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落胤の姫、再び ~敵狩り道中ネコもふ毛~ その2



 死の砂漠を抜けた先!

 岩塩でできた砂漠、その奥地に隠されていたのは流砂の奥の蟻地獄。

 ようするに、砂漠の地下に彼らはいた。


 魔王軍最高幹部なもふもふニャンコ!

 大魔帝ケトスと愉快な仲間たちは、アリジゴクっぽい砂の入り口から敵地に潜入!

 もふっと着地した地面は、まるで神殿の床のようだった。


 とてとてとて、と肉球音が響く。

 モフ耳をピンと立て、周囲を探る私は索敵を開始。

 砂でグレー色になったネコ手で壁を叩いて、その構造をチェックしていた。


 爪を研ぎ、ギギギギギギ!

 領域の乗っ取りも成功。

 これでこのダンジョンも私の支配地域として、上書きされたのである。


『どうやら、ここの流砂の作りは人為的なもの。このフィールドも人工物だね、ということは知恵ある敵が絡んでいるとみて間違いないか』


 賢人の顔で考える私に、ネコ化済みの大柄な糸目戦士くんが言う。


「砂漠の地下にこのような場所があるとは――」

「ふふふふふふ。よろしいじゃありませんか、ほら、あちらからも、こちらからも、歓迎の挨拶があるみたい。すべて喰らってしまっても構いませんわよね?」


 貴婦人のドレススカートをふぁっさふぁっさ、回転させる落胤の姫。

 クティーラさんが、がぱぁっと――顔の真ん中に、縦に割れた牙付き口を開き。

 さらに続ける。


「アリ人間が一匹二匹、あら? それとも一人二人と呼んだほうがよろしいのかしら?」

『ああ、合成されている場合だとどっちなんだろうね。人間とアリの合成獣だから……まあ、人間だって動物なんだし、匹でいいんじゃない?』


 タコ姫とニャンコでうーむと考え込んでいると。

 敵さんと思われるアリ人間がズララララっと、天井の砂から落ちてやってくる。


 ねちゃあぁぁぁっと粘膜を垂らす口を、ぎちり――。

 それは言葉を発した。


「太ったネコが一匹と、大きなネコ獣人が一匹」

「うまそう。うまそう。けれど、おまえ、なんだ?」

「そこの女? タコ? いや、謎の女。敵? いや、分からん」


 ボソボソと、断続的な喋り方である。

 この辺は前の事件で知り合った蟲の女帝というか、蜂に寄生する植物魔族と会話パターンが似ているか。

 ベイチト君と違って、見た目はあんまり美しくない。


 まず普通のアリを想像してみてほしい。


 黒くてテカテカな、ちんまいアリが頭に浮かんできただろう。

 次に、その黒い部分を全部人間の皮膚に変換して見てほしい。

 だいぶ気持ち悪くなってきたと思う。


 で!

 足の関節とかが全部、人間の筋肉組織になっているとしたら?

 最後に、そのちんまい大きさが、ちょっと大柄な人間サイズのマッチョになっていたとしたら!?


 なかなか気持ち悪い存在だと理解して貰えただろう。

 顔がそのままアリなのに、人肌になってるのも相乗効果で、うん……。

 これ以上はやめよう。


 ともあれ、人肌の巨大アリを想像して貰ったら、そのまんまである。


 脈打つアリさんの血管を眺めながら、クティーラさんがごくり。

 全身を赤くして。

 恍惚とした吐息を漏らす。


「まあ! なんておいしそうなのかしら! ねえねえ! あなた悪さはしまして!? 無抵抗な人を殺しまして!? 罪なき淑女や無辜なる子どもを、虐めたりはしまして!?」

「ギギギ! なんだこいつ! 発情色!? 変態か!?」


 うわ、クティーラさん。

 アリ人間に変態扱いされてるよ。


 ドン引きしている私と武骨戦士くんは、モフ毛をしぼませて。

 うわぁ……。

 かなり引き気味なのに、クティーラさんは宝石を眺める乙女の顔。


 毒液のハートマークを飛ばしながら、次々と湧いてくる敵を見ている。


「ねえ、ケトス様? わたくし、我慢できないの! 食べてもいいわよね? 食べれば捕食対象の知識も吸収できますから、きっと、お役に立ちますわ!」

『ああ、君。捕食系のスキル持ちなのか、ちょっと待ってね――』


 捕食系のスキルに分類される効果は基本的に極悪。

 単純に食べた相手の魔力や、知識を吸収する系統の邪法が多いのだが――彼女もそれと類似する力を持っているのだろう。

 問題は相手が善良な存在だった場合だが――。


 ああ、こいつら人を虐殺しているな。

 おそらくあの砂漠国家以外にも、既にどこかの街を滅ぼしている。

 遠慮する必要はないか。


 私の予知と直感では、まっくろ。

 このアリ人間たちは女性や子供を平気で駆逐するタイプ。

 ということで!


