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黙示録、襲来 ~蝗の佃煮は甘じょっぱい~



 ダンジョン領域日本に顕現した私は、肉球をペカー!


 本日も便利スキル、《かくかくしかじか》を発動!

 ゴージャスモフ毛も輝かしい私。

 大魔帝ケトスは、ヒナタくんや三毛猫魔王様の待つ邸宅に帰還。


 リビングを会議室に変換して、事情を説明していた!

 悪食の魔性の完全体――。

 ラスボスお兄さんの誕生を伝えたのだ。


 語り終える私のモフ耳が、ぴょこっと揺れる。

 ホットミルクの温まる音を聞いたからである。


『というわけで、ラスボスが判明したよ。かなりの確率で三毛猫魔王様のお兄さんが暴走した存在――それがヒナタくんが勇者として戦うように定められた、相手だろうね』


 告げて、ズズズズズ~♪

 あったかいミルクを口にする私の猫口に、ミルク髭ができていた。

 そんな口元だけ白い黒猫な私もカワイイわけだが。


 一家三人は、ものすっごい神妙な顔をして……。

 私の猫顔を、じっと眺めている。


 そりゃ、まあ。

 そんな顔になるよね。

 私がミルク髭を舐めとったからではない。


 ふわふわモコモコ猫魔獣仲間。

 美猫オーラが半端ない三毛猫魔王様が、もふもふした手で眉間を抑えながら。

 うにゃり……。


「僕を失った後の兄さんが、まさかそんな事になっているとは。それでも十分、驚きなのだが……いや、それよりもだ。えーと……そっちの世界の僕は、なにをどうしたらそんな研究をするんだい?」


 兄さん量産化計画について、思う所があるのだろう。

 三毛猫ちゃん状態の魔王様は、異界の自分に引いていらっしゃるご様子。

 まあたしかに。

 私も正直どーなの……それ、と思ってはいる。


 ただ!

 ごもっともな意見ではあるが、今はそこを追求する時ではない!

 私は私の魔王陛下の味方だしね!


『あの方は一度、実の兄君……レイヴァンお兄さんを失っていますからね。色々とアレ、そう、アレなんですよ』


 あれ?

 饒舌な言い訳をする筈だったのに、アレしか言えないんですけど!

 さすがに話術スキルでも限界があったか。


「いや、それは僕も同じなのだけれど。まあいい、それよりも……だ。問題は別にある。兄さんがラスボスとなると、少し……マズいかもしれないね」

『ええ、なんというか――想定以上の相手なので、プランを立て直す必要がありそうなんですよねえ』


 もふもふ黒猫と三毛猫。

 賢いニャンコが二人で頭を悩ませる姿は、なかなかにインテリで絵になっているだろう。

 ……。

 あとで写真とっとこ!


 悩むネコちゃんズの頬を、女子高生勇者ヒナタくんがつんつんと指でつく。


「ねえねえ。お父さんのお兄さんって、あのレイヴァンおじさんよね? あたしもケトスっちを通して知り合ってはいるけど。やっぱり、実のお兄さんとはお父さんも戦いたくない感じなの?」


 手持ち無沙汰なのだろう。

 神妙に計算する私を抱っこしながら、問いかけるヒナタくん。

 その様子をじっとお父さんの顔で眺めながらも、三毛猫魔王様は魔術式を展開する。


「それもあるが……単純な問題がある」

「そりゃあんた、どういうことだい?」


 と、怪訝な表情を浮かべ問うのはヒナタママ。

 スラっとした美人奥さんのエプロン姿は、様になっているのだが。

 お母さんの視線も、なぜか私を抱っこするヒナタくんの腕に注がれている。


 この夫婦、ほんとうに親バカだなあ……。


 ネコちゃんを抱っこする女子高生の図、ただそれだけなのにね。

 ともあれ。

 三毛猫魔王様はシリアスを優先させたのだろう、抱っこする腕から目線を逸らし……肉球に汗をにじませ。

 レイヴァンお兄さんのデータをパソコンモニターに転送してみせた。


「ねえお父さん。なによ、これ?」

「僕の兄、レイヴァン神の神としてのデータを数値化したものさ。もっとも、これは僕が知る当時の情報。もし三千世界の魂を吸い取っているのなら、もっと強力な存在となっているだろうけれどね」


 かなり詳細なデータが表示されているのだが、これはコンピューター内で魔術式を作り出して演算しているのだろう。


 魔術と科学の合成か。

 三毛猫魔王様は、魔性として弱体化している部分を科学技術で補っているのだろう。

 確か、異能力者や異世界の技術を研究する海外軍人も、似たようなことをしていた。

 ちょっと興味深い分野でもあるが、今はそれどころではない。


 魔王様がデータを読み取りながら、緊張した面持ちでネコ髯を蠢かす。


「兄はね、ああ見えてかなり強いんだよ」


 漏らす言葉に嘘はない。

 超、渋い声だった。

 イケにゃん声だ。


 ……。

 緊張する三毛猫魔王様の横顔を、シリアスを維持したままパシャリと撮影し……。

 補足するように私が言う。


『宿敵である母勇者きみに教えてあげるのも癪だけど、まあそんな事は言っていられないね。レイヴァン=ルーン=クリストフ。魔王陛下の実兄にして、死者の国である冥界の神。輪廻転生や死、そのものを司る古き神の一柱。その原初は黙示録に示されしアバドーン、太陽神アポロンの化身であるアポリュオーン、ゲヘナの流れも汲む強者なのさ』


