チュートリアル 1
「すみません。私たち早く戦えるようにどこかで練習したいのですが、4時間まであとどの位時間が残ってるか分かりますか?」
「……あん?」
おキクの質問に、アサノは不思議そうな顔をした。
「サトーに何も聞いてないのか?」
「サトーさん、ワザと黙ってたな」
アサノとサカシタが思わず苦笑いをする。
「イイぜ、教えてやる。日本の4時間は、コッチじゃだいたい4日間だな」
アサノが意地悪そうな笑顔を見せた。
「……?」
アイとおキクは最初、アサノが何を言っているのか全く理解が出来なかった。それから徐々に理解が追いついてくる。
「よ…4日ぁー!?」
アイが口をアングリと開けて、大声で叫んだ。
「4時間で五千円て、かなり美味しいと思ってたのに、4日間で五千円なんて、完全に真っ黒!」
(驚くとこ、そこ!?)
おキクはアイに、真っ白い目を向けた。
「アイくん、もっと言ってくれ!」
そのときサカシタが、アイの意見に同調する。
「俺たちなんて、コッチで4日間頑張ったあと、市役所に戻ってあと半日仕事するんだぜっ!最悪だと思わないか?」
拳を震わせながら、サカシタが魂で叫んだ。
(うー…それはさすがに同情する)
おキクは左手で口元を覆いながら、憐れむような瞳を向ける。
「今更くだらないこと言ってんじゃねーよ!」
そんなサカシタに、アサノがゴツンと拳骨お見舞いした。
「そんな事より、新入りに基本的なことを教えてやりな。私はここの復興を、もう少しだけ手伝うことにする」
~~~
サカシタは街から少し離れた森の中に、アイとおキクを案内した。やはり異世界人の能力を、あまり現地人に見せる訳にはいかないようだ。
「まずは武器。これが無いと戦えないからね」
サカシタがおもむろに、右手を前に差し出す。
「ハルバード!」
掛け声とともに、サカシタの右手に斧槍が瞬時に装着される。アイとおキクは「わー!」と、感心したように瞳を輝かせた。
「サカシタさんは神官なんですね」
おキクは意外そうな声を出す。
「実は…この件にも一悶着あってね」
サカシタは遠い目で、ゆっくりと空を見上げた。
「俺は最初、片手剣のアバターを作ったんだ。そしたらアサノとカブっててさ」
(ああなんか、その時の光景が見える気がする)
おキクは思わず苦笑いする。
「起きたら凄い剣幕で『今すぐ神官で作り直せ!』て怒鳴られてさ。俺の方が先輩なのに…」
「それは…大変でしたね」
おキクは同情した…フリをした。しかしアイは全く空気を読まなかった。
「そんなことより、神官てどんな能力なの?」
(そんなこと!?)
アイの何気ない一言で、サカシタの胸を何かが刺し貫いた。残念ながら致命傷である。
(アイが、トドメを刺しちゃった)
おキクはサカシタに、両手を合わせて黙祷した。
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「神官といえば、やっぱり『ヒール』だな」
サカシタが得意げに言った。
「問題は、癒しの魔法と違い、アバターにしか効果がない。あくまで、そういう技術ってことなんだと思う」
「へぇー」
アイとおキクが声を揃えて感心した。
「逆に癒しの魔法はアバターにも効果がある。効果は弱いが無効な訳じゃない。俺たちには分からないが、凄い力が働いてるんだろうな」
「へぇー」
ふたりはトリ○アの泉を見たことはないので、ワザとではない。しかしサカシタは、ちょっと複雑な気分で苦笑いした。
「サカシタ先生!良ければ片手剣についても教えてください!」
そのときアイが、真っ直ぐに右手を挙げた。
「そうだな、簡単に言うと麻痺効果のある剣なんだけど…詳しくはセーレーに聞いてくれ」
サカシタの説明に、アイはポンと両手を打った。
「あ、そうか!サカシタさんなんかに聞かなくても、セーレーに聞けばよかったんだ!」
(なんか!?)
サカシタは再び何かに胸を刺し貫かれる。
「南無」
魂が抜けて真っ白になったサカシタに向けて、おキクは両目を閉じて合掌した。