第五話『 シアリーズの日常』
私が『聖女』様の付き人となったのは25歳の時だ。聖女様はまだ十歳と幼くはあったが、勤勉で寡黙な方だった。
「お初にお目に掛かります、聖女様。私は〇〇公爵家が次女、シアリーズと申します。此れより聖女様の身の回りの世話、公務の支援をさせて頂く事になります。以後お見知りおきを」
二大貴族の一角、公爵家の次女として生まれ、名誉ある聖女の【付き人】としての使命を与えられた。しかし、内心では苛立ちも感じている。兄との継承権争いで敗れ、私は会った事もない上位貴族に嫁ぐ予定だった。あの頃の私は燃え尽き症候群と言うのか何に対してもやる気も反抗する気持ちもなく流されるままに生きて行こうと投げやりな気持ちだった。
『シアリーズ、良い知らせだ。お前には聖女様の付き人について貰う事になる。』
家名に箔がつくと父上は喜んでいた。兄上もまた祝福はしてくれた。だけど私の内心は怒りに満ちていた。知らない男に嫁げと言われ、次は子守をしろという。これに怒らずして何に怒れと言うのだ。だけど私も大貴族の端くれ、私情を挟んではならない事も重々承知している。故に感情を殺し聖女様と対面する。
「貴方は随分と生きづらい性格をしているようですね。肩の力を抜いて気軽に接してくれても構わないのですよ、シアリーズ?」
微笑を浮かべ私の手を取る聖女。その小さな優しさに私は何故か涙していた。
「うぅ......................」
「し、シアリーズ?」
聖女様は大変心配しておられたが、今思えばおろおろとした聖女様は可愛いなとは思いました。
(とは言え聖女様は公務外ではあまり笑わないお方だ。)
時折見せる微笑を思い浮かべ悶る。あの可愛らしさよ。もう少し他者に対して心を開かれても宜しいのではないかと時々心配に思います。
「シアリーズ、行きますよ」
「は、はい!」
聖女様は寛大で慈悲深い御方だ。京国の兵士を処刑するでもなく祖国へと返された。とても義理深く人をよく想う方だと感じた。
(それに『聖女』としての力は強大で、あの力に現状正面切って戦えるのだとしたら騎士団長くらいしか考えられません。)
公国の三英傑【力のヴァータ】【速のヴュール】を圧倒し、最強と名高い京国の妖刀【村正】を屠ってしまった。
(強すぎる、強すぎるでしょ、うちの聖女様.........一生ついていきますよ、うん)
聖女としての背を見ていろと言われた時、私は完全に惚れましたね。女だけど。
『年端も行かない14の淑女に淡い恋路を抱いてはいけませんよ、シアリーズ。それは恋慕ではなく尊敬なのです。従ってご自身の相手はしっかりと殿方からお選びなさいな。』
なんて冷めた目で優しく諭された時は逆に興奮を覚えたのは良い思い出です。とはいえ確かに14歳の女の子にガチ惚れするアラサー女子ってのはちょっとキツイですね。私も今年で29ですし。
「はぁ......良い人、いないかしらぁ.........」
なんて物思いにふけっていると教会の展望から見える帝都にて妹の歩く姿が目に入る。彼女は貴族の名を捨て騎士団へと入団した。
「ヴェヌスぅ.....」
してしまった。てかなんで止めなかった私。
(あの子は確かに武勲を上げているけれど.....)
やはり心配で心配でしょうがない。
(昔はお姉ちゃんお姉ちゃんと後ろをついて回ってたのに........あのくそ親父のせいで性格が曲がってしまったじゃないの!)
周りの体裁を考えて強く当たってしまう自分が憎い。
「会いたいよぉ、ヴェヌスぅ「会いに行けばいいではないですか」そう簡単な話しじゃって聖女様ぁ!?」
ニコニコと意地の悪い笑みを浮かべる聖女様。
(聖女様ってたまに性格が悪いのが傷なのだけど、そこもまた可愛くて大好きです、結婚しましょう?」
「_________いやです」
真顔で断られたが、その冷めたジト目に身体がピリッとくる。私の日常は今日も今日とて平和です。