第百七十八話『陣営の変化』
「________蚩尤がどうやら裏切った様だね。」
北欧神フレイが冷静に口にする。数分ほど前、蚩尤から最後の連絡が届いたのだ。その内容というのが、北欧神たちとの縁を切ると言うものであった。
「未知数側に組するなんて..................ふざけないで頂戴ッ!!」
フレイアは机に置かれる物資を地面へと叩き落とし、フレイを睨みつける。
「フレイ、貴方が言ったのよ。この作戦なら私達が死なないで済むって。これはどう言うことなの。」
いつもの様なおちゃらけた態度ではなく傲慢な態度を見せるフレイアにフレイはため息を吐く。
「聖鳥ガルーダがやられるのは予想外だね。彼らがそれ程までに強大な存在だとは僕の誤算だ。」
コーヒーを口へと運び小さく笑う。
「誤算で済むならラグナロクは起きないのよ!せっかく強い聖獣と手を組んで後方で傍観しようとしたのに、これじゃあ的になってしまうわ!」
その表情と態度が気に入らなかったのかフレイアはその台詞を残し、部屋を退出する。
「何、心配はいらないよ..........僕たちが生き残る事には変わりはないのだから。」
一人クスクスと笑い窓から覗く月光を背にフレイも部屋を退出する。
「ガルーダちゃんにプシューケーちゃんが脱落かぁ〜♩どんまいー!」
吸血鬼は現在、タイ王国のピーピー諸島にてバカンスを楽しんでいた。
「いちいち闘わなくても良いのな〜んでみんな戦うんだろうねぇ?」
携帯で通話をする吸血鬼。
「何故、僕の電話番号を知っている?」
「えぇ〜蚩尤ちゃんが情報通だったからこっそりと拝借しただけだよ〜♩気にしないで、ね?」
おちょくる様な話し方に電話の先にいる相手はイラつきを感じる。
「血を贄とする下等なヴァンプ風情が魔神である僕に対して生意気じゃあないのかい。」
「生意気とは酷いなぁ、僕たち初期は協力し合ってたじゃないか?もう一度、手を組もうよー♩て言うか未知数に合わせてー」
「断る。」
電話が切れる。しかし吸血鬼は再度電話を掛ける。
「いい加減にしてくれないか?かれこれ君とは半日は話をしている。いい加減に開放してくれ。」
電話番号や着信拒否をしているにも関わらず、電話が立て続けに掛かってくるのだ。もちろん携帯を破壊したりもしたのだが、何処からともなく新しいものが住居に出現する。
“バロール、誰と話をしているの?”
ウォフ・マナフが問いかける。
「昔、話をした事がなかったかい.........どうしようもないく下劣で醜悪な獣の事を。」
吸血鬼が友好関係を結ぼうとしているのは魔眼保持者であるバーロルである。
「獣って、僕はガルーダちゃんじゃあないんだからさぁ」
「僕は君とは干渉したくないんだ。察してくれないかな?」
「そこをなんとかーって言ってるんだよ!ウチのメンバーの三人が消えたんだよー?北欧神は正直な話弱いしー、ギリシャ神話の化物は隠遁してるしでさー、もうどうしようもないわけ♩」
「ならば死ねば良かろうに。」
「酷いなぁ〜。お願いだよー!君だって悪魔と英雄を失ったんだ。僕たちが組んでもマイナスにはならない筈だよー」
「マイナスだらけだから嫌だと言っている。お前はいつもいつも僕に厄介ごとを押し付けては逃げていたからね。お陰様で降霊術師の次に命を狙われるのは僕ばかりだ。ゲシルが僕を招き入れてくれなかったら精神を病んでいたところだよ。」
もっともキル数が多いのは降霊術師を除けばプシューケーとバロールなのである。
「そ、其れは過去の話だろ〜?水に流しましょうよー♩」
「流せるか!お陰で眠れない日々が続いたんだぞ!」
魔眼を持つからとて毎日と命を狙われるのは精神的に堪えるものがある。其れに何よりも魔眼を受けて尚、死なぬ輩に遭遇した際には度肝を抜かした。もちろん、最後にはきっちりと殺したが、命のストックを抱えている創作物は厄介なのだ。
(そして、その中の一人にこの吸血鬼も含まれている。)
初めて遭遇した際、計8回と言う数の命を奪い取っている。にも関わらず、奴は電話の先でピンピンとしている。恐らくだが、無数の魂を内に所有しているのだろう。
“......仲間、しないの?”
ウォフはバロールの何時もとは違う様子に違和感を感じつつもそう提案する。
「こいつは自分の利益しか考えない様な奴なんだ。仮に手を組めば最後、僕達は破滅の道へと向かうよ。」
“でも....うん、バロールがそう言うなら。じゃあ殺すの?”
「いずれは殺さなければいけないね。だけどそれは最後だ。」
“なんで?”
「ゲシルを葬った敵の一味、未知数を先に仕留めたほうがより安全に先の道を進めるんだよ。そして其れを可能とするのが僕と_______」
中国、湖南省の街外れある宮殿を拠点とするバロールとウォフ。高台に建てられたその宮殿は安易に立ち寄れぬ場所に建てられており、人の侵入は難しい筈なのだから正面の門が破壊され三人の影が陽に照らされ姿を現わす。
「死を与える魔眼、善い思考の具現化よ、妾らは其方らと協定を結びに来た。即座に表に出よ。否、拒絶を申すと言うのならばこの一帯を灰燼に帰すと知れ。」
高らかに響く女帝が如き唯我独尊とした発言。協定を結びに来たと言うよりは最早脅しであった。
“双対の..........エルフッ”
驚愕とした表情を見せるウォフ。バロールは電話を切りウォフの頭へと手を置く。
「案ずる事はないよ、ウォフ・マナフ。こうなる事は予測出来ていた。」
頭から手を離し、宮殿のテラスへと出る。そして見下ろす様に言葉を紡いだ。
「______理に触れし女神エレンミアよ、その申し出を受け入れよう。」
その光景を遥か高き場所にて飛翔する蝙蝠を通じ見ていた吸血鬼は口元を歪め小さくと笑った。
「へぇ、これは面白くなってきた♩」