 いけ! クティーラさん!

 ビシっと無限に湧き続けている敵さん達を指さし、私はふふーん!


『じゃんじゃん食べちゃって良いよ――! 彼らを喰らって、情報収集っていうのも悪くないしね~!』

「ふふふふ、いっぱいいっぱい! お肉がいっぱい! 人間の体組織をもって、アリのように大量に増えているだなんて素敵な種族ねえ。いいわ! あなたたち、うん! とってもいい!」


 ゲヒャヒャハヒャヒャ!

 クティーラさんが暗黒神話の力を纏い、その身を本来の姿へ戻し始める。

 おどろおどろしいタコの毒体液を、じゅとり……!


 タコの形をした毒の体液そのものが、貴婦人のドレスを装備している。

 そんな姿となっていた。

 アリ人間たちも、なぜか武骨戦士君も仰天する中。


 ぐじょばぁぁぁぁ!


「それじゃあぁぁ、いただきまぁぁぁぁっす!」


 捕食が開始された!


 人の指とも似た触覚を蠢かし。

 アリにんげんが、くわ!


「ぶ、武器! ぶきをもて!」

「こいつら、ただのネコと変態。違う!」

「女王様。守る!」


 アリ人間たちが更に仲間を呼び、人間の骨で作られた鈍器を握り。

 ギギギギギイギィィィ!

 次から次へと敵さんが追加――天井から雨のように人間アリが落ちてくる。


 その数は……えーと……。

 三より上!

 ともかく! 一個師団とかいう規模で顕現していた。


 頭のモフ毛を尖らせ、武骨戦士君が吠える!


「やるしかありませんな!」

『そうだね――んじゃあ捕縛して食べやすくしておくかな。てい!』


 言って私は超広範囲の闇の渦を顕現。

 神殿っぽい床だった空間に、無数の目玉が生まれる。

 ギシシシシシシ!


 凝視による麻痺睨みである。

 筋肉組織をマヒにより固められたアリ人間が、複眼を蠢かし。

 ぐぎぐぎ! 無理やりに動こうとするも無駄。


 仮にも大魔帝ケトスたる私の状態異常攻撃だ。

 普通の怪物程度では解ける筈がない。

 その隙に、クティーラさんが傘の様にタコ足触手を伸ばし――ジャンプ!


「ナイスですわ! ケトス様! ふふふふふ、あはははははは! じゃあ、いただきますわ! いただいちゃいますわ!」


 優雅なドレススカートの中から伸びる毒触手が、ブシ!

 アリ人間の胴体を貫き、串ざし。

 そのままドレスの中へとピクピク痙攣するアリ人間を運び、食事の準備完了。


 体液の割れ目から作り出した口を歪ませ。

 ぎひぃ!


「さあ、わたくしの中に――デュフフフフ! デュフ!」

「ひ、ひぎゃぁぁぁぁぁぁあ……っ! 裂ける。溶ける! 溶ける。けるけるける!」


 ガッシュガッシュガッシュ!

 存外に鋭いタコの牙が、アリ人間を頭から削り丸のみ。

 びゅちゅんと、アリ人間の装備だけが床に落とされた。


 げぷぅ……っと元の姿に戻ったクティーラさんが口元を扇で隠し。

 ふふふふふっと闇の微笑。


「けっこうなお味でしたわ」

『どうだい? 君が吸いとった知識の中に、なにか重要そうな情報はあったかな。彼らの目的とかそういうのを知りたいんだけど』


 問いかける私に、クティーラさんが深く考え込み。

 淑女の顔でシリアスに言う。


「この者どもは末端。あまり情報は与えられていないようですわね。ただ――」

『ん? 何か気になる情報でも?』

「命令されている作戦は分かりましたわ。やはりこの人間アリたちのターゲットはムーカイアの国。その捕縛対象は砂漠の金糸姫、カトリーヌだそうで――ご存じですか?」


 言われて私たちニャンコチームは顔を見合わせる。


『金髪の女王がカトリーヌさんだけど、たぶんその人だね』

「金糸姫とは女王陛下がまだ姫だった頃の通り名でありますね。陛下を狙って、我らの国へ……いったい、なぜ――」


 彼女の事は鑑定済み。

 たしかに女王、つまり指揮官クラスとしての適性は高いが……。

 これといって特別な力も持っていない存在でもある。


 まあ生贄としての価値があるが。

 彼女を長年狙うメリットが分からない。

 人間の命が目当てなら、彼女にこだわる必要はないのだ。


『目的までは知識を与えられていない、か……。んー、何が目当てなんだろう』

「そこまではさすがにわたくしも……。ただ――今わたくしの食べた個体が知らなかっただけ、という可能性もありますわ。これだけいるんですもの、一匹ぐらい、封鎖されている情報を知ってしまった者も、いるのではないでしょうか?」


