伯爵の罠 ~喰らう魔猫~
荒野に咲くのは薔薇の形にも似た、一輪の城。
とある大魔族の反撃により半壊していた古き居城――。
ヴァージニア城である。
半壊の名残をみせぬその内装は、絢爛豪奢。
もっとも。
それは闇に生きるモノにとっての豪奢さであったが。
ともあれ――。
魔力灯りが輝く城内を歩く影は、三つ。
ネコと女子高生と聖騎士である。
古風な城内の廊下――深紅の絨毯を堂々と歩く私、素敵魔族ニャンコな大魔帝ケトスは周囲をニャハ~っと見渡していた。
魔術強化ガラスの窓を、ざざざざざ。
横殴りの雨が叩いているのだが。
はて……。
荒野となった城外で雷雨が発生しているのだろうか。
一度、崩壊した城だったせいで食事の準備には時間がかかる。
なのでひとまず。
貴賓室に案内される事となったのだが……。
ま、実際の所は違うだろう。
時間を稼いでいるうちに、緊急会議。
伯爵さまや重鎮たちが知恵を寄せ合い、私やヒナタ君を説得する算段を立てている――といった所か。
『へえ、本当にヴァンパイア、闇の眷属が好むシックな内装になっているんだね』
呟く私のネコ貌を、カカカカカ!
雷の光が照らす。
稲光が走る度に、古典的なガーゴイル像も煌々と照らされていた。
連れの女子高生勇者ヒナタくんは、うわぁ……悪趣味と露骨に嫌そうな顔をし。
「あいかわらず趣味悪いわねえ。ホラー映画じゃないんだから、こんな気味の悪い城になんて住んでるんじゃないわよ」
げんなりと言う彼女に、私は教師としての声音で猫口を動かす。
『闇の防衛魔術としての役割もあるんだろうね。教会に十字架や神像が並んでいるのと同じ、一種の結界なのさ。ガーゴイル像に魔石を組み込み、魔力の流れを阻害する魔術陣を配置するって手もあるしね』
「なるほどねえ、鬼門の方角に魔除けを置くみたいなもんなのかしら」
共に廊下を歩く青年。
案内役でもある紅の聖騎士カーマインくんに、私は静かに問いかける。
『ところでカーマイン君。さっきまで晴れてたのに、なんでこんな急に天候が荒れたんだい? そういう世界なのかな』
フードを深く被った黒髪赤目の騎士。
カーマインくんが、マネキンのような顔立ちのまま薄い唇を、ぼそり。
冷たく動かしていた。
「陛下が雨を降らせていらっしゃるのですよ。伝承にある吸血鬼ほどではありませんが……我等は日光に弱いモノですから――陽射しが強くなる時間帯になるとこうやって、天候を操り光を隠してくださるのです」
まるで騎士のような声でいう彼の背に向かい。
ニャンコな私と女子高生勇者ヒナタ君のジト目が、じぃぃぃぃ。
「ねえ、カーマイン君。あんたさあ、なんでそんなクールキャラに戻ろうとしてるの?」
「戻るもなにも、わたしは最初から冷静ですが?」
こいつ。
元の世界に戻ったのと、吸血鬼としての主の近くにいるせいか。気が強くなってやがるのか?
