第七話『黒騎士の渇望』
_________世界の半分が瘴気に染まった。
「司祭様っ!!」
天は深淵に包まれ常に暗い天候となる。帝医隊の一人が急いだ様子で駆けつける。
「何事ですか。」
「そ、それが......あの霧の中に入ったもの達が突如苦しみ出し、倒れたのです!!」
数多の負傷者が教会へと運ばれる。
「此れは.......」
即座に治療を開始しようとする。だが、治療に失敗した。そしてその原因が何にあるのかを即座に理解した。
「_______魔素の消失」
魔素の略奪。あの霧に囚われたが最後、魔力を奪い取られる。そしてそれだけに留まらず人へと強大な呪詛が植えつけられるようだ。魔力量が低い者は即死するレベルの毒。例え助かったとしても狂気へと狂わせる猛毒。
「奇跡よ___このもの達を救い給え。」
天の奇跡を使い治療を試みる。
「あがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」
天界から与えられた奇跡を唱えるが回復されない。それ以前に逆効果だった。残念だがこのもの達を現状救う事は出来ないだろう。
「司祭様、一体我々はどうすればっ!」
神父や修道女達が救いを求めた目で見ている。
「瘴気についての調査が必要です。直ぐに王宮へと向かいますよ。」
外の様子を見る限りあの霧は大陸へと徐々にではあるが拡大されている。戦争などしている暇はもうない。
「あの霧が帝国を包み込む前に避難を警告しなければなりません。」
直ぐに原因を突き止め対処しなければ大惨事になる。
(_________急がなければなりませんね)
「........此処は」
意識が覚醒すると、男は倒れていた。
(俺は確か....)
記憶の混濁。月明かりが周囲を照らす。
「.................」
美しい湖、そして木々や山々が並ぶ大自然。人の気配は無く、動物や虫の鳴き声、そして風により揺れる葉の音だけが聞こえてくる。ポケットの中を漁るが、何も入っていない。
「うぐっ、」
(この感覚は......)
頭痛が突如として襲う。胸の奥を引き裂く様な痛み。頭の中で何者かが暴れる感触。まるで自分が自分ではなくなるような。
______力が、闇が突如として内側から溢れ出る。天候は闇に染まりその場にて膝をつく。
「うがぁあああああっ!!!!」
呪われた力、瘴気。手元にはいつの間にか握られた黒剣。禍々しくもあり手によく馴染む。
「ガルルルルる』「グルルルル』『アアアアアアア』
周りには呻き声にも似た声がいくつも木霊していた。男は痛みを抑えつつ立ち上がり、剣を構える。
(瘴気の力が...........戻っている。いや、あの時以上に今回は濃くて重い。)
まるで闇が身体全体を覆うが如く、力が溢れる。一瞬でも
気を許せば精神が奪い取られそうな程に。
「愉快な事だ」バッ
グロテスクな容姿をした化物達が闇に紛れ男へと襲い掛かる。しかし男は冷静に攻撃の軌道を読み避けた。
「此れが__________魔物」
瘴気の力を得ているお陰か視界は闇にいて尚も死んでいない。明確に相手の姿形が見える。其れは同時に魔物達にも適用されて居り、男の姿も丸見えである。
「____っ」ザク
一体の魔物の攻撃を紙一重の距離で避け、黒剣を脇腹へと突き刺し、横へと振り払う。胴は裂け、黒い血が周囲へとぶち撒かれた。
「あぁ、そうか。」
口元が歪む。本物の高揚感、快感が身体を包む。肉を切り裂き生物を殺す事に最大の喜びを感じた。まるで自分を満たしてくれる。其れ程の幸福を。
「さぁ、続きをしよう。いい練習になる。」
男は即座ににもう一体の魔物の背後へと周り抱きつくと首へと黒剣を突き付け引き金を引くように剣を引いた。切り裂かれた斬り口から血が止めどなく流れ、その場へと為す術もなく倒れる。其れを満遍の笑みで眺め最後の魔物へと首を曲げる。魔物はビクリと身体を跳ね、恐怖を感じた。何故、瘴気の中でこうも動け喜びの表情を見せるのか。まるで此方側が人間の様に弱者ではないかとさえ本能が感じた。
「がああああアアアアアアア』
数多の触手を伸ばし男を殺そうとするが黒剣で軽くあしらわれ、ゆっくりと近づいてくる。魔物は後ずさりをしながらも攻撃の手を緩めなかった。
ザクっ
しかしその抵抗は虚しく正面から剣を胸部へと突き刺される魔物。そして優しくその魔物の頭部らしき部位へと触れ告げる。
「ディアーナ、待っていろ。」
魔物達は吸収される様に男へと還元されていく。そして其れは鎧を形作る様に男を包み混んだ。
「この手でお前を........」
全身黒色に染まった鎧、甲冑_____そして黒の剣を握る手に力が入る。
「............救って見せるよ。」