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戦闘:邪神の落胤 ~魔猫神父 対 タコ貴婦人~前編



 大事な大事なお菓子の時間。

 十五時過ぎという貴重なタイムを邪魔した敵は、件のサカナヘッド軍団。

 そして! 巨悪を前にするのは、偉大なる神父!


 この私、大魔帝ケトスである!

 ででーん!

 まあ、神父姿だから、魔猫状態のポーズはしないんですけどね。


 聖職者のストラが、長巻マフラーのように揺れて――。

 ブワブワブワ!

 冷たい風に靡いて、イイ感じに音を立てている!


 港を守る騎士団の息は寒さのせいだろう、白く湿ったモノになっていた。

 氷結した世界。

 ギギギギ……船を取り囲む氷が、鈍い音を鳴らしている。


 まあ、こんな銀世界にしたのは私。

 すばらしき魔猫たる私の放った、大魔術のせいなんですけどね!

 さて、そんなわけで――。


 氷状態になっている敵の中、動いているのは一匹だけ。

 レベルの違う指揮官である。


 にらみ合いの中――。


 ボサボサの髪を揺らす少女ラヴィッシュくんが、魔導の杖を握り……。

 ギリリ!

 恐怖を覚えながらも、敵に向かい吠えた。


「あなたたち! いったい何が目的なの!?」


 吠えられた敵。

 凍結した海の上――貴婦人は妖しい笑みを浮かべている。

 タコ足をウネウネとしながらも、亜空間から顕現させた扇子で口元を隠し。

 ぐひり!


 ねちゃっと音を立て、それは言葉を発していた。


「下等なる人間の分際でわたくしに話しかけないで頂戴」

「はぁあぁぁっぁぁぁ!? いきなり街を襲ってくださった、礼儀知らずなタコ足女には言われたくないんですけど?」


 挑発系統の魔術である。

 今の内に動けという事だろう――私は指を鳴らし、騎士団を影結界でガード。

 ホワイトハウルの領域結界と共に、二重の防御状態にしたのである。


 おそらくラヴィッシュくんの作戦である。

 恐怖を感じている筈なのに、なかなかの胆力と言えよう。

 さて、これで周囲の守りは完璧。


 ラヴィッシュくんには路地裏を走っている時に、こっそりと結界を張っておいたし。

 影に私の配下の魔猫を隠れさせているし、ひとまずは安全な筈。

 しかし……。


 んーむ、その事を伝えていなかったのに。

 まさか騎士団を守るために挑発をしにいくとは、気丈なのはいいがちょっと不安になってしまうのである。

 相手は明らかに格上。

 人の身で勝てるような存在ではない。それは賢い彼女も理解しているだろうに。


 その時だった。

 妙な既視感が襲った。

 ふと、なぜか――遠い日の思い出が、私の鼻孔をツンと刺していたのだ。


 心の奥にしまい込んだ思い出が、脳裏をよぎる。

 声がした。


 ――あなたってあたしがいないと、本当にダメね。もう、目が離せないんだから。


 それは、ネコ毛を撫でる程に懐かしいあの日の声だった。


 これは路地裏の冷たい記憶。

 動かなくなってしまった焦げパン色の手足をした、君の記憶だ。

 あの子も、こうして恐ろしい人間相手に気丈に立ち向かっていたか。


 どうして後悔の思い出を、こんな時に思い出すのだろう。


 あの時の私は弱く、彼女を守ってあげることができなかった。

 あの子の死を信じられず、何度もその骸の傍で……。

 ……。

 いや、今は戦いに集中するべきだ。


 思い出に後ろ髪を引かれながらも、私は敵を睨み。

 スゥ……っと瞳を細める。

 神父姿のまま影を伸ばし、ふっと微笑して見せたのだ。


 過去も大切だが、今だって同じくらい大切だ!

 賢くていい子を、ここで死なせるわけにはいかないからね!


『ラヴィッシュくん!』

「オーケー! 神父、後は頼んだわよ!」


 ラヴィッシュ君が阿吽の呼吸で私の意図を読み、風を纏った足で後退。

 その瞬間。

 指を鳴らした私は――タコ足貴婦人の周囲の氷を槍状に変化させ、奇襲!


『氷炎の息吹よ!』


 火の大神の子、アフーム=ザーの力を借りた短詠唱の氷結系魔術を発動!


