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第三話『 聖女の驚異』

「公国は敗走したか、情けない。」


「帝国など取るに足らぬ存在であろう。騎士団は確かに強い。だが、騎士団の中核は全て皇帝の為に帝都の防衛を担っている。騎士団長ロムヌスさえ討ち取ってしまえば帝国は容易くと崩れる。」


「聖女などと言う偶像に騙された公国はもはや植民地にも劣る。我らが帝国領を支配した暁には支配してやろうではないか。」


京国の元老院達は議会にて帝国領土への侵略を可決する。


「しかし公国が敗北したのは確かだ。【二代目剣聖】村正を指揮に置き、帝国を我が国土とするのだ。」


元老院の一人が表情を曇らせる。


「剣聖殿を戦場に赴かせるのですか......それは余りにも帝国側に対し無慈悲な選択では?」


「あぁ公国の三英傑と互角に渡り合い、千人切りを一人でなした我が国の妖刀よ。」





「我が名は【剣聖】村正___________聖女、いざ尋常に一騎打ちを申し込もう!」





蒼白い髪を靡かせた青年。されど歴戦の戦士とした佇まい。聖女はクスリと笑うとその場で高らかに告げた。


「勇気ある蛮行に敬意を称し、お相手仕りましょう。」


二人の周りには帝国兵と京国兵が円を作る様に囲む。


「おお、貴方は正しく聖女だ!」


嬉しそうに腰から刀を抜く。そして抜刀と同時に刃から淡い蒼色としたオーラが刃に纏いつく。


「禍々しい.........魔法剣、と言うものですね。」


「ご明察。もっとも蒼白い炎を纏うだけの劔だがね。」


「そうですか。」

(________片腕を異常回復で吹き飛ばし、刃を破壊しましょう。)


そして絶望とした表情の後に背後にいる京国兵らを一人残らず皆殺しにするとしましょう。そう淡々と脳内で思考する聖女。そこに私情はない。敵がいるから殲滅するだけ。戦争の芽を詰む。恐怖を植え付け敵国に剣聖を戻す。さすれば敵国は今後容易に帝国領には手は出しまい。実に単純明確な動機。


「征くぞ_____________!!」


眼の前から剣聖の姿が消える。


(疾い........けれど)

「後ろ「「上だッ!!」」


大概目の前から消えたら背後を取られていると言うのは定石。故に油断した。


「ぐっ!!」


身体を刀にて裂かれる。余りの痛みに気絶しそうになるが、即座にバックステップを踏み距離をとる。帝国側の兵士らが心配とした言葉を掛け、駆け寄ろうとするがディアーナはそれを拒絶した。


「________静まりなさい。決闘の最中です。」


「ほう、もう傷は言えたのだな。流石は癒しの聖女だ。」


剣についた血を払い爽やかに笑う村正にディアーナは苛立ちをおぼえる。


「私に一太刀浴びせられた事がそんなに嬉しいですか、剣聖。ですが戯れはこれにてお終い。」


杖から紅玉の光が照らし出される。


「________過剰回復だろう?」


剣聖はニコリと笑いながら刀を横払いすると奇跡は空中にて四散し過剰回復は発動しなかった。


「想定外だろう。さっきは嘘をついてしまって悪いな。此れはこの世に存在する聖剣三本の内の一振り。それを溶かして俺が打ち直したものだ。」


「聖剣を打ち直す......何を馬鹿な」


聖剣は本来、錆びず破壊する事は不可能な代物。それを打ち直すなど出来はしない。


「まぁそこは京国の秘密って奴だ。だが能力なら教えてやる。どんな魔法や奇跡だって斬り消す事が出来る。聖女様、すまないがあんたは此処で_________終わりだ。」


ディアーナは即座に祝福の奇跡を己へと掛け、腰を低く落とし杖を構える。


(過剰回復が効かないと言うのなら白兵戦で片を付ければ良いだけの話です。)


槍術は一流、そして魔法に関しても基本は抑えている。後はあの聖剣もどきに触れなければいい。奇跡を打ち消せるのは刀身のみ。ならば勝機は大きく此方にある。


「ふっ!!」


上段から振り下ろされる一撃を杖で流し裏拳を放つ。だが剣聖はそれを右手の籠手で弾き顔面へと拳が突き刺さる。


「ぐっ .........」

(痛い.................)


