防衛戦:ダンジョン領域日本 ~集いし仲間(変人)~
楽園から帰還した私達は、ふふーんとドヤ顔。
ワンコとニャンコ。
作戦を成功させたアニマルで、満面の笑み。
大魔帝ケトス、貫禄のポテチ一気食いである。
ちなみに、場所は基地となっている三毛猫魔王様の邸宅。
実際にこの場にいるのは、私とホワイトハウル。
そして、魔王陛下に三毛猫魔王様。
ヒナタくんにヒナタママといったメンバーである。
まあ、ここはにゃんスマホを通じて他のメンバーとも繋がっている。
既に各自で行動をしているのだが、会話に参加することも可能。
ここでの会議内容を視聴しつつも――剣と魔術をドババババ!
ダンジョン領域日本の各地に湧くイナゴや、新たに湧くようになった神話の魔物を退治して回っている。
もちろん、並行してラスボスお兄さんの監視もしていた。
現在、私とホワイトハウルが設置した転移門を監視しているのは、もこもこ羽毛の大魔族。
通称、邪悪コンビ。
黒白ニワトリさんの二柱である。
私達の活躍で、楽園手前へすぐに飛べるようになっているからね!
現地のブラックハウル卿が結界を維持するその横で、翼を広げて彼らは――。
じぃぃぃぃぃぃいい。
楽園唯一の出入り口を見つめ、出てきたイナゴの群れを石化睨みで無力化している真っ最中である。
本来なら回復役である彼らには、待機していて欲しいのだが。
少しはストレス解消をしたいと、監視役の立候補をしたのだ。
ロックウェル卿が石化の魔眼を全開にしたままで、音声を飛ばしてくる。
『くわーっくわくわ! 実に脆い! 実に儚い! 所詮、眷族に過ぎぬ黙示録のイナゴなど、余の華麗なる瞳にかかれば一発石化! 蚊の羽ばたきさえも通さぬとは、まさにこの事であるなっ!』
亜空間の闇の中。白ニワトリさんがドヤった後。
赤い瞳をギンギラギシリ!
続けて黒ニワトリさんが、ふふんと瞳を細め。
『然り! 黒き羽毛の余、そして白き羽毛の異界の余! 我等が監視している間は、この門をくぐる不届きモノはおらぬ! 異界のケトスよ、此度の働きは実に素晴らしい! 余が許す! ゆっくりと休むがいい!』
闇の中で、四つの赤い瞳が輝いて――ペカー!
クワクワクワワワワワ!
ばっさばっさと、黒白ニワトリさんが偉そうにビシ!
バサ――!
いつものポーズをとっている。
異界のロックウェル卿。
黒ニワトリさんの方が、結界の中に顔だけをズボっと突っ込み、尾羽を揺らす。
『おうおう! 楽園に引きこもってないで、でてきたらどうであるかー!』
『これ、異界の余よ。奴らは所詮、ひきこもり! 我等三獣神に畏れをなして隠れる、小童よ! あまり虐めてやるでない!』
と、いいつつも白ニワトリさんも楽園に顔だけを突っ込み、尾羽をフリフリ!
