第十八話『 黒騎士の正体とは』
「はぁ、疲れた......」
勝負の後、マールスにトイレに行くといいそのまま家に帰宅した。これ以上、奴の思惑通りに踊るのは却下だ。マールスの辿る歴史は悲惨であり激動としたものだが、正史通りに動いて貰わなければ困る。
(......だが)
もう収集がつかない程に正史とはかけ離れてしまった。自分の介入が主な原因であるのは確かだが、登場人物達が違った動きをする為、介入せざるを得なかったのだ。
(マールスは本来ならば騎士団を抜ける筈だった。なのに彼奴は残り、騎士団の補強に尽力しやがった。)
帝国は冒険者達への協力要請と報償の歴史を見事に消し去ってくれた。
「其れに.......ヴェヌスなんて奴は俺は知らないぞ。」
"コンコン"
家の戸が鳴る。
(はぁ.......どうせマールスだろう。)
ベッドへと横になり目を瞑る。居留守をする事にする。
"コンコン"
またしても戸の音がなる。
"コンコン"
しつこいな。
"ドンドン!"
彼奴、人様にどれだけ迷惑を掛ければ気が済むんだ。仮にも命の恩人だぞ。
【ジョン!いる事は分かっている!家を『ファイア』で焼かれたくなければ今すぐ出てくる事を推奨するぞ!】
巫山戯るな。家を得てからまだ一日しか立ってないんだぞ。
「......マールス、いい加減にし」ガチャ
しかし其処にいたのはマールス一人だけではなかった。毎日会いたいと願い続けていた人物の一人。
「___________ディアーナ」
【瘴気の具現】、【闇の再臨】、【深淵の女王】、その本人がいた。思わず言葉が漏れる。鎧を装備している為、マールスらには見えないだろうが黒騎士はどうしようもない程に情けない顔を晒しているだろう。
「貴方、聖女様に失礼ですわよ。」
付き人らしき修道女が名を呼び捨てにした事に対し怒る。
「あ、あぁ.......すまない。」
平静を保たなければ。
(今はまだ......その時ではない。)
今すぐにでも二人きりで以前の様に語り合いたいと言う私情を殺し冷静さを取り戻すよう自分を律する。
「お初にお目にかかりますね。私は第一教会の司祭を努めるディアーナです。以後お見知りおきを、と言いたいところですが、私の事は以前から知っていたようですね。」
「あぁ、知っていたよ。」
知っていたさ。ディアーナの好きな食べ物も、好きな趣味も、何もかもを俺は知っている。
「あんたは........帝国では有名な、聖女様だからな。」
ディアーナは何を思ったのか苦笑を見せると、手を伸ばしてきた。
「.....これは?」
「握手をしましょう。私達は此れから互いに協力し合う関係になるのですから。」
黒騎士はディアーナの手を掴む。
「ぐっ、」
痺れが身体を駆け巡る。
「俺に、何をした.....っ!」
(くっ、警戒を怠った..........)
「少し、奇跡を使わせて貰いましたが........貴方、人間ではありませんね。」
聖女とその付き人達の雰囲気が変わるのが分かる。黒騎士は即座に手を離し、自分が迂闊な行動をしてしまったと唇を噛み締めた。
「人間ではないだと?其れは一体どういう事だ!」
マールスは黒騎士の前へと自分を庇う様に立つ。
(瘴気に精神を侵される以前は高潔かつ清廉な心を持っていたんだったな。其れに天界から与えられた奇跡を使える事を今まで忘れていた。)
闇落ちした聖女は【瘴気】や【捕食した者の力】ばかりを使う為、彼女が奇跡を行使できる事を失念していた。
「俺は.........人間だ。」
「ならばその鎧を脱ぎ、正体を見せなさい。」
先程の握手は瘴気に侵された者と同じ反応だった。奇跡を当てれば苦しみの表情を見せる。
「断る、と言ったら?」
帝国が秘密裏に隔離していた瘴気に呑まれた者の末路をディアーナは知っている。彼等は凶暴な魔物となり、血肉を求める獣となる。
「貴方が瘴気に侵されていない証拠を見せなさいと言っているのです。先程の戦闘に置ける急激な変化は恐らく瘴気の侵食に従い力が増しているのでしょう。浄化されたくないければ従いなさい。」
故にその様な状況にあるものを騎士大隊の二番手の地位につける訳にはいかなかった。
「随分な言われようだ。分かった..........だが、其処の待女達は退出させくれ。マールスをアンタの側に置くから問題はないだろう?」
それ程までに瘴気の侵食が進んでいるのかと十字を切る聖女。
「承知致しました。貴方達は外での待機を。」
「ですが聖女様「心配はありません。私は聖女共に帝医隊の長でもあります。何かがあったとしても直ぐに対処して見せましょう。」
近接戦闘ではもちろん騎士大隊の騎士達には勝てないだろうが純粋な戦闘だけで言えば聖女はマールスやかつての団長を上回る実力を秘めている自負はある。
「さぁ、お行きなさい。」
「お気おつけ下さい、聖女様。」
二人の付き人達が退出すると同時に黒騎士は鎧を脱ぎ始める。