序章1
「おはようございます、ノア様」
「朝食をお持ちいたしました、ノア様」
「何でもお申し付けくださいませ、ノア様。」
「「「神からのお告げはございましたか?ノア様」」」
俺は黙って首を振る。ここ数ヶ月繰り返したやりとりは中々堂に入っている……はずだ。昨日絶賛されたし。
侍女の退室を見届けた後、壁掛け時計を凝視。塔の最上階にあるこの部屋から一階の扉までにかかる時間は5分だ。何度も実験して確認したから間違いはない。
…………………よし!
「キッッッッツもうダメだ本当に辛いやめたい!!!!」
雲に迫るほど高い塔の最上階、くすみ一つない純白の壁と家具、繊細優美なインテリア達。のど真ん中に鎮座する天蓋付きベッドで俺は叫んだ。
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俺は文系の大学生で今年21歳になる…はずだっだ。生粋の日本人にして庶民である俺がこんなところにいるのは通り魔にブッ刺された訳でもなければトラックにはねられたからでもない。
……………講義中に居眠りした。本当にそれだけ。
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「(眠た…)」
黒板に株式会社と有限会社の仕組みついて書かれていく。朗々とした声が響く中、俺は瞼の重さに抗うので手一杯だった。
ウチの大学は、専攻科目以外も勉強して多様な知識を身につけましょうね!!って感じなんだがこれが辛い。好きなこと以外おざなりになるタチだから本当…興味ないと思ったが最後、数秒で寝る。だからノートをとれずとも懸命に睡魔と闘ってるところを評価してほし………………………ゴッ
「イッテェ!!」
自重で顔面強打した。やばい恥ずかしい絶対「講義で眠くなるほど自習にうちこんでいるんですね」とか言われるんだよ知ってるこれ八回目だし…………………………………?
人間本当に驚いた時は悲鳴をあげる余裕なんてない。
真っ白。白い部屋とかではなく真っ白。寝起きで目が慣れてないのかと思ってしばらく待つ。やはり真っ白。慌てて目線を下に向ける。白。床がないことを認識した瞬間椅子の感触もないことに気づいた。もう自分が立ってるのか浮いてるのかもわからない。
「似ても似つかないな」
声が出ないリターンズ。
鼻と鼻がくっつきそうな距離に絶世の美形。また白。長い髪も頬も眉も唇も……目がめっちゃ綺麗だ。虹彩にネイルとかの銀ラメを何百倍もキラキラにしたものが瞬いてる。今まで美しいと思っていたものは何だったのかと思うほど……目が離せないそれでいいずっとこのまま、
バッッチィィィィィィン
「呆けるな馬鹿が」
床がないから吹っ飛ばされ着地の痛みは無かった。左頬は抉れたかと思うほど痛いけどな!!!!
「いやアンタのせいだろ!!!!!!」
怒りのまま、いや痛みか?叫んだ。距離感バグってるのあっちだよ??指一本触れてないのにぶん殴られて罵倒されるの??今なら目つきや仕草が気持ち悪いとセクハラ呼ばわりされてるオッサン上司の気持ちがわかる。
ごめんね…気づいてあげられなくて…
俺が痛みと罪のないオッサンへの同情に震えているを白い美形は冷たく見下ろしていた。顔のパーツが一切動かない。ここまでくると生き物というより芸術作品といわれた方が納得できる…こわ…
「救世主になれ、何もしなくていいから」
………………………………………………………………………………………矛盾してないか?
うわっひどい目で見てくる…
物分かりの悪い出荷前の豚を見るような………
えっ何そんなおかしいこと言った??俺がおかしいの?わけわかんない場所に連れてきた挙句ぶん殴ってきた真っ白野郎じゃなくて??美形だから???フツメンには被害者になる権利がないのか。
「問題は起きていない。だから救う必要はない。」
「ただ、"救世主"の席に座っていろ」
あっそっかなるほどまるわかり〜とはならない。だが「YESかはいと言え、さもなくば○す」の圧がやばい。ここで返答を間違えれば確実に終わる。いや、俺はNOと言える日本人だ。振り返るは春の日のこと…キラキラオーラ満載パリピによるサークル勧誘もキョドらずに断れたんだ。この真っ白な美形(多分人外)にもビシッと言ってやるビシッッッと!!!!!
「あのォ………授業の単位が…必須科目でしてェ?ちょっとバイトする時間が…………。」
無理だった。だって相変わらず周り白いしボッチだし完全にアウェイじゃん…。ぶん殴られるのも怖い。
俯いていると親指の腹に中指の爪を引っ掛けて輪の形にした右手が俺の額の前に……………………えっ
「とっとと行け」
バッシィィィィィィン!!!!!!!!
デコピンとは思えない音と痛みに意識が遠のいていく。なんとなく、俺が、自分という人間がこれで終わってしまうような気がした。……このままでは終われない、せめて、せめてーーーー
「彼女くらい欲しかった!!!!!!」
やっっとここまで書けたよ…短くてすまない