楽園に、石の雨を降らせて大笑い。
二柱同時に、ククックックククと翼を広げて、大喜び。
『クワークククワワワワ! 魔兄レイヴァン、恐るるに足らず!』
『ほれほれ! 悔しかったら出てくると良かろう!』
……。
さっきから、顔だけを突っ込んで嫌がらせを繰り返してるんだよね。
で、当然――眠りを邪魔されたラスボスお兄さんも反応するのだが。
「おいおい、てめえら。んだよ、そのせっこい挑発は……俺様の楽園を石化させるんじゃねえっての。ったく、ウザってえな。正々堂々と中に入って戦ったらどうなんだ? ああん?」
声だけは響くが、けして外にはでてこない。
徹底的な引きこもりである。
『出てこぬ卑怯者がなんか言っておるぞ? 余の同一存在ぃ』
『言っておるなぁ、余の同一存在ぃ。片腹痛いとはまさにこの事! クワワワワッ!』
まあ、外に出てきたら相手はブラックハウル卿とロックウェル卿と魔帝ロック。
お兄さんに勝ち目はない。
相手はそれをちゃんと理解しているのだ。
かといって、こちらがあちらに侵入したら形勢は逆転する。
わりと拮抗した、膠着状態が続いている。
こちらは楽園に顔や杖だけツッコんで嫌がらせをできるが、あちらも同じ。
次元の隙間を利用したのか、はたまた既に種を蒔いた後なのか――ダンジョン領域日本にイナゴ眷族や、神話再現生物を召喚して嫌がらせをしていた。
熟睡中にたたき起こされたような、ダウナー気味なお兄さんの声が続く。
「まあ、なんだ――赤き蛇、サマエル。お前、ちょっとあっちにいって嫌がらせをしてこいよ。色欲大罪の力、たっぷり放ってやんな」
命令された翼持つ赤い蛇の人形が、ダンジョン領域日本のどこかに顕現するが。
こっちの日本の防衛は完璧。
瞬時に担当地域に顕現したのは、色欲の魔性フォックスエイル。
モニターの中で、戦地の映像が映りだす。
ビル群の隙間を縫うように空を駆ける赤い蛇。
それを追うのは、巨大な狐さん。
モフモフ尻尾の数をさらに増やした、狐さんが巨大化していき。
妖しい霧を発生させる。
「あら、おいたは許されなくてよ。魔力解放――ふふふ、あははははは! 甘き果実への誘い、受けてごらんなさい!」
「このファリアル、任された場所は守り切ってみせましょう。ケトス様のお創りになられたダンジョン領域日本、侵食されるわけにはいきませんからね」
続いて錬金術師のファリアルくんが魔導書を掲げ。
バササササ!
顕現したばかりの赤き蛇の人形体に、天使特効の殺神剤を散布している。
……。
どうでもいいけど、この殺虫剤モドキ。たぶん大いなる光の天界と戦争になったパターンを想定し、勝手に作ってたな……。
「…………っ!?」
聖神や天使殺しの属性があるのだろう。
色欲大罪の力を色欲の魔性の力で相殺され。
特効の殺虫剤をブシュブシュされたサマエル人形は、空を逃げる。
逃げた先にも、伏兵が顕現済み。
ビルの屋上に、見慣れた人間達が見える。
人間で異能力者の阿賀差スミレくんと、カードゲーム会社社長の金木白狼くん。
そして弟の金木黒鵜くんと、警察犬の率いる警察官たちがカードを構えて。
キリリ!
スーツと巫女装束の裾をビル風に任せて――バタタタタタタ!
「行きますよ、バカ弟。せっかく面白い世界になっているのです、壊されてしまったら困ります」
「バカは余計だっつー……まあ、街を守るのが警察官の仕事! やってやる!」
兄弟に続いて、麒麟の力を宿した巫女、スミレくんが髪を靡かせ。
ぶわっ!
二人と警察犬、そして警察官の異能の力を引き出し――。
清廉なる魔力が、周囲を満たしていく。
いつかの銃撃部隊も参加して、警察官も一斉掃射。
銃撃が飛び交うビルの隙間を指差し――力が発動した!
「今こそ好機ですわ、皆さま! キリン様、どうか力をお貸しくださいませ!」
「来なさい、カードに眠る召喚の息吹よ!」
異能者連合の力が集結。
天に稲光が走り、麒麟の幻影が嘶きを上げる。
キリンさんに導かれ――。
全員が翳したのは召喚カード。
そこから呼ばれたのは黙示録の獣、マスターテリオンである。
以前の事件で呼んだので、詳細は省略!
白狼くんと契約しているから、確かに顕現は可能。
多頭の豹たるマスターテリオンに、次々と付与されているのはカード効果による多重バフ。
ここにいる全員が、他者の力を引き出すスミレくんにより倍増された力で、魔術カード:モンスター能力向上を発動させているのだろう。
強化されたマスターテリオンくんが、鉄の魔杖を振りかざし。
ペカー!
