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ふたりの決意

「ひとつ質問良いですか?」


 亜衣がビシッと右手を挙げた。


 佐藤は興味深そうに亜衣を見た。あの話のあとに、まだ質問があるのかと目を輝かせる。


「はい、上尾(うえお)さん」


 佐藤は指を差して亜衣を促した。


「それなら私たちが、向こうの世界に行くメリットって何ですか?」


 亜衣の発言に佐藤は目を見張った。この子の中では不死はもはやメリットではない。これなら大丈夫そうだ。


「え?亜衣、何言ってるの?だって私たちなら、死なないんだよ?」


「…植岡さん、少し違うんだ。上尾さんの言うおとり、死ぬたびに初期アバターに戻っていたら、いつまで経っても魔王は倒せない」


「あ…!!」


 佐藤の言葉に、お菊は口元に手を当て、大きく目を見開いた。


「アバターこそがメリットなんだ。アバターは身体機能が強化されて作られている。初期段階でも一般人を遥かに凌駕している程だ。まあ勿論…熟練の猛者には敵わないけどね」


 佐藤の言葉に気持ちがこもり始める。


「だけど、どんどん成長させていけば、理論上はあの世界の誰よりも強くなるはずなんだ!しかも人間よりも何倍も早いスピードでっ!」


 佐藤は立ち上がり拳を握りしめた。背後にザバーンと波飛沫がたつ。


「……失礼した」


 亜衣の熱い視線とお菊の冷めた視線に気が付くと、佐藤は複雑な表情で静かに着席した。


「こちらとしては、君たちに手伝ってもらいたいんだが、どうかな?」


 佐藤はふたりを交互に見る。


「やるよ!私はやります」


 亜衣は大きく頷いた。


「亜衣がやるなら…」


 お菊は「ううん」と首を横に振った。


「私もやります。やらせてください!」


「ありがとう。ふたりとも本当にありがとう」


 佐藤は額が机に付くほどに頭を下げた。


「それでは、事務的な話に移ろう」


 パッと顔を上げると、佐藤は説明を開始した。


 ・ふたりは中学生なので、アルバイトとしては雇えない。そこで職場体験という形で手伝ってもらうことになる。

 ・日給分の報酬が出る。4時間を超えた場合は時間分の手当が出る。

 ・保護者への説明の場を設けるので、明日一緒に集まってほしい。


「親御さんへの説明は、少し違ったものになることは許してほしい」


 佐藤はもう一度、深々と頭を下げた。


「分かってる。ウチのお母さんに話しても、どうせ信じないよ」


 亜衣が「ケラケラ」と笑った。


「あの…佐藤さん。ウチはお母さんしかいなくて、明日も仕事だから多分無理」


 お菊は「どうしよう?」と相談する。


「……え?」


 亜衣は突然知らされた衝撃の事実に絶句した。


「あ…亜衣?やめてよね!態度変えられたら私がやりにくい。もうホントに全然なんともないから!」


 亜衣は少し考えたあと「分かった」と微笑んだ。


「それなら委任状を作ろう」


 佐藤はパソコンの机に移動すると、委任状の作成を始めた。要約すると「上尾さんの保護者の判断に賛同する」というものだ。佐藤はお菊に委任状を渡すと、一番下の空欄を指差した。


「植岡さんはここに、お母さんの署名と印鑑をもらってきて。それと上尾さんは、明日お母さんに印鑑を持ってくるように伝えておいて」


 ふたりは「はい!」と返事をする。


「ああそれから、植岡さんのお母さん用に説明会の資料を作るから、それも明日渡すね」


 佐藤の言葉にお菊は頷いた。


「最後に、明日親御さんと一緒のときはエレベーター使っていいよ」


 佐藤は「ニッ」と笑って、席から立ち上がった。

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