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第十話『絶望』

黒騎士はその行進を冷めた目で見ていた。


(瘴気に抗うには瘴気を認め受け入れるしかない。)


魔力量が大いに越した事はないが其れが真の解決にはならない。瘴気とは【星の浄化作用】なのだ。


(もっともこの【時点】ではの話ではあるが。)


いずれ聖女が持つであろう【闇(深淵)】の力と現状の【闇(瘴気)】とでは根本がかなり違っている。全ての闇(天界、魔界、下界)、意志あるものの負のエネルギー、そして星の浄化作用を一身に掻き混ぜて混沌としたものを聖女は後に内包する定めにある。


「おぉ!騎士団期待の新星だぞ!」


要約するに聖女は闇の化身であり器だ。深淵其のものと言ってもいい。


「.......あれは」


久々と見た彼の顔は以前とは違い自信に満ちた顔だった。目元には隈はなく、好青年とした騎士。民衆に向かい手を振るう彼に対し、どうにも胸が痛くなる。


「____________マールス。」


【あの時の戦い】を思い出す。彼の振るう一撃一撃が重くそして強い意思を感じられた。


【俺の願いは叶う事はないだろう________________だが、お前だけは再び連れて逝く。】


溢れ出んばかりの確固たる強き意志、圧倒する様な瞳だけは今でも忘れない。騎士団を失い、仲間も失い、勇者【ユーノ】の代わりとなった重責の中で戦い続けた元騎士団団長の男。


(あんたと再び会えるとはな.......)

「.......死ぬなよ。」


群集に紛れたその声をマールスは耳にする。しかし直ぐに視線を前に戻し行軍する。


_______________________


___________________


______________


________



「一体何が起きているんだっ......!!」


膝をつき、仲間の屍を抱きしめるマールス。瘴気、あれはただの毒霧なんかではない。瘴気内には得体の知れない魑魅魍魎、化物達が蔓延っていた。


「ふざけんじゃねぇ.......ふざけんじゃねぇよ!!」


あれだけといた大軍が一気に壊滅した。


「必ず........団長の、皆の敵は取るっ!!」


団長であった者の屍をその場へと下ろし立ち上がる。


「誰か!誰か息があるものはいるか!!」


霧の調査を行う為に領域内に進行した結果、仲間達を全て失い一人生き残った。


「なぁ、誰か.....誰か....返事をしてくれ」


遺体を確認しながら歩くがだれ一人として生きている者はいない。










遡る事、数時間前_____


「団長、この霧の原因は一体何なんでしょうね。」


マールス【副】団長は帝国の凱旋時にて騎士団長へと声を掛ける。


「さぁな。教会側の報告では魔力量が多いもの程、影響は少ないと報告されているが真相は明らかではない。」


「それで今回は魔力量が高い騎士団勢揃いで出陣する訳ですか。」


自尊する訳ではないか帝国の騎士団はどの国よりも抜きん出て強い。


「はぁ、早く酒飲みてぇ。」

「嫁さんの飯が恋しいぜ。」


故に誰もがこの調査は直ぐに終わり国に帰還出来るだろうと甘い考えをしていた。


「良し、帝国領内を出たぞ。そろそろと隊列を組み直す。」


行進から戦闘の陣形を組み、いつ如何なる時でも対応出来る隊列へと組み直す。総勢で1万人の騎士達、中でも魔力量が並から上の者達を中心に招集された精鋭達だ。


「これより先は未知の領内だ!気を引き締め任務に当たれ!」


騎士団を統括とする騎士大隊団長は先頭へと立ち鼓舞を上げる。其れに連なり騎士団員達も声を高らかに上げた。


(俺はこの戦場で武勲を上げるんだ。)


霧の領域内の調査だが、敵国の新しく開発された魔術攻撃の可能性が高い。必ず術者が中に居る筈だ。そいつの首を討ち取る。マールスは霧の正体をそんな生半可なものだと考えていた。そして騎士大隊は瘴気内部へと侵入していく。


「流石に息苦しい、な。」


騎士の一人がそうつぶやく。魔力量が高くとも瘴気の影響を必ずしも完全に防げるとはかぎらない。瘴気内部では常に魔力量が微微ではあるが削られるのだ。要約するにMPが常に減る状態と説明した方が分かりやすいだろう。そしてMPが底をつけばHPが減る仕様なのは言うまでもない。


「確かに俺達は魔力に自信はあるとは言え、厳しいな。」


早期に任務である調査を完了しなければ重軽傷者が出る恐れがある。


「聖女様を筆頭に教会側から魔力回復剤を兵一人1瓶の配布はされている。それに例え瓶が底を尽きたとしても帝医隊が後衛に待機しているから魔力量が底をつくことはないだろう。」


団長はそう言うが、やはり不安は拭えないものだ。


「......おい、この先、何か蠢いて」


先頭を先導して歩兵する騎士が前方に存在する違和感に気づき、伝令を送ろうとするが、言葉が止まる。


「おい、どうした?」


騎士の様子がおかしい。ただ前を向いている。その様子を心配してか周りの騎士達が近付くが直ぐに驚愕の表情へと変わった。


「______死んでいるっ、」


胸に大穴を開け、立ったまま絶命していたのだ。


「一体何がっ「なっ、うわあああああ!!!?」


隣にいた筈の仲間の頭部が突如として消え失せ、血飛沫が舞う。


「に、逃げ」


そしてそれが伝染する様に前衛に隊列を組む騎士達が不可解な死を遂げて逝く。


「団長、前衛の様子がおかしいですよ。」


「あぁ、分かっている。皆っ、剣を抜刀し敵に備えよ!!!」


騎士達は剣を抜き、戦闘態勢に入る。しかし、血の雨は止まない。悲鳴だけが各所から木霊する。


「くそ、一体どうなってるんだっ!」


マールスも剣を抜き、魔力を身体へと流し意識を活性化させる。


「あぁあああああああああ」

「化物っ!!!?」

「くそ、お前達が元凶かっ!!!」


逃げ惑う騎士、そして勇敢に立ち向かう騎士とで戦場は混沌と化す。しかしやはり此方側の被害が広がりつつある。



「団長、俺が前に出ますっ!!」



騎士団の中でも二番手の実力を誇るマールスは馬へと指示を出し列を飛び出す。戦況を変えるには自身の実力が必要であると信じて。


「マールスっ!勝手な行動をするなと、くっ!マールスに続け!!」


団長は苦渋の表情を浮かべながらも自軍の騎士達を前進させる。

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