『ニンゲンに、呼ばれるのは癪ダガ、仕方あるマイ。覚悟セヨ――我が同胞にして赤き天使、人々に堕天を促せし楽園の蛇。サマエルの幻影ヨ』
人間は群れとなると真価を発揮する種族。
支援を受けたマスターテリオンくんが、赤き蛇を次元の狭間へと送還する。
防衛戦はこちらの勝利である。
さすがに、相手も黙示録の獣を先に使役されているとは思っていなかった筈。
本来の黙示録の記述。
逸話魔導書ともいえる聖典によれば――イナゴによる蝗害が終わった後に、二匹の黙示録の獣が召喚される筈だったのだ。
さっきの赤き蛇。
堕天を促す死の天使、サマエルと同一視される赤竜が顕現。
こっちの味方となっている、多頭の豹獣とセットで終末に向かい大暴れする流れになっているのだ――。
だが!
こっちで先に呼んじゃってるから、相手は呼べないんだよね。
ま、先に呼んだもん勝ちである。
いやあ、しかし。
黙示録とかあの辺の神話は、すごいファンタジーというかぶっ飛んでるよね……。
ちょっと理解がしにくいのである。
それを再現する、お兄さんのアダムスヴェインは厄介極まりないのだが。
ともあれ!
呆れたようなレイヴァンお兄さんの声が響く。
「おいおい、マジかよ。てめえら、赤き竜の化身サマエルは呼べたのに……多頭ニャンコが召喚に応じねえと思ったら……先約済みかよ。それはズルいんじゃねえか?」
サマエルは楽園に帰還。
というか、命からがら逃げきったのだろう。
楽園で、酷いよぉ……とお兄さんに泣きつく声が響く。
戦闘の様子を気怠く眺めていたのだろう。
ダウナー状態なお兄さんの声が更に響いた。
「それにしてもだ。なんなんだ、この戦力は――。てめえら、すこしおかしいぞ? 魔性に魔性もどきのニンゲンに、通常ではない異能者。そして黙示録の獣の使役。種族も世界も能力も違う存在の集まり。世界でも支配するつもりだったのか?」
う……っ。
まあ、確かに――こんな異なる力の能力者が、協力してダンジョン領域を守っていること自体が異常。
すんごい歪だけど……。
「いや、これはそうか――なるほどな。大魔帝ケトスとかいったか、あのモフモフ猫……俺様の再臨や、大罪神話生物による侵略を読んでいた? 読んだ上で、全ての種族。全ての異能力者をまとめ上げ――率いていた!? 俺様の顕現、その対抗策まで事前に準備していたというのか!」
なにやら勝手に勘違いしているが。
いや、ほんと……天使特効はそこのファリアルくんが、勝手に色々と作っていただけだし。
私に協力してくれた戦力のみなさんは、グルメ散歩を通じて知り合った友達みたいなもんで。
別に……レイヴァンお兄さん対策ってわけでも……。
しかし。
好敵手を見つけたような戦士の声。
歓喜を滲ませたラスボス様の声が――あちらの空間に響く。
「ハハッハハ! そうか、おもしれえじゃねえか! ネコの神よ、そこまでの軍略、さぞや名のある神なんだろうさ! いいねえ! 楽しそうだ! なあ、おい。大魔帝ケトス、こっちにこいよ? 俺様と戦おうぜ? フフフフ、フハハハハハハ! ああ! どうせこの世界は転生させる――あいつを奪っちまった世界なんて、要らねえだろ? 全て滅ぼしちまうんだ、なら、最後の宴も悪くねえ! 新たな世界を誕生させるための大狂乱、最終戦争と洒落込もうじゃねえか!」
う、うわぁラグナロクだって。
口にだしたら微妙に、かぁぁぁぁぁぁっとなりそうなセリフを言えるって、それはそれで凄いのだが。
ええ、どうしよう。
なんか勝手に盛り上がっちゃってるんですけど。
