第九十八話『ディアーナさんの日常』
皆が寝静まる中、ディアーナは静かに瞼を開ける。
(ふふ、ルキフェルさん.......またやっている様ですねぇ♪)
青年に意識がない事を確認するルキフェルの姿があった。ディアーナは其れを一人悟られない様に静観する。
「眠っていますね、ジョン。」
するとルキフェルは青年へと自身の唇を近づけ口付けをした。その表情は正しく恋に落ちた少女其の物だった。暫くするとルキフェルは名残惜しそうに青年の元から離れ元いた場所へと戻っていく。
(あぁ純粋な者に色が染まっていく。見ていてとても気持ちがいい♡ジョン副団長は私のものではありますが、あの表情はいい♡ルキフェルさんの目の前で彼を奪い見せつけたぁい♡そして心を壊してしまいたぁい♡)
ディアーナの根は決して善ではない。瘴気と同化している為もあるが其れは本来、根本にある欲を活性化させているだけに過ぎない。
(あぁ我慢、我慢をしなければなりませんねぇ、ふふ。)
胸を押さえつけ自分の欲望が外へと露出しない様にする。胸元の中心には以前ルキフェルによりつけられた傷跡が残り今でも癒えてはいなかった。
(この世界は楽しい。ですが、余りにも戦火に乏しいですねぇ。戦があり人は輝くと言うのに。)
悲観した感情がディアーナを支配する。
(救済.............死の中に身を置くからこそ人は光を求める。この世界には絶望が余りにも欠けています。)
いっそ今からでも人類を絶望の底へと落としてしまおうかと画策するが直ぐにその邪な感情を捨てた。
(ルキフェルさんとブランチェさんが入ると言うのに無謀な考えでしたね。)
そして眠る青年へと近付きルキフェル同様に顔を近づける。
「...........あぁやはり貴方は美しい。」
(貴方の隣に居るだけで、私は幸せなのです。)
ディアーナは唇を重ねる。
(ふふ、安心してください。貴方だけは絶対に殺したりはしませんから。貴方だけのために私は刃を振るいましょう。)
そして舌を口内へと入れ蹂躙した。
「ちゅ...ん?...ちゅ.......ディアちゅ..ちょっ!?」
青年は口内の違和感により目を覚ますとディアーナの姿が移る。
「ぷはっ、ふふ。おはようございまぁす、ジョン。」
ディアーナは自身の唇をなぞり耳を赤くする。ディアーナの内面は実は皆が思うほど派手ではない。瘴気と同化して入るとは言え人並みの恥じらいと言う物はある。要約すると無理をして大胆な行動に出て入るのだ。
「...........ディアーナ。今のは何ですか?」
ディアーナは背後から尋常ではない殺気を感じ取り後ろを振り向くとルキフェルが立っていた。表情は先程の口付けの正体を知りたいと言う表情と怒りの中間と言った微妙な顔をしていた。
「ふふ、この世界ではフレンチキスという物だそうですよぉ?」
余裕を持った態度でルキフェルへと答えるディアーナ。そして意地悪く舌を出して、ルシファーへと説明をして行く。
「舌と舌を絡める事でよりぃ近くに繋がって入ると感じるのでぇすよぉ♪」
「ほぉ」
ルキフェルは青年の唇を凝視するとゴクリと息を呑んだ。
(ルキフェルさん、興奮していますねぇ。)
「試しにルキフェルさんもシて見てはいかがでしょうかぁ、ふふ♪」
すると青年は間髪いわずベッドから飛び出した。
「な!?待ちなさい、ジョン!!」
ルキフェルは其れを追う。
(ふふふ、今日も楽しい一日が始まりそうでぇす♪)
ディアーナは愉悦を感じながら二人を追う。青年がこの後、ルキフェルに捕まった事は言うまでも無いだろう。
ディアーナは場をかき乱す事が大好きな人物だ。『Radiance』シリーズ第2作目にに置いても主人公側に対し精神攻撃を幾度と繰り返している。時には相手の希望、すなわち心を砕いたりもした。だが其れはこの世界にいるディアーナとは違った未来を進んだディアーナに過ぎない。
「(私は間違えてなんかいなかった)」
作中の死に置いて最後に放つ台詞。ディアーナは自分の史実であるゲームをプレイしながらただ同じシーンを繰り返し見ていた。
(私は何を言っているのでしょうか.......何故、この様な結末を迎えながらも満ち足りた顔をしているのですか?)