『ネコ魔獣秘儀! 聖剣窃盗!』
「あぁああぁぁぁぁぁっぁ! な、なにをするんですか! わ、わたしのバンブーニードルを返してください!」
聖剣を取り上げた私は、彼のお澄ましマネキン顔をニヤリとみる。
『伯爵さまとのお食事会の前に、ちょっと色々と質問をさせて貰いたくてね。ちゃんと質問に答えてくれたら返すから、まあ安心しておくれよ』
すでに禁断症状がでているのだろう。
カーマイン君は、ダンジョン領域日本にいた時のような聖剣中毒状態に戻り。
あわわわわわ。
「そ、そんな! 酷いですよ! わ、わわわわ、わたしは、聖剣が手元にないと、不安で……!」
『だいたい、君が情報をちゃんと伝えてくれなかったせいだろう。今回は猫モードで移動してきたからいいけど、もし人型モードでこの世界に顕現していたら――今頃私は、大量ヴァンパイア殺戮犯になっていたんだからね?』
忠告をした後。
私は神父服の裾から猫手を伸ばし、肉球で掴んでいた聖剣を返してやる。
「それは確かに……す、すみません」
『まあ、君達にとっては吸血鬼であることが普通なんだから。あえて言わなかった――その理屈も分かるけどね。助力を願って異世界転移してきたんだろう? だったらもう少し、君からの歩み寄りもあった方が良かっただろうね』
実際、彼は他の勇者のスカウトには失敗しているのだ。
この世界の存在は、異世界人に対する理解――そして、他人の文化を理解しようとする努力に欠けている印象がある。
まあ、まだ表面を見ただけなので断言はしないが。
思考と共にモフ毛を揺らし、バリバリバリと思わず絨毯で爪とぎをしてしまう私を見て。
カーマイン君がジト目で言う。
「とりあえず、部屋に入りましょう。誰が聞いているかもわかりませんし……なにより、廊下で進める話でもないでしょう。それと……新しい聖剣、よろしくお願いしますね」
『君が契約を破らない限りは、私も約束を果たそう。それが魔族との契約ってもんさ、安心してくれていいよ』
中に入ったら結界で密談空間を作りましょう。
そう言いながら周囲をちらりと見る紅の聖騎士カーマインくん。
私もヒナタ君も頷いた。
そして。
扉を開けるとそこには――何故かフード騎士達の群れが広がっていた。
◇
目の前に広がるのは霧の世界。
ネコの鼻を、濃い雨土の匂いが揺らしていた。
ヴァンパイアが得意とする、闇と霧による世界構築だろう。
雷雨が響く、ゴシックな古城空間に招かれていたのだ。
私がたまにやる影世界に相手を落とす。
あれと似たフィールド上書きである。
ガチャリ。
ガチャリ。
甲冑の音が鳴っている。
騎士の数は――六十人、ぐらいかな。
狼となっている者、蝙蝠となって空を舞っている者もいる。
肝心の伯爵さまの姿は……見えないな。
『カーマイン君、君に質問なのだが――君たちの世界では客人を出迎えるのに、聖剣を片手に襲ってくる。なーんていう習慣があるのかい?』
「あるわけないでしょう! いったい、なにごとですか!」
叫ぶカーマイン君の瞳が、血のように赤く染まる。
吸血鬼としての力を発揮できる空間だからだろう、ダンジョン領域日本にいた時よりは強くなっているようである。
と、いっても……本人には悪いが、まあ多少強くなったところで……と、いった程度だが。
私は、カーマイン君のお仲間たちに目をやった。
蠢く騎士の群れ。
彼らの紅き瞳は煌々と照っている。
威圧するような甲冑音は止まらない。
闇の騎士軍団を見る私達の耳に、声が届いた。
「ようこそ、我が空間へ。ヴァージニア城とは違う城ではありますが、多少の違いしかございません。本日はどうか、こちらの歓迎もお受けいただきたいのです、魔猫陛下」
ヴァージニア伯爵である。
私はスゥっと瞳を細める。
『説明をお願いできるかな?』
「大変申し訳ないのですが、部下達がどうしてもあなた方の力を知りたいと言い出しましてな。食事の準備を進めている間に、ひとつ余興をとなりまして。模擬戦を行っていただきたいのです。いやはや、ワタクシも心苦しいのですが……部下の心を尊重する、良い上司との評判を壊したくありませんのでな」
