峙していました。
自分の父親とは天と地の差だなとも思いました。
学園では決して見たことのない俊吾の一面を間近に見て、胸が熱くなっていく私がいることを自覚しました。
その後も、俊吾&詩織さんと誠二郎の話し合い?は続いていく中で、俊吾は私を必死になって連れ戻そうとしている理由を誠二郎に聞きました。
その返答が『沙苗を連れ戻す理由か?そんなの、政略結婚の道具にする為に決まってるだろう?瀬戸崎財閥グループのトップなのに、そんなこともわからんのか、貴様は』という返答でした。
その言葉を聞いた私は、いつかお父様とお母様に愛してもらえる……実の娘として私を見てくれる……そんな16年間もの想いが一瞬にして粉々に打ち砕かれたことを……理解してしまいました。
いや、理解させられてしまいました……。
幼少期から、『お前の一生は、儂の立場や西園寺財閥グループを繁栄させる為の道具だ!それ以外にお前が生きる価値はない!!一生、儂の道具として生きよ!!』という言葉を叩き込まれながら、今日までの16年間を生きてきました。
それでも私は……愛されたかったです!!お父様とお母様に愛されたかったんです!!
この2つを願いながら、今日まで耐え続けてきました。
ですが、先程のお父様の言葉を聞いて分かりました……いや、分からせられました。
この先一生、私がお父様とお母様に愛される未来など……一生、訪れることは無いのだろうということがです。
そう思った時、意識が遠くなっていくのが自分でも分かりました。
薄れ行く意識の中、倒れていく私の名前を心配そうに叫ぶ私の想い人の俊吾の声……。
そしてクラスメイトの詩織さんの心配する声を聞いたのを最後に、想い人の胸の中で意識が闇の中に沈んでいきました……。
意識を失ってからどれくらいの時間が経ったのでしょうか……。
私が目を冷ましてから見たのは……私の知らない天井でした。
意識がハッキリした私はようやく理解しました。
意識を失ってから別の部屋に運ばれて、ベッドの上に寝かされたという事実をです。
私が目を覚ましたことに、ベッド傍に控えていたメイド長の遥さんが気付いたのか、私に声を掛けてきました。
「お目覚めになられましたか、沙苗様。
気分は如何ですか?」
それに対して、私は返答を返しました。
「はい、お陰様で幾分かは良くなりました」
「それは何よりでございます。
……それでですが、俊吾様の元へと戻りますか?
それとも、まだお休みになられますか?」
「いえ、俊吾の元に戻ろうと思います。
……あの人に言いたいこともありますので。
ですので、応接室までの案内をお願いできますか?」
「畏まりました、沙苗様。
それでは、応接室までご案内致します」
目を覚ました私は、遥さんとやり取りした後に遥さんの案内で応接室へと戻る。
応接室に戻った私の目に飛び込んできたのは、怒り心頭の俊吾が誠二郎にこう言っている場面でした。
『本当に、貴方は何処まで自分本意なんだ!!
沙苗さんは家族なんじゃないのか!?
そんなに自分の立場が大事か!!
お前にとって沙苗さんを、最初から政略道具としてしか見てないってことが良く分かったよ!!
貴方なんて、親失…』と。
だから私は、最後に『親失格』と言おうとしていた俊吾の言葉に待ったをかけ……『俊吾さん、ここからは私に話をさせてもらえませんか?』と。
いつの間にか傍にいた私に一瞬だけ驚いた表情をした俊吾だったが、私の気持ちを察してくれたようで、俊吾は私に譲ってくれました……あの人に私自身が今思っていることを伝える機会を。
なので私は、ありったけの気持ちを込めて誠二郎に言いました。
そして更に、西園寺家との絶縁を宣言しました。
絶縁を宣言した所で、私は俊吾の胸に顔を埋めながら泣いてしまいました。
そんな私を、俊吾は優しく抱きしめてくれましたし、詩織さんは背中を撫でてくれました。
そして私の背中を撫でながら詩織さんが誠二郎に言い放ちました。
『……俊吾君が言えなかったことを私が代わりに貴方に言います。
沙苗さんをここまで追い詰めて……泣かせた貴方は──親失格です!!
そんな貴方に対し、私も宣言します──桜坂財閥グループも西園寺財閥グループとの全取引を終了させて頂きます!!
