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第二話『 戦争の道具』

世界は戦争で満ちていた。我が祖国帝国は領土を増やす為に侵攻を繰り返す。その度に教会へと招集が掛かる。教会にて修道女、聖女としてのお努めよりも『帝医隊』としての役目の方が多くなった気がする。


(______其れもその筈か。)


天界から奇跡が授けられてから異常な迄の回復速度を誇る『回復の奇跡』を習得したのだ。上位の回復魔術を遥かに上回る性能、そして過剰回復を可能とする迄の回復速度。過剰回復は相手に一定以上のヒーリングをかけ生体組織を破壊する奇跡にのみ許された最強の攻撃治療術。そして奇跡には仲間に対し強化を与えたり、邪悪なる者(亡霊、死霊など)を討ち亡ぼす加護の付与も可能としている。


「奇跡よ、我が祖国に永遠なる勝利を」


味方の兵士たちの筋肉を活性化させる奇跡による治療術。


「聖女様の加護だ!」


兵士たちの士気が高まる。自分が戦争の道具にされている事は理解している。だが、それでいい。


(私が早急に国へと勝利を導く事が出来れば戦争の被害者は減り、平和な世界へと一歩近づく。)


修業の期間も含め、10年と言う日々を聖女として過ごして来た。厳しく過酷な鍛錬、戦場、教養、全てを高水準でこなし認めらるまでの存在になることは大変な道程であった。齢15。町娘は恋愛にうつつを抜かしている年頃だろう。化粧も覚え友人と楽しく街を歩き買い物をしている筈だ。


「怪我をした兵士たちの治療に移ります。」


しかし私にはその様な時間はない。聖女として、その役目を果たさなけばならない。


「流石だよな、聖女様は。」

「えぇ、いつも凛々しく民の為に働くお姿は尊敬に値しますわぁ!」

「俺達には聖女様がついてる!」


王宮、帝医隊、騎士隊、民衆、教会からの期待を背負って生きている。私は人を救う為に存在する『聖女』。善行を推奨し民を正す清き導き手。数多の悪行を断罪し帝国を大陸の規律とする為に動き続ける。


「聖女様、公国の軍勢が帝国領内へと進軍していると国境騎士隊から伝令が。」


「国境の守備は破られたのですね。」


帝国領は大陸の中心に存在する。北に公国、東に京国、西に法国、南に王国。戦争は常に帝国領国境にて始まる。帝国領は他国の領土拡大の要とは言え、やはり帝国側の消耗が激しい。


「騎士団長に言伝をお願いします______」


『聖女』自らが戦場に立ち、戦争を早期に終わらせる。被害を最小にするには其れが一番適した選択だろう。


「______直ちに騎士団の遠征を取り止め、『聖女』自らが赴くとお伝えなさい。」


神父に言伝を伝えると直ぐに教会の祭壇に掛けてある杖を取り、付き人である【シアリーズ】と共に馬車へと乗り込む。


「せ、聖女様、本当に私達だけで宜しいのでしょうか?」


「構いません。帝医隊に置いて戦闘能力では私に次ぎ貴方は高水準にあるではありませんか。それに貴方自身は戦わなくとも良いのですよ、シアリーズ。とは言え、私が死ねば次代の聖女は貴女になるかもしれません。故に『私』と言う聖女の存在を目に焼き付け学びなさい。」


「は、はい!!」


シアリーズは尊敬とした眼差しで一回り離れた若き聖女を敬眼する。


(さて、この無益な争いを収めに行きましょう)





__________


____________________


「既に我らが軍勢は帝国領の防衛を壊し帝都へと進んでいる。我らに恐れるものはない。」


「いや、不確定要素はある。帝国に新たな聖女が誕生したと報告が入っているのは知っているな?」


「聖女など癒やす事しか出来ぬ修道女であろう?何を恐れる必要がある。」


「お前は文献や過去の歴史に目を通した事がないのか?聖女とは勇気ある者に対する存在。それが凡百なシスター風情に収まる訳がなからう。」


「しかし、最後に聖女が誕生したのは既に百年以上も前の話だ。噂に尾ひれがついたに過ぎんだろう。」


「だがな.....軍師としての感、と言うのか........聖女の存在が気が気で収まらんのだ。」


「なに心配する事はないさ。此度の遠征に置いて、公王は我が国が三英傑である御二方を戦力として投入なされたのだ。この戦の勝利は揺るがんよ。」


公国領土拡大の為、公王は自らの側近である三英傑の内の二人を侵略作戦に参戦させたのである。三英傑は『力』『技』『速』に別れた一騎当千の力を備えており、此度の戦では『力』と『速』が前線にて暴れる。



