聖剣ガチャ対決 ~ランダムとかギャンブル要素は怖い~その2
地底王国の特設コロシアムで開始された聖剣召喚対決。
カグヤと名乗った長ウサギと、この私――。
大魔帝ケトスとの聖剣をめぐる戦いが、いま始まったのである!
まあ、ショーみたいなもんですけどね。
実際。
コロシアムに集うモフモフうさぎ達は、ビールや焼き串を手にわんやわんや♪
とっても楽しそうである。
周囲の熱気に応えるように、長――カグヤうさぎが、ふふん♪
ウサギ足でコロシアムステージを叩き。
ぎゅぃぃぃぃぃぃいいぃぃん!
ルーン文字による魔法陣を展開!
回転する青白い魔術文字の中。
魔力波動に照らされ靡くのは、白もふもふ毛。
長ウサギさんの赤い瞳が、地底王国の特設コロシアムで煌々と輝く。
「ドウェルグ族の長! カグヤ! いざ、参る!」
『くくく、くははははは! さあ! 我に挑戦する勇気ある者よ! そなたの聖剣クリエイト、存分に観察してやろう!』
相手の空気にあわせて私もニヒイ!
ひじ掛けに置いたモフ手で、斜に構え!
玉座の上から、不遜なる王者スマイル!
エンターテイメントを心得ているのだろう。
カグヤ兎はザザっと顕現させた魔力扇を掴み、バサ!
扇を開き華麗に宣言。
「妾の華麗なるクリエイトに酔いしれるが良い! 魔力――解放じゃ!」
乱れる世界の法則。
書き換えられる物理法則をネコの瞳が、じぃぃぃぃ。
魔術式を読み取る私の両目が、ルーン文字の青色を反射していた。
「舞い乱れる無限の楼閣。万里は成った! 妾はカグヤ、ドウェルグ族の長にして終わりを受け入れる種の巫女! いざ、いざいざいざ! 火金は代価。求めるは汝の記録! 悠久なる果ての可能性を引き寄せるモノ也や!」
魔法陣の中央に浮かび上がる錬金素材。
火金石が虹の輝きを放ち割れる。
魔術が発動したのだろう。
フォォォォン! シュン! キュインキュインキュイン!
螺旋を描くのは、割れた虹色の欠片。
ルーン文字の魔法陣から、神々しい輝きが発生する。
……。
これどう見てもゲームのガチャ演出だよね?
まあパチンコの演出にも似ているのかもしれないが……。
幸運値の高い私がパチンコをやると、どの台も常にフィーバーになって出禁になっちゃうから……。
あんまり詳しくないんだよね。
ともあれガチャ演出は相応に派手。
観客たちが、うずうずウササササ!
はやーく! はやーく!
何が出る! 何が出る!
手拍子と共に、カグヤ兎のガチャ魔術を見守っている。
私も結果が楽しみで、目をギンギラギン!
ぶわぶわモコモコ!
モフ毛を膨らませてワクワクドキドキ!
異界の職人による、まだ見ぬ武器制作。
きっと私も知らない武器が顕現される事だろう!
玉座の上から身を乗り出す私の目の前で、今。
聖剣が完成した!
火金石の虹の輝きが再集結し、生まれた――剣が、術者の手に戻っていく。
長ウサギ、カグヤの手にあるのは神々しい輝き。
分厚い二層の魔力が滾った、一本の細い聖剣だった。
その材質は樹か。
樹といっても馬鹿にしてはいけない。
北欧に伝わる多くの木材から生まれし武器――あの地の神話伝承では確かに、樹や芽が強力な魔力をもっている。
聖剣に分類される場合も多いのだ。
「おーっほっほっほ! どう、みなさん! 妾の召喚は大成功ですわ! 稀少度は最高値! 御覧なさい、この魔力! この覇気! 剣としても杖としても使える、異世界の武器でありましょう!」
観客たちがごくりと息を呑む。
職人魂を持つ彼らには、あの聖剣の価値が分かるのだろう。
私に歓声を上げていたお姉ちゃんウサギたちも、職人としてのスキルはもっているのか、新たに生まれた聖剣に目を奪われている。
私もその聖剣に目をやって、頬をぽりぽり。
実は、ヒナタくんもカーマイン君も頬をぽりぽりしている。
形状の細いその聖剣は――白樺の樹を加工され生まれいでたのだろう。
分厚い二層の魔力はおそらく……ソーセージと、カリっと揚げた小麦粉の層を再現した魔力。
そう、これは――。
考えを頭に浮かべる前に、カグヤ兎が鑑定の魔術を発動!