「意味が分かりません。」
勇者ユーノの意思を継ぎ自分を討ち取ったマールス。そしてマールスも深手を負い息を引き取った。だがマールスの屍の近くには沢山の同胞達が寄り添う。比べて自分は孤独に死んでいった。
(世界を掌握して尚もこの体たらく。この道に進んだ私は無価値だ。)
コントローラーを離し目を瞑る。孤独に死ぬのは結構。だが史実の自分が結果を残せなかった事に不満を感じる。
「今朝はアンタの所為で大へ............珍しいな、ディアーナがそんな顔をするなんて。」
ジョン副団長が隣へと腰を下ろす。そして『Radiance』シリーズをプレイしていた事に気付き心配の声を掛けてくれたようだ。
「この様な台詞を何故私は最期の時に口に出したのか、疑問なのです。」
リプレイを見せ青年に問う。彼は一度考えると私へと向き直った。
「_____アンタは救済したかったんだろ?」
「えぇ。」
其れが私を突き動かす原動力だった。
「なら其れが叶ったって事だろ。」
私は訳が分からずポカンとした表情を浮かべるが、何故かその答えが胸の奥を突く。
「ディアーナ自身が叶えたかった願いは人を救う事だ。」
そう、根本ではそうなのだろう。
「瘴気の影響か歪んだ形になっては入るけど結果的には人類は希望を、光を取り戻した。」
「戻してなどいません!私が世界を救っていないのだから!」
(私の歩んだ世界では私は世界を救済して見せた。けれど満足はしなかった。なのに史実の私は何故、これ程までに満ちたりている?)
普段の私とは違い声を張り上げてしまう。
「アンタは優しい。瘴気に取り込まれても心の奥では何れ自分を打ち倒す者が現れると信じていたんだろ、本当は?」
立ち上がりジョン副団長を睨みつけてしまった。
(知った様な口を........私はっ!)
言葉に詰まる。ジョン副団長の言葉が胸に強く突き刺さる。
(瘴気の全てが我が手の中にある今、残すは人類を吞み干すのみ。全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全てが私の中に入れば救われる..........)
そう思っていた筈なのに。
「私は............」
(目的を果たした。けれど貴方のいない世界に私は希望を見出せなかった。)
自然に涙が瞳から流れる。ジョン副団長は一瞬驚いた顔をすると直ぐに私を抱き締めてくれた。
「アンタはもう孤独じゃない。方法は最悪だとしても、人を救おうとした気持ちには変わらない。少なくとも俺はディアーナの事を知ってる。」
人を根絶やしにすれば救済が叶うと歪んだ願いを掲げた深淵の女王。しかし、其れでも尚、心の奥底には聖女であった記憶も残っていたのだ。
(そんな......そんな言葉を言われてしまったら私の信じていた信念、救済が崩れてしまう。)
青年を抱き締め返すディアーナ。
(あぁ暖かい............)ギュ
顔を胸元から離し彼を見上げる。正直に言うと物凄く恥ずかしい。けれども普段通りのディアーナでいなければ行けない。
「辛くなったらいつでも抱きしめてやるさ。っても俺にはその程度の事しか出来ないけどな。」
あぁ甘えてしまいたい。ずっと此処にいたいと言う感情が全身を駆け巡る。やはり私には貴方が必要なのだ。
「ふふ、口説いてるんですかぁ?」
ディアーナは涙を拭き取ると、微笑を見せた。
「.........口説いたら悪いか?」
だが予想打ににしない返しにディアーナは硬直する。
「え?」
一瞬の沈黙。ディアーナは素で驚き顔をたちまち紅くする。
「冗談だ、ふふ。」デコピン
そんなディアーナの表情に満足したのか青年は苦笑しながら冗談だと言う。そしてイタズラ顔で自分から離れキッチンへと向かって行った。
「.......................」ムス
(...............うぅ、やっぱり好きぃ)
頰を膨らませ文句を言う為にディアーナは青年の後を追うのだった。