第七十六話『堕ちた聖女《前半》』
「_____騒ぎを起こし殺戮を開始しましょう♡」
女は燃え盛る炎の中、そう口にすると周囲から闇が溢れ出て行く。
【ふふ、見ぃつけたぁ♪】
聖典を広げ嬉しそうに首を傾げる女は前方にいる二人からは不気味に映る。
少し時間を遡ることにしよう_______
世界の半分が瘴気に染まる。瘴気に囚われたが最後、人を狂い死へと追いやる呪いの霧。霧は徐々に残りの大陸へと拡散されていく。冒険者、帝国の騎士団は此れに対抗する為に霧の正体を調査した。そして人類は霧へと対抗する為の手段を見つける。それは魔力値が高い者程霧への影響が少ない事実だった。帝国は即座に魔力値の高い兵士達を編成させ瘴気の調査へと送り出した。だが、帝国の編成した1万人の兵士達は一人の騎士副団長を残し全滅したのだ。全滅の要因は瘴気から生じたものではない。
正確には瘴気と共に在る存在__________『魔物』が原因であった。
帝国の皇帝は騎士団の全滅を受け人類へと勧告する。
〝____人の世を守りたくば勇者となれ”と。
数多の冒険者ギルド、教会、そして腕に自信がある者は立ち上がり瘴気の根源を突き止めるべく旅立つのだった。物語の主人公となる青年【ユーノ】もまた冒険者として旅立ち、数多の戦友と出会う事となる。全ての仲間を失った元帝国騎士副団長、異端として追放された魔法使い、そして教会の現司祭にして聖女の階位を与えられた【ディアーナ】。彼等は青年の仲間となり数多の戦場を共に駆けぬけた。
瘴気領域内の捜索により四方に点在した瘴気の渦(塔)を発見する事に成功する。青年達一行は西にある塔へと向かう。数多の魔物達を退け最上階に辿り着くと、民家をも悠々と超える巨大なドラゴンが待ち構えていた。ドラゴンは火を吹き瘴気を撒き散らす巨大な魔物だった。【ユーノ】達は重傷を負いながらも何とか勝利を手にする事に成功する。
そしてドラゴンが倒された事により西側の”瘴気が消え失せた”。
人類は初めて勝利を手に入れた。それからユーノらのパーティーを中心に北南東に存在する強大な魔物を屠る事に成功して行く。四つの渦が消えたことにより、中央に新たな渦(城)が生まれた。これまでよりも濃く禍々しい瘴気を撒き散らす渦。しかし余りにも大きすぎた被害、死者の数に人々は終止符を打つ為に最後の瘴気へと挑まんとしていた。
「_______此処まで来たんだ」
ユーノは拳を握り締める。彼へと続く数百名を越える歴戦の猛者達も同様に緊張した面持ちをする。
「皆、此れが最後の戦いだッ!!僕達の剣で平和を取り戻そう!!」
強大な瘴気を放つ最後の敵城を前に人類は鼓舞する。
「行くぞーー!!」
【【おおおおおおおおおおおおお!!!!】】
城内へと侵入すると魔物に溢れていた。冒険者達は武器を手に戦火の中へと身を投じて行く。
「ユーノ!後ろはオレ達に任せろ!」
「そうよ、私たちが貴方の背後を守る!だから貴方は後ろを振り帰らず突き進みなさい!」
元帝国騎士副団長【マールス】は大剣を振り絞りユーノへと攻撃を仕掛けようとしていた牛頭の攻撃を防ぐ。そしてそれを助ける様に魔法使い【ユースティティア】は広範囲魔法を放ちユーノの周敵を吹き飛ばした。
「___________皆の想いをこの手にぃ!!!」
剣に風を纏わせたユーノは単身、敵陣内部へと突進をし先へと続く道をこじ開ける。
「このまま進む!!」
次の間に繋がるであろう扉を破壊するユーノ。
「今だ!ユーノに続けぇ!!」
冒険者達はユーノが作った好機、道を利用し扉を通過する。だが怯んでいた魔物達は体勢を立て直し冒険者達の後を追おうとしていた。
「グルルルルルッ!!?」ガンッ
だが魔物達は光の膜により遮られ冒険者の後を追う事が出来なかった。
「一人足りとも勇者様達の後を終わせはしません。天の奇跡_____『敵対者の光膜』よ。」
【聖女ディアーナ】が奇跡を使いユーノの開けた扉へと光の膜を張る。
「此れで貴方方は進む事は出来ない。」
展開した光膜により魔物達は閉じ込められる事になる。
「_______ディアーナ!!」
ユーノは叫んだ。魔物を封じる為に聖女は残ったのだ。
「勇者様、私は残り全ての魔物達を浄化した後に向かいます。」
後方にて複数の冒険者の補助をしていた所為もあるが一番の理由はこの間の魔物達を抑える為である。
「仲間を置いては行け「行きなさい。此れより先の戦いは真の平和へと繋がるのです。勇者様、過酷な旅ではありましたが実に........いえ、良き旅でありました。」ディアーナッ「勇者様、世界に光を。」バタン!!