ウサササササ!
観客たちに見せるように聖剣を掲げて、朗々と宣言する。
「皆のモノ、聞くが良い! これこそが異世界の邪神が一時期愛用し、魂を吹き込んだとされる武器。聖杖剣アメリカンドッガー!」
あぁ……、これ。やっぱり。
前の事件の時に私が使っていた杖……というか。
コンビニで買って貰ったアメリカンドッグの……。
串の、コピーだよねえ……。
食べ終えた串で、異能力者集団と戦っていたことを思い出して欲しい。
アレである。
聖杖剣になっちゃってるよ、あれ。
私が使用していた事で、世界に聖杖として登録されてしまったのだろうが――。
そういや。
パリイ用の剣としても華麗に使ったから、聖剣カテゴリーにも含まれてるのか。
世界に聖なる武器かつ、大魔帝の装備品として登録されたことで能力が大幅上昇。
かなりの上級武器になっているようだが。
まだ見ぬ聖剣を期待していた私としては、かなり複雑なのである。
鑑定の魔力が会場中から膨らむ。
このウサギたちは皆、鑑定の魔術が扱えるのだろう。
大歓声が上がる中。
ヒナタくんとカーマイン君が、なぜか私を睨む。
あの二人……勘が鋭いな。
串が聖剣登録される事となった、あの事件をちゃんと知らないくせに、犯人が私であると気付いているようである。
そんな私の複雑な心に気付かず、ウサギさんがぴょんぴょん跳ねて。
ドドドド、ドヤアァァァア!
褒めよ褒めよ! と、ウサギのドヤ顔である。
「どうじゃ、見たか! 妾の実力を!」
『まあ、君が異界の聖剣を召喚した事は見た。み、見事じゃないか!』
さて、次は私の番なのだが。
ふと偉い私は眉間にシワをよせ考え、言葉を口にする。
『ねえねえ、この制作バトルで作られた聖剣の所持者って誰になるんだい? 装備者ってことじゃなくて、所有権って意味で』
「ん? ああ、魔術を発動させたものになるぞ? このアメリカンドッガーならば妾のモノとなり自由に販売も可能。おぬしが呼んだ聖剣はおぬしに所有権が発生する。材料費である火金石分の代金を寄こせ! などというセコイ事はせんから安心せよ」
ほほう!
それを聞いた私の影が、チェシャ猫スマイルを浮かべる。
『あともう一つ、もし引き分けになった場合は?』
「引き分けなどあるわけなかろう? ほぼ無限ともいえる可能性の中から、性能で自動勝敗判定される聖剣をランダムに呼ぶのじゃ。可能性は億に一つしかあるまい」
『はははは、そうだね。だからもしもの話さ』
言われて長ウサギかぐやは考えて。
「そうなった場合はもう一回じゃな。火金石にはまだまだ在庫がある。貴重な品ではあるが、この魔術が扱えるドウェルグ族はあまりおらん。余っているといえば余っているのじゃ」
『なるほど、ありがとう。じゃあ決着がつくまで何度でも、いいんだね』
告げた私は玉座を浮かべて。
『それでは私の番だ! 者ども! 心してみるが良い、我が魔力の本領を!』
私も魔術式を構築。
十重の魔法陣を展開し――玉座の上からニヒイ!
地面からの赤と黒の魔力波動で、私のネコ顔がイイ感じにライトアップされているのだ!
『我こそがケトス。大邪神ケトス! 異世界の魔猫王である!』
猫目石の魔杖をぐぎぎぎぎぎっと取り出すと。
会場の空気が、緊張でざわめく。
優秀な職人たちですら、おそらく――この魔杖を鑑定することができないのだろう。
「な、なんという魔力……じゃっ」
「カグヤ様! こちらへ!」
カーマイン君が長うさぎを保護する中。
私の魔力は荒れ狂い、地底王国の天井を衝く。
それはさながら玉座に座るラスボスが、世界に干渉する邪悪な姿。
私!
イイ感じでモフモフに輝いているし! 舞台の上で、とっても目立っている!
