戦渦のウルタール ~アニマル無双~その2
百年王国ウルタールは魚とネコで満ちていた。
私――大魔帝ケトスという猫ボスを得たネコ魔物達の能力は大幅強化!
ネコ魔獣に属するだけで、私の加護を受けたブースト状態。
くはははははは!
ネコ達が、ウルタールの街で縦横無尽に暴れ出す。
敵は外からの侵入者。
この夢世界にとってのウィルス、クトゥルー神の眷属達。
空飛ぶ玉座の上で、大ボスキャットな私は、にひひひひひ♪
モフ毛を月夜に輝かせ!
チェシャ猫スマイルの上で、魔王様より授けられし王冠も輝かせる!
バッと手を翳し、肉球から強化魔術を発動!
『さあ、街を乗っ取ったからには、守る義務も発生する! このまま、なし崩しに猫の街って事にするためにも、張り切っていくよ!』
石化した人間はロックウェル卿の石化結界で絶対安全!
迫りくる敵は全部殲滅して問題なし!
山のように動く敵なれど、我等の勝利に陰りなし!
『いざ、進むのじゃ! 我が眷族、ネコ魔獣達よ!』
ビシ――!
よーし、決めポーズも完璧だった。
そんなわけで、敵を殲滅しながら目指すは黒幕の場所!
闇の道を玉座でGO――私は魔導書をバササササ!
続いて眷属魔猫も、バササササ!
『さあ、まずは敵の大群を利用させて貰おうじゃないか!』
告げた私を中心に、猫達が吠える。
所持スキルを遠距離範囲攻撃にできる魔導書をセット!
詠唱開始なのである!
くはははははははは!
くはははははははは!
くはははははははは!
詠唱が、石畳を赤く光らせる。
赤いネコ瞳が、夜をネオンライトのように染め上げたのだ。
街に配置されたネコ魔獣が一斉に……ニヒィ!
ダン!
魔術詠唱によって生み出された魔法陣を展開!
サカナヘッドの影を蝕んでいく。
効果はあった!
魚頭の群れから、くぐもった管楽器を鳴らすような悲鳴が漏れる。
オボボボボ?
ボボボボボ、ボボオォォォオォォォォ!
放ったスキルは窃盗系の技。
大魔帝ケトスの眷属猫専用スキル。
《ネコ魔獣スキル:エニャジードレイン》である。
効果は単純。
よくあるレベル吸収。
エナジードレインをネコ用魔術で範囲化させただけである。
以前にも説明したことがあるが――。
ゲームなどで喰らったりすると、リセット必須。
せっかく上げたレベルを奪われイラっとするアレである。
本来ならアンデッドや夢魔などが得意とする分野なのだが……うん。
ネコ魔獣は窃盗のプロだからね。
盗みというカテゴリーなら発動できちゃうんだよね。
このウルタールに生息していた、大型ネコ。
ようするにサーベルタイガーとか、スフィンクス達が騒ぎ出す。
「うまし! レベルうまし!」
「ぐわはははは! これが異世界の魔術でありますか!」
『ああ! 結構便利な魔術だろう! 魔王軍に入るともっと、もっと、もぉぉぉぉっと! いい魔術もあるからね~!』
どさくさに紛れて勧誘する私。
とっても働き者だね?
サーベルタイガーもスフィンクスもネコ科、きっと魔王様は歓迎してくれるし!
ともあれ。
元からウルタールに住んでいた猫魔物と呼ばれた眷属達が、一気に強化!
私の配下にふさわしいレベルへと上昇していく。
獅子の頭を持つキマイラが、超特大のレイドモンスター化。
大ボス顔で、瞳をギンギラギン!
