聖剣ガチャ対決 ~ランダムとかギャンブル要素は怖い~その1
これは聖剣制作バトルの宣言を受けてから、三日後の話。
ドワーフラビットそっくりなドウェルグ族の棲み処。
地底王国。
ウサギたちの楽園はいつのまにか、お祭り状態になっていた。
いやあ、ほんと。
まさかドワーフっぽいおっさんを想像していたら、ドワーフはドワーフでもドワーフラビットだったとはねえ。
この大魔帝ケトスの叡智をもってしても、想像していなかったのである。
ヒナタくんもカーマイン君も知っていたっぽいから。
私だけ知らなかったようだが。
ともあれ!
勝負を申し込まれた後はもう大変。
欲に忠実なあのもふもふウサギっ子どもは、こういう行事も大好きなようで。
赤い瞳を輝かせた住人達が、聖剣対決を聞きつけ大喜び。
異界の魔猫と長うさぎとのクリエイト対決だと!
ウッサー! 祭りじゃ祭りじゃ!
会場を作れー!
――と、大興奮。職人魂に火がついたのか、一夜にして聖剣対決用コロシアムを建設。
二日目でチケット販売と宣伝。
んで、本日三日目にもうコロシアムでの勝負が開催されているのだ。
私は舞台の上から、ネコの顔をきょろきょろ!
周囲をちらり!
囲む観客たちの熱気がすごい! これ、どこからどう見ても対決ショーだよね……?
ウサギさんの集う闘技場内部には、多くのグルメ露店の煙が舞っている。
ま、闘技場といっても戦闘するわけじゃない。
これからここで、聖剣を制作するのだから。
ほぼ全てが職人クラスのウサギたちは、わくわくウサウサ♪
モフ毛をぶわっ♪
本当にこの対決を楽しみにしているようである。
ウサギさんのモフモフ天国会場になっているので、もし魔王様がご覧になっていたなら大喜びだろう。
私も露店が楽しみなので!
早く終わらせてグルメ巡りをしよう!
さて私も魔王軍を代表する素敵ニャンコ。
こういう観客を沸かすエンターテイメントは心得ている。
ちょっと大げさに尻尾を揺らし、ふふーんとウサギ共に向かって宣言してやる!
『というわけで、異界より顕現せし素敵ネコ魔獣、ケトス! ドウェルグ族の長、君との対決を受け入れようじゃないか!』
会場に埋まっているモフモフうさぎ達が、ビールを片手に歓声を上げる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ!
揺れる会場と盛り上がる空気の中、ぴょんピョコピョンとやってきたのは例のウサギさん。
従者を連れて顕現する姿は、まるでかぐや姫。
まあ、ウサギなんですけどね。
白もこもこな獣毛を靡かせ、ウサギさんが赤い瞳を輝かせる。
そして、朗々と宣言した。
「よぉぉぉく聞け、皆のモノ! 妾は今宵! ……いや、夜ではないが。とーもーあーれー! ドウェルグ族の長、カグヤの名のモトに宣言する!」
ビシっとウサギ手を突き出し。
ふわふわな口元をモゴモゴモゴ!
「今ここに! 聖剣制作バトルを開催する!」
「うぉおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉ!」
「カグヤさまぁぁぁぁぁ!」
会場から拍手が鳴り響く。
ちなみに――ヒナタくんも出店の串焼きを食べながら、観客席でウサギを抱っこし見物中。
本当は舞台に呼んだのだが――。
女神ヒナタとバレるのが嫌だったらしい。
ここは女神信仰という文化がないらしいので平穏だが、エルフの国では違う。
女神ヒナタ信仰の狂信度が、かなりやばい事になっているらしい……。噴水の像から教会の像。果てはご家庭の十字架代わりに、女神ヒナタ像が飾られているほどらしいからね。
そりゃ、バレたくはないか。
更にちなみに――カーマイン君は舞台の端っこで、頬をポリポリ。
私やヒナタくんに振り回されているせいだろうか。
回数の多くなっているため息を漏らす。
「なぜわたしも巻き込まれているのでしょうか……」
他人事みたいに愚痴るマネキンフェイス。
フード付きマントで顔を覆うカーマインくんを、ネコとウサギさんがジロりと睨み。
モフモフな手で、二匹の獣がビシ!
『そりゃあ、君の新たな聖剣を作り出すのが勝負の内容なんだから。当然だろう!』
「そもそも! カーマイン! そなたが妾の作りし聖剣を所持しながらも、負け! あまつさえ奪い取られた! それが全ての始まりであろう!」
ダブルの獣に突っ込まれて、はい……と素直に反省を示す。
うむ、よろしい。
会場の女性ウサギさんから好機の目線を受けているが、まあカーマイン君だから問題なし!