荒れる大地に構わず私は、詠唱にアレンジを加え――。
儀式を開始。
『集え。我が魔力に惹かれし久遠の未来よ。我、大魔帝ケトスが汝に命ずる。従え――従え、従え! くくく、くはははははははは!』
魔術式を改竄し、方向性を変え。
術式偽称。
あくまでも同じ魔術のカテゴリーとして、世界に再認定させ。
『生まれ、集いて、我が手に下るがいい! 邪より生まれし者よ!』
ザザザザ、ザァアアアアアアアアァッァァァア!
そして、その聖剣が顕現した。
生まれいでた聖剣が、私の手に握られていた。
その名も聖杖剣フランクフリッター。
フランクフルトソーセージの串が、とある魔猫邪神……。
というか、私の手によって神格武器化された、剣にも杖にも使える神器である。
強いには強いが、まあ性能はそこそこの最上位装備止まりだろう。
ヒナタくんが眉を跳ねさせる。
私の意図が読めないのだろう。
なぜならこれは――。
現状で理解できている者はいない。
私の影だけが――悪戯ネコの顔をして、ぐははははははは!
玉座の上から、斜に構える私。
とってもかわいいね?
ともあれ、これでは話が進まない。呆然としている長ウサギくんに問う。
『さあ、判定はどうなっているかな?』
「そ、そうであったな! 皆のモノ! 今、ここに聖剣制作バトルの勝者が決定するのじゃ! 心して待つが良い!」
儀式による自動判定が終わったのだろう。
その結果は――。
「ひ、引きわけじゃと!」
『おや、残念。たしか引き分けならもう一回だったね。さあ、魔術を使い給え。私に次の聖剣をみせておくれ』
会場もショーがもう一度、見られるのかと、再び湧き上がる。
そして。
勝負は再開された。
◇
あれから三時間ほどが過ぎていた。
まだ勝負は終わっていない。
カグヤ兎が召喚したのは、爪楊枝から生み出された聖突剣バンブーニードル。
カーマイン君にレンタルした聖剣と同等の性能を持つ聖剣である。
会場が熱狂する中。
次に私が召喚したのは、たこ焼きの爪楊枝から生み出された聖突剣バンブースラッシャー。
勝利の判定は引き分け。
次も引き分け。
その次も引き分け。
次第に、会場が静まり返っていく。
そう。
当然これも私の悪戯。
ウサギさんが召喚する様々な聖剣、それらの神器とまったく同じ性能の聖剣を狙って召喚し続け――遅延。
引き分けを強制しつづけているのだ。
もう誰もが分かっているだろう。
この私。
大魔帝ケトスが、狙った装備を寸分たがわぬほどの精度で――召喚し続けていると。
それがどれほどの研鑽か。
どれほどのクリエイト能力か。
どれほどの頂にある技術なのか――。
職人であるからこそ彼らは声を失っているのだ。
まあ、見た目が判定に影響するのなら不可能だったのだが、あくまでも性能だけを見る儀式。
だからこうやって無限ループができるのだ。
会場に積まれていく聖剣の山を見て、長ウサギが――ぐぬぬぬぬ!
「きさまぁぁぁぁ! さては、魔術式を改竄し、望む結果を得られるようにアレンジしおったな!」
『さて、なんのことだろうか? 魔術式の改竄がダメだっていうルールはなかったし、あくまでも私は勝負の範囲内で行動をしているだけだ。問題ないだろう?』
どんどんと聖剣で埋まっていくアイテム所持欄を眺め、私はニヒィ!
「問題おおありじゃ! とっとと終わらせて貰わんと、火金石の在庫がなくなってしまうではないか!」
『引き分けなんだから仕方ないだろう? これもルールさ』
必殺!
ルールの隙間を利用して、無限アイテム稼ぎの術!
この会場は、今やちょっとした神器宝庫状態。
神と戦争できるほどの武器で埋まっている。
会場で見ていたヒナタくんが大あくびをしながら、声を上げる。
「ちょっとー! ケトスっちー! あたしー! そろそろ眠くなっちゃったんですけどー!? もういいんじゃないー? なにか食べに行きましょうよー!」
『ああ、それもそうだね。さてこれでまた運命も変わっただろうし、こんなもんでいいか』
言って私は、指をパチン!
最後の火金石を浮かべて、後光を纏うように玉座の上でギラギラギン!