 話を聞きながらヒナタ君が、シリアス顔のままで目線を逸らし。

 ぼそり。


「あぁ……ケトスっち……悪いんだけど、ぜんぜん分かんないんですけど? お母さんはどう?」

「ボクも原初とか、黙示録とか言われてもよく分からないね」


 ヒナタママも言葉に馴染みがないのか、同意しまくっている。

 この脳筋勇者どもめ……。

 基本的に聖剣の力を引き出して、ドバー! だからね。


「あのね、ケトスっち。そもそも三千世界ってのもよく分からないんですけど? 三千個の世界の死者を吸収したって事であってる?」

『魔導から観測した宇宙原則の授業で教えたことがあっただろう? 三千世界とは千の三乗。つまり十億の世界さ。もっとも、あくまでも比喩的な表現だから、もうちょっと少ないだろうけど……三千よりは上だろうね』


 気を取り直して私は、真剣モードを維持する。


『大魔王ケトスが三千世界を滅ぼしたって事は、その殺した魂は冥界に送られる。それを全部吸っていたとしたら、どれほどの存在になっているか……前例がないから想像もできないね。ようするにだ――この私が警戒しないといけないレベルの最高神ってことさ』


 ヒナタママがぎゅっとエプロンの裾を握る。


「魔帝ケトス。あんたでも、勝てそうにないのかい?」

『さあねえ……冥界でしか本当の力を出せないらしいし――レイヴァン神と前に戦った時も、彼は飄々としたまま、なんだかんだで本気ではなかった。今までマジモードのレイヴァンお兄さんと戦った事はない……強さの底が見えないのさ。この私相手に手を抜いていたっていう時点で、油断できない相手だとは思わないかい?』


 ハッと息を呑んで、ヒナタくんが素っ頓狂な声を上げる。


「え!? ちょっと! そんなオジサンが、大魔王ケトスみたいに暴走状態にあるって、やばいんじゃないの!?」


 ようやく、事態の深刻さを理解してくれたようである。

 ヒナタくん、お父さんとお母さんが揃ってるから普段よりボーっとしてるな。

 年相応な状態になっているのだろう。


「ケトスっちの方の魔王陛下とお兄さんはどうしてるの?」

『今、魂が憑依したクローンお兄さんを追っているよ。うまくは……いっていないみたいだね』


 私の魔王様と一旦合流するか。

 こっち側のレイヴァンお兄さんに詳しい話、ようするに弱点を聞きだすって手もあるが。

 

 悩む私もカワイイと、ヒナタくんがナデナデしようとした。

 その瞬間。

 にゃんスマホがアラーム音を立てた。


 電話の主は――。

 メルティ・リターナーズの一員、立花グレイスさんである。


「良かった、繋がった……っ、ケトス様! 大変です! もしこちらの世界にいらしているのなら、外をご覧になってください! 何かが変なんです!」


 ソシャゲと乙女ゲーム以外には冷静な女豹っぽい美人さんなのだが。

 この動揺は珍しい。


 私は慌てて肉球を鳴らし、外の様子を映し出した。

 そこにいたのは――。

 イナゴの群れだった。


 ◇


 空の八割が、黒く染まっていた。

 ジャアァァアアジャジャジャジャジャァアァァッァァァァア!

 けたたましい翅音が、私の耳を不快に揺らす。


 空を覆うのは、魔力を持ったイナゴ。

 佃煮にすると美味しいらしいのだが、これが蝗害こうがいを発生させる魔力蝗なら、話は別。

 大量発生したイナゴって、中がスカスカになって全然美味しくないらしいんだよね……。


 どう考えても、レイヴァンお兄さん零号機の身体に憑依した、異界のお兄さん。

 完全体となった悪食の魔性による奇襲だろう。

 目的は――住人の魂を吸い、更に力をつける事か。


 あくまでも眷族を放って様子見をする。

 そんな感じの空気である。

 そう思う理由は単純、眷族を操っている筈の本体がどこにもいないからである。


 ……。

 あのお兄さんなら、無辜むこなる存在を狙わない。

 つまり、もうそういう判断ができる状態ではないという事だ。


 ともあれ、外に出た私の猫口は叫んでいた。


『うひゃぁぁぁああ! 空一面の虫って凄いね! 飛蝗バッタ繋がり。レイヴァンお兄さんの原初の力、アバドーンが持つ蝗の王としての権能かな』


 にゃんと頭の上にビックリマークを浮かべるのは、麗しい三毛猫様。

 三毛猫魔王様がクワっと顎を開いて唸る。


「いかん! 我々ならともかく、一般人が兄さんの魔力飛蝗と遭遇したら……っ、骨の髄まで喰われて何も残らなくなるぞ!」

『ニャフフッフ! こんなこともあろうかとっ! 対策はバッチリなんですよねえ!』


 言って私はにゃんスマホを操作!

