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48.試作と試食と




「ただいまー」


 しんとしている店内に声が響く。今日はハイトさんもシュバルツも待ち受けていなかった。


 それにしても、重たいからって米を後回しにしなくてよかった。この状態で米屋に行ったら、スパイシーな香りを振りまいてしまうところだった。

 路面魔法車でも他の乗客の視線を微妙に感じたので、相当な存在になっていたのだと思う。


 石鹸でしっかりと手を洗って、エプロンもつけて、キッチンに立つ。

 米を研いで、吸水させて。


 早速、カレールウの試作といきますか!


 まずはひたすら玉ねぎをみじん切りにするところから。


 すとすとすと。

 とんとんとん。


「目に……目に染みる……」


 ほんのちょっとのしょうがとにんにくも同じく細かく細かくみじん切り。


 じゅー。


 それを弱火で、あめ色になるまでひたすらに炒めつづける。

 最初はあまり動かさず。

 ひたすらに、ひたすらに。

 じっくりと、じっくりと。

 とにかく焦がさないようにするのが大事。

 こうすることで、玉ねぎの甘みや旨みが引き出される。


 この辺りはオニオングラタンスープとよく似ているから苦じゃない。地道な作業は意外と好きなのだ。


 さて、隣ではブラウンルウをつくるとしますか。


 小麦粉でとろみをつけるものの総称が、ルウだ。

 シチューやグラタンに使うホワイトルウをつくるときは小麦粉とバターをそのまま使っていくけれど、カレーなので小麦粉を炒めてブラウンルウにする。

 余談だけど、デミグラスソースもブラウンルウを使う。


 まずは別のフライパンにバターを溶かす。

 火加減は、同じく弱火。

 バターがしっかりと溶けて、しゅわしゅわ弾ける泡が落ち着いてきたら小麦粉を投入。

 弱火で、木べらで、じっくりと炒めていく。


 とにかく、気長に、混ぜながら、……待つ。


 目安としては、ねちゃっとしてどろどろの状態から、茶色くさらさらっとしてくるまで。


 気の遠くなるような、根気の必要な作業だ。

 カレールウがいかにお手軽なものなのか身に染みる……。


 ふぁさっ。


 ようやく火を止めて、スパイス類を一気に入れた。


 クミン、ターメリック、コリアンダー、シナモン、オールスパイス、ナツメグ。

 ブラックペッパー、チリペッパー。


 これらの香りをしっかりと小麦粉とバターへ移していく。

 うん、一気にカレーの香りになってきた!

 最後にようやく玉ねぎたちを合わせて、混ぜ合わせて。

 ひとまとまりに、固めると。


「できた……!」


 カレールウの、完成だ!


 時間はかかってしまったけれど、無事、見た目も香りもカレールウだ。

 ルウを寝かせている間に、カレーの本体をつくっていこう。


 具材はシンプル。

 豚肉、にんじん、じゃがいも、玉ねぎ。


 すとすとすと。


 豚肉のかたまりはひと口大のサイコロ状。

 にんじんはいちょう切り。

 じゃがいもは大きさを揃えた乱切り。

 玉ねぎは、くし切り。


 じゅわー。


 空いた鍋に油を熱して、肉と野菜を焦がさないように炒めていく。

 表面にしっかりと油がなじんで、てかてかと輝いてきた。

 そのまま鍋に水を注いで、具材を煮る。


 ぐつぐつ……。


「どうかな?」


 竹串を野菜に刺して、煮えていることを確認したら、一旦火を止める。

 カレールーを入れてゆっくりと溶かし、溶けきったところでまた火をつける。

 とろみがつくまで、中火でことこと煮込んでいく。


 部屋のなかが、カレーの懐かしい香りに包まれる。


 さて、そろそろ米も炊いていこう。

 いつも通り、研いで吸水させておいた米。ザルに開けてから片手鍋に移す。

 そして水を注いで、蓋をしめて、まずは強火で炊いていく。

 沸騰したら弱火に落として、さらに、蒸らしていけばあっという間に炊きたてご飯の完成だ。


 カレーにもとろみがついてきた。

 小皿に少し取って味見してみる。


「……うーん?」


 カレーの味だけど、ちょっと物足りない。

 辛みは足りている。

 だとすると、足りないのはコクだろうか。

 砂糖不使用のビターチョコレートひとかけと、絶大な信頼を寄せているトマトケチャップをちょろりと足してみる。


 ぐーるぐる。


 そしてまた、味見。

 ほんの少しなのに、口のなかで辛みとコクが踊っている。

 うん!

 反射的にガッツポーズ。

 これはカレーだ。紛れもなく、カレーだ!


 ご飯も蒸らし終わって、つやつやと煌めいている。

 少し底のある皿に、半分はご飯、半分はカレーをよそう。


 ほかほか。

 ほかほか。


 くんくん。


 あぁ、何回確認しても、カレーライスだ……。


 テーブルに移動して、両手を合わせる。


「いただきます!」


 ふーふー。

 ぱくっ。


 じわじわと、地味に感動が広がっていく。感動なんて言葉はかんたんに使いたくないけれど、これは感動レベルだ。

 カレーライスって、もうほんと、唯一無二の味だよね。他に置き換えられるものがない。


 ちょっと辛いので、牛乳を一気に飲む。


 ごくごく。


 ふー。口のなかが一気にマイルドになった。


 初めてカレーを食べるなら、ちょっと辛めかもしれない。

 ヨーグルトとかトマト缶を使えば、もっと辛みがおさえられてまろやかになるかな?


 いいものしか食べていなさそうなランさんと、わずかな表情の差で美味しく食べてくれているか判断しなきゃいけないハイトさん。

 それからわたしのことをよーく知っているトゥルペを招くのだから、気合いを入れていかないといけない。


 カレーライスをメインにして、どんな献立にしよう。


 甘めのカレーと、サラダもあった方がいいよね

 わたし流のゆで卵入りポテトサラダにしようかな。


 汁物はどうしよう。

 どろりとしたポタージュ系はやめて、さらりと飲めるコンソメスープだろうか。


 そしてそもそも、カレーの具材。

 肉にするか、シーフードにするか。

 そこも考えておかなきゃいけないよなー。


 喜んでもらえるといいな。

 美味しいって言ってもらえると、いいな。

 思いはじめた途端に楽しくなってしまうのは、もうきっと性分なんだろう。

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