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最終ダンジョン突入! ~分厚い攻略本と極悪軍団(味方)!~その2



 この世界を夢見る乙女、ヒナタ君の悪夢から作られたと思われる最終ダンジョン。

 敵は攻略本から敵を召喚している模様。

 雪の結晶に赤いネコの瞳が反射している。


 ぶぉぉおぉぉぉぉぉぉん!


 魔力をはらんだ風が、吹きすさぶ。

 麗しい魔猫たる私、大魔帝ケトスのモコモコな毛を撫でていたのだ。

 そんなわけで――紅き瞳を闇の中で、キリリ!


 肉球に光を込めて、私は仲間全員に強化魔術を発動!

 魔法陣が皆を包む!


『さあ本格的な敵の登場だ! 皆、油断はしないでおくれよ!』


 雪の重しで凍り付いた道に、敵の影が膨らんでいく。

 召還魔力の明かりが照らすのは、悪夢の道。

 邪悪なるクリスマス、そんな言葉がふさわしい光景が目の前に広がっている。


 敵の影は複数。

 おそらく黒山羊はこのダンジョンの奥に立てこもり、様々な攻略本を使役しているのだろう。


 いや……まあ。

 立てこもり……っていうか。

 うっかり放った私による猛吹雪の暴走魔術のせいで、動けなくなっちゃってるだけなんですけどね。


 十重の魔法陣規模の力を発動させながら、第一の敵が顕現。

 剣の玉座からゆらりと立ち上がり、骨の魔神と形容したくなる敵が、ラスボスとしての微笑を浮かべている。

 敵はこちらとは異なる性質の魔術を扱うのだろう。

 未知なる力が、周囲の物理法則を書き換え始めていた。


 闇の煙と赤い輝きが反射する中。

 攻略本より生まれた骨の魔神が、朗々と口を開く。


「我は大魔君――」


 しかし!

 言葉を遮り、私は分厚い攻略本を割り込み召還!

 バササササッササ!


『そいつの弱点は、えーと……肩パットの裏の三本のツノの狭間の王冠の下の、竜鱗の右だ。頼むよダビデくん』

「はい! 師匠!」


 指示に従ったダビデ君が私の強化魔術を受けた状態で、錫杖をかしゃん!

 私の眷属である血塗れの栄光の手を召喚し、魔力を注ぐ。

 栄光の手ことハンドくんが、掌に血の文様を刻み――ゴゴゴゴゴ!


「ハンドさん! お願いします!」


 錫杖の音と口でのダブル詠唱。

 ダビデ君による支援の強化魔術がハンド君をさらに強化。

 手の文様から放たれた魔弾の射手が、名前も知らない大魔君の弱点を直撃。


 名も知らぬどっかのゲームのボスが、崩れる身を支えながら。

 ぐわり……っ、口を開いていた。


「な、なぜだ! 我は、弱点さえつかれなければ無敵……っ、なぜ貴様がそれを知っている!?」

『いや、そりゃあ君たちは攻略本からでてきたわけじゃん? 私は情報をハック済みだし、同じ書物を召喚してさ? 攻略本に書いてある攻略方法をそのまま使えば……楽勝じゃない?』


 本来は最難関。

 ここで大苦戦をするはずだったのだろうが。

 さきほども述べた通り。


 攻略本から呼んだんだから、その攻略本に答えが書いてあるんだよね……。


 申し訳なさそうにする私の手には、分厚い攻略本が乗っている。

 異世界から取り寄せたことによる代償は、普通に現金。

 そう、私はどこかのお酒大好きな水龍神が使っていた、異世界通販魔術を使っていたのだ。


 あれはアラレのお菓子をデパートから領収書と共に召喚する魔術だったが。

 それを私が悪用。

 通販でも使えるように改良したというわけだ。


『まあ……プレミアがついてて、めちゃくちゃ高かったけど。たぶん、今君がしようとしている最終モードへのチェンジも対策できてるよ? 序盤でパーティーから離脱するサブヒロインの、乙女の涙があれば結界を破れるんだろう? もうアイテムも召喚済みなんだけど……どうする? 続けてもいいけど……』


 同情すらして。

 私は乙女の涙を顕現させてみせる。


 しばらくして――。


 バカなァァァァァァ!