長ウサギさんがふふんと耳を跳ねさせ。
勝負師の顔で紅い目を輝かせる。
「ケトスとやら! 勝負の方法は分かっておるな!」
対する私は召喚した玉座に座り――スゥっと瞳を閉じ。
カカカ!
開眼した、ドヤ顔で言ってやるのである。
『ああ、ぜんぜん分からない!』
「え? いや、そこまで言い切られるといっそ清々しいが。まあよい! このまま対決を開始しようと思うておったのじゃが、そなたは異界……いやヴァージニア伯爵の使者ということだったな!」
どうやら私の正体を知っているくせに。
あくまでもミドガルズ大陸からの来訪者と、公には伝えるようである。
『ああ、たしかに私はミドガルズ大陸からやってきた。それも間違いではないよ』
「そうであろう! 異国の使者殿なら知らずとも当然である! 皆のモノ、この御仁を無知と笑うでないぞ! この魔猫を嘲笑するモノは、妾の名のもと! お尻ペンペンの刑になると知れ!」
無垢そうな顔のウサギさん達の一部が――。
純粋そうな顔でゲスい声を出し。
げへへへへ……それはそれでご褒美ですなあ、と微妙に特殊な趣味の話をしているが。
ともあれ。
長ウサギはこほんと息を吐き。
会場にも聞こえる声で言う。
「勝負の方法は簡単じゃ! ケトスよ、おぬし! 聖剣制作バトルに必要な、クリエイトスキルを知っておるか?」
『まったくだね』
「いや、二日ぐらいは暇があったんじゃろうから、調べようとは思わなかったのか?」
ふふーんと胸を張り、私は邪悪な顔で。
ニヤリ♪
『だって私は、この地底王国のグルメ巡りで忙しかったからね!』
じゅるりとヨダレを垂らし。
言い切ってやった私に、観客から黄色い声援が上がる。
「な、なんじゃこれは!?」
『言っただろう? この私がグルメ巡りをしたんだ、あとはもう語らずとも分かるだろう?』
そう。
既にここはアウェイではない! 私にも味方がいるのだ!
魅力値が限界突破をしているこの私が、グルメ巡りをしたのだ。露店のウサギお姉ちゃんから、老舗お団子屋のおばあちゃんの心までガッツリゲット!
観客席から、ウサギ婦人たちの声が響く。
「ケトスさまぁ! またウチのお餅を食べに来てくださいねえ!」
「小娘ウサギがなにをいう! あの子はウチの常連にするんだよ! あれほど豪快に、海を飲み込むほどに美味そうにお団子を喰らう魔猫はおらん! なあ、ケトスちゃんよ!」
「あらあら、ケトス殿下はわたくしのキャロットケーキを最も美味しそうに食べてくださった方。こればっかりは譲れませんわ」
次々と上がる女性ウサギの歓声。
ハートすら飛ばしてくる彼らのラブコールに、私は肉球を振って応えてやる。
『君達の料理はとても美味しかった。この勝負の勝利を土産に、また遊びに行くよ。必ずね』
そして私は、ふっと魔性の笑み。
「キャー! ケトス様がこちらにモフ手を振ってくださったわ!」
「ワシに振ってくださったのじゃ!」
「まあまあ、わたくしの愛が伝わっているのでしょうねえ。一番長く見てくださいましたわ」
周囲のオスウサギ共が何故か引き気味である。
あんな美人さんや、子供から婆さんまで誑かすとは、こいつやべえな……なんて声も聞こえるが。
仕方ないよね。
私はただ散歩をするだけで、他者を魅了してしまうからね。
「お、おぬし……たった二日ぐらい? で、あれほどの有名ウサギを誘惑しおったのか? 我等ドウェルグ族よりも手が早いとは……。あのバカオス共が引いているのは相当じゃぞ? 妾も、ちょっと引いておるし……」
『誘惑とは人聞きの悪い。私はただ、美味しくご飯を食べた。それだけだよ』
さて、こんな見世物をしている場合じゃない。
ふうっと息を吐き。
キリリ!
シリアスモードに切り替え、紳士口調で言葉を紡ぎ出す。
『聖剣を作成可能なスキルは所持している。けれどそちらの大陸での聖剣の在り方を私は知らないからね、教えてくれるとありがたい』
しかも! 魔王軍最高幹部の声音で告げてやったのだ!
むろん、演出というヤツだ。
長ウサギもまるで悪の女帝の声で、ビシ!
