32.食パンについて真剣に悩む
さてさて、本日は試作日である。
まず、昨日のうちにしておいたこと。
アルタイト製の型を買ったので、空焼き。
しっかり洗って乾かした型を、魔法制御窯でそのまま焼く。
そして粗熱がとれたところで、乾いた厚手のふきんで拭いて汚れを取り除く。
この作業をしないで使い始めると、変な油臭さがパンについてしまうのだ。
最後に冷めた型にきれいな油を塗ってもう一度焼く。
これで、型に油がなじんでくれる。
「よし!」
真四角と長方形、両方とも変なにおいはしてこない。
安心して使えそうだ。
まずは、いちばんシンプルな山型食パンにしてみよう。
小麦粉。砂糖。
花酵母の種。
塩。
バター。
順番にボウルへ投入していく。
こねこね。
食パンで大事なのは、しっかりとこねること。まずはこれに尽きる。
型のなかで上に向かって伸びていく力をしっかりと発揮してもらうために、こねてこねて、さらには。
「ふんぬー!」
ばしっ! ばしっ!
パン生地を作業テーブルに叩きつけていく。
しっかりと捏ね上げてつるんとなった表面。
うーん、かわいい!
まるでパン生地でできた真珠のようだ。
「ふー」
さらに焼き比べのために、同じ作業をもう1回。
うーん、なかなか骨が折れる。
今日の午後か明日にはニーダーが届くからちょっとは楽になるかな?
もちろん手でこねるよさはある。その日の天気や湿度、粉や生地の状態をダイレクトに感じることができるから。
ニーダーをゲットしても、うまい具合にバランスをとって使っていきたいな。
さて、生地を発酵させている間にひと休み。
「ふっふっふ」
じゃじゃーん!
取り出したのは、シンプルなおにぎり!
実は、今朝もお米を炊いたのである。
そして贅沢にもおにぎりにしてみた。
今日はこの表面に、醤油とみりんを塗って魔法制御窯で焼きまーす!
ぺたぺた。
じゅわ〜。
あっという間に、表面のこんがりと茶色い焼きおにぎりの完成だ。
「いただきまーす!」
かりっ。ほろっ。
表面はかりかりとしたお焦げが甘辛く。
なかのご飯はほどよくほぐれて。
はふはふ。
「ほっこりするし、緑茶がほしくなる……」
ご飯も食パンも、シンプルで、毎日食べても飽きないものが『美味しい』んだよね。
あんぱんやクリームパンとはその辺りが違う気がする。
どんな材料を使うかがダイレクトに味に直結してくるのだ。
どんな材料、でいえば。
生食パンってどんな材料を使っているんだろう。
前世で食パンブームを巻き起こしていた『生食パン』。
しっとりとしていて、とろけるような、なめらかな舌触りの食パンだ。
あれもまたこの世界にはない食感だから面白そうだよね。
やわらかいってことは、はちみつを使っているのかな?
しっとりして、甘くなるのがはちみつの効果である。
だけどはちみつは生地をふんわりと膨らませてくれるものの、入れる割合が増えるとかえって膨らみづらくなるから、大量に使うときは一度火にかけてはちみつの性質を変えた方がいい。
生クリームの風味を感じるから、生クリームは確実に入っていると思う。
生クリームの効果もはちみつと同じで、しっとりした食感が長続きする。しかも、めちゃくちゃなめらかになるのだ。
トーストするとみみの部分がさくさくして、これまた違う美味しさに感動するんだよね。
ふんわり感のためには、牛乳じゃなくてスキムミルクを入れた方がいいのかな。
牛乳だと少し生地がしまるけれど、スキムミルクはふんわりと仕上がってくれるのだ。
などなど。
考えれば考えるほどきりがないけれど、生地の一次発酵が完了したぞ。
生地の状態をたしかめて、やさしく抑えてガスを抜き、3つに分けて丸め直す。
生地の配合について悩んでいたけれど。
いくつに分割して、どんな成形にするかでも食感って変わってくる。
わたしは丸め直すだけよりも、俵型が好き。
生地を一度広げてから両脇を中央に向かってたたんだ後、くるくると巻いていき、それを型に詰めるのが俵型成形。
もう一度ガスを抜いてから丸め直すだけの丸型成形の方がふんわりとした食感になるんだけど、俵型成形の食パンの方が、スライスしたときの断面がきれいな気がするのだ。
キメの細かさや食感も均一になっているような気がする。
他にもU字成形とか、ねじりとか、いろいろとあるけれど、……まぁぶっちゃけ好みの問題ではある。
それと、山食にするか、ふたをして角食にするかでも、食感って変わってくるんだよなー。
うーん。
奥が深すぎて完成してもいないのに悩む……。
とりあえず初回はシンプルに、シンプルに仕上げよう!
生地の発酵が進んできて、型のてっぺんよりもはみ出るようになってきた。
ふたつの型を天板に載せて魔法制御窯へ入れる。
さぁ、どんな出来になるかな?
窯の内部を扉越しに覗きこんだとき。
「試作の調子はどうですか?」
魔法制御窯からいい香りが漂ってきたのを見計らっていたのだろう。シュバルツがひょこっと現れる。
ぱしぱし。
待ちきれないのか、シュバルツが作業テーブルを両手で叩く。
完全に味見係になっているなー。
「もう少しで焼き上がるから、待っててくださいね」
厨房の入り口にはハイトさんも立っていた。
両腕を組んで、扉にもたれかかっている。
「買ってきた型を使ったパンか」
「はい。食事用のパン、略して食パンです」
うん? 視線が冷たいぞ?
「いやいやいやいや、わたしの創作ではなくって、ほんとに食パンは食事用のパン、の略なんです!」
諸説あるというけれど、食事用もしくは主食用のパンを略しているのだというのが有力なのだ。
面白い他の説は、対義語が消しパン。
デッサンをするときの消しゴムに使われていたというのだ。
言葉の由来って面白いよねー。じゃなくて。
「シンプルなのでそのまま食べても美味しいし、いろんなアレンジができるんですよ」
あぁっ、まだ視線が冷たい。と思ったけれど、これは通常運転だよね……。
☆28話でもちらりと書かれていますが補足☆
アルタイト(アルスター):
鉄にアルミメッキを施している。
アルミだから錆びにくい。
鉄だから熱伝導がいいし、頑丈。
熱伝導がいいっていうのは、
火通りがよくしっかりと焼けるということ、
外側に焼き色がつきやすいということでもあります。
ただ、型の内側に油がなじむまでは、
パンが型から外れづらいことがあります。
作者も、初期は取り出そうとして、
パンの外側がぼろぼろになったことも……。
ただ、使えば使うほど型の内側に油がなじんで、
とても使いやすくなってくれます。
一方で中は鉄なので、
使い終わったあとはちゃんとお手入れをしないとさびてきますので、
要注意……。
まとめ。
ちゃんとお手入れをしてあげれば何年も長持ちするので、
アルタイト型はとってもおすすめです。
本文に型のことを長々と書くのも……と思ったので
こちらに長々と書いてみました★