血が口から顎に掛けて伝う。ディアーナは即座に過剰回復にて剣聖を再起不能にしようと試みるが、即座に聖剣で防御を取られ一定の距離を開けられてしまう。


「若い娘さんを拳で殴るのは心が痛むが、許してくんな。あんたはこの先、京国の驚異となる。」


そして台詞を言い終えると同時に剣聖は目にも止まらぬ速さで聖女へと猛撃を開始する。


「ふっ_______その歳で俺と渡り合うか!!面白い!!!」


聖女は全ての攻撃を最小限の動きで抑え、剣聖と渡り合う。数多の剣戟の中、剣聖が如何に人間離れしているのかを再認識した。聖女は己に対し、奇跡を施した状態だ。故に身体能力は素の数倍。そして、相手は過剰回復発動の警戒もしなければならない状態。にも関わらず眼の前の男は戦いを楽しんだ様子で行っている。


「っ________戦闘狂」

(剣聖と呼ばれるだけの事はある。)


致命傷を与えたら剣聖を逃す予定だったが剣聖は此処で潰しておく。あの厄介な聖剣もどきは確実に回収しなければならない。


(余裕は、ない。ならば一か八かにかけます)

「_________________ぐぶっ」


腹を刀にて貫かれる。剣聖はつまらんとした様子で此方を見下げる。だが、それでいい。


(剣を引き抜く瞬間に彼の身体の一部を掴み、直に過剰回復を行使する)


刀身が触れている以上、奇跡や魔法は使えない。だからこその一瞬の隙。その一点に掛ける。そもそも奇跡を使うのに杖と言う媒介は必要はないのだ。


「こんな場所で......死ぬ訳には.......いかないの.....です」


激痛が身体に走るなか必死に演技をする。わざと杖を手から離し余力が無いこと、そして奇跡の行使が出来ない事をアピールする。


「聖女様にはすまんが___________ 」


剣を引き抜く為に手に力を入れる剣聖。


「___________京国の礎となってもらう。」


剣聖は気づいていない。剣を抜いた瞬間に聖女は不死身が如く身体を再生させその牙で襲い掛かる事を。


「その隙が命取りとなるのですよ、剣聖_________」


剣が引き抜かれた瞬間寄り添う様に剣聖へと項垂れ身体へと触れる。


「何を言って________うぐっッ!」


剣聖の両腕は突如として四散し、血しぶきが舞う。聖剣はその場へと転がりディアーナはそれを拾い上げる。


「.............まんまと...........やられた訳だ」


両腕を失い剣も握れない。そして聖女は既に完治している。既に勝機はないと悟り潔くその場にて正座をする村正。


「良い戦いではあった..........敗北を認めよう...........だが一つだけ............一つだけ願いを聞いてくれまいか」


聖女はコクリと頷く。


「俺が死んだ後...... 彼奴等を祖国に返してやってくれ......この通りだ」


剣聖の背後にて待機する京国兵の軍勢を指しそう言っているのだろう。侵略者の癖に随分と図々しい奴だと内心に感じる。


「約束しましょう___________聖女の名にかけて」


ディアーナは胸に手を当てて誓う。


「そうか、助かる.........___________」


ディアーナは拾い上げた聖剣もどきにて剣聖の首を跳ねた。その首が地面へと転がると同時に京国兵達が一斉に飛び出そうとするが勝利者であるディアーナはそれを静止する。


「京国兵達よ!二代目剣聖【村正】は此処に敗れたり!!この聖剣の名を妖刀【村正】と改め、帝国領が貰い受ける!!直ちに帝国領から去りなさい。剣聖との契に従い、貴方方の敗走を許します!!」


【村正殿が敗北した......】【そんな莫迦な】【村正殿は死の間際に我らの命を想い、聖女に懇願なされていた...】【.......村正殿の願いを反故にする訳にはいかぬ】【我らに命があるのは村正殿の懇願、そして聖女殿の慈悲からなるぞ.....】【あぁ.......生きぬば】


京国兵らは武器をその場へと置き各自一礼をすると帝国領を去っていく。しかし聖女はそれを冷めた目で見ていた。


「確かに私は祖国に返すとはいいましたが_________」


口元をゆっくりと歪ませ奇跡を唱え始める。


「____________殺生をしないとは一言も言っていませんよ」


全ての京国兵が国境を過ぎ、帝国領から姿が見えなくなる。


「【天の奇跡よ】」


そのタイミングを見計らい聖女は過剰回復による大量殺戮を完成させる。しかし帝国兵達はその事実を知らない。


「さぁ_________勝利の凱旋です。」


聖女は素知らぬ顔で帝都へと帰還する。

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