間の扉がディアーナの奇跡により閉じられる。
「ぐっ!!バカ野郎ッ!!」
扉を叩きつけ膝を付けるユーノ。
「ディアーナさんなら絶対に大丈夫だ____信じろ、ユーノ!」
マールスはユーノの肩に手を置き励ます。
「そうよ!ディアーナが死ぬ訳無いじゃない!直ぐにピンピンした顔で戻ってくるわよ!だからアンタもシャキッとして最後の使命を果たしなさい!」
ユースティティアは励ます様に喝を入れる。
「.....ありがとう、二人とも。あぁ、絶対にこの戦いを終わらせて見せる。絶対に勝つぞッ!!」
ユーノは立ち上がり自身の頬を叩き付けると奥へと先に進んだ行った戦友達を追い掛ける。巨大な広間____奥には玉座が置かれ、戦友達であった仲間達の死体が地面に転がる。そして玉座には王冠をした骸の魔物が腰掛けるのであった。
「____貴様で最後だ。」
最後の一人が戦意を失い地へと伏す。そして、其れにトドメを刺す様に強大な瘴気の塊が迫ろうとする。
「うぅ........死にたくない。」
眼を瞑り死を覚悟をする。だが、いくら経とうとも痛みを感じない。疑心を感じ恐る恐る眼を開くと自分を守るように剣を握る一人の勇者がいた。
「......ユーノ!」
男は涙を流しながら口元を緩ませユーノの名を呼んだ。
「大丈夫か?」
ユーノは剣を横払いし迫り来たであろう瘴気の塊を切り伏せた。
「マールス、彼を安全な場所まで運んでくれないか!」
「了解。ユースティティア、オレが運んでいる間にユーノを死なせるな!!」
「分かってるわよ!アンタも早く戻りなさい!!」
マールスは男を担ぎ間の外へと連れ出す。
「貴様からは他の人間とは違う力を感じる。」
黒き装飾に身を包む骸の巨人は瘴気を放ち王座から立ち上がる。骸の頭部、そして枯れた羽が揺れ深淵よりも暗き眼がユーノを捉える。
「______お前が、ッ皆んなを殺したのか!!」
先行したであろう仲間達は先程の男を除き死に絶えていた。ユーノ達がこの間へと入り込んだ時には血の匂いが充満し惨状が広がっていたのだ。
「如何にも、襲撃者よ______我が城へようこそ」
ユーノは剣を強く握り締め駆け出す。
「ユーノ、先ずは敵の出方を「うおおおおおおおおおおお!!!」
ユースティティアは止めようとユーノへと叫ふが既に遅い。ユーノは跳躍し骸の魔物へと斬りかかる。
「退けよ。」
巨大な拳をユーノは叩きつけられそのまま地面へと投げ飛ばされる。
「.......グバァ.......はぁはぁ.......此処で倒れる訳には......行かないッ」
血を吐きながらも立ち上がるが目の前には巨大な斧が迫っていた。
「終いだ」させないっての!!」
ユースティティアはユーノの前に立ち杖を骸の魔物へと翳すとスペルを唱えた。
「”Restriction”」
地面から蔦が生え斧による斬撃を拘束し寸前の所で止める。
「魔術使いか、小賢しい真似をする。」
瘴気を放出し蔦を焼き切る骸の魔物。ユーノは態勢を直しユースティティアと一時後退する。
「無事か、二人とも!」
マールスが駆け付ける。
「うんうん、ユーノが怪我を負ったわ。それに彼奴、此れまでの魔物よりも凄く強い。」
マールスが自分を心配した表情で見るがユーノは首を横に振り大丈夫である事を伝える。そして体勢を立て直した骸の魔物へと向き直り告げた。
「.........それでも僕たちは勝つよ。いや、勝たなければいけないんだ」
ユーノは血を拭い右へと走り出す。
「ったくよ!!」
マールスはユーノとは反対の左へと駆け出した。ユースティティアは二人が敵を引きつけている隙に最上位攻撃呪文の詠唱を開始する。
