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大魔帝の答え合わせ ~すべては我が肉球の上にあり!~



 モフモフにゃんこなこの私、大魔帝ケトス!

 最強猫魔獣な私がラスボスとの戦いを終えた、その裏。

 亜空間で行われていた、裏のラストバトル。


 人間達やダンジョン領域日本で出逢ったモノ達。

 そして、我等がモフモフアニマル魔族軍団による、運命封印作戦も無事終了していた。

 その辺の話も詳しく聞きたいのだが、その前に。


 玉座型のマイクッションを囲う仲間達を眺め。

 うむ! ここはやっぱりアレだよね!

 と――私は猫ヒゲをピンピンにさせる。


 こほんと咳払いをした私は肉球を鳴らし、魔城を内装変化!

 既にここはパーティ会場。

 ようするに皆を労う、グルメセットと会場を一瞬で顕現させたのである。


『さて、みんなにも色々と聞きたいけど。とりあえず勝利を祝おうじゃないか! ってことで、みんな! グラスを持っておくれ! 乾杯だ!』


 勝利の後はお約束。

 宴会がないと駄目だよね!


 闇の泉に浮かんでいた魔城は、グルメ会場として再利用なのである!


 ◇


 そんなわけで!

 勝利はみんなのもの!

 亜空間の魔城で宴会の真っ最中!


 雰囲気は――卒業パーティを想像して貰えばいいだろうか。


 並ぶグルメは多種多様。

 今回のダンジョン領域日本を中心とした事件の中で出逢った、グルメ達。

 日本各地を観光したりもしたから、各種の名産品も含んでいる。


 しかし私は大魔帝、遊んでばかりはいられない。

 皆がグルメに舌鼓したつづみを打っている裏で、私はモフ毛を靡かせ雰囲気作りのメガネを着用。

 我が愛しき魔猫への魔書を、じっくりと観察していた。


 メガネをかける私も、とってもかわいいね?


 この特別な魔書に付与されたプラズマ球、魔術の根源の内部。

 圧縮された特殊空間。

 此方の世界とは隔離された場所に、それは封印されている。


 勇者ヒナタママや楽園のレイヴァンお兄さん。

 そしてつい最近も、勇者ヒナタくんの運命を狂わせようとしていた、望むままに運命を捻じ曲げるモノ。

 神ともいえる存在なのだが。


 見た目は……ああ、なんつーか……ネコだね。


 皆の運命を狂わせていたネコの形をした魔術式、『運命』。

 厳重に封印されているのだが。

 その鑑定名は――。


 冷笑するトリックスター:ニャンコ・ザ・ホテップ。


 これたぶん。

 人の心から生まれた系の神とか概念だよね。

 そんな封印されたネコを更に見て――私は、じぃぃぃぃぃぃ。


 顕微鏡で微生物を見る、学者ネコの顔である。


『なーるほどねえ、こういう魔術式で時の流れや行動、因果律を弄っていたって訳か』

『グハハハハハ! ケトスよ! この暴走する魔術式を捕らえた我等を、誉めてくれても構わぬのだぞ!』


 と、駆け回ってぐるんぐるん。

 漆黒牛の厚切りステーキを銜えて走り回るのは、白銀の魔狼。

 ホワイトハウルである。


 更に!

 その背中に乗った白ニワトリことロックウェル卿が、お酒を抱えてコッケココココケケケ!!

 ビシ! バサ!

 ででーん! いつもの舞を披露し、華麗に着地!