「陛下、おやめください!」
食ってかかったのは私やヒナタくんではなく、カーマイン君。
誰もいない空に向かい、彼は必死に訴えかける。
「あなたほどの方が、なぜこんな無謀な事を!」
「ふむ――いつもクールなお前ほどの騎士が声を荒らげるとは珍しいな。どうしたというのだ?」
客人に対して失礼。
ダンジョン領域日本でアルバイト生活をしていた彼には、そういう感覚が備わっているのかな。
「あなたはケトス様を知らないからそんなに落ち着いていられるのです! この方は、模擬戦と言っても何をしでかすか分からない。暴走大魔術師ネコ魔獣の、”あの”伝説の大魔帝ケトス様なのですよ!」
何気に失礼な言い方である。
当然、ヒナタくんが横で笑いをこらえて口を手で覆っている。
『一応、抗議してくれたカーマイン君に免じて、この場で消滅させるなんて不粋な事はしないでおくよ。で? 私達はまだ何の依頼も受けていない、この模擬戦の報酬を先に提示してくれないかな? なにも与えず、戦えっていうのは虫が良すぎるだろう?』
「報酬でありますか。ふむ、そうですねえ。この闇の眷属が強化されるフィールドは、自慢ではありますが効果は強力。ならばあなた方が、我らが騎士団に勝つことができた暁には――今後、このヴァージニア。いついかなる時も、ヒナタ様の味方となることを誓いましょう」
ヒナタくんが空から語る伯爵に唸る。
「って! あんた! 味方する気なかったのね!」
「言ったでありましょう? ワタクシは強い側の味方ですと。なにしろあなたの降臨を望み、なかば脅す形でワタクシにあなた様の身柄を要求してきたのは……他ならぬ神。この世界を混沌に陥れている張本人、主神様なのでございますから」
ネコの瞳が、ぎしりと歪む。
すると――。
この世界を崩壊させようとしている犯人は、例のロリコン神……ということだろうか。
そして、振られた腹いせにヒナタくんを再降臨させ、消滅させようとしているのか。
はたまた、再度求婚するつもりなのか。
なんにしても、世界を終わらせかけている時点で、主神失格である。
静かに私が唸る中。
事情を察したのだろう。ヒナタくんが、ゴゴゴゴゴゴと黒髪を逆立て。
クワッ!
「はあぁああああああああああぁぁ! おいコラ、このクソ商人伯爵! アンタ! またあたしを売るつもりだったのね! カーマイン! もしかして、知ってたんじゃないでしょうね!」
「誤解です! わたしは、世界を救えるのはかつて世界をお救いになられた伝承の英雄。滅亡の勇者ヒナタ様しかいないと……、そう陛下に言われて……っ」
カーマイン君を庇うように私が言う。
『彼が言っている事は本当さ。魔導契約は維持されているしね。それよりもだ』
言葉を区切り。
私は天に向かい、猫口を開く。
『ここにいる騎士達は全員、ふっ飛ばしちゃっても良いって事だね?』
「浄化されてしまったり、二度と戦えぬ身体にされてしまうのは困ります。なにしろ、模擬戦でございますから。いやはや、実に申し訳ない。とはいっても……これはあなた方を信用できない部下たちの願いでもあります故。なんとも、中間に挟まれたワタクシは心苦しい状況なので御座います」
こいつ。
あとでぜったいに肉球パンチを決めてやろう。
密かに決意する私に、ヒナタくんが言う。
「この世界の連中って、だいたいこんな感じなのよ。損得勘定に酷く敏感だし、排他的だし、なにより傲慢。あたしも召喚された時は、こんな小娘の勇者は信用できないって、さんざん嫌がらせを受けたからねえ。本当、見捨てて帰っちゃおうかしら」
『まあ、帰る帰らないは事情を聞いてからにしよう。話を聞く限り、この世界を滅ぼそうとしている神様とやらは、君が目当てなんだろうし……。君が元の世界に戻ったら、戻ったで――ダンジョン領域日本に攻め込んでくるかもしれないからね』
頷くヒナタくんが、聖剣を顕現させる。
カーマイン君も聖剣バンブーニードルを顕現させ、カシャ!