「無駄な事を。いくら蟻が集まろうが巨人には勝てぬが道理。」
ユーノは大斧を上手く躱し骸の魔物の足部へと剣を突き刺す。だが効果はなくバックステップを踏みながら攻撃魔法を唱えた。
「”Flareッ!!”」
爆炎が骸の顔から上がる。
「此処だぁーーー!!!」
そしてマールスはその隙を突き跳躍し大剣を顔面へと向け振り下ろす。
「ぐッ!!蟻がぁ!」
骸の魔物は後方へと身体を倒しそうになるが大斧を地へと刺しそれを防ぐ。
「小癪なッ!!」
骸の魔物は瘴気を放ち爆炎を弾き飛ばすと顔は抉れ大剣による破損が出来ていた。
「皆んな下がって!!」
ユースティティアの杖には莫大な魔力が収束していた。ユーノとマールスは即座に骸の魔物か距離を取り剣を前へと突き出し衝撃に備える。
「五大元素が一つ、偉大にして原初の炎よ、我が導きに従い顕現せよ、汝焼き尽くすは我らが敵なり!」
巨大な魔法陣が骸の魔物が立つ地から現れると炎の柱が形成され魔法陣内部へと拘束させる。そして炎の柱は規模を拡大させ骸の魔物を取り込んでいった。
「この様な魔術ッ!」
骸の魔物は暴れるが炎は止まない。
「我が瘴気にてッ「私の全てをあげるッ!!」
ユースティティアは終止符を打つ為に自らの魔力を全て捧ぎ込み、燃え盛る炎を暴発させ魔法陣内部にて爆発が幾度と生じた。
”ぐらあああぁぁぁああああああ!!!!!!!”
爆炎と共に断末魔が間に響き渡る。
「..........うっ、魔力切れよ........後は任せるわ」
だが、爆炎はユースティティアの魔力切れと共に終わりを告げユースティティアは倒その場へと倒れた。骸の魔物の肉体は焼け、魔物の核である心臓部が露見していた。
「おのれぇ...... 人間の分際で.......我の神体を傷をつけるかぁ......許さん......許さんぞおおおおおぉぉぉぉぉおおお!!!」
骸の魔物は咆哮を上げると一番近くにいたマールスへと標的を定め大斧を振るう。
「先ずは貴様だっ!」
突然の奇襲にマールスは反応が出来ず壁際へ叩き付けられる。マールスは血を吐き出しそのまま意識を失う。
「無へと帰せ「させるかッ!!!」
倒れるマールスへと膨大な瘴気を流しこもうとする骸の魔物の前にユーノが立ち塞がり瘴気を抑えつける。
(ディアーナ、借りるよ。)
「ディアーナの奇跡よッ!!」
以前、旅の途中でディアーナに渡された「タリスマン」を手に瘴気を抑えつける。だが同時にタリスマンはバキリと音を立て塵えと消えていった。
「ぐっ!」
骸の魔物は抑えつけられた際に生じた衝撃により後ろへと体勢を崩そうとしていた。
(ありがとう、ディアーナ_______)
ユーノはこの好機を無駄にしない為にも飛び出す。
「_____________光をぉぉおおおおおこの手にぃいいいい!!!!!!」
ユーノの剣は骸の魔物の身体を突き刺し核へと剣を届かせようとした。
「我は死なぬ!人に世界に闇がある限り我は魔物は永生き返る!!恐怖しろ!怯えろ!世界が再び瘴気に呑まれるその日まで!!」
剣は核へと到達し砕かれる。
「クハハハハ!!くははははははははは!!!!!!!」
そして骸の魔物は核が砕かれれた事により消滅した。
「..........はぁ......はぁ」
ユーノは剣を地へと突き刺し倒れそうになる身体を支える。
「や、やったんだ............人は.......僕たちは.......光をっ」ザシュ
喜びの刹那、ユーノは胸元へと違和感を感じた。
「........な.....に?......血...」
口から血が流れ出る。胸元へと視線を移すと剣の刃先が自分の胸を貫いていたのである。




