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201.輪っかと平焼きと




 ほかほかー。


 焼き上がった2種類の輪っかパン。

 ラムレーズン入りの甘いツオップフは、ふんわりと大きく艶がある。トップにはたっぷりグラニュー糖がまぶされていてきらきらと煌めいている。

 ひとまわりちいさなツオップフは、ドライトマトとブラックオリーブ入り。こんがりとした表面にはたっぷりと粉チーズがかかっていて、かりっとしていそうだ。


「じゃーん! 輪っかパンの、完成でーす!」


 ぱちぱち。


「編みパンはちぎろうとしてもびろーんと伸びるので、今日はカットして試食しますね」


 焼きたての、まだ蒸気がなかに残っているパン。

 ほんとは冷めるまでナイフを入れない方がいいけれど、試食なので切ってしまう。


 ほかほか……。


「はぁ……。やはり何度嗅いでも、焼きたてのパンというのはすばらしい香りがしますね……」


 シュバルツがうっとりしている。


「香りだけじゃ我慢できませんけれどね……」

「はいはい。大きく切りましたので、どうぞお召し上がりください」


 まずはラムレーズンの甘い方から手に取ると、ほわっとやわらかい。

 カットしてみたもののついつい編みをほどくように食べたくなってしまうのが人間の性。


「いただきますっ」


 ぴろー。

 ほどけたパンの中身はふわふわで、まるでパンじゃなくてケーキみたいな口溶け。ほのかに香るラムと、レーズンの食感もまた、いい。


 ドライトマト入りの方はどうかな?

 そもそも生地も卵なしのシンプルなものだし、表面に塗ったオリーブオイルのおかげでぱりっとしている。

 ドライトマトとブラックオリーブの食感も風味も強く感じられて、いい。

 こっちはがっつり、パンっていう感じの味わいだ。


「うんうん。どちらも美味しいですね。この路線で攻めたいと思います」

「テルー……」

「どっ、どうしました?」

「もっと食べていいですか? というか直接ちぎっていいですか? か?」


 ツインテール美少女がうるうるとした瞳で見上げてくるので、思わず苦笑いを浮かべてしまうではないか。


「どうぞどうぞ。お好きなだけ」

「わーい!!」


 びろーん、とシュバルツが甘い方を引っ張りながら味わいはじめる。

 対してハイトさんは静かにしょっぱい方を咀嚼していた。


「……何だ?」


 わたしの視線に気づいて、ハイトさんが視線を向けてくる。


「いえ。試食してるといつも、シュバルツは甘党なのに、ハイトさんはどちらかというと辛党なのかなって思うんですよね」

「否定はしない。そうだな、これには酒を合わせたい」

「白ワインですかね?」


 仕込み日だしいいかな。 ハイトさんはたぶんアルコールで酔うという概念……概念? がなさそうだし。

 冷蔵庫から白ワインをとりだして、ひと口ぶんだけ小さなグラスに注いで渡す。


「……いいのか?」

「ちょっとだけだし、いいですとも。どうぞどうぞ。販売するときのセールストークに使ってください」

「承知した」



 コーヒーみたいに、きっと、こういう些細なことからハイトさんの新たな扉が開けそうだし、ねー。



 そして輪っかパンも好調な売れ行きをみせた、次の定休日。

 いよいよ年の瀬ということで訪れたのは、約束していた米屋である。


「おでん、美味しかったです。ごちそうさまでした。今日はよろしくお願いします」

「はい、こちらこそ」


 店の奥に案内してくれたブリレさんは白い割烹着を着ていた。よくよく見ると、その下はクリーム色の着物のようだ。

 米屋も調味料店も今日はお休みで、ミルトさんも灰色の着物を着ている。


 なんだかふたりとも雰囲気がいつもと違う。というか、前世の記憶があるわたしにとってはなんだか懐かしい。

 店の奥に初めて入らせてもらったけれど、まるで『日本』の古き良き台所だ。

 まさかご飯もかまど炊きなのでは……?


「あの、これ、よかったらお召し上がりください。平焼きあんぱんと、抹茶シュトレンです」


 まず、紙袋を差し出した。


 ひとつめはあんぱんの新作、平焼きあんぱんだ。

 高さのあるイングリッシュマフィン型にあんぱん生地を入れて、蓋をして焼き上げた。見た目は和風イングリッシュマフィンで、てっぺんには黒炒りごまを散らしてある。

 型焼きのあんぱんなので、いつものあんぱんよりしっとりとしている。


「まぁ! 平焼きあんぱん!」


 ブリレさんの表情が綻ぶ。

 ゆっくりとミルトさんもブリレさんに近づいていって、紙袋を覗きこんだ。


「ほぅ。とても美味しそうですね。実は一度、シュテルンさんのパンを食べてみたかったんですよ。ねぇ、ミルトさん」

「えぇ。ただ、私たちも高齢でなかなか移動が辛くって……。年末にうれしい贈り物です。お幾らですか?」

「いえいえ! おでんも美味しかったですし、いつもいろいろと気を遣っていただいているのでほんのお礼です。どうぞ受け取ってください」


 ブリレさんが抹茶のシュトレンを紙袋から両手で取り出した。


「珍しいですね。抹茶でシュトレンを作られたんですか」

「はい。ここで買わせていただいている抹茶で生地を作って、なかにはかのこ豆とゆずのピール、それから栗の渋皮煮を入れてあります。シュトレンの時期はちょっと過ぎちゃいましたけれど、よかったら年末年始のおやつにしてください」


 抹茶のシュトレンは材料費が高すぎるあまりに店で販売できなかった品である。

 せっかくなので採算度外視のこのシュトレン、ふたりに食べてもらいたかったのだ。


「ありがとうございます。では、お言葉に甘えていただきますね」


 ブリレさんの目尻の皺が深くなる。


「美味しそうなものをいただいたところで、早速おせちを作りましょうか」

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