 と、最強だったらしい敵は早々に退散する。

 そのまま進軍する私達に、敵は次々と襲い掛かってくる!


 私は対応した攻略本を召喚!

 分厚い魔導書状態となっている攻略本に目を通し。

 バサササササ!


『う……っ、にゃあぁああぁぁぁぁ! この攻略本、詳しく書き過ぎてて敵が見つからないし!』

「ちょっと貸して! あたしが探すから、ケトスっちは魔術の準備っつーことで!」


 受け取ったヒナタ君が敵とゲームを照合しながら、勇者としてのスキルを使用。

 勇者スキル:《あたしが主役よ!》。

 の――効果が発揮される!


 ヒナタ君が使ったのは、いわゆる主人公補正を強化する……彼女の固有スキルかな。

 私の豪運状態と似た効果なのだろう。

 都合の良い強運を引き寄せる、いわゆる運命改竄系の強力な能力となっていた。


 案の定。

 ヒナタ君が適当に開いたページに、その情報が記載されていた。


「えーと、うげぇ……やばいわよ! ケトスっち。そいつは負けイベ用の絶対死なないし、倒せない無敵の敵みたい! どれだけ倒しても、復活する系の敵よ!」

『んじゃ、同じやつを召喚して永遠に戦わせ続けよっか』


 言って、私はオーク神を邪悪にしたような死なない敵を捕縛!

 特殊空間に強制移動。

 同個体の敵をこちらも童話魔術で召喚し――出入口を封印。


「ナイス~! さすがケトスっち! 外道戦術同士の戦いなら、こっちが百倍は有利ね!」

『手段は外道でも、立派な戦術だからね~♪』


 死なない負けイベを繰り返す攻略本の敵たちを素通りし。

 ダダダダダ!

 私達は堂々と進む!


「んじゃ、行くわよ皆!」

「了解であります!」


 何回か倒せない系の敵が繰り返し登場するが、その都度、こちらも同キャラを召喚し特殊空間に封印。

 敵に構わず進軍で終了である!

 私達はそのまま、せこい方法で最強の敵たちを圧倒した。


「師匠は私が抱き上げていきますから――そのまま攻略本による対策召喚を継続してください!」

「使用し終わった攻略本はあたちに! そのままこちらの戦力増強でち、あたちが童話魔術の核として使うでちから!」


 私だけなら後手に回ることもあるだろうが。

 こちらには鬼畜で有名な司書ウサギもいる。


 私の弟子でもあるヒナタ君も同様。

 裏技的な戦い方を得意としていたし、その弟子の武骨戦士君も同類。

 ヒナタくんと同じく、相手の虚をく戦術を得意としていた。


 ダビデ君も私の弟子なので、当然、せこい戦い方にも慣れている。

 一人、純粋に白山羊の加護と黒猫の加護だけでレベルをなんとか保っていたヨナタン君だけが――。

 じぃぃぃぃぃぃいいっと、せこせこ無双を眺めて、ぼそり。


「な、なあ……これいいのか?」


 問われた私は、振り返りつつも攻略本を悪用。

 デバッグモードを召喚する裏技を起動させ、新たなラスボスの全能力を一に再設定。

 そのまま捕獲用のアイテムでゲットして、召喚ボックスに保存。


 またもや変則的な方法で勝利した後、しれっと宣言する。


『いいのかって、順調だし問題ないんじゃないかな?』

「いや、そういうことじゃなくってよぉ――。俺も外の世界を描いた英雄譚で見たんだが。こう、なんつーか……ここは任せて先に行け! とか、そういう最終決戦前に向けた死闘とか、死屍累々な戦いになるパターンじゃねえのか?」


 漫画……というか英雄譚の読みすぎなヨナタン皇子に、私は言う。


『戦いなんて勝てばいいのさ。相手の土台や目論見に従ってあげる必要なんてなくない? 相手がせこい裏技で戦いを仕掛けてくるなら、こっちもそれに対応をした裏技を使う。それだけの話さ』

