第十五話『女騎士ヴェヌス』
「当方の実力はマールス副団長にも引けは取らぬ。なのに何故、陛下は当方を副団長の席に任じなかったのだ。」
騎士大隊所属の女騎士【ヴェヌス】は怒りを感じていた。先の調査では帝国の防衛を任された為に同行出来なかった。故に手柄を立てる事も出来ず、ただ帝国での任務を何食わぬ顔で行っていた。
(共に団長達やマールス副団長と調査任務に出ることが出来ていれば、少なからず被害を抑える事ができたのに....悔やまれる。)
剣を振り続け早15年の歳月が立った。今年で19となる。攻撃魔法とて得意分野だ。下積みの頃から数えると騎士団には7年は在席している。戦果だってマールス現団長には少し劣るが負けてはいない。
「あの傭兵には副団長の座は渡さん。当方がその席に座るべき権利を持つのだ。」
毎日の日課である剣の鍛錬、素振りを止め宿舎へと戻る。
(実力とて未知数。当方の剣技を持って何方が上か知らしめてやる。さすれば陛下も当方の存在を知り再任命して下さる筈だ。)
水浴びをしながら彼女は闘志に燃える。高々傭兵程度に自分が負ける筈はないと自負している。だからこそ、副団長の座は自分にこそ相応しいと感じていた。
「さて、参会に向かうとしよう。当方はあの傭兵風情に決闘を申し込まねばならぬ。」
騎士の衣服を装備し、剣を帯刀したヴェヌスは集会がある騎士訓練所へと足を進めるのであった。
「マールス、オレは何をすればいい?」
訓練所にて各騎士達が鍛錬を行う中、黒騎士はマールスへと問いかける。
「あぁ、新人の育成に今は力を入れないと行けないからな。剣の稽古でもつけてやってくれ。」
人員不足の為、仕事を探す移民らや帝国領全域へと騎士団員募集を呼び掛けたところ、数百名もの騎士団入隊志望者が集まった。
「オレは正統派の剣技は知らんぞ。戦闘は実践で培ってきたからな。」
「なに、怪我をさせないように軽く打ち合ってくれれば良いんだ。」
軽く言ってくれるが、自分の力は人を鍛える為にあるものではない。だがマールスはそんな内情もいざ知らず、新人達へ自分と剣の打ち合いをする様命じた。
「副団長、私達と稽古をしませんか?」
新人の一人がそう言ってくる。
(はぁ.....面倒くさいが、やるしかないか。)
「構わない。一気に掛かって来い。まとめて相手してやる。」
一人一人を相手にするのは面倒だ。まとめて相手をさせてもらう。
「一撃でも当ててみろ。当てる事が出来れば今日、そして明日の訓練は参加しなくてもいい。休日をくれてやる。」
マールスが此方を睨みつけてくるが、無視だ。新人達はおお!と喜びの表情を見せるが其れが如何に難しいことなのかを理解していない。
「_____なら、当方もそれに参加するとしよう。」
新人の中からジト目の女騎士が前へと出てくる。容姿的に説明をすると綺麗な容姿、セミロング、翠髪、眼鏡な女騎士だ。
「.......ヴェヌス」
マールスは黒騎士の前へと立ち、ヴェヌスと呼んだ女騎士と対峙する。
「マールス副団長、団長就任おめでとうございます。」
皮肉を込めた言い方をする女騎士。
「本当にすまないと思っている。だが、陛下がお決めになった事なんだ。」
「認められぬ。」
剣を鞘から抜き黒騎士へと向けた。
「当方が其処の傭兵よりも優れていると陛下に進言すれば良いだけの話。何処の馬の骨とも知らぬ下郎に騎士団を任せるなど愚の骨頂。」
随分な言われようだと肩をすくめる黒騎士。その態度が気に食わないのか自分へと近づき堂々と宣言する。
「決闘である!当方と勝負をしろ仮初の副団長殿!」
他の新人達は訳が分からないと言った様子で此方の様子を伺っていた。そして元から騎士団に在席していた騎士達はやってしまえとヴェヌスを応援する。
「待て、ヴェヌス「構わない。俺の実力を知るいい機会だろう。」
騎士団員達の前で自分が彼等よりも優れた戦士である事を証明する。
(少しでも憎まれ口が減れば上々。)
「ジョン、分かっているのか?ヴェヌスは俺でも手こずる相手だ。戦場とは違い、一対一の勝負では技量に左右される。力だけでは敵わない。」
戦闘面では騎士団ナンバー3の実力はある騎士だと説明される。
「どうした、当方に怖じ気づいたか?」
こうまで啖呵を切られたら断る訳には行くまい。
「はぁ、彼奴はあの様子だ。それにお前は俺におめおめと逃げろとでも言うのか?」
「違う、話し合いでの決着をつけろと言っているのだ。」
黒騎士はマールスの横を通り、腰に掛けてある漆黒の剣を鞘から抜く。
「話合いで解決出来る問題ならこんな反発は起きないだろうよ。」
前へと視線を向けるとヴェヌスは剣を上段に構え、腰を低く構えていた。
「準備がお早い事だ。何方かが降参するか、急所への寸止めまでが勝負の内容だ。異論はないな。」
勝負の確認を取る。もちろん何方が死ぬまでなんて血生臭いルールは設けない。
「___________心得た。」