十四話 再生の炎
さらに、一週間がたちました。
行動範囲はさらに広くなり、狩りも日常的にするようになった。獲物はリスと鹿の二種類だ。鹿はかなり大きく狩るのは大変かと思ったが慣れてきたときに挑戦してみたら意外と苦労せずに狩ることができ、それからは頻繁に狩っている。
肝心の味だが鹿はかなりおいしい。鹿肉は普通に日本でも売っていたからかなりおいしいのではと期待していたが、食べてみたら本当においしかった。俺の下処理技術が乏しいために少し肉が硬いしちょっと生臭くなってしまっているけれど野生になったからなのか、しっかり加工された鹿肉を食べたことがないからなのか全然気にならなかった。
さらに鹿はかなり体躯が良い。そのため一回では食べきることができず、一日かけてやっと食べきることができる。だから朝に鹿を狩ることができるとその日はもうかりをしなくてよくなるため、他のことに使える時間が増えるしとリスを狩るよりメリットが多いから朝に見かけることができたら積極的に狩るようにしている。
そして、魔物も倒してみた。あまり関わるつもりはなかったのだが一度低空飛行していた時に木の陰にゴブリンがいたのに気づかずに近づいてしまったところ、襲い掛かってきたのだ。そのため正当防衛ということで倒したのが最初で、それから彼らを観察していたのだが動物を狩ったり植物を食べたりしていて雑食性でなんでも食べる
ということが分かり、さらに動物を狩るときにわざと苦痛を与えて楽しんでいたところを見てからは見つけ次第倒している。
ゴブリンは成人男性以上の力を持ち残虐性もあるためかなりたちが悪い。それでも俺の方が圧倒的に力が強く魔法も使えるようになったため一匹ずつなら負けることはないのだが奴らはコロニーを作成していて、かなりの確率で一人ではない。さすがに俺の方が圧倒的に強いとはいえ生粋の日本人だったおれは戦い方など知るわけがなく一対一なら力のゴリ押しができるが一体二ではうまく戦える自信がない。
それにケガをするのがちょっと怖い。
単純に痛いのが嫌だというのもあるが、怪我をしたときここでは消毒もできず、どんな細菌がいるのかわからないために小さな怪我がもとで死んでしまうこともあると思うとどうしてもできるだけ危険なことはしたくないと思う。
だが、この世界で生きていくならばあまりそうも言ってられないだろう。それに気づいているかもしれないが俺には「再生の炎」というスキルがあるのだ。鑑定の説明によれば、火に触れることで火を吸収しけがを治すことができる。らしい。
つまり、これをうまく使うことができれば、俺は怪我の心配をしなくてもいいのかもしれない。
じゃあ、なんでさっさと使わなかったのかと思うかもしれない。
理由は簡単だ。怖かったからだ。いくら異世界で魔法がある世界だからと言って火に触れても大丈夫と言われても、普通は怖くて触ることなんてできない。
残念なことに俺の感性は普通らしいので、正直触るのはかなり怖い。いつの間にか図太くなっていた精神もさすがにちょっと...と言ってる気がする。
ただ、そんなこと言ってたらこのチートっぽそうなスキルがいつまでも使えないので、さすがにそろそろ勇気を出してみるかと思ったのだ。
そうして思い立ったが吉日ということで、心変わりしてしまわないうちに試してみようと準備しているわけだ。と言っても準備するものなんてほとんどないけど。たぶん燃えやすそうな木の枝と水くらいあれば大丈夫かな。
そうして、川のすぐ近くにある程度の木の枝を集め終えると魔法を使って着火する。因みに魔法の練習はちゃんと毎日続いているためかなり使い方がうまくなったと自負していて、細かい火力調整を必要とする着火もかなりスムーズに行えるようになった。もしかして俺って魔法の才能あるのかも!?
まあそれはいいとして早速今回の本題の実験をしてみようと思います。はい。
恐る恐る焚いた火に手を近づけていくと、すぐにかなりの熱量を感じられる距離になった。正直この時点でちょっと後悔してる。どれほどの温度になっているのかは分からないが、この中に手を突っ込むのはつい躊躇ってしまう。
だが、ここまで来てやめるのはプライドが許さない。男は度胸とも言うし腹をくくって頑張ります。
ん?もしかして今の時代は男は~とか言うとたたかれるのかな?ふと、そんなことを思ってしまったがここは異世界。そんなことは関係ないのかもしれない。
!?