「まあ、ケトスっちのいうとおりでしょ? 本当なら絶対倒せない敵と戦わされてるわけだし」


 負けイベ用の敵を召喚した事こそが、その最たるものだろう。

 私を先頭に悪夢のクリスマスを駆ける中。

 司書ウサギが図書館化させた周囲から本棚を再顕現。


「ま、綺麗ごとだけで世界が救えるならいいんでちけどね。そういうふうにいかないから、現実は厳しいんでちよ!」


 言いながらも、闇の中でウサギの瞳をギラ!


 本棚で増殖させた分厚い攻略本を装備して――ウサギさんが、大ジャンプ!

 ドガガガガガガガススス!

 攻略本二刀流による、鈍器攻撃で特大モンスターを撲殺。


 百八ヒット!

 鈍器による殴打数カウントが、ゲームの様に浮かんでいた。


 ああ、このキチクウサギさん……。

 職業的には司書だから、分厚い魔導書を鈍器とする攻撃方法も使えるのか……。

 ちっ……!

 私も分厚い書による鈍器攻撃が使えるから、後で披露しようと思ってたのに!


 先を越されてしまった!


「どうしたんでちか? あたち、なにかやらかしまちたか?」

『いや、君が悪いわけじゃないんだけど――ちょっとね』


 ちょっと残念がる私の横で、ダビデ君も攻略本を装備して。

 ドガガガガガガス!

 当然、私の弟子でありとあらゆる武器の使い方を教えてあるから使えるんだよね。


 冗談みたいな攻撃方法だが、魔導書から直接魔力を叩き込めるから結構強力。

 その書に記された内容によって威力も変わるし、変則的ながらなかなかに有効な攻撃手段なのである。

 私も一緒に、ドガガガガガガガススス!


 魔導書から発生する魔術式。

 炎と氷と雷の魔術が、ドババババっと敵を薙ぎ払う。


 攻略本という名の魔導書を鈍器とする三人を見て。

 ヨナタン君は、ジト目で憑依している白山羊に言う。


「なあ、糞ヤギ女神さんよぉ……外の世界って、みんながああやって本で敵を殴るのか? どーなってるんだよ、外の世界って……おもしろおかしい、とんでも集団しかいねえのか?」

「違うわよ! あいつらが異常なだけ! 変な誤解をしないで頂戴!」


 まあこれを基準と思われたらそれはそれで困るか。


 ともあれ。

 倒した敵をダビデ君が魔力の結晶に変換して、そのまま周囲を守る結界に転用。

 我らの無双は続いた。


 ◇


 悪夢のクリスマスエリアを抜けた先。

 強大な魔力を感じる最終フロアの直前。

 ゲームならばセーブポイントとかがおいてありそうな場所に、それは存在した。


 マップに表示されるフィールド名は、選択の間。

 解説には、使命を選ぶか、仲間を選ぶか――そんな単語が表示されている。

 これもおそらく、童話魔術で攻略本から呼び出した罠。


 ”だった”のだろう。


 それを見つけた私は、頬をぽりぽり。

 ヒナタ君も、困った様子で頬をぽりぽり。


 本来なら、一斉に襲い掛かってくるはずだったと思われる敵は皆無。

 壁には、素敵なオブジェ。

 凍り付いた神獣たちがグギギギギっと固まっていた。


 魔力供給が猛吹雪により遮断され、ガス欠状態で冬眠。

 壁にはびっしり、罠モンスターなのだが。

 そのまま全滅してしまったようなのである。


 そして、その中央。

 暗黒神を祀るような台座があるのだが。

 その天井には、山で暴れた私のせいで生まれただろう亀裂があって。


 光がさしていた。


 ぽつん、ぽつん。

 天井から、雨漏りみたいに水が滴っているのだ。

 その雨漏りの先には、重厚な魔導書が開かれていたのだが――。


 ヒナタ君が言う。


「ふやけてるわね……?」

『ふやけてるねえ……』


 私も言う。


 雪に埋もれた魔導書が、べちょー……っとふやけて転がっていたのである。

 びしょびしょになったせいで魔術文字は欠けている。

 発動しなかった魔術式を読み取ってみると。


 うん。

 そこには、なかなか極悪な罠がしかけられていたようなのだ。

 扉を開けるための、難問と難関を用意してある最終ダンジョンを想像して欲しい。


 きっと、本当に苦労させられる仕掛けが用意されていたようなのだが。

 私達の前には……大きな隙間風。

 モフ毛の先端を、冷たい風が通り過ぎる。


 扉、開いちゃってるね?