通達は父様と相談した後からとなりますが……覚悟しておきなさい!!』と。
詩織さんの取り引き終了宣言以降も、誠二郎はうだうだと言い続けていました。
そんな誠二郎に痺れを切らした私は、再び西園寺家との絶縁を誠二郎に対して宣言しました。
2度目の私が言った絶縁宣言以降の俊吾の言葉に激怒した誠二郎が私に飛び掛ってきました。
その際、俊吾が私と誠二郎の間に瞬時に入り、誠二郎を一本背負いでテーブルの上に投げ飛ばしてしまいました。
そんな俊吾に、私は再び抱きついてから胸に顔を埋めてました。
俊吾がカッコ良すぎるから抱き着いて胸に顔を埋めてしまっても仕方がないよね!!って思いながらです!!
唯、俊吾の右側から物凄い威圧感が私に放たれてるのを感じた私は、身震いが止まらなかったです……はい。
テーブルの上に無様に倒れる誠二郎を冷めた目で見ていた俊吾が言う。
『女性に手を挙げようとするとは……男の風上にもおけない男ですね貴方は。
沙苗に手を出そうとするものは、僕が絶対に許さない!!』
俊吾の……誠二郎に対する軽蔑の言葉の後に続くように私と詩織さんも誠二郎に軽蔑の眼差しを向けながら言いました。
『女性に手を上げようとして、貴方は男として恥ずかしくはないですか!!
ましてや実の娘である沙苗さんに飛びかかろうとするとは……最低ですね』
『……貴方はもう、私の父親なんかではありません。
唯の他人です……』
私のその言葉の後に、俊吾は更に言いました。
『権力を使うのは好きじゃないが、沙苗さんに手を出すと言うのなら……政略の道具に利用すると言うのなら……沙苗さんを守る為ならばっ!!』
そこまで言った俊吾は、少しだけ間を置いてから誠二郎の目を見ながら言いました。
『瀬戸崎財閥グループ会長として貴方を───西園寺財閥グループを潰すことをここに宣言するっ!!!西園寺財閥グループ会長、首を洗って待っておくがいい!!!』と。
その俊吾の宣言を聞いた詩織さんが、俊吾の方をちらっと見てから誠二郎の方を見て言い放ちました。
『では私共、桜坂財閥グループも瀬戸崎財閥グループに協力する形で、西園寺財閥グループを潰させて頂きますね』
それを聞いた誠二郎は驚きながらガバッと身体を起こし、震える声で言いました。
「な、な、なっ!?潰すというのか!!儂を!!西園寺財閥グループをか!?たかが政略の道具の為だけにか!!」と。
2人にそう反論してきた誠二郎に対し、俊吾はハッキリと言ってくれました。
……この宣言は絶対に実行するという意思が感じられる表情をしながら。
『ああ、徹底的に潰す!!沙苗さんは───沙苗は感情を持った1人の女の子だからだ!!実の娘を政略の道具としてでしか見ていない貴様には一生分からないだろうがな!!
沙苗の感情も一生の人生も───全ては沙苗自身の物だ!!
沙苗自身以外の誰にも、感情や生き方を決める権利などありはしないんだよ!!
だから僕は、合法的に西園寺財閥グループを徹底的に潰させていただく!!!』と。
俊吾と詩織さんに感謝の言葉を伝えた私は、誠二郎の目を見ながら言いました……決別の意味を込めて。
『最後に一言だけ。 お父様、16年間育てていただきありがとうございました。
これだけが、お父様に対して唯一……感謝していることです。
だから私は、瀬戸崎 俊吾さんと桜坂 詩織さんという素晴らしい方々に巡り会うことが出来たのです。
だからもう、私は貴方とは2度と顔も合わせたくもありません。
会うのはこれが最後です。 そしてこれを言うのも、これが最後です……さようなら、お父様』
そう言い放った私は、俊吾の胸に顔を埋めました……二度と西園寺家の面々との関係を完全に絶つという意思表示の意味を込めてです。
俊吾が執事の相良さんに誠二郎を退出させるように指示を……否、実質は強制退出させるよう指示を出した。
その指示を聞いた相良さんがパチンっと指を鳴らすと、黒服達が応接室内に入ってきて、誠二郎の両脇を掴んだのだと、声だけで判断しました。
私の耳には更に、誠二郎の応接室から連れ出されてゆく声も聞こえていました。
誠二郎の声が聞こえなくなったことに、私は安心しきってしまったようで、俊吾の胸に顔を埋めながら意識を手放してしまいました。
想い人の匂いと、詩織さんが私の背中を優しく撫でる手つきに誘われながら。
こうして私は今日この日、16年間の呪縛から解き放たれ……夢にまで見た"自由"という名の新たな人生を歩み始めるのであった───
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