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エピローグ:ネコルート ―なんど生まれ変わっても―



 ジャハル君のドリームランドでの短いが、重要だった冒険は幕を閉じている。

 彼女が精霊国の王として、私との仲を両親や妹に伝えにいっている裏。

 彼女のアドバイスに従い、私もまたとある場所に報告にやってきた。


 時間としては、あれから数日。

 現在の場所は、潮の香りと潮騒の音が心地よい港町。

 風見鶏が特徴的な教会のある地。


 モフ毛を膨らませて、身振り手振りを交えつつ!

 ウニャウニャブニャブニャのうにゃはははは!

 私、大魔帝ケトスはあの時の最終決戦を語っていたのだ。


『というわけで、ドリームランドに湧いた敵をばったばったと薙ぎ倒し! 私の偉大なる尻尾びんたで、どどーんっと殲滅! 無事、魔王陛下とジャハル君を守れたって感じなんだよ!』


 私がやってきたのは、ドリームランド・ウルタール。

 ラヴィッシュ君に会いに来ていたのである。


 私は黒猫の姿。

 ラヴィッシュ君も焦げパン色の手をしたネコの姿。

 具体的な場所は……ちょっとあの思い出の路地裏に似ている路地。


 海鮮焼き串を味わいながら、潮騒の音にモフ耳を向けて。

 事情を説明したのだが。

 眉間に呆れの皺を浮かべたラヴィッシュ君は、肉球で掴んだ香ばしいホタテ焼きを齧りながら。


「いや……あのねえ、その戦いをちゃんと記録しなさいよ。後の資料にするなら、そういう所に需要があるんじゃないのかしら?」

『とはいっても、陛下とジャハル君を守るためだったから本気を出しました、倒しました。用意された敵は全滅です。そんな感じだったしさあ――記録してもあんまり迫力はなかったと思うよ』


 ぶにゃははははは!

 言い切る私に、彼女もくすりと微笑んで。

 太陽の下で猫毛を潮風になびかせている。


「ま、あなたがいいなら、それでいいけれど。なるほどねえ、それで第一世界だっけ? あなたの故郷に一度帰るってことね」

『ああ、すまないね。事後承諾になってしまうが、そのアレだよ? 私達の子供もできたらさ? 私の故郷を救うために、連れていきたいかなぁ……って思ってるんだけど、駄目かい?』


 問いかけに、彼女は大人猫の顔をして。


「ダメじゃないし、魔王陛下についていくあなたの考えも理解しているわ。でも、本当にそんな救いの手を――魔術のない遠き青き星って世界は望んでいるのかしら」

『さあ、どうだろうね』

「どうだろうって、あなたねえ……自分の故郷でしょう?」


 猫のジト目が私を睨んでいる。


『故郷と言っても、転生前の話。ネコである私には基本的には関係ないからね』

「呆れた。あなた……けっこうそういうドライな部分もあるわよねえ」


 こつんとおでこをつけて、ニヒヒヒっと私は笑んでいた。


『君の事はドライじゃないつもりだけどなあ』

「はいはい、あなたの気持ちは分かってますって」


 焦げパン色の君から漏れていたのは、ちょっとクールな言葉だが。

 それでも顔はまんざらでもない。

 焦げパン色の君が言う。


「魔王陛下を追って第一世界に行く。それってあたしのためでもあるんでしょう?」

『おや、どうしてそう思うんだい?』

「だって、あたしに会いに来るには、魔王陛下の上で眠る必要があるもの。ここは陛下の夢の中。あなたなら陛下を通じなくても来れるっちゃ来れるんでしょうけど――それでも、陛下の変化でこの世界がどうなるかは分からない」


 どうやら、心配させないように隠していた部分も、お見通し。

 言い当てられてしまったようである。


「あたしに会えなくなることが寂しいっていうあなたの気持ちは、ちょっと嬉しく思えるわね」

『私はね、もう二度と君を失いたくないんだよ』


 再び、こつんと相手の額に頭をつける。


「あなたって本当に駄目ね、何も変わってないじゃない……」

『ああ、君がいないと駄目なのかもしれないね』


 ふふっと苦笑して。

 でも、君は真面目な顔をして、ネコの口を動かし始める。


「忘れないで――。あたしはまだこの世界から出られない。けれど、いつか絶対に外の世界へ肉球を踏み出すの。何度も転生を繰り返して、何度もあなたに看取られて。また生まれかわって、何度もあなたと出会う。その度に、あたしは必ずあなたを好きになるわ」

『情熱的だね』

「だってあなた、あたしがいないと駄目でしょう?」


 路地裏のあの日と同じ言葉。

 今はもっと、深く感じてしまう。


『ああ、そうだね。魔としての私にてられたわけじゃないが、はっきりと告げておくよ。私は君が好きだよ。一緒に獲物を追ったあの日々も、今こうして話している瞬間の君も。どちらもね』


 私のネコの口と魂が、語り続ける。

 君を失いたくないという。


『私は何度でも君を探す。君が何度生まれ変わっても、たとえ、野に咲く花へと生まれ変わったとしても――必ず見つけ出す。私というネコが君の前に現れるだろう。そしていつか、この夢世界から君を連れ出し、皆に紹介するんだ。私は君とずっと、ずっと、永遠に――同じグルメを味わいたい。そう思っているよ』


