四話 散策
ということで、今は森の中を散策中である。
あれから少し歩いているが結構スムーズに歩けるようになってきている。最初は赤ちゃんのハイハイくらいの出来だったのが今では子供が歩くくらいの熟練度になったと思う。
だが、ここまでくるとさすがに俺の今のこの体ってもしかして結構すごいし、結構おかしいところがあるのではと思う。
先に言っとくが別に動物が大好きで動物の体にめちゃくちゃ詳しいですみたいな人ではなくただの普通の高校生だった俺には動物の体のことなんてほとんどわからない。一応読書家ではあったのでそこら辺の人よりは知っていることがあるかもしれないが、あったとしてもそう大した差はないはずである。
そんな俺であるがいくら何でも16年間くらい人間として過ごしてきたやつがいきなり鳥になったところで今までとは全く違う鳥の体に体感一時間位で立てれるようになるのはおかしいと思う。さらにもっとおかしいことにこの体は地味にでかい。このような大きさの体になるまで日本にいた鳥たちを参考にすると少なくとも一年以上はかかるはずであるが、俺には一年以上も鳥の姿であった記憶はないし立つこともできなかったことからその可能性は低いと予想できる。
まあ。まずまずな話鳥の体になっているという一番不思議な問題があるので考えるだけ無駄だと思うが。
一応理由としては、いくつか浮かぶものがある。例えば、
・野生の動物は生きるために生後すぐに立てるようにになるし、生まれた時点でしっかりとした体がある。例を挙げると鹿とかは生後30分ほどで立てるようになる。そしてそれが適応されている可能性。
・この体自体がめちゃくちゃ高性能である可能性
・この体になったことにより人間としての本能はなくなり鳥としての本能が芽生え無意識にそれが働いている可能性
・俺にもともと鳥の才能があった可能性
・もともとただの鳥だったのが前世の記憶を取り戻し、それにより一時的に動き方を忘れていただけという可能性
今のところ一番有力なのは一番目の理論で生まれたばかり、というものだがこれらの理由はすぐに考えられるようなものだけであり、ほかにもまだ理由は考えられるだろう。
ただこの問題は今考えても仕方のないことかつ今どうでもいいことなのだから今はこの体に異常に体力があることと異常に体力があることを喜ぶだけでいいはずだ。
さて、歩くのも慣れてきたところで少し周りについて考察をしていこう。
あまりに大きな木が立ち並んでおり自分が小さいのではと錯覚してしまいそうな森の中にいるわけだが地面に咲いている花や草、コケを見てみるとやはり木が大きすぎるだけであり草や花を日本と同じくらいの背丈とすると俺の目線は背の高い草には埋もれるがしっかりと視界を確保できているのでスズメよりはでかいと思う。
そして小さい木がない。見渡す限りでは草たちもそう高くはない上にあまり生えていない。
もの〇け姫のシ〇神の森とかに似ている気はする。まあ、あれは水がめちゃくちゃ流れてた気がするけどそこまでは流れてはいない。だが、湿度は高いし先ほどから水の流れる音はしている。まだ見える範囲にはないが、この先に川か何かがあるのではないだろうか。
何かの鳥っぽい声は聞こえるがそれ以外に声は聞こえない。動物はあまりいないのかもしれない。
ただ、ほとんど音がしないからかその特徴的な景色も相まってとても神聖な雰囲気を醸し出している。
湿度が高く風も涼しい。見上げると高いところに位置する木の葉が日を遮り、数十メートルはある幹たちの樹間が作り出す何もない空間はどこまでも続きレイリー錯乱すら起こしている。
幹だけで十数メートルはあるような大樹たちはそもそもの基準単位が違うのだろう。幹も太ければ、この間も広く木の枝も太く木の葉もでかい。
そして......根っこも太いしでかい。そうなるととても歩きにくい。根っこが半分くらい出てるようなところだとつまずくとかじゃない。もう登ってる。たぶんだけど、高さは一メートルくらいはあるはずだ。それこそ、よじ登るという表現が適切になってしまうような高さだ。
この体になる前だったら意味もなくよじ登っていそうだが、この小さな体では一苦労になってしまうためあまりに大変なところは避けていかなければならなかった。
三十センチほどしかない体でまだうまく使うこともできない俺がこのような上下の激しい場所を探索することはとても大変なはずである。しかし、その幻想的な風景や未知への好奇心を感じている俺はそんなことは忘れ、まるで子供かのように童心に帰って探索を楽しんでいた。
そうして見たことのないほんのり光る花を見つけたりタンポポのような花を見つけたりしながら歩いていると水の音が大きくなった。
草に気を取られて下を向いていた首を上げるとそこには川が流れていた。川幅は十メートルほどだろうか。とても透き通っており、流れる速度は遅く静かにながれている。
「ピュウイイ......」
(おお......。すげぇな。俺の家の近くにも川が流れてたけどこんなに透き通っていて綺麗だったことはないな。流れが遅いのも関係あったりすんのかな......。)
近づいてみると底がとてもよく見える。深さはそこまでなくだいたい大人の膝くらいまでしかない。入るのはちょっと怖いのでやめておくが、これで水源を確保することができた。
この川が枯れるようなことがない限り水の心配をする必要はないだろう。
さて、水は確保できたとしてあと探したいものは食べれるものである。一応森なわけだし、木の実が落ちていたり、食べれるような植物が生えていると思う。たまに鳥のさえずりが聞こえてきていることから少なくとも鳥は生活できる環境なのではと推測できる。
ならば、大丈夫だと思っていたのだが............ここまでくる間に木の実が落ちているところは見なかった。さらに、ここまでで小さな虫は見つけたりもしたが動物は見なかった。
つまるところ動物が食べるような木の実は存在しないか木の上でほかの動物が独占しているかのどちらかではないだろうか?
存在しない可能性もあるがそれを確かめるためにも俺は木の上に行く必要がある。
ならば、どうやって上に行くか。
感の良くない人でも分るだろう。
空を飛ぼうじゃないか!!!!!
はい、ということで鳥といえば空、空といえば鳥なわけでついに空を飛ぶ時がやってきました。待ち望んでいた人も多いことだろう。
というかなんでさっさと飛ばなかったんだと物申したい人もいると思う。
だが考えてくれ。いくら鳥の体になったとはいえ、さっきまで人間だった奴がいきなり飛べると思うわけないだろう?
さっきみたいに練習すればいい話だと思うだろうが、立つこととは違いけがをする可能性があるのだ。
もし、失敗して変な風に着地をしてしまい骨折したら俺は結構な確立で死ぬだろう。
しかし、だからといっていつまでも空を飛べぬままではいけない。
歩くために作られていない体は地上では圧倒的に遅い。飛べない鳥はただの焼き鳥だ。
歩くこととは違い時間はかかるだろうが捕食者となるものが現れないうちにとべるようにならなければ長生きできない。死なないためにも死ぬ気で頑張るしかない。