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5.焼きたてピザで打ち上げを




 怒涛の3日間だった。

 シュバルツはよく働いてくれたし、ハイトさんは立っているだけでお客さんを呼んでくれた。

 おかげでパンは飛ぶように売れたので、3日目の昼には完売してしまった。


 予想的中、雇ったことでさらに忙しくなってしまったのである。


 それでも最終日は午前中でお店を閉めてしまったので、余力はあった。

 へとへとになっているシュバルツと平然としているハイトさんに向けて仁王立ちになる。


「もう今回は店じまいです。まずはお疲れさまでした! まだ試用期間ではありますが、ささやかながら打ち上げをしたいと思います」

「打ち上げとは」

「パ、パーティー、……かな?」


 しまった。これは前世特有の言い回しかな?


 厨房の冷蔵庫から寝かせてあった生地を取り出すと、テーブルの上へ。

 麺棒で、うすーく、まるーく、まるーく伸ばす。

 顔よりも大きく薄く広げるのがポイントだ。


 さらに冷蔵庫から自家製トマトソースと、ベーコンとマッシュルームを取り出す。

 生のトマトはきらいだけど加工したものは大好きなので、トマトソースには強いこだわりがある。それは、ほんのちょっとのお砂糖と、たっぷりのハーブを入れること。


 すとすとすと。


 マッシュルーム、それから、玉ねぎとピーマンもちょっとだけ薄切りにする。

 トマトソースをパン生地の上に塗り広げて、絵を描くようにベーコンとマッシュルームと玉ねぎとピーマンを散らす。

 さらにとっておきのチーズをどっさり載せて、パン釜へ入れれば!


 じゅわー。


「はい! ピザの完成でーす!」

「おぉお」


 いちばん上のチーズはとろーり溶けて、こんがり焼き目がついている。

 チーズもトマトソースもぐつぐつと沸騰している。トマトソースも端っこが少し焦げているのがまたいい。

 具材にもしっかり火が通っていて、湯気は魅惑的な香りを放っていた。

 見た目だけでも美味しい。ピザカッターで8等分に切る。


「ハイトさんとシュバルツって、ビールは飲めますか?」

「酒は好きだ」

「わたくしも好きです」

「じゃあ白ビールを出しますね」


 白ビールもまた、小麦からできている。小麦まみれの打ち上げだ。

 冷蔵庫に冷やしておいた3つの細長いグラスになみなみと注ぐ。よし、泡もきちんと出せた。


「さて、皆さま。グラスを掲げてください。かんぱーい!」


 ごくごく。


 あー! さわやかー! そして労働後のビールってなんでこんなに体に染みるのか!

 ただ、アルコールに強い方ではないので飲みすぎには注意。ほどほどにしておこう。


 ごくごく。


「ぷはー。爽快ですね」


 ……あ。ツインテール美少女がビールを飲んでいるのは倫理的に危ない絵面だった。でも、シュバルツも見た目は子どもだけど中身は魔王の従者だし、まぁいいか。


 かりっ。とろり。じゅわー。


 うんうん、ピザも上出来!

 この、トマトソースの程よい酸味とチーズの濃厚な旨みを見事にキャッチしてかけ算してくれるぱりっとした生地よ。

 さらにベーコンの脂は野菜たちをコーティングして美味しさの奥行きを広げてくれている。


 ピザは焼きたてがいちばん美味しいからなかなかお店では商品として出せない。しかし、こうやってたまの閉店後に食べるピザは最高の贅沢品だ。


 びろーん。もぐもぐ。


「ほぅぅ……。……なんですかこのトマトソース……今まで何百年と生きてきましたがこんなに旨みの強いもの初めて口にしました……このままトマトとチーズの海に溺れていたいです……」


 シュバルツは大満足そうだ。

 ハイトさんも無表情のままチーズをびろーんと伸ばしながら食べてくれて……あれ?


「あの、ハイトさん」

「なんだ」

「もしかして苦手ですか? ピーマン」


 なんと細切りピーマンをつまんでシュバルツのピザに乗せようとしているではないか!

 まさか好き嫌いがあるとは!

 魔王のくせに! 魔王の、くせに!


「お待ちください。我が君にとって苦い食べ物は毒なのです」

「うん、それは間違ってはいないですよ。いないんですけど意外すぎて」


 ちょっとかわいい。

 あ、シュバルツがわたしの思考を読んでものすごい形相で睨んできている。やだなー。あのままピザに没頭してくれていてよかったのに。


「じゃあ、次はピーマン抜きにしますね」


 すると、魔王は気まずそうにわたしから顔を背けた。


「……宜しく頼む」


 しまった。次は、なんて言っちゃった。

 うーん。

 でも、まぁいっか。

 こうやって誰かと仕事後にピザを食べたりビールを飲んだりするのって、ほんのちょっと憧れてたんだよね。

 今まで雇ってみたひとたちは全員、初日で辞めちゃってたし。

 そう考えたら、ふたりともよくがんばってくれたなぁと感心するのだった。

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