サカナヘッドの群れを焔の吐息で薙ぎ払う。
さらに奥。
超特大のレイドモンスター化したのは、無貌のスフィンクスへと種族進化した、一部のスフィンクスだろう。
私もまだ把握していない偉大なる異神の力を発動させ、大暴れ。
地平線の彼方にまで飛ぶ、魔閃光を発射している。
この進化スフィンクス……教皇がかぶるような冠を装備しているし、ハゲタカの翼が妙に禍々しいのだが、はて。
なんか、私の想定よりも強い進化をしているな。
まあいいけど。
とりあえず、ネコ無双は止まらない!
目的地までは一直線。
街という街を通過して、無双続行なのじゃぁぁぁぁぁっぁあ!
◇
黒幕のいるだろう地に向かうまでに、何度も敵の大群とぶつかって。
その度に無双!
一回の遠征だというのに、大幅戦力強化ができて私はホクホク。
張った胸のモフ毛が、ますますモコモコになってしまう!
今現在は、王都一歩手前の街。
ここでもサカナヘッドとその亜種騎士団による守りが組まれていたが、関係なし!
くははははははは!
くははははははは!
くははははははは!
『ぶにゃははははは! 無限に湧く敵なんて、レベリングのカモではないか!』
サカナヘッドで溢れた街に、窃盗魔術の光が走る!
レベルが上がった猫魔獣達が、サカナヘッド達から更にレベルを吸収!
倒した事で、更にレベルアップ!
そりゃあ、無限に近い数の敵を送ってきたらこうなるよね。
経験値を極端に下げる加工も、してないみたいだし。
エナジードレイン対策をしていなかった敵が悪いだけである。
飛行玉座でドヤりながら無双する私と並走するのは、謎々大好きライオンサイズのスフィンクス。
この子も、既に私の配下となっているのだが。
本題はこの子本人ではなく、その背に乗る客人。
なんとか戦場についてきている少女、ラヴィッシュ君が声を上げる。
「すっごいわねえ! 今のって御伽噺にあるエナジードレインでしょう!? レベルを永続的に吸収して奪うって言う……外の世界には実在したのね!」
『まあねえ! 今この世界は私の影で覆われている、私の世界、つまり外の魔術が使用可能になっている! 魔術式さえ使用できるなら、好き勝手に暴れられるって事さ!』
つまりは、うん。
魔王様の生みだされた魔術式は最高ってことである。
「それで、あたしたちはどこに向かってるのよ! なんか、王都に向かってるみたいだけど!」
『みたいじゃなくて向かっているのさ!』
「そこに敵がいるってこと!?」
まあ、おそらくはそうなるだろう。
しかし、正直どれが親玉なのかは特定できていない。
ここは勿体ぶる振りをして、ニヤリ。
『さあねえ、けれど――行ってみればわかるんじゃないかな!』
「ようするに、場所は分かるけど分かっていないのね」
あ、バレてる。
『まあいいじゃないか! 王直属の騎士団のほとんどがサカナヘッドだったんだ、絶対に王都には何かいる筈だよ。このまま殲滅しまくれば必ず黒幕が行動を開始する筈。私達は遠慮なく、このまま侵攻すればいいのさ!』
『その通りである!』
告げた私の声を肯定するように、次元の狭間から神雷がバリバリズドン。
タクシー係りだったワンコ――ホワイトハウルが、ドヤ顔で顕現。
雷が召喚円となって、自らの眷属を召喚しはじめる。
ザザザザザ!
サカナヘッドが列となっている街並みに、無数の白銀のモコモコが生まれだす。
ムフーっと地上に狼眷族を解き放ち。
きぃぃぃん!
眷族もふもふ達にも詠唱を開始させたのだ。
『グハハハハハハ! 良いぞ、良い! ここなら我が魔術式も使いたい放題!』
ホワイトハウルの瞳が私の作り出した夜フィールドに――カカカッ!
十重の魔法陣が空一面に広がって……。
おい。
ウルタールの広さは国家規模。
各地のネコ魔獣に守らせているが、私達がいる場所だけが領土ではない。
おそらく、その王国ほぼ全土を覆う程の魔法陣を刻んでいるのだ。
くわっと牙を覗かせ、ブニャニャニャニャ!