『さあケトスよ、余も褒めよ! 讃えよ! トサカを愛でよ! クワワワワワ!』

『なーにをいうか、ケトスは我を一番に褒めるのだが?』


 言ってワンコの鼻先と、ニワトリさんのトサカがぶつかり合う。

 お酒の匂いが、けっこう濃い。

 ジト目で私は言う。


『君達、もう酔っているのかい? さっきちゃんと褒めたじゃないか』


 私の苦笑に、彼らは会場の床に転がり。

 駄々っ子のようにジタバタジタバタ。


『もっと褒めて欲しいのだがのぅ』

『ケトスよ! 我等は本当に活躍したのだぞ?』


 もかもかの羽毛から、鳥足をずぼっと覗かせる大魔族。

 褒めろ褒めろと、まだまだ散歩を続けると粘るバカ犬の如く吠える、次期主神。

 こいつら、私の前だと本当に威厳ないな……。


 他の人たちの視線も気になったので、私はこほんと咳払い。


『でも、こんなネコの形をした魔術式。運命なんて言う概念をどうやって捕まえたんだい? たぶん形のない存在をネコの形に具現化させて固定、そこに戦いを仕掛けたんだとは推測してるけど』


 ようするに、運命という曖昧な存在を――水のような状態から凍らせて固体化。

 形として観測した事でこの世界に強制召喚。

 初めて、接触を可能とし――捕らえる事や戦う事ができたのだろう。


 なぜネコの姿なのかは謎なのだが。

 ニャンコ・ザ・ホテップ。

 おそらく危険な存在だった事には間違いない。


 たとえば、こちらより上位の次元にいる観測者だったり。

 ゲームマスター的な、宇宙の監視者といった――こちらの認識とも、物理法則とも異なる世界の存在。

 そういう一つの壁を超えた先にある、ムカつく言い方をすればこっちを好き勝手に弄れる、存在だったのではないだろうか。


 それらを言葉にすると、やはり……。

 神、となるのだろう。

 神なんているわけないじゃんと思うかもしれないが、私もネコ神だし。


 庭に棲んでいる蟻んこにとっては、大きく何でもできる私は脅威的な上位存在。

 神という知識はなくとも、だ。

 なんでもやらかす迷惑な存在として認識しているかもしれない。


 それと同じ。


 嫌な感じだが、このニャンコ・ザ・ホテップにとっては私達が蟻だということだ。

 まああくまでも私の仮説。

 研究を進めれば、まったく別の答えだったという可能性もあるが。


 これが勇者の運命を操っていた事はおそらく間違いないだろう。

 あるいは、異世界召喚のシステムも……。

 しかしこれ、よく召喚できたな。


 その辺の超複雑な召喚魔術は私と同じ天才にゃんこ、大魔王ケトスがやってくれたとは思うのだが。


 ガハハハハハと大笑い。

 ぐるぐる回って酔っ払っている白ワンコとニワトリさんは……、あんまり話を聞けそうにないな。

 報告書に纏めたいのだが。


 そんな私のブスーッとした顔を察したのだろう。


 黒い方のワンコ――ブラックハウル卿と。

 黒い方のニワトリさん、魔帝ロックが落ち着いた様子でやってくる。

 カッシャカッシャと犬爪と、ニワトリ足の音が鳴る。


 知的好奇心にモフ毛を膨らませている私は、ぶにゃっと瞳を輝かせ。

 ぶんぶんと大嵐を発生させる勢いで手を振ってみせる。


『ねえ、二人とも! ちょっと話が聞きたいんですけどー! この勝手に他人の運命を操作してた、これの説明を聞きたいんだけどー!』


 彼らは周囲に迷惑がかからないように、私の大嵐ネコ手ブンブンをマジックキャンセル。


『おう、異界のケトスよ! よくぞ聞いてくれたな!』

『クワワワワ! ふふーん! この余が、汝の残念な酔っ払いの友に代わり、説明してやろう!』


 ブラックハウル卿の頭の上には、オードブルの巨大皿が浮いている。

 山ほど積んだローストビーフが輝いていた。

 分けてくれるみたいなので、私も肉球をのばし爪でキュッキュっと器用に肉をひっかける。