「おう! そうであった! そなたの女誑しに感心している場合ではなかった! では心して聞くが良い! 此度の勝負、聖剣制作バトルで定められている聖剣クリエイトのスキルは、この魔石を核として行う、召喚儀式!」
言ってウサギが亜空間領域から取り出したのは、虹色に輝く鉱石。
鑑定結果は――アイテム名:火金石。
北欧神話における主神の息子、軍神テュール。そして同じく、北欧神話における愛と美の女神フレイアの力を宿した石。
錬金素材アイテムである。
『なるほど、これで術者の鍛冶技量に応じた聖剣が自動生成されるってわけか』
「ウササササササ! その通り! まさか一からカンカントントン、ここで数か月も鍛冶スキルを行う地味~な作業を、観客に見せるわけにはいかぬしな! 勝負の判定は厳正。生み出された聖剣の武器性能や特殊効果の付属量など、性能面が総合的に判断され自動判定される」
私は魔術式を読み取り、更に問う。
『見た目や味などは、判定対象外と思っていいのかな?』
「お、おう……味とな? おぬしはちと……目の付け所がクレイジーな気もするが、まあ良い! その通り、あくまでも性能のみ! 前に開かれた聖剣バトルでは、とぐろを巻く蛇の聖剣が召喚され……その刀身も赤茶だったものだから……見た目がうむ。エルフや亜人種のアレに見えても勝利した、なんて事件もあったからな!」
それはドウェルグ族たちの記憶にも新しいのか。
ものすっごい顔をして、ウサギたちは眉間に濃い皺を刻んでいる。
「なにしろ、術者の力量を読み取り作成可能な範囲を把握。そこから自動で……いわばランダムで召喚生成されるからのう……見た目がアレな剣が生まれてしまっても仕方ないのじゃ」
使用素材から生み出せる剣に限定されるが――。
術者がその石から作れるものなら、なんでも出てくる可能性がある魔術――か。
軽く言ってはいるものの、この魔術。
実用性はそれなり以上に高い。
注目するべき点は、やはり速度か。
『なるほどね。つまりこのクリエイト魔術は戦争時に生まれたモノ。ランダムになるとはいえ……それなりの術者が使用すれば、効果は絶大。本来なら数日、数か月、数年単位でかかる筈の鍛冶の時間を大幅に短縮できる。極めて高速な聖剣作成が可能になるわけだ』
素材と魔術式と術者。
三つが揃っているのなら、後は運しだい。
石がなくなるまでに限られるが、魔力剣を一瞬で作り続ける事が可能なのだから。
かわいい見た目に騙されてしまうが。
このウサギたちはかなり危険な存在だ。
こんな魔術を編み出せる時点で確定、天才集団なのである。
『君達、エルフがあまり好きじゃないんだね? これだけできるのに、あまり力を貸していないなんて――いつかエルフの女王様とやらに、この王国自体が狙われるんじゃないかな?』
魔王軍最高幹部の顔で指摘すると。
長ウサギは白い体毛を膨らませ、感嘆とした息を漏らす。
「ほお! そこまで読めるとは! ならば敢えてこれ以上は語るまい! いつ終わるかも分からぬこの世界に、せめて道楽の火を灯しておくれ!」
いっそのこと聖騎士カーマイン君に渡す聖剣もこれで解決!
済ませてしまおうかと思っていたのだが――。
これは使用者にあわせてカスタマイズするオートクチュールな聖剣とは、正反対。さすがにこの対決で生まれた聖剣で済ますのは無理である。
そもそもランダム要素がある時点で――。
『まあ、ガチャみたいなもんだよね……』
「ガチャとな?」
『ああ、気にしないでおくれ。ルールは理解できた。それで先行後行はどうする? それとも同時にやった方がいいのかな』
ウサギさんが口元をモサモサさせて。
ピョコンと跳ねながら言う。
「ふむ――先行はこちらじゃ! ます妾が見本をみせよう。先にものすっごい雅な聖剣を作成し、そなたの度肝を抜かせてくれようぞ!」
『構わないよ。さあ、私に見せておくれ――異国の地の聖剣クリエイトをね!』
ここで演出の花火をひとつまみ!
いやあ、観客もいるし、やっぱり盛り上げるのが出演者の務めだよね!
にらみ合うネコとウサギ。
その間に挟まれ、肩身を狭そうにする聖騎士ヴァンパイアのカーマイン君。
それを見守るモフモフうさぎ!
バトル開始の空気を察したのだろう。
地底王国のウサギが全員、ひときわ大きな歓声を上げる。
ドドドドドドドド!
興奮によるウサギの本能が、脚でバンバンと床を叩かせるのだろう。
轟く地鳴りは大地を揺らし。
大陸全体に、その存在感をアピールし始めていた。
奔放な種族ドウェルグ族。
その性格の影響か――ここには今、全てのウサギが集まっている。
だからこその、この大規模な振動なのだろうが――。
それもまた、色々と都合がいい。
この大陸で暗躍している者は、必ず動きを見せる筈。
大規模な振動と魔力に、気付かぬ筈がない。
動くのは魔竜かエルフか、それとも……。
とりあえず、私は――魔術式を読み取りながら玉座でふふーん!
長ウサギの聖剣クリエイトを眺める事にした。