慌てて私は叫んでいた。
『ホワイトハウル!? それはさすがに過激なんじゃ!』
『我は今回、移動や移送ばかりであったからな! ここで魔王陛下にも活躍を見せねばなるまいて! 我の眷属にもレベルアップをさせたいのでな!』
後光を纏ったホワイトハウルが、ワォォオオォォォオン!
空に浮かべた蓮の上に座り。
スゥっと瞳を細める。
一瞬、時が止まり。
犬の咢が、祝詞を刻む。
『神話改竄、アダムスヴェイン――《涅槃魔狼の神雷罰》』
時が再開され。
そしてそれは、力となって発動した。
悟りを開いたワンコの後光が、雷となって落下。
街に蔓延るサカナヘッドに降り注ぐ。
ズジャジャジャジャッジャ!
ズジャジャジャジャア――ッ、ズズウズゥゥゥゥゥ!
敵味方の識別機能もついているのだろう。
石像状態で守られているニンゲンはもちろん、無事。
私配下のネコ魔獣を避け、神罰の雷が轟き叫んでいる。
焦げた魚の匂いが広がる中。
ドン引きした様子でラヴィッシュ君が、乾いた声を漏らす。
「うわ、外の世界の魔術ってこんなに凄いの? 全滅じゃない」
『外の世界に興味があるのかい?』
「そうね……こんな魔術のある世界が今はどうなっているのか、あなたがいる世界がどうなったのか――興味がないと言えば、ウソになるかもね」
魔術師としては正しい反応である。
まあ、ホワイトハウルを基準に考えてしまうと、魔王様式魔術に対する誤解が膨らみそうだが。
ともあれ。
ほぼすべての敵を殲滅したホワイトハウルが、ドヤ顔で空を駆け。
こちらを見ながら、フフン!
『ぐははははは! 第二陣も殲滅完了であるな』
『私達の獲物までやってくれちゃって、まあレベリングも終わりかけていたからいいけど』
『すまぬな! さて、このまま王城に向かおうぞ!』
どこに向かうか相談していないのに、彼は王城という。
ホワイトハウルは犬属性を持っている、私よりも擬態への看破能力に長けているからなあ。
もう、相手が誰だか分かってるのかな。
『我はこのまま無限に湧く、いや、陛下の夢に外部から侵入してくる敵を討つ! ケトスよ、後で合流しようぞ! 先に行け!』
『オッケー! ボスを私一人でやっちゃっても、文句を言わないでおくれよ!』
告げて私は、玉座を加速!
ラヴィッシュ君を運ぶスフィンクスにも強化魔術を、発動!
駆ける道。
王城に向かう夜空の道で、ラヴィッシュ君が言う。
「ねえ! そういえば、ロックウェル卿さんが見えないんだけど。大丈夫なの?」
『彼は先が見えているからねえ。流れを変える必要があったりすると、いつの間にか消えちゃうことも多いんだよ。心配はいらないさ、彼もあのワンコぐらい強いからね!』
友を自慢する私を見て。
少女はふふっと穏やかな笑みを浮かべていた。
◇
進撃の終焉。
私達は街の中央に隠された王城に辿り着いたのだが。
その入り口には、石化した状態の紅魔女オハラくんが立っていた。
その手には武装と思われる魔導書が握られている。
師を見て少女は一瞬、驚きに瞳孔を膨らませるが。
すぐに冷静になったのだろう。
「先生、この状態で石化しているって事は――」
『ああ、無事だし。敵じゃなかったってことだね。彼女は擬態された存在じゃないって事さ』
そう、この場で石化している者は味方なのだ。
だから師匠は白。
少女の安堵の息が、私のモフ毛を揺らす。
『しかし、そもそもおかしかったんだよね。この城、この私の目を欺いていたって、その時点でもっと疑うべきだったよ』
「やっぱり、この城の誰かが手引きをしていた、ってことかしら」
既に戦士の顔となっている少女が、魔導の杖をぎゅっと握る。
『君はどこか安全な場所に隠れていても良いけど、どうする?』
「そうね。でも、ここは敵の本拠地なんでしょう? なら、あなたの傍が一番安全なんじゃないかしら」
なかなかどうして、悪くない理論である。
『それじゃあ、あまり私から離れないでおくれよ』
「了解。安心してちょうだい。もう、あの時みたいに一人で行ったりしないわよ」
告げた少女の微笑みの意味。
それを考えるより前に、ギギギィィィィィィィ!
