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187.ふしぎなメンバーで食事会




 ということで夜は、ハイトさんとシュバルツ、ランさんを招いての食事会だ。


「お邪魔するよ。これ、差し入れ」

「うっ、ランさん。いつもいつもありがとうございます」


 紙袋を受け取って中を覗く。

 また高そうな紅茶の缶を……。あっ、クッキーの詰め合わせもある。この前連れていってもらったカフェのものかな?


「ハイトさんとシュバルツも、どうぞ入ってください」

「うむ」

「失礼します! ごはーん!」


 ダイニングでは、両親が座ってくつろいでいる。

 ランさんがふたりを見て優雅に微笑みを浮かべ、優雅に挨拶した。


「ご無沙汰しております。本日は家族団欒の場にお招きいただき、ありがとうございます」


 おー、背景に薔薇が咲いている。ランさんってほんと、優雅さを具現化したような人だよなぁ。


「フランメ神官さま。こちらこそお忙しいところ、お時間を作っていただきすみません」


 母がにこにこと返す。父の顔が若干引きつっているのは見なかったことにしよう。


「ハイトさん、とシュバルツちゃん? も。いつも娘がお世話になってます」

「……」

「お初にお目にかかります。こちらこそ、いつも美味しいものをいただいておりますので」


 シュバルツがスカートの裾をつまんで恭しく挨拶する。

 そうだった。話はしていたけれど、両親とシュバルツは初対面だった。


「可愛らしいお嬢さんですね。ハイトさんのお子さんですか?」

「いいえ、わたくしにとって我が君は唯一無二の存在で」

「わーわーわー!!!」


 ややこしい! ことを! 言わないでくれ!

 なお、後ろではランさんが肩を震わせながら笑いをかみ殺していた。そんなツボに入るような展開だっただろうか?


「さぁさぁ、3人もどうぞ! おかけください!」

「……ふん。ひとりで賑やかな奴だ」

「ハイトさん。口を開いたと思ったらそれですか。誰のせいだと」


 はい。気を取り直して。


「ん? これは、ホットプレート?」

「さすがランさんですね。そうなんです、今日の食事会の主役はホットプレートです!」

「何を食べられるのか、このシュバルツ期待に胸を弾ませております」


 テーブルの四辺。

 父と母。

 ハイトさんとシュバルツ。

 ランさん。

 わたし。

 いやー、狭いテーブルに6人。実に賑やかである。


 冷蔵庫から作り置きのおつまみ各種を取り出す。

 茹で枝豆。角切りのクリームチーズをかつおぶしと醤油で和えたもの。よーく冷やした薄切りトマト。大好きなポテトサラダ。


 そして、シュテルン焼きといえば黒ビールだ。

 一応見た目が少女のシュバルツにはオレンジジュースを用意してある。


「まずは乾杯しましょうか。お父さん、お願い」

「おぅ。全員の健康と繁栄を願って乾杯!」


 ……魔王の繁栄ってなんだろうと考えたのは黙っておくことにしよう。

 グラスが掲げられる。


「かーっ! 船旅の後のアルコールは最高だな!」


 父よ、グラス半分を一気に飲み干さないでほしい。

 期待に満ちあふれているらしい父は、上機嫌で手を大きくばしっと叩いた。


「待ってたぜ、シュテルン焼き!!」

「シュテルン……焼き……?」


 シュバルツの目が点になる。


「島にいた頃から、テルーが作ってくれていた独特な料理のことです。シュバルツちゃんもきっと好きだと思いますよ」


 小麦粉。キャベツ。豚バラスライス。ヌードル。たまご。

 だし粉末。

 そして両手には金属ヘラ。


 きらーん!


「では作るとしますか!」



 じゅわー。


 そしてホットプレートいっぱいに焼き上がった2枚のシュテルン焼きに目がけてソースをしゃーっとかける。


 じゅわじゅわじゅわ。


 熱いホットプレートの上でソースがはねる。

 さらに、ふぁさっとかつおぶし、青のりを振ったら、金属ヘラで食べやすい大きさに切り分ける。


「シュテルン焼きの完成です。さぁ、召し上がれ!」

「非常にいい香りですね……」

「待ってたぜ!」

「か、変わった見た目だね」


 各々が感想を述べながら取り分けたのを確認したら、わたしも小皿にひと切れ載せる。

 ほかほか。この湯気がたまらない!


「いただきます」


 はふ。


「あち」


 たくさんの具材が奏でるハーモニー。だしの香りとソースの旨みがたまらない!

 あぁ……やっぱり奮発してホットプレートを購入して正解だった。

 熱々のまま食べられることができるなんて最高だよー。


「はふはふあちあち……テルー、許しませんよ」

「えっ? 何がですか?」

「どうしてこんなに美味しいものを今まで作ってくれなかったんですか! むきー!」


 食いしん坊からの八つ当たりには、苦笑いを浮かべるしかない。


「これはいい。カレーライスといい、テルーはいつも珍しいけれど美味しいものを作るよ……ね……?」

「ありがとうございます。……?」


 ランさんに微笑み返したところ、視線がわたしの小皿に釘付けになっていた。

 正確にはマヨネーズで表面が覆われているお好み焼き、だろうか。


「テルー……。トマトケチャップのときも感じたけれど……」

「みなまで言わないでください」


 トマトケチャップとマヨネーズに関しては、ついかけすぎてしまうんだよねー。てへっ。


「……つい?」

「シュバルツ!!」


 自覚はなくもない異常な調味料の量も、両親にとっては見慣れた光景だ。

 まったく気にせず食事を楽しんでくれている。


「あぁ、ビールが進むなぁ!」

「インゼルさん。テルーの家なんですから、あまり飲みすぎないようにしてくださいよ」

「そうそう。それに、〆のうどんが入らないよ」


「うどん?」


 ランさんが首を傾げた。


「イーストの入らないパンの材料で、シンプルな麺を作りました。だしたっぷりのおつゆと一緒に召し上がってください」


 一応ホストのわたしは立ちあがって、寸胴鍋で湯を沸かし始める。

 作っておいたつゆも火にかけると一気に部屋のなかがだしの香りに包まれる。


「ぐぬぬ……。罪深い香りがします……」


 座ったまま、ソースで口の周りをべたべたにしながらシュバルツが呻いていた。

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