一話 ここはどこ?
キーワードって少し適当でもいいかな
瞼の裏からでもわかる暖かい光に何処かから意識が浮上してくる。
浮上途中の意識は、まだ浮かびたくない、もっと微睡みたい、と言うがそれに反して意識は暖かい光に誘われ、重たい瞼を開けようとした。
最初はあまりにも眩しいと感じた光も、すぐに慣れて世界を認識し始める。
そして、気づいた。何かおかしいと。
目の前に広がるのは、澄み切った深い青色の空。
そして、視界の端っこから中心に向かって伸びるめったに見ることのないほど大きな大樹たち。その大きさは神社などで見る御神木と同じくらいに思える。
さらに、背中に感じる地面特有のとても心地よい冷たさに、鼻をくすぐる草木のにおい。いや、香りと言うべきか。
現代日本に住んでいて、場所もどちらかというと都会に近かったからあまり嗅ぎ慣れてはいないはずなのにどこか安らぐように感じるのはなぜなのだろうか。
どこまで行っても、人は自然の一部であるということなのか。
さすがに、そろそろ意識が完全に起きてくる頃である。
先ほど浮かんだ疑問もはっきり認識できる
ここはどこだ?
と。
俺は、こんな場所は知らないし、聞いたこともない。
一つ一つが御神木ほどもあるような大樹が並んでいるような場所があるなら有名な観光地になるはずだし、それなら写真でくらいなら見たことあるだろう。
単純に俺が知らない可能性もあるが、それよりも俺の知らない場所に俺がいることが問題である。
しかも、体が変だ。
熱はなさそうだが体が動かしにくい。
いつもなら体調不良だと考えて熱でも測るのだろうが、いかんせん知らない場所で、人も周りにいるようには思えない。
日差しは暖かくさきほどから何ら変わったところはないはずないのに、さきほどとは違ってうすら寒く感じた。
先ほどは生命力溢れる大きな木と思った大樹も今ではその影が俺を笑い体温を奪うように感じた。
今でこそこうやっていろんなことを考えていられるが、俺に余裕がなくなるのも時間の問題だ。
もう少し周りや今の状況を把握できたとしても、もし状況が今より好転しなかったら俺はめちゃくちゃ焦るだろう。いや、絶対に焦る。
現にさっきから俺はどんどん自分が焦っていっているのを感じている。
ここはどこだ。
あの大樹はなんだ。
不気味だ。
不安だ。とても。
だが、どうしようもない。
いや、考えよう。
違う。思い出すんだ。まず、俺はなぜここにいる。この状況から脱出できるヒントがあるかもしれない。
確か、お昼ご飯は普通にクラスメイト達と食べていたはず、そこまでは何ともなく普通だったはずだ。
えーと、確かその次の授業が国語で、漢文だったかな?いや、現代文だった気もする。
どっちだったかな。えっと......。
ああ!そうだ、現代文だ!で、内容が、......
~七月十日午後一時頃~
決して不真面目な人でなくともご飯を食べた後の時間帯は、程よく暖かい七月の日差しと雨期も終わり少し暑くなった風も合わさり、ただでさえ眠くなりやすくなる。
なのにちょうどその時間帯である五時限目が現代文というのは眠ってくださいと言っていることと同意義なのではないだろうか。
しかしそうは言っても、せっかくの授業を聞き逃し家で勉強することになってしまうのはもったいないと思う。先生の解説は理解できなくとも聞いておくだけで勉強時間は格段に減るのだから。
まあ、解説を聞いても理解できないような問題はそうそう出ないと思うが。
そんなこんなで、少しうとうとしながらも授業を聞いていると五時限目も終わる時間に近づいてくる。
そして、残り一分ほどかと思うところで先生が話を締めくくる。
「はい、じゃあ今日はここまでにしておくので復習しといてくださいねー。今日の当番さん号令をお願いします。」
「起立。ありがとうございました。」
「「「ありがとうございました。」」」
授業が終わると友達としゃべりだす人や先ほどの授業の振り返りをしだす人、席を立ちどこかへ行く人などそれぞれが思い思いの行動をとり始めて教室内は一気に騒がしくなった。
そんな中で俺はさっさと机の上を片付けると、後ろの席を振り返り後ろの席を見る。そこには、急に振り返ったことで驚いたのか固まっている世界一可愛い俺の彼女である藤沢美鈴がいる。かわいい。
ここで少し俺の紹介をさせてもらおう。
名前は柊秀斗、光山高校二年生だ。
中学校のときは髪もぼさぼさで美容にほとんど気を遣わず、いつも教室の隅にいるような超根暗陰キャだった。
高校でもそんな感じで過ごしていくつもりだったしやろうと思っても陽キャのようなことができるとは思えなかった。
が、しかし、大した期待も持たずに入った教室で美鈴が静かに本を読んでいるのを見たとき、一瞬にして恋に落ちたのをよく覚えている。
それからいろいろとあって十二月についに付き合うことができた。
後、超一般家庭で美少女の幼馴染どころか幼馴染というのが一人もいないモブキャラ設定のごとき人間である。
それも世界一かわいい彼女ができたことで脱却したはずだがな!......世界一かわいい彼女のいるモブキャラとかいないよね?
ということで、そろそろ現実に戻ろう。というか、頭の中で自分の自己紹介してるとか中二病がレベルアップしてる気がする。
あ~あ、もしこのクラスにテレパシーとかの人の思考を傍受できる系の超能力者がいたら俺は恥ずか死ぬ気がする。
やば、中二病悪化してるわ。よく考えたら超恥ずかしいだけど。
「秀君、どうしたの?いきなり振り向いたと思ったら、百面相しだして。ちょっと怖いよ。」
あ、やべ。
「いや、なんか自分の中二病が悪化してることが発覚してしまったんだ。それでちょっとショック受けてた。」
「ん~、もともと結構末期な中二病だった気もするし、別に気にすることないんじゃない?」
「そ、そんなバカな......。まあ、確かに別に気にするほどのことでもねーな。どうせ、中二病だったわけだし。」
こんな風にバカな話をするのが好きだ。
いろんなことをさらけ出せるからこそ何も考えずに雑談を楽しめるのだから。
付き合いたての頃はいろんなことに意識が行ってしまい歩いているときに勇気を出して手をつなぐと二人して黙ってしまっていたのは懐かしい思い出だ。
だが、まあ人間慣れる生き物だし今ではもうどちらともなく自然と手をつなげれるようになった。
美鈴を好きな気持ちは日々指数関数的に増えていって、その可愛さに毎日ドキドキさせられているけどな。
そうやって、日常を謳歌しているときだった。
日常が崩れたのは。