第六話『恋はしない』
私は『恋』などしない。いいえ、してはいけないのだ。『聖女』としての責務は人の世を正しく導き、安寧なる世を創る事。それ以外の事など気にしている余裕はない。
「おぉ聖女様は今日もお美しい」
「まるで絵画に描かれる天人のようだ」
美麗端麗であり家事炊事も卒なくこなす事が出来る。それに編み物だって元々の家系も相まって得意である。家庭に入るには非の打ち所がない優良物件である事は確かだ。
「聖女様とお付き合いをされる方が羨ましい」
「聖女様は天涯孤独って話しじゃないのか、立場上?」
「いや、数多の貴族方が求婚なされたとの話だぞ」
聖女と言う立場上、其れなりの立場の者でしか私に求婚をする事が許されない。その為、数多の上位貴族から縁談の話や求婚をたくさんと受けた。その度に私は申し訳ないと言う態度と共に断っていた。
「聖女ディアーナ!僕には貴方しかいない!」
「以前にも申し上げたとおり、私には天より授けられた使命が御座います。お気持ちは大変嬉しいのですが、夫婦の関係となる事は永劫にありません。」
中にはしつこく求婚をしてくるものも入る。それに私を拉致監禁し子を孕ませようと計画した貴族もいた。
(もちろん、未来の帝国にそのような危険分子は必要ないので退場(この世から)してもらいましたが.......それ以降、私に対してよく思わない貴族の方々が増えるようになってしまった)
何もせず傍観を決め込むだけの無能達の癖に一丁前に誇りだけは高いのだからどうしようもない。
「そんなに私と付き合いたいと言うのならば......それだけの覚悟があると証明してみなさいな。」ボソッ
聖女と共に世界を救う真の覚悟がある者。時代の開拓者となりえるものこそが『聖女』ディアーナにこそ相応しい。
「ふふ.......」
(.........高望みもここ迄くると悪女としか言い様がありませんね。)
聖女とした『私』ではなく『ディアーナ』の事を単純に想い、『ディアーナ』だけの為に世界と戦ってくれる勇気ある者などこの世にはいないでしょう。だからこそ希望は捨て、ただ己の使命を全うするだけです。これ迄の様に、これからも。
コンコン、ガチャ
「聖女様、大司祭様から通達が________」
付き人であるシアリーズは職務室の扉を開け、大司祭からの言伝を私に伝える。
「__________第一教会にて大切なお話があるとのこと」
王宮、帝医隊、騎士隊、民衆、教会からの期待を背負って生きている。失敗は何一つ許されない。だからこそ、常に頑張らなければならなかった。そんなある時、私は教会の総本山、第一教会へと呼び出された。
【聖女ディアーナよ_______貴殿を帝都第一教会の司祭へと任命する。】
大司祭によるお言葉。第一教会の司祭とは事実上全教会に置けるナンバー2の立場だ。
「大司祭様、私は若輩者であり教会を背負うには未熟です。」
遠回りに断ろうとするが大司祭は優しい笑みを浮かべ、私へと言葉を紡ぐ。
「謙遜する必要はない。貴殿は既に計り知れぬ程の功績を残している。」
功績、か。数多の戦場、そして教会でのお勤めを切実にして来ただけに過ぎないと言うのに。
「しかし、私の様な者がいきなりと司祭の立場に就けば反発する方々もおられましょう。」
正直に言えば私は司祭と言う立場につきたくなかった。今以上に責任は重くなり周囲からの重圧が強くなる。
(______国は私を手元におきたい様ですね。)
そして私を逃すまいと国は立場を与える。齢15にして司祭の役職に就くなど前代未聞だ。それ程までに聖女の力を完全に欲しいと見える。
(戦争の道具_____聖女の在り方なんてものはそんなものですか。)
悲観する必要はない。選ばれた故の責任は生じるもの。其れを全うすれば良いのだ。
「反発などするものか。貴殿は帝国の英雄だ。我らが兵達を癒し敵を蹂躙する。聖女として素晴らしい活躍ではないかね。」
大司祭の言葉を受け冷めた目を向けてしまう。
(あぁ、道理で大司祭様ともあろう方が奇跡を授からない訳ですか。)
この国の重役達は腐っている。戦争を行い利益を上げる。その一点にのみ損得をおいているのだ。この様な男が偉大なる神に奇跡を与えられる訳がない。
「そこまで仰って頂けるのならば喜んで司祭としての役目を果たしましょう。」
この腐った老害を大司祭の立場から引き摺り下ろし私自身が大司祭となればいいのです。さすれば教会の方針を変える事も出来るだろう。そんな野心を胸に秘めながら司祭と言う役職に就き、業務を行なっていた。しかしそんな野心すらも覆い尽くす程ににあの大災禍が世界を襲う。
”________【瘴気】”