「「ガハハハ!!帝国の兵士はこの程度かっ!!」」



『力』の英傑【ヴァータ】は巨大な体躯と共に両手に持つ巨大斧二対で帝国兵を蹂躙していく。


「余りはしゃがないでもらえるかしら。公国の品性が疑われるわ」


己の長身と同等の長さを持つ長剣を握り目にも止まらぬ速さで帝国兵を切り刻んでいく『速』の英傑【ヴュール】。


「とは言え貴方の言う通り、なんだか味気ないわね。帝国の騎士団長や副団長は出張っては来ていないようだし.........」


あらかた帝国兵を片付けたヴァータとヴュールは周りを見渡す。数百人以上の帝国国境騎士団の死体が一望と出来るが、それらを無視して公国軍は進軍する。


「ヴァータ様、前方より一台の馬車が此方に向かって来ております。以下が致しますか?」


自軍の兵士から報告を受けヴァータはニッと笑いヴュールへと視線を向ける。


「感じるか?」


「えぇ......物凄い聖気。ヴァータ、これって公王様が仰っていた__________」


『聖女』としか考えられない。ヴュールは冷や汗を流す。かなり離れた場所に馬車はいると言うのに己の肌に触れるかのように彼女の聖気を感じ取れた。


「___________私は今代に置ける『聖女』。無益な血を流したくなくば投降しなさい。」


馬車から優雅に降り一礼をする聖女は第一声にそう言った。


「はっ!小娘が生意気言ってんじゃねぇーよ。てめぇーさんは見えてないのかい、今の状況が?」


ヴァータはくくくと笑いながらニ対の斧を構える。


「三英傑である我ら二人、そして後ろには数千と言う公国の同胞がいる。聖女とは言え、貴方に何が出来るのかしら?」


ヴュールもまた長身と同等の長さを誇る長剣を鞘から抜き戦闘態勢へと移る。


「愚かな........」


聖女は落胆とした様子で此方へと杖を掲げる。


「神が差し伸べた手を振り払うのですね。致し方ありません__________」


曇り空だった空から光が地上をゆっくりと照らし出す。



「_____________貴方方には此処で死んでもらいます。」


そして光が聖女に当てられると、慈しむような微笑を浮かべ杖を左右へと演舞を踊るように振るった。


「何を言って.....っ!」


英傑達の後ろに控えていた数千の公国兵が突如として血しぶきを上げ苦しみ声を上げる。


「一体何が起きて.................ヴァータ!直ぐに魔力で体外に防御壁を張りなさい!!!」


「お、おう!」


ヴュールは即座に現状の異変を理解し、ヴァータへと警告を促す。そして間もなくして英傑達を除く公国兵達はその場にて絶命した。その間10秒と立たない出来事であったと言う。


「さ.....流石です、聖女様ッ!!」


シアリーズは興奮した様子で聖女の常人離れとした異能に感嘆の声を上げた。


「聖女としての奇跡を見せるのは初めてでしたね、シアリーズ。聖職者、又は帝医隊と言うのはやはり祈りや回復と言った後衛の立ち位置ですから、前線で戦う剣や槍を持つ兵士からは侮られがちなのです。ですが、『聖女』はその縛りにとらわれません。何故なら________」


巨漢であり公国三英傑の一人である【ヴァータ】の攻撃を杖と片手で軽々と受け止める。


「ば、馬鹿な........」


二振りの巨大斧による攻撃を軽々と止められ驚愕の表情を見せるヴァータ。


「_________祝福の奇跡を己に掛けてしまえば、素の状態の何倍にも身体は強化されることになります。」


祝福の奇跡は通常、仲間に対して掛ける強化の奇跡。範囲は最大で千人と軍略向きであり、通常の1.5から2倍程の身体強化を促す。しかし、その効力を己に掛ければ通常以上に跳ね上がる。


「ふ、ふざけないで!そんな事をすれば貴方の身体が持たず崩壊する筈よ!」


確かに常人がすればそうなるのは当たり前だろう。だが、己の身は聖女。


「崩壊する以前に回復し続けてしまえば良いだけの話でしょう?」


常時、己の身には回復の奇跡を施している。怪我をすれば数秒と治り、病には掛からない。『聖女』を殺すには首を断つか心臓を一撃の元破壊しなければ倒せないだろう。


「奇跡を複合して行使できるって言うの!!この化け物がっ!!!」


ヴィーユが駆け出し、長身の細剣をディアーナ目掛け振るう。その速度は決して一兵士が捉えられる速度ではなく、上位の騎士団とて完全に防ぎきることは出来ず致命傷を負うほどの一撃だ。


「_____________過剰回復ヒーリング・オーバフロウ


ヴィーユの利き腕が突如として弾け飛ぶ。


「うぐぁああああああ!!!」

(全身に.......魔力の......防壁を張って居たはずなのに......なんで)


長剣は地面に突き刺さり、ヴィーユはその場にて足をつく。


「ヴィーユ.....くっ、三方連斬スリースラッシュ!!!」


掴まれていない方の巨大斧でヴァータは己の最大武技魔法を使用するが______


「無駄ですよ?」


______3方向同時攻撃である三方連斬は杖で軽々と弾かれた。


「公国の三英傑もこの程度ですか。」


そして最後に見た光景は己の肉体が四散し、視界が空中を舞ったところまでだった。


ドサ


ヴィーユの前へとヴァータの頭が転がる。


「ヴァータ........」


「公国に戻り公王に報告なさいな。次に侵略行為を犯した場合は教会の元、貴方方全ての民を断罪すると。」


ヴィーユの腕へと治療を掛け、馬車へと戻る聖女。


「お疲れ様です、聖女様。」


「帝都での公務が残っております。帰りますよ、シアリーズ。」


「はい!」


シアリーズは聖女が馬車に乗るのを確認すると馬を出す。


(我々が手も足も出なかった......例えこの場に【技の英傑】がいたとしても恐らくあの聖女には拮抗できない)


ヴィーユは聖女の馬車がその場から見えなくなるまで視線を離さなかった。


「公王に....報告しなければ...........」


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