 むっちゅむっちゅと味わう私は、黒ニワトリさんに目線をやる。


『で! で! ねえねえ! これ、どうやって捕まえたんだい!』

『汝もやはりケトスなのだのう……魔術への好奇心が、まるで獲物を見つけた猫そのものであるな』


 呆れながら言って、黒ニワトリさんは当時の映像を魔術モニターに映してくれる。

 亜空間の中。

 宇宙といった雰囲気の空間で、光の巨大ネコと戦っている映像が浮かび上がってきた。


 やはり大魔王ケトスが、運命という概念を光の巨大ネコとして顕現させたのだろう。

 実際。

 魔導書、《我が愛しき魔猫へ》の中には、ミニチュアサイズの瞳を閉じたネコが、グーグーと眠っているわけだし。


『この光のネコが、魔術式として具現化させた運命……。ニャンコ・ザ・ホテップって名前らしいけど、まあ便宜上で勝手に種族名を名づけると。《ラプラスの悪魔》って所かな』

『運命をラプラスの悪魔と名付けるか。おぬしらしいな』


 画面の中。

 勇者として覚醒したヒナタくんが聖剣を翳し――魔導書をバササササ。

 皆に鼓舞を掛ける場面が映っている。


 光のネコは文字通り、定められた運命を具現化させたもの。

 こちらよりも上位の存在。

 庭の蟻んこが、私に戦いを挑んでいるようなモノ。

 ……。

 相手が強すぎて、こっちのダメージが通ってないな。


 ホワイトハウルの裁定魔術もはじき返されてるし。

 ロックウェル卿の石化の魔眼も即解除されてるし。


 あれ?

 ん?

 映像が進んでも。ぜんぜん、攻撃も通ってないし。


『ねえ、これ――どうやって倒したんだい?』

『汝の生徒、何と言ったか……無口で、っす、っすと、無駄に頭を下げる男がおっただろう』


 ああ、黒ニワトリさんも白ニワトリさんと一緒。

 人間の名前……覚えるのが得意じゃないんだね。

 ブラックハウル卿がホワイトハウルと一緒に酒を飲みながら、ぐははははは!


 薄切りローストビーフを箸でかき集めて、一気に食べながら言う。


『戦闘モードになると豹変する、殺戮騎士のトウヤであろう』

『おお、おお。そんな名であった!』


 コケケケ!?

 ロックウェル卿と魔帝ロックが、ツバサをバッサバッサとさせ唸る。

 このニワトリコンビ、人間に対してあんまり興味ないまんまだよね……。


『あやつに、大魔王ケトスと我ら三獣神の殺戮数……ようするにキルカウントを共有する、冒険用の魔術で譲渡してな! 更に、支援も欠かさぬぞ? 扇動能力を曲解し支援能力に特化した勇者ヒナタ、そしてその母と共に全員で殺戮騎士にバフ。我等神鶏のタッグで状態異常の雨あられ。再生されても構わず石にし続け、動きを完封しつつ――二柱の魔狼が防御を担当。あの小僧を攻撃の固定砲台とし、膨大なキルカウントによる固定ダメージで攻撃しつづけたというわけだ』


 どっかで聞いたような作戦である。

 相手からの攻撃はホワイトハウルとブラックハウル卿が防いでいた、といったところか。

 私達が戦っていた楽園の結界も維持しつつなのだから、さすがワンコといったところでもあるだろう。


『なるほどねえ、どうせその作戦を考えたのは――』

『クワワワワ! うむ! 今、我等の三毛猫魔王様と一緒にお詫び行脚に出かけている、我等の友! 大魔王ケトスであるぞ!』


 やっぱり。

 まあ私とあの白猫は、思考も似ているからね。

 思いつく作戦も似ているのだろう。


 ブラックハウル卿が凛々しい顔――。

 いや、ローストビーフのソースでべちゃべちゃにした口を舌で拭い。

 言う。


『しかし、ガハハハハハ! おぬしの生徒は面白いのう。殺戮数をダメージ計算に使えるとは、なかなかに便利な職業であるな! 大魔王ケトスは三千世界を涙で滅ぼした魔猫、そのキルカウントは計り知れんかったからな! 我等のような殺戮者アニマルと相性抜群ではないか!』

