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74.ぎこちない再会




「ところで、ハイトさんたちもついてきて大丈夫なんですか?」

「大丈夫とはなんですか、大丈夫とは。明日は美味しいものを食べられる集まりなのでしょう? 一度ご挨拶をしておかないといけません」


 絶好調なシュバルツ、鼻息が荒いぞ。


「……美味しいものを食べられる集まり……。うーん、あながち間違ってはいないけれど」


 そうなのだ。

 ヴィアベルの激励会は島を挙げてのお祭りなので、ハイトさんやランさんも招待してもらえている。

 ということでわたしたちは今、準備会場へ向かっていた。


 封印済みの魔王とはいえ、冒険者の激励に参加しちゃうって、バレたら大事件ではなかろうか。

 ……そんなツッコミは心のなかだけに留めておくことにする。


「いいのですよ。美味しいもののあるところ、わたくしはどこへでも参上いたします」


 おぉっと。思考を読まれていたぞー?

 隣でハイトさんは相変わらず涼しい顔をしている。


「あの角を曲がったら、会場の公民館です」


 道の先を指差したときだった。


「……シュテルン?」


 聞き慣れない低音がわたしの名前を呼んだ。

 声の主は反対側から歩いてくる人間だった。


 いや、誰?


 背丈はわたしと同じくらいでそこまで高くはない。

 恰好は白い襟付きシャツに、ところどころダメージの入ったジーンズ。足元は緑色のサンダル。

 肩まであるオレンジがかった金髪は後ろでひとつに束ねている。前髪も長くてセンター分け。

 陽に灼けた小麦色の肌はがっしりと筋肉がついている。

 一重の瞳は、紫に近い青色。


 ……ん?

 紫に近い青色?


 記憶のなかに、そんな瞳の持ち主はひとりしかいない。


「もしかして、ヴィアベル……?」

「久しぶりだな。一瞬誰だか判らなかった」

「えぇと、それはわたしも」


 というかヴィアベルってこんな感じだったっけ。

 いかに記憶から抹殺されていたかがよく分かる。ごめん、ヴィアベル。


「久しぶり。それと、おめでとう」

「……おぅ。ありがとう」


 よかった。

 相当ぎこちないながらもなんとか会話が成り立っている。


「そちらの方は? まさか、恋人と……」

「ないないない絶対それはない。エアトベーレで営んでいるパン屋の従業員さんたち。ハイトさんとシュバルツ」


 史上最大の誤解をされそうだったので慌てて全力否定。


「はじめまして。おれはヴィアベル・ノイン・シュトラールといいます」


 ヴィアベルがすっと右手をハイトさんへ差し出した。

 するとハイトさんは応じて、握手が交わされる。


 おぉー。未来の冒険者と魔王が握手した!


「ハイトさんは無口なのであまり気にしないでね」


 一応、フォロー、フォロー。


「わたくしはシュバルツと申します。もしかして、あなたが明日の激励会の主役殿ですか?」


 うーん。シュバルツの顔に〈美味しいもの〉と書かれているような気がするけれど見なかったことにしておこう。


「あぁ。ありがたいことに島の皆が集まりを開いてくれることになっている」

「わたくしたちもトゥルペさんにお招きいただいたので明日は参加させていただきます。その前にご挨拶ができて光栄です、未来の勇者殿」

「トゥルペが言っていたのは君たちのことだったのか。まだ正式には冒険者にもなっていないのに、勇者って呼ばれるのは気恥ずかしいな」

「わたくしには先見の明がありますから、胸を張っていただきたく思います」


 中身が魔王の第一従者だと知らないとはいえ、美少女に断言されたヴィアベルはどことなくうれしそうである。八重歯をちらっと覗かせてはにかんだ。


「ありがとう。必ず立派な勇者になってみせるよ」


 しかし、こんなに素直な奴だったっけ?

 そもそもまともに会話するのが数年ぶりなので、見た目も声も含めて、記憶のなかのヴィアベルと一致しない。

 正直なところ、わたしは戸惑っている。


「ところでシュテルンは公民館に行くところ?」

「あっ、うん」

「おれは挨拶に伺おうとしたら、会場は当日見てのお楽しみって言われて入れてもらえなかったんだ」

「すっごい気合いの入りようだね」

「町長の意気込みはすごい。今朝キルシェ島に戻ってきたんだけど、町長自ら議員を引き連れて出迎えに現れた」

「うわ」


 のどかな島なので、町長はわたしたちが子どもの頃から変わらないほのぼのとしたおじいちゃん。

 その町長ががっつりやる気を見せて行動しているなんて。


「しかもいい酒を実家に届けてくれた」

「すご」


 たしかに何もない島にとって冒険者誕生なんて一大事だから、気合いが入ってもおかしくないだろう。

 とはいえ、相当な気合いの入りようなのは事実。


「トゥルペも迎えに来てくれたんだけど、そのとき、シュテルンは体調を崩しているから激励会は欠席かもしれないって言われたんだ。ここで会えたってことは大丈夫そうだな」

「あっ、うん。行くつもり」


 さすが、先回りの得意なトゥルペ。

 そういえばトゥルペの恋人ってヴィアベルと同じ魔法科の学生っていう話だったけど、ヴィアベルは知っているんだろうか。

 まぁ、それはトゥルペ本人からそのうち話してもらえばいいか。


 そしてこの様子だと、わたしがパンを差し入れするのも一種のサプライズっぽいから黙っておこうっと。


「じゃあ、また明日」

「おぅ」


 そのままヴィアベルはわたしの来た道を歩いていった。実家に帰るのかな。


「あれが、あなたの昔張り合っていた相手ですか」


 彼の後ろ姿を見ながらシュバルツがにやにやしている。


「まぁ、一応。すっかり見た目が変わっていてびっくりしちゃった。ところで、ほんとにヴィアベルは勇者になるの?」


 冒険者のなかでも勇者の称号を得られるのはほんの一握りなのだ。

 先見の明、だなんて断言しちゃっていいものではない。


 答えたのはハイトさんだった。


「あの者には素質がある」

「素質?」

「鋼のごとき強さを秘めた人間だ。ただ、今のままではしなやかさが足りぬだろう。打たれても元に戻れる柔軟性。それは、これからあの者が冒険者としてどう成長するのかによって決まっていくだろう」


 なるほど。

 その話を聞いても前よりつらい気持ちにならないのは、【透明な音色の洞窟】での出来事のおかげだろうな。

 あんな冒険をヴィアベルがふつうにこなせるのなら、それはもはや、尊敬の域だよ。

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