 私の服の裾が、紅い魔力に揺られてバサササ!

 手にする書物からも青い焔が揺らいでいる。

 絶対に回避できないタイミングであるが、はたして。


 槍の奇襲が始まった。


「まあ、なーに? きゃ……っ!」


 タコ女は一瞬の隙をつかれ、体勢を崩す。

 シュン!

 氷の槍は闇を纏い、女の胴体を貫き差していた。


 刺さった氷の槍が、闇に溶ける。

 魔術変化を起こしたのだ。

 鋭利な氷の刃となって、女のドレスを――裂く!


 ギュィィィイイイイイィッィィィィィイン!


 氷のチェーンソーを想像して貰えば、まあだいたい魔術の性質は理解してもらえるだろう。

 しかし。

 相手は不敵に口元をぶちゅりと妖しく蠢かすのみ。


 騎士団の盾に守られる位置に移ったラヴィッシュ君が言う。


「やったの!?」

『いや、喰われているね――なるほど、魔力を喰らう性質があるのかな』


 ラヴィッシュ君があからさまに、うへぇ……と肩を落とす。


「なによそれ。喰べるって……魔力吸収系の敵ってこと?」

『ダメージという物理現象が発生する前に、魔術を維持している魔力を奪うって事だね。私が放ったのは、残念ながら魔力の塊のようなモノ。もし予想が当たっていたのなら――おそらく無傷だろう』


 そう、私が放ったのは魔力攻撃。


 憎悪の魔力によって生み出された氷の刃。

 そして、私の魔力の源でもある影から生み出された闇を纏わせていたので……。

 本来なら憎悪と影と闇を含んだ、致命的な傷を与える程の攻撃だった筈。


 うん、けど魔力を喰う相手なら逆効果だね。


 タコ女は口元を扇子で隠したまま。

 ぬめぬめタコ足をぐじゅりぐじゅり、ゲップさえ漏らして微笑んだ。


「あら……! 過激なのね? わたくしでなかったら、死んでいましたわよ?」


 バリバリバリ……ッ。

 裂けたドレスの隙間から、円形のタコの口と牙が覗いている。

 胴体に無数の口があるのだろう。


 再生していくドレスを眺め、私は眉を下げてみせる。


『君ほどの強者に対して遠慮する必要なんてない、そう思うけれどね』

「あら、どうしてかしら? わたくし、かよわいレディなのに……酷いわ」

『古今問わず、レディはそういうアピールをしないものさ』


 言って私は氷海の上に乗り。

 ダダダダ――!

 ガシャガシャガシャと氷海を踏みしめ、跳躍!


 跳んで生まれた魔猫の影を蠢かしながら――。

 くはははははは!

 凍った海から天へと伸びる魔力を受ける私は、空を掻くように風を切る。


 刹那――!

 魔猫の影となった私の影が、魔力吸収の力を気にせず――爪による物理攻撃を敢行!

 貴婦人はパラソルの一つを犠牲にし、攻撃を迎撃。


 タコ足をうじゅりうじゅりと蠢かし、影による私の爪攻撃をヒラヒラヒラと避けていく。

 しかし、これで答えは得た。

 攻撃を全て吸収できるのなら、相手は避ける必要などない筈。


『やはり、物理的干渉力の吸収は不可能なようだね』

「まあまあ! 野蛮な方なのね! 紳士的に見えたのに――正体は獣なのかしら」


 どうやら私が魔猫だとは気付いていないようだ。

 構わず影となって走った私のシルエットが、女の腹を――ぐじゅ……っ。

 引き裂いた!


 ぐじょばぁああああああああぁぁっぁあぁ!

 鮮血には毒が混じっている。

 あえて攻撃を受ける事により、その体内の毒で私を殺すつもりだったのだろう。


 相手の必勝の策だったのだろうが。

 ねえ?

 私って、そういう状態異常が無効だからね!


 毒をもろともせずに、女を追撃する私の影の爪。

 その切っ先に足を次々と切り落とされても、女は優雅な微笑を浮かべたまま。

 かなり余裕のある状態なようだ。


『血に染まり給え!』


 弾け飛ばしたタコ足に向かい指を鳴らし。

 パチン!