『ま、本人はだいぶ苦労したみたいだけどね』


 言って私はトウヤくんをちらり。

 相変わらず、翳ある青年といった姿がモテるようで――。

 女生徒や、メルティ・リターナーズの女性スタッフ。そして異能力者のお姉ちゃんたちに囲まれているのだが、本人はまったく気にしていない。


 聖父クリストフの眷属である戦士カピバラさんを腕に抱いて、じぃぃぃぃぃ。

 ただひたすらに、モフモフし続けている。

 肉球までクールな表情でモフっているので……なんつーか、絵面がすごい。


 カピバラさんもモフられ過ぎて困っているが。

 たぶん聖父クリストフの命令で、おとなしくしているのだろう。


 温かい目で見守る私を、温かい目で見るのは白黒ワンコと白黒ニワトリさん。

 そんな温かい空気も大切だが。

 それよりも――私は目線をプラズマ球の中で、くわぁぁぁっと眠るニャンコ・ザ・ホテップに戻す。


 ホワイトハウルが酔いを拭うように浄化の光を放ち。

 神たる声で朗々と咢を蠢かし始めた。


『して――ケトスよ、これはなんなのだ?』

『言っただろう、私達が運命と呼んでいたモノさ』


 他のモノも興味があるらしく、皆の視線がこちらに向く。


『魔王陛下の弟子である君達も、考えた事はあるだろう? 世界生物論から推測される存在。この世界は物語の主人公、つまり人間の中から勇者を定めているってね。時にはバッドエンドの、時にはハッピーエンドの未来を勝手に決め、定めた筋書き通りに冒険させていた――見たい未来、見たい運命が巡るように世界の流れを操っていたんだよ。まるで、そうだね……俗にいうシミュレーションゲームを楽しむようにさ』


 なかなか迷惑な存在である。

 ゲームのような感覚で、レイヴァンお兄さんや歴代の勇者たちの人生はメチャクチャにされてしまったのだから。

 ブラックハウル卿が唸りを漏らす。


『しかし、面妖なネコであるな。いったい、どこからこんな迷惑な観測者が飛ばされてきたのかのう……異界のケトスよ、叡智に優れるそなたの事だ、仮説程度は持ち合わせているのであろう?』

『まあね』


 頭を整理し、私は言う。


『もしかしたらだけど、これは第一世界。魔術の無かった地球から無意識に送られてきているのかもしれないね』

『魔術がない世界から? つまり魔術式がない世界であろう? さすがに不可能ではないか』


 更に、他のモノ達も気になっていたのだろう。

 だんだんとギャラリー全員の目線が集まっている。

 魔術師の顔で、私は皆に告げた。


『そうとも限らないさ。私達魔性は心の暴走を力としている。そこに魔術式は利用していないだろう? 魔術がなくとも、心には力が存在していると私は仮定しているのさ。もし、第一世界の誰か、いや多くのモノが勇者の冒険譚が見たい。平和な結末が見たい、悲劇で終わる泣ける話が見たい。そういった願望を抱き、それが一定量溜まった時――力が発生する』


 現象を魔術式に当てはめ、仮説の方程式を空に魔導チョークで描き。

 私はインテリなメガネを、くいくい!


『その物語を見たいという力が暴走し。これは送られてやってくる。彼らは無意識に私達の世界に介入しているわけだね。その結果、魔術式の存在するこちらの世界では大きな変化が起きる。このネコが徘徊し始めるのさ。眺めたい、見たい物語と合致する存在を探し、物語の主人公として勝手に選定してしまうんだよ。こちらの世界の事情などお構いなしにね。そして、選ばれた者の運命を勝手に歪め、決めた道筋を進めさせようと暗躍していた。そんな運命を操る概念をこちらの魔術式に無理やり当てはめ強制召喚、具現化すると――この運命を操るネコ。ニャンコ・ザ・ホテップになるんじゃないか。そう考えている。可能性の段階だけどね、これが今の私の仮説さ』


 三獣神は、うむと頷き。

 魔性達やアニマル達はうーむ……と、一定の理解を示し。

 勇者ヒナタくんとヒナタママは、どーなんだろ……違うんじゃない?

