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250.ダッチタイガーを作りましょう




 結局卵かけご飯を3杯も食べてしまったおかげ……かどうかは分からないけれど、てきぱきと仕込みを済ませることができた。

 朝ごはんって大事だな。米を炊くのはなかなか手間がかかるけれど、仕込み日くらいは朝から炊き立てご飯を食べてもいいだろう。


「なんだか、いつもより早く仕込み終えちゃいましたね?」

「そのようですね。しかし、貴女のその活発さがどこから来ているのか非常に疑問です」


 つまり、途中から現れたハイトさんとシュバルツが軽く引くくらい、元気もりもりだったということである。


「まだまだ時間もありますし、ちょっと変わったお総菜パンを作ってみましょうか?」

「ほう。活発な理由より、そちらの方に興味があります!」


 はーい。まぁ、そうですよねー。


 では、パン窯に炎を点しちゃいますか!!


 静かな窯に向けて、両手をかざし、深呼吸。


『『万物の神よ。シュテルン・アハト・クーヘンの名において、汝の御子の力を地上へ降りさせたまえ』』


 きらきら。


 明日からの3日間も美味しいパンを焼けますように。

 そして、お客さんたちに喜んでもらえますように。

 願いを込めて、集中する。


『『汝の光を、熱に変え、体内に蓄える許可を求める』』


 ぼっ。


 ごぉおおおおお!!


 暗かったパン窯の中が一気に明るくなり、熱と音も生まれた。

 勢いよく燃え盛っている。これならすぐに内部も温まるだろう。


 ――わたしだけが生み出すことのできる、わたしだけの炎。


 ハイトさんと出会って、さらに最近のあれこれで……魔法の行使に対しては気の引き締まる思いである。

 パンを焼けること、ありがたく感じている。


 さてさて。

 待ちくたびれているシュバルツに、新たな材料を提示。


「実はこの前、ちょっとだけ米粉を買ってきたんですよ」


 米粉だけでパンを作ることは難しい。

 小麦粉とブレンドするか、小麦粉の成分を混ぜないと、膨らまくてただただ重たい仕上がりになるのだ。


 しかし、米粉は貴重。

 ということで米粉をメインに使うのではなく、それでいて重要な役割を果たすパンを作ろうと考えた。


「メロンパンは上にビスケット生地を被せましたよね」

「はい」

「これから作るのは、上に、とろりとした米粉生地をかけて焼くことで、ばりっとかたいトップが生まれるダッチタイガーです」


 そう、その食感はさながら煎餅のよう。

 上はばりっと、中のパンはふっくら。

 ダッチタイガーはメロンパンのように、一度に二種類の食感を味わえるパンなのだ。


 と、いうか。


 最近、スポンジケーキとかメロンパンとか、甘いものばっかりだったから、むしょうにしょっぱいものが食べたい。


「パン生地には、チーズとベーコンを混ぜ込みましょうか」

「美味しい以外の結論が導き出せないパンですね……じゅるり……」


 いつも通り、黙って話を聞いているハイトさんに顔を向ける。


「では、ハイトさんはチーズとベーコンを、粗めに刻んでもらっていいですか?」

「承知」


 ハイトさんに混ぜ込み具材を準備してもらっている隣で、パン生地の準備をしよう。


 小麦粉、酵母、塩、水。

 ふっくらとさせたいので、砂糖、溶き卵、バター。


「あんぱんの生地に近いですね?」

「そうですねー。甘いのもしょっぱいのも、どちらでもいける万能生地です。あ、ダッチタイガーは、フィリングをあんこにしても美味しいですよ」


 あんぱんの表面をばりっと煎餅のようなもので覆う訳だから、美味しくない訳がない。


 いや、だけど、今回は総菜系で作るぞ。


「用意できたぞ」

「ハイトさん。ありがとうございます!」


 まずは、材料を混ぜて、捏ねるところから。


 ねちゃ、ねちゃ。

 こね、こね。


 万能生地なので、捏ねやすいしまとまりも早い。

 パン生地がまとまりかけたところで、チーズとベーコンを投入!


「チーズとベーコンを混ぜ込んだら、捏ねる力は弱めます。そうしないと、具材が潰れてしまいます。チーズやベーコンは潰れてしまうと、その油分が、パン生地に移ってべちゃっとしてしまうからです」


 そして、捏ねあがった具材入りのパン生地は、それでも具材の影響でつやつやしている。


「ほぅ……。これだけでも美味しそうです……」


 シュバルツが自らのてのひらをくんくんと嗅いでいる。

 チーズとベーコンの香りを楽しんでいるようだ。


 パン生地は、発酵器へ。


 ダッチタイガーの難しいところは、上掛け生地にも酵母を使うので、パン生地との発酵具合を揃えなければならないという点にある。

 上掛け生地の発酵が不足していたり行き過ぎてしまうと、ばりっとした食感が得られない。


 ということで、一次発酵中に作業は、なし。


 ただ、仕込みの片づけをしたりしてあっという間に時間は経ってしまう。


「発酵しましたー!」


 ふっくらと育ったパン生地は、フィンガーテスト、ガス抜き、そして分割。


「切り分けるときは、なるべく、具材が均等に入るように調節してくださいね」

「うぬぬ……。難しいですね。まぁ少ないのは貴女用でいいでしょう」

「ちょっと、シュバルツ」


 具材の偏り、すなわち、パン生地の割合に差が出る。

 パン生地が膨らむことによって米粉の上掛け生地が包み切れずにひび割れする、のがダッチタイガーである。


「仕上がりに影響が出るから、気を遣ってくださいね?」

「ぶー」


 シュバルツは不満そうだったけれど、しぶしぶ調節してくれた。


 パン生地は休ませた後、もう一度潰して丸め直せば成形完了だ。


「さて、ここからが重要です。今から上掛け生地を作ります」


 米粉、ちょっとの小麦粉。

 そして酵母、砂糖、水、油。


 ほどよくとろみがつくように混ぜるだけなのだけれど、緩すぎてもパン生地の上に塗ったら流れてしまうし、硬すぎると上手く塗れないので要注意。


「混ぜたらあとは発酵器で様子を見ましょう。もし発酵のペースが速そうなら、室温に置いておきます」


 表面にぽこぽこと気泡ができるくらい、だろうか。


 ふわぁ。小さくあくびをしたところで、ハイトさんが口を開いた。


「コーヒーを淹れてやろう」

「あっ。ありがとうございます。ちょうどいい眠気覚ましになりそうです」

「貴女ごときに配慮する我が君の寛大さにもう少し感謝しなさい! むきー!」

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