 タコ足が毒の刃となって貴婦人の眉間を貫いた。


 普通ならば死んでいる。

 女の放っていた毒も、私の爪により新たな毒へと変換していた。

 それが眉間を串刺しにしているのだが。


 ぐぐぐぐ。

 女はげへぇ……と下品な形に口元を歪め。

 刺さった自らのタコ足を引き抜き、丸呑みにする。


「毒ね、毒! けれど、新鮮なお味! ちょっとピリリとしているけど、これは何の毒なの!」

『ワサビ醤油さ』

「そう、ワサビ……。うん、いいわ! あなた、ウチのコックになりなさいよ! 気に入ったわ、美味しいの! わたくしの足とお味が丁度あうの!」


 実はこれ、本当にワサビ醤油である。

 毒を吸収されたら困るからね。

 まずは吸収されるかどうかを確かめたのだが、正解だったようである。


「ごちそうさま、お代わりを所望するわ!」

『所望されてもねえ……』


 喉の奥に落ちていく自らの足が血肉となったのか。

 切断されていた半身が、すぐさまに再生する。

 見た目がものすっごい、気持ち悪い。


 実際、ラヴィッシュ君も騎士団の方々も正気度にダメージを受けているようだ。

 あ……。

 回復担当のニワトリさんが遠距離から、正気度を回復するべくダイスを投げたな。


 かなり遠くにいるニワトリさん、ロックウェル卿が投げたのはこの世界で購入した魔道具。

 精神状態を維持するための、精神回復アイテムである。

 ダイスを投げ、出た値に応じて狂乱状態を防ぐ効果のある、ちょっとお高い商品だった。


 後で騎士団に請求しよう。


 投げた六面ダイスは六つ。ダイスの合計値は三十六。全て六である。


 まあ私達、三獣神は基本的に幸運値がぶっ飛んでいる。

 私よりも幸運が低いとはいえ、ロックウェル卿の幸運も異常。

 そんな彼がダイスを振ったら、そりゃあ全部が最善の値になるよね。


 人間部隊の正気度が、ダイスの出目に応じて回復していた。

 ようするに、女神の信仰値稼ぎなんだよねこれ。

 今ので女神の信徒となっている謎の貴族が、人間を守るために行動したわけなのだ。


 それを見た街の人は、女神アスタルテの信徒が救ってくれたと勘違いし。

 信仰度がアップ!

 わずかだが力を取り戻した、という寸法なのだ。


 これを繰り返せば、あのやっぱり残念女神を召喚できるぐらいにはなると思うのだが。


 そんなやりとりを気にせず、タコの貴婦人はぐひりと笑む。

 もはや、言葉は悪いが……雑魚といえる人間など眼中にないのだろう。


『じゃあ、今度の遊びはどうかなレディ――石に貫かれ、朽ちるがいい!』


 天高く腕を翳した私はそのまま貴婦人に向かい手を下ろす。


 ヒューンヒューン、ヒュヒュヒューン!


 空に浮かんでいる雲を操り。

 魔力ではなく物理現象として、石の雨を降らせ始めたのだ。

 雲を固め、落下させているのだが――その速度はかなりのモノ。


 これもロックウェル卿のパクりだったりするのだが、まあ魔術に著作権はないからね。


 天から降り注ぐ高速の石雨に目を輝かせ。

 ぱぁぁぁぁぁ!