 なら答えは簡単だ。


『んじゃあ、悪いんだけど無理しない程度でいいから――できる限り、こいつらを食べてもらっちゃってもいいかな。こういう虫と混じってる存在って、心が読みにくいんだよねえ……』

「まあ! よろしいの!? 食べます、食べます! 全部、食べますわ! ふふふふふ、だからケトス様って素敵! それじゃあまだいっぱいいるようなので、捕まえてきてもらっても?」


 グヒヒヒヒヒっと胴体に作り出した口から、じゅるり♪

 クティーラさんが舌なめずりをしている。

 怯えることすらできずに、人間アリがギギギギギギっと関節を鳴らしていた。


『オッケー! ちょっとマッピングをするから、待っててね』


 言って私は、地図を開きこの場の座標を登録。

 すぐに戻ってこられるように、転移座標をチェックしたのである。

 その間にも食事は続行中。


 ドレススカートの中に消えていく悲鳴と肉塊。

 まあちょっとグロイけど、味方だから問題なし!

 元は邪悪な敵さんだったけど、こういう変則的な能力って仲間だとすごい頼りになるよね!


「ひがひが!」

「ぐぎぐぎ!」


 次々と丸のみにされていくアリさん。

 落胤の姫によるお食事会場。

 捕食によりレベルも上がっているようで、タコ姫様も元気いっぱいだ。


 さて、追加の敵を奥から攫ってくるか。


『じゃあクティーラさんがここの麻痺してる連中を食べている間に、捕まえてきちゃおうか♪』


 言って私はタコの魔杖を、ずちゃっと翳し!

 詠唱を開始した!

 まだまだ試したい魔術はたくさんある!


 夢世界でどんな種類の集団攻撃魔術が使えるかどうか、実験なのじゃ!


 ◇


 ドカーンドカーン!

 ずびびびびびびび!

 殺さない程度の無差別広範囲呪縛魔術がさく裂!


 私と武骨戦士君は地下の砂漠神殿を猛進撃!


 奥に行けば行くほど敵は強力になっているが、あくまでも常識の範囲内での強敵。

 はっきり言って自慢だが、正真正銘の邪神である私の敵ではない。

 肉球に魔力を浮かべ、実験を開始――!


『我はケトス! 大魔帝ケトス! 異世界の邪神なり!』


 名乗り上げの詠唱で、モコモコっとモフ毛が赤い魔力で包まれる。

 尻尾がふぁっさ~!

 ついでに浮かべた魔導書も、バサササササ!


 尻尾の先が良い感じに揺れる中。

 魔術を発動!

 丸い口から、かっこういいイケニャン声がこだました!


『ぶにゃはははははは! さあ、君たちに慈悲を与えよう! 迷宮魔術――発動! 《永遠とわなるヒュプノスのかいな》!』


 実験は成功!

 周囲に睡眠を司る眠りの神の力が、広がっていく。

 長い腕が、ぎしり……アリさんの群れを包んで闇へと消えていった。


「広範囲の眠り……でありますか」

『ああ、これなら彼女も食べやすいだろうからね』


 これは以前、別の冒険で覚えたダンジョン迷宮国家で使われていた魔術体系。

 その基本の睡眠魔術を暗黒神話魔術へと昇華させたモノ。

 やはり発動した。


 あの迷宮はすべての世界とつながっているという、なかなかぶっ飛んだ性質を持つ。

 その迷宮で生まれた魔術なのだ。

 もしやと思ったのだが――この夢世界でもちゃんと発動してるでやんの。


 ちなみに、効果は単純。

 相手を永遠に眠らせるだけである。

 一時的ではなく、魔術で解除しない限り永遠に眠るのでなかなかにエグイ効果となっている。


 バタバタバタと、人間の肌を持ったアリ人間が倒れこむ。

 直後。

 ざざざざざ! カサカサカサ!


 待っていられなくなったクティーラさんが、毒触手を伸ばし眠らせた直後のアリさんを串刺し!