 と、頭を悩ませているが。


 なぜだろうか。

 他のモノ。大半の人間が頭を抱えて冷や汗を流し。

 頭痛に悩まされてしまったようだ。


 あー、そういやこんな複雑な魔術式を、それなりにしか強くないニンゲンが見たら。

 精神にダメージがいくか……。

 ……。

 まあ、いいや!


 ホワイトハウルがクールな魔狼の顔で、問う。


『理論や正体はまあおいおい解明すればいいとして、だ。確認したいのだが――コレが封印できているという事は、もう勇者ヒナタ、魔王陛下の御息女、勇者の死の運命も消えている。そういう認識で正しいのであるか?』

『ああ、おそらくはね。ロックウェル卿たち、頼めるかい?』


 言われて未来を視る神鶏の二柱が、紅き瞳をクワワワ!

 黒き翼、魔帝ロックの方が嘴を唸らせる。


『白き余も、魔帝ロックの名を冠する余の未来視も――おそらく見たモノは同じ。魔王陛下の御息女の未来から、死が消えた事を確認した。観測者は封印された。もはや二度と、異世界召喚の対象に選ばれる事も無い。好き勝手に運命を操られることもあるまいて』


 そうか、やはりこれでおしまい。

 長かったダンジョン領域日本の事件も解決。

 物語も終結ということだ。


 もしかしたら――。

 この猫を封印したことにより、第一世界からの干渉が消えるかもしれない。

 しばらくしたら――向こうから、こちらを観測することもできなくなるかもしれないが……。


 まあ、仮説の段階だからなんとも言えないか。

 そもそも、だ。

 第一世界の住人は――異世界……多元宇宙の一つであるこちらを観測している自覚なんて、ないかもしれないしね。


 全てはあくまでも空論の話。

 実はぜーんぜん、理論も推測も間違ってました!

 なんてこともかなりあるしね!


 深淵を覗いた時と同じ――。

 精神ダメージを負った人間達のケア会場となった場所。

 ニワトリさん達が、精神回復の大魔術を展開する中。


 ホワイトハウルが言う。


『しかし、ケトスよ。今回の事件、そなたにしては珍しかったな』

『なにがだい?』


 言われた意味が分からず、私は眼鏡をくいくい!

 ちょっと、このインテリメガネが気に入ってしまったのだ!


『なにがというが……ケトスよ。おまえがあれほど危険な戦いにニンゲン達、それに未成年まで使うとは……正直意外であったのだ。運命を具現化させたあの戦い、運よく犠牲者こそでなかったが、危うい場面は多々あったのだぞ? 死者が出なかったのは、奇跡としかいいようがなかった。親しき者には過保護になりやすいそなたが、生徒達を危険に晒すとは……少し違和感があってな』


 そういえば、種明かしをしていなかった。


『ああ、そのことか。ごめんごめん、ちゃんと伝えていなかったね』

『むぅ? どういう事であるか?』

『実は君達の戦いに死者が出ない事は、確定していたんだよ』


 正確にいうのなら、私が確定させていたのだが。

 これも運命や因果律を操作したといえるだろう。

 勇者の運命を好き勝手に弄ってくれた敵さんには悪いが、こっちも似たような事をしていたのである。


『のう、ケトスよ。我、ぜーんぜん、分からんのだが!?』


 隠しておく必要もなくなったと。

 私は亜空間から一枚のカードを取り出してみせる。


『見覚えがあるカードであるが。それは――いったい』

『私の切り札さ。運命を捻じ曲げて貰うために開発して貰った、魔術カード。多くの人間に販売し、一定人数に認められたカードゲーム、すなわち信仰されたゲームを具現化させる力を持つ者。カードゲーム会社の社長、金木白狼くんの異能力。私用の新魔術さ』