 貴婦人は優雅にパラソルをくるくると回し、舞踏会を楽しむレディの声で叫びだす。


 メテオレインともいえる攻撃に、氷の海が揺らぐ中。

 女は半狂乱になって歓喜したまま。


「すごい、すごいわ! あなた、強いのね! このわたくしと対等に戦えそうな方がいるだなんて、これもお父様のおぼし召しなのね!」


 うへぇ……、石雨も効いてないでやんの。


 回転する女のタコ足から、毒の粘膜が放出される。

 攻撃ではなく、回転したことで飛んでしまっただけ――といったところか。

 それでも人間にとっては脅威。


 守りに力を割くか。

 悩む私の頭上から光の束が降り注ぎ、毒の粘膜を焼いていく。

 ホワイトハウルによる援護だろう。


 結界……範囲内のダメージを常に軽減、無効化する神の聖域を維持しつつ。

 更にこうやって、戦況を見ながら援護してくれるのは偉大。

 さすがは次期主神ワンコ。


 我が友である。


 あ、私が友と心で思ったからか、次元の狭間で小躍りし始めた。

 きっとモフモフな尻尾をバッサバッサしているのだろうが。

 ともあれ。


 しかし、私もホワイトハウルもこの世界ではまだ本気を出せていない。

 すぐさま敵を屠るというわけにもいかないか。

 魔力法則も物理法則も異なる影響は大きく、雑魚相手ならともかく強敵となると……。


 んーみゅ、面倒である。

 とりあえず、会話で情報を引き出そう。


『お父様のおぼし召し? ふむ……君の父上は有名なのかい』

「ええ、そうよ!」


 興奮気味に、女はねちょりと唇を蠢かしていた。


『なら君も、有名な娘さんなわけだ』

「――……そうでもないわ。わたくしは、秘蔵の姫。名前を言ってはいけないといつも言われていますのよ……? ねえ、可哀そうだと思いませんか? 思いますよね? だったら! わたくしのご飯になってくれませんか! いいわよね、わたくし。姫なんですから!」


 会話が乱れ始めた。

 にひぃ!

 隙を見つけた私は、話術スキルを発動。


『ふーん、なるほどね。これはすまない。名前を言うのが恥ずかしい程度の存在、隠したい娘という事かな。なら、さほど脅威ではないだろうね』

「ふふふふふ。見え透いた挑発ね、けどいいわ――」


 タコ貴婦人はパラソルを畳み。

 開いていた扇子も胸の谷間へ、ぐじょりと戻し。

 六つの瞳をギラつかせ、ドレスの裾を優雅につまんで見せる。


 その姿はさながら、氷上の女王。

 気品さえ感じさせる声で、タコ女は朗々と名乗りを上げた。


「わたくしの名はクティーラ。ルルイエにて封印されている偉大なる御方、アウターゴッドの一柱であるお父様の愛娘。もしかしたら、外から来ただろうあなたなら、ご存知なのかしら」


 名乗り上げが合図となっていたのか。

 ザザパパパーン!

 氷を割って、騎士鎧を纏ったサカナヘッドが顕現する。


 いあいあ! くてぃーら、ふたぐん!

 いあいあ! くてぃーら、ふたぐん!

 いあいあ! くてぃーら、ふたぐん!


 甲冑の奥から、くぐもった賛歌が聞こえ漏れる。

 明らかに雑魚ヘッドとはレベルが違う存在だ。

 姫の護衛、といったところか。


 氷の上で列をなすその姿は、姫君を讃える勇猛なる騎士達。


 こ――これは!

 なかなか良い名乗り上げだ……っ。

 く……っ、なんか負けた気分だが、ここは我慢。


 ふむと考え、周囲に伝えるように私は言う。


『クティーラか、その名聞いた事がある。たしか……暗黒神話における水を司りし大神――――(クトゥルー)の娘……。その胎にて、死した父さえ産み直すことができるとされた姫君。秘蔵されしいんと呼ばれし深き者の姫か』


 ざわめきが起こる。

 本当は秘匿されていた情報なのだろう。

 まあ、こっちは暗黒神話で知っているから……カンニングみたいなもんなんだけどね。


 しかし、少し見えてきた。


 もしかすると――こいつらは私達もよく知る性質の者。

 女神リールラケーが神話のリリスの力を原初としたように、暗黒神話を神と認定した場合の原初。

 ようするに、神話生物そのものではなくその力を受け継いだ、楽園の住人と似たような存在なんじゃ……。


 まあ確証はない。


『なるほど、本物かどうかはさておき、なかなかどうして大物だね』

「あら……本当にご存知なのですね。あなた、何者なのですか?」


 空気が、変わる。

 本気を出し始めたという事だろう。

 凍った海の中から、禍々しい気配が増殖し始める。


 構わず私は、影で周囲の世界を覆っていき。

 ニヒィ!

 空を夜空の色で包んだまま、恭しく礼をしてみせる。


『私はケトス。大魔帝ケトス。偉大なる御方、魔を統べる君に仕える者――異世界の邪神さ』


 あまりにもカッコウイイ名乗り上げだったからか。

 女の肩は揺れている。

 プルプルプルと、畳んであった扇子をバキリと握りつぶし……って。


 あれ?