王城の扉が開き、次元が――揺らいだ。
開いた王城。
その扉の奥には――トランプカードに似た王と王妃が、騎士を従え立っていた。
この石化空間で動いているという事は――。
少女を守るようにスッと前に出た私は、猫目石の魔杖を顕現。
王陛下に問いかける。
『君はニンゲンかい? それとも魚介類かい?』
「その問いかけを貴様に返そう。貴様はニンゲンか、はたしてネコか? あるいは、楽園を追われ、楽園を破壊したあの男の眷属、魔族か」
どうやら正体を隠すつもりはないようだ。
まあよい。
と、王陛下は出逢った時に見せたヘタレ感など投げ捨て。
王たる瞳で虚空を睨む。
「いさかか無礼な魔猫であるが――余の名を知らぬのならば仕方あるまい。余こそが、憎きあの男の夢世界ウルタールに侵入せし、至高なる者。深き者達と共に夢を見続けたモノ。深き者どもの神を原初とするもの。在りし日の楽園を夢見続ける者――すなわち」
銀の大剣を顕現させた王は言う。
「海魔皇クトゥルフ=コラジン。魔王を名乗るあの男の敵である」
王だったモノは――。
ぎしりと奇妙な笑みを浮かべていた。
姿が異形なる者へと変化している。
とってもシリアスである。
つまり――クトゥルーを原初とする楽園の住人。
黒幕は、既に陛下の夢の中に入り込んでいたという事だ。
騎士鎧で身を包んだ、威厳ある魚介類の王といった姿なのだが。
じぃぃぃぃぃ。
賢い私は考える。
この世界ならば本物のクトゥルー神の力を再現できるのだろう。
でもさあ。
猫口の丸い部分をうにゃっとさせて、私は言う。
『陛下が百年の眠りについたその時に、入り込んでいたわけだよね……?』
「いかにも、それに気付かぬとは愚かな連中よ」
相手の挑発を受けながし。
鋭い瞳を、ジト目に変えて……。
私はぼそり。
『うわぁ。ねえねえ、嫌いな相手の夢の中で百年過ごしてたって……正直、それもどうかと思うんだけど? どうなの?』
ビシ!
空気が固まる。
冷静にツッコむ私に。
海魔皇さんとやらは、額に怒りマークを浮かべている。
よーし、あともう一歩!
『それにさあ。たぶん、陛下のお母さんの化身でもある女神アスタルテ。あの人もいつからこの世界にいるのかは知らないけど、その信仰をわざと貶めるような動きをしてたんだろう? ねえねえ――それってさ、王様の仕事なの? しかも、嫌いな人の夢の中で、王様が、情報工作活動って……。そんな地味な王様が、か、海魔皇さんだっけ? プププー! ぶにゃははははははは! 駄目だ、笑っちゃう!』
腹を抱えて笑いだす私。
とっても挑発魔術の使い手だね?
さて、どうなるかが問題なのだが……。
「ぐぬぬぬぬぬ! 言わせておけば、この駄猫が! 余が一番に気にしている事を! おのれ! だからあいつの部下って時点で嫌だったのだ!」
あ、キレだした。
よーし! 挑発成功!
なんかラヴィッシュ君が、うわぁ……って目でこっちを見てるけど、気にしない!
これは戦術なのだ!
ともあれ。
シリアスな対峙は続く――!