虹の輝きを放つ。
「って! ケトスっち! あんた、なにするつもりなのよ!?」
『どうせだったらそろそろこの世界の神に、宣戦布告をしようと思っていてね。さて、ドウェルグ族の諸君には悪いが――君達は今からこの世界の住人ではなくなる。拒否権はないよ? 逆らっても無駄だって、もう分かっているだろう?』
世界に悲鳴が上がる。
私の荒ぶる魔力に撫でられた大地が、断末魔に近い叫びを上げているのだ。
例のロリコン神による支配、その上書きである。
『いでよ、聖剣――ランダム召喚』
この地底王国を主神の支配地域から独立させたのだ。
そして。
私のランダム聖剣召喚が発動する。
今度はなんの仕掛けもしていない、本当のランダム召喚。
私があの石から作れる中からランダムで、聖剣が召喚される。
そしてそれは私の幸運値の影響を受け、もっとも状況にふさわしい剣が顕現するだろう。
ギジャァアアアアアアアアアアアアアアァァァァァ!
空間が割れ、時空が乱れる。
強大な勇者であるヒナタくんには、その魔力の乱れが見えるのだろう。
黒髪を靡かせて、防御結界をウサギ全体に張りながら叫ぶ。
「だぁああああああああああああああぁぁぁぁ! なんて魔力を放ってるのよ! あんた!? この世界を壊す気!」
『その逆さ。少なくともこのウサギたちは気に入った、ちょっとだけ手を貸してあげるってだけさ! 破片が飛んでくるかもしれないから、そのまま防御結界を維持しておくれ』
言って私は玉座の上から、ふふん!
天から地上に矢を落とすように、肉球をバンと下ろす。
ヒナタくんの未来視が発動。
「な、なによ……地下だからよく見えないけど……空からなにかが、降ってくる? いえ、これはむしろ……地下から天に昇ってる、のかしら」
『ご名答。私が顕現させたのは邪聖剣エデン。剣の形をした天空城だよ』
そう。
私はこの地底王国を取り込む形で天空剣を召喚。
神から独立した世界として、空に浮かべたのである。
見た目はまんま、空飛ぶ楽園。
ファンタジーなゲームにでてくる天空の城だろう。
その内部にこの空間があるのだ。
当然。
いきなりの超展開にウサギさん達は動揺しているが。
その動揺はけして、悪い意味での動揺ではない。
『さあ、勝負は私の勝ちだ! ドウェルグ族よ、我が魔導とスキルを知りたくはないか! 我が叡智と技術を得たくはないか! 君達を私は歓迎しよう! 我こそはケトス、異世界の魔! 異界で栄える魔城、魔王軍の最高幹部にして大魔術師! 大魔帝ケトスとは私の事である!』
ようするに。
もふもふ技術者の求人募集である。
既に彼らは私の技を見ている。
好奇心の塊で、欲に忠実な彼らにはきっと――私の提案が輝いて見えているだろう。
長ウサギであるカグヤも、ニヒィっと赤い瞳をギラギラギラ。
会場のウサギさんも、ギラギラギラ!
『さて、そんなわけで。私は異界の大邪神で、君達を種族ごとスカウトしたいわけだけど――どうかな?』
「分かっている答えを返す必要などありましょうか?」
長ウサギは、主を仰ぐように跪き。
すぅっと優雅に宣言する。
「どうぞ、我等をお使いくださいませ。知識欲と技術欲を満たす世界がある限り、我等はけして裏切りません。良いですね、皆のモノ! これは決定事項です!」
当然、欲に忠実な……。
良くも悪くも――言ってしまえば自分勝手な彼らには、この世界の事なんて関係ないのだろう。
既に新しい大地に大喚起!
もふもふモコモコの宴会を開こうとしている彼らを眺めて、私は――。
ニャハハハハハ!
よーし! 魔王様へのもふもふお土産と、技術スタッフをゲット!
ついでに滅ぶかもしれない世界から救った訳だから、これはあくまでも善行!
私は一切、悪くない! むしろ、正義の味方ムーヴ!
「ケートス様!」
「ケートス様!」
ウサギさん達からの声を受けて、私は玉座の上から肉球を振る。
この日。
この時間――ドウェルグ族の地底王国はこの世界から独立した。
いや、狙って天空城になる聖剣を召喚したならランダムじゃないじゃん。
と。
空に浮かんだ地底王国で、ヒナタくんがぼそっと呟いたが、気にしない!
頬をヒクつかせるカーマイン君が、こんな妄想扱いされそうな話、主にどう報告したら――と、ペチン……。
自らの眉間を騎士の手で覆って、項垂れていたが。
気にしない!
世界はまた、大きく変動し始めていた。
さて、エルフの女王はどう動くか――。
ちょっと観察してみるかな。