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第五十三話『森の賢者』

「【古の剣】の存在とアンタが【森の権能】を使える事を俺は知っている!!」


森がざわめきを見せると共に黒騎士は口元をニヤリとさせた。


(_________来い。俺のもとに、ブランチェッ!!!)


大きな風、そして揺れる木々。空は曇天で、森の獣達が恐れを成すように鳴き声を出す。


『人間___________貴様は何者なりや?』


黒騎士は空を見上げた。


(でかい........)


圧倒的なまでの圧が感じられる。


「俺は___________」


決まっているだろう。ディアーナにも同じ言葉を送った。そしてアンタにも同じ感情を感じている。


「__________アンタの味方だ!!」














落ちこぼれなんて奴は存在しない。其れが私の持論。だってそうじゃない。死ぬ程努力すればいつか届くもの。出来るようになる。完璧じゃなくてもある程度出来るようになれば、其れは落ちこぼれなんかじゃない。だから、私はおばあちゃんを諦めない。医学では駄目なら奇跡。奇跡で駄目なら魂を対価に。其れすら受けいられないなら別の器に。考えろ。諦めるから落ちこぼれになるんだ。自分の出来る最大限の努力で望め。


「諦めない________絶対にっ!」


クリーチャーを刺殺し、股間を足で潰し、顔面を拳で殴りつける。容赦のない攻撃。


「はぁああああ!!」


森の奥へ奥へとひたすら進んで行く。突き進め。後ろを向くな。前だけを向け。


「後少し!後少しで最深部につく!」


何度と己に言い聞かせる。迷路の様に広大な聖域で声を高らかに荒ぶる。


「____________私はここにいるぞ!」


神である狼へとアピールをする様に自身の存在を誇張した。


「___________人?」


周囲にいたクリーチャーを葬ると少し離れた場所で木に持たれ掛かる人影が見えた。直ぐに走り近寄る。


「.......ねぇ、アンタ」


血塗れの男。鎧はボロボロで切り傷が沢山ある。しかし、死んではいない。


「__________カミーユ。」


意識が覚めたのか、私を見るなりその名で呼んで来た。私達王族ではない住人に名はない。故に特徴的な呼称で呼ばれる。私の場合は”少女”だ。


「私達、以前どこかで合った事あるかしら?」


会ったことはない、と思う。


「あぁ。」


こんな上質であったであろう鎧を身に纏う憲兵など王国の憲兵でも上位しかいない。


「そう。なら私が医者達の元を走り回っていた際にでも見かけたのでしょうね。凄い形相だったと思うし。」


あの時の私に余裕はなかった。おばあちゃんには時間がない。今も一刻を急がないとならない。


(その状態の貴方は放っては置けないけど今は時間が惜しい。帰り道、必ず拾ってあげるから。)


「.........ごめんなさい。先を急ぐの。」


傷だらけの男を放って森の奥へと進んで行く。心が痛むが、優先順位があるのだから仕方がない。


「なんで着かないのよ!」


走り続ける。走って走って、森の奥へと目指すが中々と辿り着かない。既に聖域に入ってから4日は立っている。その間、黒い鎧を纏った男との接触以外で立ち止まりはしなかった。食事は長持ちする干し肉や果実を森からむしり取り移動しながら食べていた。荷物の大半は水である。水さえあれば一週間は何も口にしなくても活動出来る。


「早く姿を見せなさいって言ってるのが聞こえないの、賢者ッ!!」


拳を木に殴りつけ、水を口に含む。そして一度冷静さを取り戻すとある事に気づいた。


(.........森の気配が変わった。)


感覚的な差異を強く感じる。まるで聖域そのものが揺れている様な感触。そして其れが倒れていた男の近くで集束している。


「もう!」


進んでいた足を止め、後ろへと身体を向ける。


「本当に運がないわね、私って!!」












「古の剣を求めて来たと言うのならば、吾輩は汝を殺さねばならぬ。」


大きな体躯と威圧で自分を見下す銀狼。黒騎士は畏怖を感じながらも喜びを感じる。


「真面目な話の前に一ついいか?」


痛む身体に無理を掛け、銀狼の身体へと触れる。


「あぁ...........」


もふもふだ。この感触、忘れはしない。


「汝は何をしている。」


銀狼は何とも言えぬ顔で黒騎士の行為を眺める。


「久しぶりに堪能させてもらったけど、すまない、その毛並みを血で汚してしまったな。」


触れた箇所が赤色に染まっている。


「構わぬ。泉にて清めれば良いだけだ。」


「そうか。」


黒騎士はその場へと腰を下ろし、銀狼を見上げる。


「単刀直入に言う。彼女の祖母を救ってくれ。」


「.......彼女とは誰を指し言っている?」


黒騎士は鼻で笑い周りをわざとらしく見渡す。


「聖域内を領土とするアンタなら分かるだろが、猪娘がアンタの元を訪れようとしている。」


祖母の病気を治して欲しいと頼みにくるだろうと伝える。


「その者が我が元にたどり着き、意志を示せば応えてやろう。」


黒騎士はフッと笑うと身体を倒し空を見上げた。


「汝は何を求める?先程は味方だのと戯言を「戯言なんかじゃない。」


銀狼の言葉を遮る様に言葉を挟む。


「俺が欲しいのはアンタ、ただ一人だ。」


人が神個人を望むだと?


「はは!愉快な話だ。獣や化物と罵られて来た吾輩に恐れは感じぬのか。それとも単なる阿呆か。」


「アンタが欲しい。アンタが側に居てくれるだけで良い。力も金も要らない。隣にいて、他愛もない会話をしてくれるだけで俺は満足だ。だから、一緒に行こう。」


嘘偽りもない瞳で【ブランチェ】を見つめる。


(虚言ではない........か)


しかし何故だと疑問が浮かぶ。初対面であるにも関わらず、自分に対する親愛度が高すぎる。


(吾輩を信用させ、古の剣を奪うかつもりか......いや)


その可能性も無い訳ではないが、瞳、そして姿勢からそんな事を目的としていない事は容易に察せる。


「ならば吾輩に示して見せよ。その覚悟、そして決意に秘めたるものを。」


黒騎士は心臓に手を置く。


「俺の身体も魂もくれてやる。だから、アンタの全てを俺にくれ。」


黒騎士の本心からの意志であり、覚悟である。それ以外の望みはない。


「馬鹿げた話だな。」


その申し出に呆れた様子だが、内心では少し高揚としている銀狼。


「何故吾輩に、賢狼に拘る。」

(吾輩は老いた狼。)


そして神であると同時に孤高に生きる存在。隣人など必要ない。


「アンタが俺の__________」


人間は自分を見て微笑みを浮かべる。


(この者は_________)


恐怖ではなく邂逅した当初から友好的かつ親愛に満ちた様子で語り掛けてくる。精神に異常をきたしている訳でもない。本心から言葉を発しているのだ。


「______________友人だからだ。」

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