 ダビデ君が言う。


「仲間を殺し、生贄にしないと開かない扉、だったようですね」

「だった……?」


 訝しむヨナタン皇子の銀髪色が、雪の結晶を反射している。

 再びダビデ君が解説する。


「ええ、どうやらあの時の猛吹雪――ケトス師匠の魔術をきっかけに、誰もいない状態で仕掛けが発動していたのでしょうね。この壁の中で凍ったままになっている神獣を仲間、そして生贄と判定してクリア、扉も開いてしまっているようですが――どうします?」

「どうって言われても、なあ? こ、これ、この状況自体が罠なんじゃねえか?」


 ヨナタン君が武骨戦士君に目をやる。

 武骨戦士君は扉に近づき、刀で一閃!


「罠も解除されているようでありますね」


 凍り付いて、閉じられなくなった扉が、ギギギギギ。

 武骨戦士君に切られ、斜めに落ちてガツン!

 むろん、なんの罠も発生しない。


 普通に、素通りできそうだね?


 とってとってとって♪

 魔猫の王たる私の肉球が、無事に難関を突破!

 ふふーん! と、いつもならドヤ顔をするところなのだが、さすがに私は困った顔を継続しつつ。


 ぼそり。


『まあ、防寒対策をしてなかった敵が悪いだけだよね』

「そうね――ケトスっちの豪運対策をしていなかった、敵さんサイドが悪いだけよ」

「でちね……大戦時だったら魔帝ケトスへの幸運対策は常識でちたから。相手が全部悪いでち」


 必殺、対策してない相手が悪い攻撃である!

 ヨナタン君以外の全員が同意しているので問題なし。


「なあ、山羊女神……外の世界って」

「言わないで頂戴……あたしもなんか、頭が痛くなってきたから……」


 いや、この白山羊にだけは言われたくないんだが。

 まあいいや。


 私達は難関だっただろう場所を素通りし。

 無事に最奥まで進軍完了。

 おそらく、黒山羊が隠れ住んでいるだろう場所の前までたどり着いたのだが。


 ぷしゅぅ……。


 地面に設置されていた大魔法陣も、雪で埋もれて不発。

 失敗した魔術式が、むなしく空へと掻き消えていく。

 どうやら入り口に戻されるトラップになっていたのだろう。


「黒いあたし、大丈夫かしら……もし気づいているなら、たぶん今頃、めちゃくちゃブチ切れてるわよ?」


 白山羊の言葉に反応する者はいない。

 みんな、思っていたのだろう。

 いくらなんでも黒山羊、不幸過ぎない……?


 と。

 なーんか……これ。

 敵がちょっと、可哀そうになってきたが。


 いや、まあ。

 やってたことがやってたことだけに、同情はしても手は抜かないけどね?

 経過や経緯はともあれ。

 死闘をくぐりぬけ、私達は最終フロアに到着した。



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― 新着の感想 ―
[一言] 乙女の涙があれば結界を破れるんだろう? ↑乙女の涙がアイテムんなってるのって冷静に考えたら趣味悪すぎじゃあないですか? ゲームとかによくあるけど、聖女とかの涙はアイテム化されがちですよねw …
2024/02/14 21:09 退会済み
管理
[一言] ケトスにゃんラスボスに【飛天猫剣流攻略本奥義:天翔猫閃】を使うのだ! 説明しよう!!『天翔猫閃』とは攻略本鈍器を装備した猫パンチの往復ビンタ×一万回の事である(* ̄∇ ̄*)
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