だがすぐにその高揚も治まったのか。
気怠い吐息を漏らし、ドサリと椅子に凭れ掛かるような音が響く。
男はだるそうに告げた。
「……と、まあいい。とにかく、とっととこっちに来やがれよ。言っとくが、俺様は世界リセットを諦めねえぜ? そのために今、俺はここにいる。なあ……そうだろ……」
ふっと遠い目をしているようだが。
たぶん魔王陛下を思い出しているのだろう。
暴走した魔性の精神って、本当に安定しないなあ。
テンションの差も、すごいし……。
黄昏るお兄さんの声に反応したのか。
楽園を覗き込んでいた邪悪鶏コンビが鳥足で空に砂をかけ、ケッと吐息を漏らす。
『なーにが新たな世界の誕生であるか、くだらぬ』
『この世界は第二世界の欠片、ブラックハウル卿が作りし世界と既に融合しておる。広義では既に第四の世界となっておるだろうにのう』
クッチャクッチャとお弁当を平らげた、その食べかすと包装紙を加工。
降り注ぐ呪いの石雨に変換させて楽園に投棄。
地味~な嫌がらせを楽しむ邪悪コンビが、こちらのモニターに向かって言う。
『おう! ケトスよ! わりと嫌がらせは楽しいからな! まだ余等はここで見張っておるぞ!』
『コケケケッケ! のう、異界の余よ。次はどのような嫌がらせをしてやろうか!』
こいつら、仲いいなあ……。
◇
ともあれ。
現地の様子と、私とホワイトハウルが潜入した時の映像を流し終え、一息。
正義ニャンコな私は真面目な顔で、周囲に目をやった。
場所はリビング。
夕食を済ませた後である。
『とまあ、これが現地の映像ですけど――こちらの守りは私達の仲間がなんとかやってくれています。おそらくは問題なく撃退できると思うのですが、こちらから向こうに攻め込んでも勝機は見えない状況です。魔王様に三毛猫魔王様。何か打開策、ありますか?』
三毛猫魔王様を膝に抱いた魔王様が、んーと考えて。
自分の膝に乗せた三毛猫魔王様を、ナデナデナデ。
……。
ワシャワシャワシャ♪
「打開策かい? なんかラスボス兄さんも意外にのんびりとしているし、タイムリミットはおそらく蝗害の終わるまでの五か月。まだゆっくりしていてもいいと思うけれど……それにしても兄さんは敵になっても風格があって、うん。イイ感じだね」
「異界の僕……。もうちょっと真面目な話をしてくれないかな?」
同一存在に、むぎゅっとされた三毛猫魔王様の顔は……ものすっごい複雑そうである。
眉間のネコ皺がすんごい。
ネコ髯も、うにょっとしてるし、尻尾の先も小刻みにぷらんぷらんと揺れている。
三毛猫魔王様が、ギロっと丸口の端をヒクつかせて。
はぁ……。
わずかに唸る。
「君、自分を撫でて楽しいのかい?」
嫌そうな顔で飼い主に抱っこされる猫の図。
そのものである。
魔王様は飄々とした笑みを浮かべて、赤き瞳を輝かせる。
「そうは言うけれどね。三毛猫化しているキミとワタシという存在は、既に自我も魂も別の存在となっている。ニンゲンだって同じ遺伝子情報を持っている双子でも別人だろう? それと同じさ」
「いや、君はだねえ。僕と君とは確かに別人だが……いや、まあいい。話がまた逸れてしまいそうだ。撫でてもいいが、少しは頭を働かせたまえ」
魔王様が魔王様をナデナデしているというレアケース。
魔王様が魔王様に説教をしているというレアケース。
これはムービー撮影をしておかないと損だよね!
ぶわぶわに猫毛を膨らませて、足を伸ばし肉球をクイクイ!
……いろんな角度から撮影する私。
とってもかわいいね?