 ソシャゲ化した世界に緊急イベントを発令!

 魔導殺虫剤を全員に配布し、蝗から身を守るミッションを授けてポチ!


「な、なにごとだい! ケトス!」

『ヒナタくんを巻き込んだ最終決戦が起きる事は、前々から予想していましたからね。日本人をソシャゲを通して強化済み。特別報酬を設定すれば――ご覧の通りですよ』


 各地で起こっているのは、既に異常事態になれた日本人プレイヤーのスキル発動音。

 小学生が四重の魔法陣をにゃんスマホから発動させ。

 スナイパーライフルを担いだお婆ちゃんが、ゾンビ系ガンシューティングゲームの能力を発動させ、武器を変換。ライフルから武器をごつい砲台に切り替え、ポイント稼ぎに殺虫弾で広域掃射。


 訪問販売のお姉さんが。

 新聞配達のお兄さんが、スマホを構えて――召喚アバターを顕現!

 瞬時に高等結界を展開!


 ヒャッハー! イベントだぜ!

 と、そりゃあもう、ノリノリで魔力蝗の群れを薙ぎ払っているのだが。

 それが魔王様とヒナタママには理解ができないのだろう。


 ソシャゲというゲームを介して、蝗相手に無双をする住人を見て。

 若干、引き気味である。


「どういうことだ、この状況は……! あのモノ達は、ただの一般人だろうに!」

「すごいね、全員が協力して動いているじゃないか……」


 ヒナタママの浮かべる頬の汗を一瞥した後。

 三毛猫魔王様が鑑定の魔眼を発動する。


「信じられないが……ソシャゲというゲーム結界を利用し、無能力者であってもスキルや魔術が発動できるようにしているのだろうね。なんという美しくも複雑な魔術式……」

「かつてボクが率いた人間達よりも遥かに統率されている。いったい、なにが彼らをここまで駆り立てているんだ」


 ソシャゲの報酬。

 いわゆるガチャチケとゲーム内通貨、っていっても、たぶん二人には伝わらないだろうなあ。

 そんな。

 ダンジョン領域日本の初心者である二人の目線の先にも、動きがあった。


 駅前のハト、公園のスズメが報酬目当てに参戦。

 にゃんスマホを操作し。

 空のイナゴの大群に向かい、殺虫豆鉄砲ビームを掃射しはじめたのだ。


 縄張りを守るためにカラスも参戦し、クワァァァァア!

 翼にオリハルコンを装備して、滑空攻撃で蝗の大群の一団を抹消。

 人間と、街に住む動物たちによる防衛部隊が結成されている。


 そんな街並みを見て。

 三毛猫魔王様が言う。


「異界のケトス。なぜ動物までここまで強化されているんだい?」


 実の所。

 うっかり配っちゃったら、あの子たちもソシャゲ化結界の影響内で強化されちゃった。

 ようするに、偶然なんですよね。

 とは言えない。


『全ては来るべき日のため、地球の滅びを回避するために――私は動いていましたから』


 よっし!

 シリアスで誤魔化した!


「君はそこまで考えて……っ。さすがは、ケトス」


 まん丸おめめを見開く三毛猫魔王様が、とってもプリティなわけだが。

 驚愕しているのは事実らしい。

 ヒナタくんは既に慣れているので、いつも通り。


「ケトスっちってば、やるじゃない! これも計画の内だったって事は、もうほとんど最初からこの事件のために、準備してたのね」


 動物たちは誤算だが、計算していたのは事実!

 私はドヤ顔をこらえきれずに、くははははははは!


『まあねえ! 私達が散々暴れたから、いまさら魔力蝗に襲われたところで今更感たっぷり♪ 冷静なままだし、なんならイベント報酬目当てで喜んでるし。既に私達は約一億人の戦力を確保できているってわけさ』


 人間は個ではなく群れで能力を発揮する種族。

 にゃんスマホによる支援を受けた上で、それでも五重の魔法陣程度の力が限界だったとしても、問題なし。

 その力は絶大。


 更に、ギャルゲーや乙女ゲームの召喚カード。

 カードゲーム会社社長さんの金木白狼くんによる、トレーディングカードゲームの力も取り込み済み。

 本人が直接戦えなくても、ゲーム能力による召喚戦闘が可能!


 今のこの世界は強い!

 そう、冗談抜きで終末、黙示録さえ乗り切れる力を!

 私は与えていたのである!


 褒めてくれてもいいよ?



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― 新着の感想 ―
[良い点] あらあら((o(^∇^)o)) ソシャゲの影響でイナゴ君?が狩られまくっていますね!Σ( ̄□ ̄;) まさかのケトス様の幸運補正か?(^o^)v [一言] 確かレイヴァン兄さんは冥界でな…
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