 言葉を受ける君。

 ネコの瞳が煌めいていた。

 きっと正面からの告白が恥ずかしいのだろう、君は誤魔化すように言った。


「本当かしら? そうねえ、じゃあもしあたしがミトコンドリアに転生しても、見つけてもらえるの?」


 茶化す君に、真剣な顔で私は言う。


『ゾウリムシになったとしても、君専用の顕微鏡を作り出すよ』

「ごめん、話を振ったあたしが悪いんだけど、あんまりロマンティックじゃないわね……」


 告げて君は、瞳をゆったりと閉じる。


「あたしたちの子どもかあ。あなたに似たらきっとすごく強いネコになるでしょうね」

『君と私の肉体構造には人も交じっている、おそらくネコと人、自由に切り替えられる能力者にはなるだろうね。後は……きっと影使いとして大成するだろうさ。ネコは闇に生きる獣、影使いとしての私の能力を一番うまく活かしてくれるんじゃないかな』


 男の子だろうか、女の子だろうか。

 色々と考えてしまう私、とってもお父さんだね。


「ふふ、もうすっかりお父さんの顔をしてるのね。でも、あのねえ……まだ、できてもいないのに。ちょっと気が早くないかしら?」

『こんな私は嫌かい?』

「嫌じゃないわよ? でも、ふふふ、ちょっとおかしくて。あの頼りなかった変な野良猫仲間のあなたが、やっと父さんになるのねっておもったら。笑っちゃいけないとは分かってるんだけど、ごめんなさい」


 君はお腹を抱えて笑っていた。

 そりゃあまあ。

 野良猫になったばかり、転生したばかりの私は頼りないネコだっただろうが。

 今は違うのだから、問題ないのである!


『君はどんな子が欲しいと思っているんだい?』

「そうね――優しくて元気な子になってくれるなら、あたしはそれだけでいいと思うわ」

『そうだね、元気が一番いいね』


 微笑む私達の頭上を、鳥たちがバササササっと駆けていく。

 私達の明日を照らすように――。

 ではない。


 おそらく強大な気配を察して、カモメが逃げたのだろう。

 カッシャカッシャカッシャ。

 駅のホームを堂々と歩く鳩のような大胆さで、ニワトリさんがやってきたのだ。


 風見鶏状態だったロックウェル卿である。

 教会の上から飛んできたのだろう。

 卿はふーむと未来視を発動させ、私達にアドバイスをするように言った。


『安心せよ、そなたたちの子は立派に成長し、状態異常の達人となるであろう。そしておそらく、ななな! なんと! よい鶏の家庭教師がつくと未来視にはでておるぞ!?』

『いや、ロックウェル卿――なんでもう勝手に君が鍛えることが決まっているんだい』


 顎に翼を当てて、ドヤァァァっとしていたのだが。

 その身を回転。

 ロックウェル卿はくわわわっと舞を披露し。


『子育ては大変であるからな! 余も協力してやろうというだけの話よ!』

「そりゃあまあ、あなたが協力してくれるなら、強い子になるでしょうけど――情操教育に悪い気がするのは気のせい?」


 卿の性格を知っているラヴィッシュ君も、ジト目である。

 そんな目線を受け。

 ロックウェル卿はちょっと真面目な顔をして、コケコケ。


『さて、要件を告げておこう――魔猫の正妻よ。そなたは不安定な存在。子を成すことにそなた自身も心配があるやもしれぬと、飛んできたのだ。なれど、案ずるなと伝えに来た。つまりは、そういうわけであるな!』

「どういうことかしら」

『余は奇跡や祝福に頼らぬ回復魔術の達人。外の神の奇跡が届かぬこの地でも、完璧なる回復の御手を披露できる。そなたらの無事は保証して見せると言っておるのだ。この白き翼に誓ってな』


 なるほど、卿なりに心配をするなと言いに来てくれたのだろう。

 めちゃくちゃドヤ顔であるが。


『頼りにしてるよ、ロックウェル卿』

『うむ、それではこれ以上邪魔をすると馬に蹴られてしまうだろうからな。余はいくぞ』


 バサササササ!


 告げたその時には既に、ロックウェル卿の姿は消えていた。

 舞った後の翼。

 回復効果のある羽が数枚落ちているが――。


 肉球で羽を拾い、君が言う。


「気を遣わせちゃったわね」

『卿があそこまで気を遣うのって、けっこう珍しいかもねえ』

「ふふふ、そうね」


 君は手を伸ばして、くわぁぁっぁっとネコの欠伸あくびをして。


「それじゃあ、港町をもう一回まわりましょうか」

『ああ、そうだね』


 私も立ち上がり。

 とてとてとてと肉球を走らせる。


 あの日、冷たい路地裏で悲しい別れを果たした私たちは今。

 こうして、太陽の下を歩いている。


 私は何度でも君を探す。

 何度君が生まれ変わっても、必ず君を見つけ出す。


 たとえ百万回でも――。


 やっとちゃんと理解できた気がするのだ。

 きっと。

 これが――愛と呼ばれる感情なのだろう。


 ああ、間違いない。


 君を眺めて零れる笑顔が、証明してくれている気がするのだ。

 ねこは君と出逢い。

 愛を知った。



 《終》

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― 新着の感想 ―
[一言] ロックウェルを蹴る事が出来るような馬ってなんだろうね? スレイプニル?赤兎馬?まさか・・・オロバス?
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