映像を録画する私を魔王様が録画する。
無限ループになりそうな場面なのだが、同席していたヒナタくんがコホンと咳払い。
「ねえ、撮影で忙しいところ悪いんだけど――ケトスっちの話だとその楽園から引きずり出しちゃえば、そこまで脅威じゃないってことよね? なんとか引っ張り出せないの?」
『んー……作戦がないことはないけど』
肉球でネコ髯を撫でながら、私はチラっと三毛猫魔王様に目をやる。
「会話が可能だという事は、僕による説得も可能かもしれない。そういう事だね」
『はい――相手は暴走していても冥界神。転生体である三毛猫陛下におそらく、何らかの反応はすると思うんですよね。けれど――』
言葉を区切り、私は大人ネコの顔で言う。
『大魔王ケトスがそうだったように、言葉が通じても会話になるかどうかは分からないですし。なにより三毛猫魔王陛下をあまり危険に晒したくないですし……』
んーみゅと悩む私に、私の魔王陛下が言う。
「説得に行くのはワタシも賛成だ。ワタシと三毛猫のワタシ。二人でとりあえず兄さんに会いに行ってみるっていうのはどうかな」
「僕も賛成だ。これは兄が関わっている事、説得で解決できるなら話は早いし……なにより、あまり戦いたくはないからね」
憂う三毛猫魔王様も美しいモフモフ様なのだが。
……。
ウチの魔王陛下が、その耳をぴょこぴょこと手の中で遊んで、喜んでいる。
まあ、ウチの魔王様。
やる時はかなりおやりになる。
ギャグをかなぐり捨てて冷徹な魔王陛下、軍を率いる切れ者になるからいいけどね。
嫉妬するホワイトハウルの頭を撫でるヒナタママの横。
ヒナタくんが、んーっと身体を伸ばしながら、ぷっくらと唇を動かした。
「じゃあいっそ、外からそのまま楽園を封印するってことはできないの? よくあるじゃない、邪神を封印してある祠とか、ああいうのよ」
『結論から言えば可能さ。けれど問題が多くある』
魔術式を展開し、私は魔術教師の顔で言う。
『まず問題となるのは閉じこめた楽園内で成長し、こっちの戦力を上回ったお兄さんが顕現するパターンだね。この問題は分かりやすいだろう? 封印された邪神が時間と共に成長するのは、世界のお約束のようなモノだ。ここの計算式にレイヴァン神の成長係数を当てはめれば……ほら。見えてきた』
複雑すぎたのか。
無限ともいえる量に広がる魔術式から目線を逸らし、ヒナタくんがぼそり。
「こっちより強いのが楽園から出てきたら、誰も対応できなくなる……か」
『ああ、そしてもう一つの問題は、誰がその結界を維持するかだ。今はホワイトハウルとブラックハウル卿が交互に結界を維持し、楽園への出入り口を狭めて罠を張る作戦を実行中だけど……。これが一年、十年、百年となると維持できる筈がない。集中力がもたないからね。で、誰かが引き継いで結界を張ろうとした隙間に、相手が何かを仕掛けてきたら』
結界の張替え。
そこを狙うのは戦術の初歩である。
初歩であるが有効、絶対に相手もそれを狙ってくる。
「結界を壊されて、こっちの世界はその反動で大ダメージ、か。厄介ねえ」
『お兄さんの目的は世界の再生。まあようするに転生させることにある、その目的を魔王様と三毛猫魔王様の説得でなんとかできるか、そこにかかっているかもね』
告げて、私は魔王様達を見る。
……。
ウチの魔王様の尊顔に、なんかデッカイ肉球の痕があるんだけど……。
これ、ウニュっと押し返されたのか。
『とりあえず、失敗してもそれはそれで問題ないですし。リスクも少ないでしょう。二人による説得を試す方向で次の作戦を進めますが、よろしいですか?』
あれ?
へんじがない。
ここは超カッコウイイ私の作戦参謀的な、名場面の筈なのだが。
私の目の前には、睨み合う二人がいる。
抱っこしようと十重の魔法陣を展開する、私の魔王陛下。
抱っこされまいと科学魔術式を展開する、猫の魔王陛下。
二人の間にわりこんで。
私は、ジト目でもう一度言う。
『仲がよろしいのは素晴らしい事ですが……よろしいですね?』
こういう時にちゃんと魔王様を嗜める。
それが大魔帝として百年とちょっと魔王軍を支えた、私の経験。
いわゆる貫禄である!
私がちょっと真面目に説教しそうなムードを察したのだろう。
二人の魔王様は、顔色をクールビューティーな魔族色に戻し。
頂点に立つ者の声で、悠然と告げた。
「ああ、構わないよ」
「僕たち兄さんの弟が、レイヴァン神に取り込まれたら本末転倒だ。十分に準備をしてから向かうとしよう」
いまさらシリアスな顔をしても、もう遅い。
むろん、ヒナタくん親子はジト目のままだった。
これで次の作戦は決まりである。
◇
私達はとりあえず、ダブル魔王陛下による説得作戦を遂行しつつ。
ダンジョン領域日本に湧く魔物達を防ぐ手段を、じっくりと探り始める事にした。
楽園は結界で覆ってるんだし、唯一の出入り口は監視してるんだし。
隙間はない筈なのだが。
どうやって敵を送り込んでいるのか……それも分からないんだよね。