 そのままスカートの中へと、ズズズズズズ♪

 じゃり……じゃり……。


 肉を削り、装備だけを排出する音と咀嚼音が響く。


「あぁぁぁぁぁあぁぁ! 人間の肌と同じ食感! なのに、アリの濃厚な筋肉の味! 蜜を持った個体を食べたらどうなってしまうのでしょう。わたくし、わたくし、たまりませんわぁぁぁぁぁ!」


 敵にとっては地獄のような光景だろう。


 美しい魔猫が、くはははははと大喜びで杖も振り――。

 進撃!

 避け様のない、超広範囲状態異常を撒いてきて。


 ここで状態異常を喰らったら最後。


 直後に、次元の隙間からパラソルをくるくると回すタコ足貴婦人が顕現し。

 微笑。

 次の瞬間には、そのスカートの中に飲み込まれバグバグバグ。


 ジエンド。

 状態異常範囲に入ったらそこで人生終了なのだ。

 敵は大混乱している。


 そんな中で、一緒に行動しレベルも上がっている武骨戦士君が言う。


「す、すごいことなのではありますが――これじゃあどちらが悪者か、傍目だと分からないかもしれませんねえ」


 たしかに。

 こっちがやってることは、一見すると邪悪な存在による悍ましき蹂躙。

 だがしかーし!


 私は全身のモフ毛をぶわぶわっとさせたまま。

 ふっと微笑してみせる。


『そうかもしれないね、けれど言っただろう? 邪悪であったり闇の力だったとしても、使い方次第。それが正しく使われるのならば、別に問題ないとは思わないかい?』

「それはまあ――そうなのですが」


 食われるときにだけ目覚め。

 断末魔の雄たけびを上げる人間アリを背景に、やはり私は紳士な声で言う。


『それに、彼らの記憶をかき集める限り……どうやら分かり合えるような存在ではないらしいからね。人間に手を出したらどうなるか、恐怖をもって、少しは学習させる必要もあるだろう。だからこれはけっして、魔導実験ができてラッキー! と、はしゃいで敵を殲滅しているわけではない。理解してくれるね?』


 ここで話術による説得スキルロールが発動!

 判定はもちろん、成功。

 言いくるめられた武骨戦士君が、うにゃんと頷く。


「なるほど。目を輝かせて、ふんふん鼻息を荒くして魔術をぶっ放しているのは、敵に恐怖を教えるためと――」

『その通りさ』


 よーし!

 言い切ってやった!


 さて、次のターゲットはぁ……っと探す私の耳に、声が届く。


「ケトス様。お待ちを――」

『クティーラさん? どうしたんだい、もしかしてさすがにお腹がいっぱいになっちゃった?』


 進撃を止めて、キキキキ!

 急ブレーキをかけた衝撃で、塩の柱の奥にいた敵が吹っ飛ぶが。

 気にしない。


「いえ、まだまだ物足りないぐらいなのですが――今、喰らった個体から新しい情報が入手できましたわ。そろそろ女王種、人間アリクイーンがいるそうなので……敵のレベルがあがるかと」


 ようするに、この地下砂漠迷宮のボス。

 黒山羊聖母の配下と思われる存在に、ようやく、たどり着いたのかな。


『おお! ボス戦だね! その個体を食べれば』

「ええ! わたくしの胃も満足になり、情報も手に入り一石二鳥ですわ!」


 いえーい! と肉球と触手でハイタッチ♪


 どんな魔術をぶっぱなしてやろうかな~とニヤニヤする私。

 どんな味なのかしらと、グヒグヒヒヒヒヒっと微笑する姫。


 そんな邪神二柱に挟まれ。

 モフっと後ずさるのは武骨戦士君。

 長いしっぽを足の間に落とす――その糸目には、ジト目が浮かんでいる。


 こっちはわりと邪神慣れしているので、いつも通り。

 クティーラさんもわりと、こっちよりの思考。

 まっとうな人生を歩んでいただろう残り一名だけ、可哀そうな気もするが――。


 まあ、気にしない!

 カトリーヌさんが狙われている理由も、わかるかもしれないしね!

 次は女王アリ狩りじゃぁぁああああああぁっぁあぁあ!



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― 新着の感想 ―
[一言] 何と言うか・・・【類は友を呼ぶ】よね グルメ喰い漁りデブ猫と底無しな(人)肉食い漁り変態姫 武骨戦士君のSAN痴が可笑しくならないか心配ですな
[一言] 邪神2柱は空前絶後の強大な中ボス戦に挑む♪邪神2柱は【ちゅ〇る】と【アリさん】を食べるために準備体操始めた!!
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