第十四話『騎士団入団』
「そうですか.....」
1万人もの騎士大隊、帝医隊が霧の調査にて全滅した報告を受ける。
「マールス副団長を除いて、ではありますが。」
マールスの名を聞き、眉をピクリと動かす聖女。
「聞いた事がない名前ですね。」
「マールス副団長は前回の戦争の功を認められ、副団長の地位に新任したばかりです。聖女様が名を知らぬのも致し方ない事かと。」
ディアーナは第一教会の廊下を歩きながら付き人である修道女へと顔を向け、問う。
「生き残りはマールス副団長だけなのですね。」
「いえ、其れが......」
修道女は口を噤む。
「どうしたのですか?」
「マールス副団長はお亡くなりなられた騎士大隊団長の席に就任する事が決まりました。そして、新しく副団長に就かれる方がもう一人の生き残りなのです。」
その事実に何か問題がある様に聞こえる。
「その者は誰なのですか?」
「はい。其れが我が国に仕えていた騎士ではなく傭兵なのです。」
傭兵。その言葉を聞き、ディアーナは歩みを止める。
(金銭を積まれれば何方の陣営にもつく卑しい者を何故、陛下は副団長の任につかせたのでしょうか。)
「帝医隊の長として、確認する必要がある様ですね。」
聖女、帝医隊、又は教会の司祭として騎士大隊の改革を見定めなければならない。
「午後の予定は全てを後日に回し、騎士団宿舎へと向かいます。」
「1万人が死んだっては本当だったのか…………」
「一体、霧の中で何が起きたというのだ。」
帝国にいる帝国騎士全てを宿舎前へと集らせたマールス。騎士団員達は何事かとマールスへと目線を向けていた。勿論、隣に立つ漆黒の鎧を身に纏う騎士に対してもだ。
「_______騎士団の残りってのはこれだけなのか?」
「あぁ、そうだ。それも殆どの精鋭達は先の戦いで死んだ。俺がどうしてもお前を騎士団へと入れたい理由が分かっただろう?」
黒騎士は考える。本来の史実であらばマールスはこの騎士団への報いからか自主的に退団している。だが、それは逆に帝国の指揮、そして戦力を落としていることを意味している。もしかしたら、それが原因で帝国は冒険者稼業を大々的に告知する事で戦力増強を測ったのかも知れない。
「皆の者、集まってくれて感謝する!!既に聞いていると思うが、先の戦いで我らは1万人の同胞達を失った。それは我らが長である団長も含めてだ。」
団員達は驚愕の表情を見せる。今回の調査程容易い任務はないだろうと安直な考えで見送った仲間達が全て死んだのだ。
「俺は陛下より、新団長としての任を命じられた。そして、この隣にいる奴は先の戦いで俺の命を救い、帝国まで送り届けてくれた恩人だ。陛下はその功績を称え副団長としての立場を与えた。」
マールスは黒騎士の背を叩き前へと突き出す。
(こいつ...........)
「_____マールス新団長の言う通り、俺が副団長に選ばれた。元は傭兵稼業の身、不安はあるだろうが、俺を信じてついてきて欲しい。」
その言葉を聞き団員達は拍手を送るのではなく、罵声を浴びせた。
「ふざけるな!何故、帝国騎士でもない余所者を副団長にせねばならない!」
「そうだ!!マールス副団長が団長に繰り上がるのは理解出来る_____だが、その小汚い傭兵は別だ!!」
予想以上の反響に苦笑を見せる。
(まぁ、そうだろうな。いきなりのポッと出が頭につくなど、此方が同じ立場ならば巫山戯るなと言いたくなるのも分かる。)
「______聞け!!霧の脅威は我らが予測を凌駕している!団長は死に俺でさえ瀕死の状態まで追い詰められた。あの憎き霧は巨大な悪だ。此方が先に動かなければ呑み込まれる。俺たちに残された戦力は此処にいる者達だけなのだ。」
マールスの説を聞き、団員達は静観する。殆どの精鋭が消えた以上、此処にいる自分たちが先頭に立ち、戦わなければならないのだ。一人一人が心の中で葛藤する。次に死ぬのは自分達ではないのか、と。
「_______必ずあの霧は俺たちが一丸となって晴らして見せる。それが俺たち騎士団の誇りと尊厳を掛けた使命。今こそ、帝国の底力を見せる時だ!!!」
剣を鞘から抜き、天高らかに掲げる。騎士団達も同じく剣を抜き剣を前へと掲げ喝采を上げた。
『『『我ら帝国有る限り停滞は無し!勝利欲しくば剣を握れ!繁栄は我らが剣に在り!!!』』』