一瞬くだらないことに気を取られた間に手が火の中に入ってしまった。心の準備がまだできていなかったためにかなり驚いてしまったが、なぜか熱くはない。せいぜい暖かいくらいにしか感じない。それに意識を火に触れている部分に集中させると不思議な感覚があることに気が付いた。
自分の体と火との境があいまいになり、火にも神経が通っているかのように今触れている火がどのような状態なのかわかる。まるで火も自分の体の一部になってしまったかのような支配感がある。
できる気がして、手を上げるときのような気持ちで火が変形してまっすぐな円柱になるように想像する。普通ならそれが現実に影響を及ぼすことはないだろう。
しかし現実は違った。
火は一瞬大きく揺らいだかと思うと、頭の中の想像通りの円柱へと変形した。
あまりにも衝撃的過ぎて俺は間抜け面をさらしたまま少しの間固まってしまった。
確かに、できそうな感じはしたが本当にできるとは誰も思わなかっただろう。もしこれが魔法なら魔力を消費しているわけだし物理学はよくわからんし、その視点から魔法を解明したいとは思わないが、一応魔力という謎物質をエネルギーにしているからには何かしらの法則がたちそうなことは予想できる。
しかし、今回のこれは本当に想像しただけなのだ。急いで、ステータスを見ても変化した部分は見当たらなかった。
あまりに不思議だ。
正直魔法に少し慣れてしまった今では、このスキルの方が魔法に思えるのだが、...やはり、これも考えるだけ無駄だろうか。魔法やステータスのこともよくわかっていないのだからこれも「すっごーい!」とでも思っておくべきか...。
そんなことより。今は本当に回復ができるのか。調べなければいけなかった。最初は火に触れれば勝手に回復するのかと思っていたのだが、そのようではないらしい。
...今気づいたけど、俺って今めっちゃ健康体だったわ。傷とかはつかないように気を付けて生活してきていたから汚れているところはあっても傷は一個もない。
とりあえず、ないからには作ればいいということで少し自傷してみる。先に少し火から離れた場所に移動しておく。もしも傷をつけた瞬間に治ったりしたら検証できないからね。
肌が羽に隠れているためにかなり大変だったが、少しして無事に小さな切り傷を作ることができた。傷の大きさは五センチ程度のもので血が数滴分くらい垂れている。
そして、離れていた火にもう一度触れてみる。今度は一度試していたこともあって恐怖心を感じることもなくすんなりと触れることができた。やはり暖かくはあるが、火傷するほどの熱さではない。
変化はすぐに表れた。火がまるで手に吸い込まれるように動いたかと思うと、傷が一瞬で治ってしまったのだ。
治るのにかかった時間は一秒ほどで傷口が炎のように揺らめいで傷口をあいまいにしたかと思うと何事もなかったかのようにくっついてしまったのだ。
ついさっき魔法でも説明できないというか魔法とは別物だと思い知ったばかりだからか。驚きはしたが冷静さを失うことはなかった。それでも十分驚いたが。
残った火を観察してみると火が少し小さくなっている気がする。常に揺らめいでいて高さが変わるために絶対ではないが、そのように感じる。スキル「再生の炎」の説明文には火を吸収すると書いてあったし、本当に火を吸い込んでいたのかもしれない。高さが変わったわけでもないし見た目同じように見えるから、火が小さくなっているように感じるのは先入観のせいかもしれない。
しかし、このスキル。かなりやばいことが分かった。こりゃ、ゲームだったらゲームバランスを崩壊させちまうほどではないだろうか。運営は炎上するかもしれん。
それとも、現実というクソゲーに対する救済処置ってことか?だとしたら、この世界はどんだけやばいんだよ。ちょっと帰りたくなってきたぞ。
はあ、今までどんどん探索を進めてきてたけど運よく何事もなかっただけだったかもしれないと思うとちょっと、いやかなり怖くなるな。
うう、探索するのやだなって気持ちともっといろんなとこ行きたい知りたい!っていう本能と気持ちがせめぎあってやがる。こんなとこにずっといるわけにもいかないからどうせ行くのだろうけど、なんかやだなぁ!!
......よく考えたら、いやよく考えなくても死ぬ可能性があるところで寝るのってクソ怖くね?