 なんか、メチャクチャ憤怒の瘴気が発生してるけど。

 なんだろ。


 悩む私の前、クティーラを名乗る女は、顔面を真っ赤に染め上げ。

 円形の口に牙をギシリと生やし、長い舌を蠢かしながら叫んでいた。


「ケトスだと……よもや、キサマ! 殺戮の魔猫、あの魔帝ケトスか!?」


 おや、何故私の名を知っているのだろうか。

 大魔帝と名乗ったのに、魔帝と言い直した。

 これは、絶対に過去の私を知っている反応だ。


『君、どうして私の昔の二つ名を――』

「キサマと分かったのなら、容赦なぞセン! おまえたち! こやつはここで殺す! 必ず、必ずじぁああああああああぁぁっぁぁぁぁあぁ!」


 貴婦人だった声が、どす黒い邪神声に変わっていた。


 うわ!

 どうしよう! 貴婦人を気取っていたのに、化けの皮が剥がれちゃってる!?

 豹変に狼狽したのは私だけではなく、騎士団と守りを固めているラヴィッシュ君が声を上げる。


「ちょっと、神父! この女? と、知り合いなの!?」

『いや! 私は知らないよ?』


 記憶の奥を辿ってみても、本当に記憶にない。

 逆恨みか何かだろうか。


「知り合いでもないのに、なんでこんなに恨まれてるのよ!?」

『さあねえ……まあ、よくあることだよ。なーんか私って、逆恨みされやすいんだよねえ』


 敵さんからの攻撃を全ていなし。

 ササササ!

 飄々と明るく答える私に、騎士団とラヴィッシュ君はジト目を作る。


「神父……たぶんだけど、それ。逆恨みじゃないパターンがほとんどだと思うわよ?」


 ツッコむ少女の言葉に乗って――。

 カサカサカサ!

 まるで(ゴキ)のように、不気味に氷の海を這う女が吠える。


「魔帝ケトスゥゥッゥ! こここ、ここここ――ここで、ここで、ここで! あったが百年目! かならず、かならずぅぅぅぅう! アヒェアヒェヒェヒェ!」


 あ、なんか本当に恨まれてるっぽいな……。


 百年目ねえ……。

 って、あれ?

 ただの口上かもしれないが。


 百年前……か。


 賢い私は考える。

 サカナ騎士団と狂乱したクティーラの攻撃を、やはり全て片手でいなし。

 んーと、思考を働かせる。


「なぜだ! なぜ、あたらなぃぃい!」


 考える私も美しいわけだが――。

 どうやら敵さんは挑発状態。

 武術の達人でもある私を、甘く見ているようである。


「姫様、コイツ、おかしい、危険。帰るべき、デハ?」

「神父であると同時に、おそらく、達人。武芸、勝てない」

「撤退、推奨」


 片言の忠言を文字通り、ぐじゅりと握り潰し。

 サカナヘッドの死骸を喰らい、タコ足女は半狂乱となって吠えていた。

 あちゃぁ……正気度がなくなっちゃったかな。


「ならぬ! ならぬならぬ! ここここ、ここで、必ず、かならずぅぅぅ!」


 裂けたパラソルから飛んでくる魔の波動を、指をくるりと回し無効化。

 ひょいひょい!

 サカナヘッド騎士の兜を盾に、クティーラさんのタコ足の槍をガード。


 考えても答えは得られない。

 私は意識を戦いに戻す。


 こちらの魔力攻撃は吸収されてしまうので、反撃できないが。

 敵の攻撃も当たらず。

 不毛な争いが続く。


 んー、吸収させつづけて破裂させるなんてお約束は、たぶん通用しないだろうし。

 まあ……挑発が効く敵って時点で戦いやすいのだが。

 はてさて、どうしたもんか。



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― 新着の感想 ―
[一言] 百年前……まさか戦争中に地上に進行してこようとした馬鹿な魚人国家のやつら?
[一言] まあ何個か「うっかり」とか「カチン」とかで 世界滅ぼしとるわけだし、どっかで怨まれてても可笑しくあんめえ
[良い点] 100年前って魔王様が勇者と戦った頃だったような…… もしかして勇者の仲間の転生者の可能性もあるのか…… もしくはなんやかんやでぶっ壊した世界の神とかかなぁ
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