 カード効果で朝にしたり、夜にしたり。

 色んな効果を発動させていたアレである。

 そして肉球で掴むこの魔術カード名は――。


 《◇新魔術:ハッピーエンド》


 効果は単純。

 文字通り発動させれば、ハッピーエンドに向けて運命を捻じ曲げるカード効果をもつ、裏技。

 一種のバランスブレイカーな魔術カードである。


 これはあの事件、異能力者達がライカくんの正義扇動で暴走した事件。

 その解決に協力した私への報酬だった。

 思い出してみて欲しい、私が社長さんにカード制作のお願いをしていたことがあったと思う。


 それが、このチート魔術カードなのだ。


 ロックウェル卿が私の肉球に握られたカードを眺め。

 じとぉぉっとした目を作る。


『なるほど、余にも読めてきたわ――高級マンション男のカードか』

『ああ、そうさ。私は既にあの事件の時に、ヒナタくんの運命を変えるために動いていたってわけだね。あの社長さんの能力は使い方次第でチートのような効果を発揮する。運命学に分類される因果律に介入、操作できるほどにね。それを利用しない手はないだろう? もっとも、このカードの発動には膨大な魔力と運命を破壊する、破壊神としての能力も必要となる。誰もが使えるわけじゃないけれどね』


 つまりは、私専用カードなのだ。

 ワンコとニワトリさんは、ちょっと複雑そうな顔で、はふぅ……。

 ホワイトハウルが酔いの冷めた顔で、獣口をぶふぅっと膨らませた。


『つまり、我等の聖戦は……全て……計算通りの結果。ケトスよ、おまえの肉球の上の中での戦い。どうあってもハッピーエンドになる戦いだったということか』

『ま、私は友達を失いたくはないからね。世界の視線をラスボス戦に引き付けている間に、そっちが全滅しちゃいましたぁってなっても嫌だったし。事前に色々と準備を進めていたってわけだね。ネコはね、警戒心が強く慎重なのが取り柄なのさ』


 くははははとドヤる私。

 とってもカッコウイイね?


 ワンコが拗ねた様子で唸る。


『それならそうと、先に言ってくれれば良かったのに……我、お前が悲しむと思ったからな? 一人も死者が出ないように頑張ったのだぞ?』

『ごめんごめん、もしこのカードを発動させていると知ったら、隙や油断、慢心が生まれてしまい……運命が変わっちゃう可能性もあるからね。これはあくまでもハッピーエンドへの道を補助する魔術カードだ、君達が本気じゃないと効果は中途半端に終わっていた。最悪、魔術効果を失ってしまう可能性もあった。だから、私が一番に信用している君達にも、終わるまで説明することができなかったんだよ』


 一番に信用している。

 ここを強調することが大事である。

 ワンコもニワトリさんも、我。余の事か! とむふぅ!


 大変にご満悦である。


 こういう時に二人はそっくり。

 なかなかに扱いやすいので、助かるね。


 これでミッションクリア。

 私が初手からずっと動いていた努力、このハッピーエンドのために蒔いた布石が実ったのだ。

 大団円である。


 きっと!

 この記録クリスタルを後で読む、後の世代の人にも伝わった筈!

 私の強さの秘訣が、幸運だけではないと理解して貰えただろう!


 やっと終わった地球滅亡の危機。これでこの世界の至宝。

 液状ニャンコおやつは守られた――。

 そう、これで『あのオヤツ』が失われる事はない。


 もう二度と、勇者の運命に翻弄される犠牲者は生まれない。


 世界は平和になったのだ。

 ……。

 ま、この後、事後処理がメチャクチャ大変なんですけどね。



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― 新着の感想 ―
[一言] ニャンコザボテップ……あぁなるほど、つまり作者さんの一部、分霊みたいなものか。 もしかしたらそこに我々読者の想念も混じっているかもしれないけど……
[良い点] ラプラスの悪魔=猫((o(^∇^)o)) 気まぐれで勝手気儘な運命さんにはぴったりな姿ですね(^-^)ゝ゛ [一言] 見事ラプラスの悪魔ちゃんことニャンコ・ザ・ホテップを捕らえましたね…
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