仲間であるはずのフード騎士達に向かい、突剣を翳す。
「わたしはヒナタさんに協力致します。よろしいですね、陛下」
「構わぬよ。ところで……その聖剣は――余の授けた聖剣、ドウェルグミキサーはどうしたというのだ?」
あ、やばい。
ビクっと身体を跳ねさせた私達三人は、全身に汗を浮かべる。
まさか。
聖剣を爪とぎにしちゃってるとは、思わないよねえ。
相手の騎士達が戦意の高揚と、そして闇フィールドに猛る吸血鬼の本能で、ニヤニヤとする中。
話を逸らすために、私の口が動いていた。
『模擬戦とはいえ――君たちと敵対するのならば、借り受けた聖剣を使用するのはマナー違反。それが彼の騎士道なのさ』
「そうね、それが騎士道ってモノなのよ。ネコと少女を集団で襲おうとするヘタれ騎士さん達と、その上司のドアホ伯爵には一生分からないでしょうね」
私とヒナタ君、そしてカーマインくん。
その心は一つ。
絶対に誤魔化しきってやる――。
聖剣爪とぎ事件を口にしたら、絶対に問題になる。
そんな強い志と瞳を受け、天の伯爵が感嘆とした声を漏らす。
「その強い連帯感。我等には欠けている協調性。なるほど、カーマイン。おまえは異界の地にて少し変わったのだな。よろしい、ならば見せてみるがいい。ヒナタ様。どうかワタクシに思い出させてください、あなたに庇うほどの価値があるのかどうか。本物の勇者なのかどうかを!」
伯爵の声が合図となり、模擬戦は開始された。
騎士達の瞳が赤く染まる。
フィールドの影響を受けて、大幅に能力向上をさせているのだ。
めきりめきり。
騎士達が、血に飢えた魔獣のように牙を尖らせる。
聖剣を握るその手も――異形なモノを彷彿とさせるほどに、巨大化していく。
狂戦士化の一種だろう。
「異界人どもめ、ここならばオマエタチとて敵ではない」
「ココは陛下の暗黒領域。そこの生意気なネコの浄化の光も届くまい」
「故にこそ。我々は貴公らを弄び、屠ろう。なに、殺しはしない――それでは神への供物がなくなってしまうからなあ」
ゲハハハハハと、哄笑が響く。
吸血鬼たちの白い肌。
その白の中に二つ、血のような赤い瞳が輝いている。
古城の外に広がっていた雷雨は、この特殊空間をつくるための仕掛けだったのかな。
その大きな性質は二つ。
聖なる属性の弱体化。
闇の眷属の強化。
つまり、最初からこちらをここで試すつもりだったのだ。
そして、目の前の彼らは聖属性弱体状態の私達には勝てる。
本気でそう思っているのだろう。
『うわあ……吸血鬼化が進むと、こうなっちゃうんだね。まあ一時的な影響だろうけど、ふむ……これは宣戦布告と受け取っても良いか。ヒナタくん、これさあ、私達が負けたらたぶん本気で君を神へ差し出すつもりらしいし。お仕置きも必要だよね? 消滅をさせるつもりはないけど――ちょっと痛めつけるぐらいには、やっちゃってもいいよね?』
「え、ええ……まあいいけど。む、無茶はしないでね?」
こんな時でも相手を心配してるでやんの。
まったく、お人好しが過ぎる。
◇
無茶はしないでね。
これは――そう少女が呟いてから、わずか五分後の出来事。
既に、戦いといえる戦いは終わっていた。
むしゃり、むしゃり。
歪な音が響く中――茫然と佇んでいたのは、紅の聖騎士カーマイン。
彼はこの光景をどんな感情で眺めていたのだろうか。
「こ、これは……」
私の横。
突聖剣を構えていた彼の口から、間抜けな声が漏れていた。
狼狽する彼の目の前には、私がいる。
大魔帝ケトス。
神父姿で佇むネコ――その影だけが、暴れているのだ。
全盛期のフォルムで蠢くその影が喰らうのは――騎士団の影。
ぶにゃはははははは!
敵を追い詰めながら、我が影が敵を喰らい屠り続ける。
てい!
てい!
ぶにゃははははははは!
大喜びで、じゃれているのだ。
ぶしゅぅぅうううううううううぅっぅぅう!
影の咢に潰された、騎士の影の頭から――魔力が散る。
魔力を喰らった影が、げぷぅ♪
『ククク、クハハハハハハハハ! 足らぬ、まだ足りぬ! 我の腹を満たす、臓物どもよ! さあ、逃げよ! 踊って、喚いて、精々我を楽しませてから散れ!』
いやあ、我が影ながらなんとも偉そうである。
もはや戦いとも言えないこれは、影のケモノによる食事ともいえるだろう。
蹂躙は止まらない。
まあ光景としては、逃げ惑う吸血鬼風の騎士さんたちを、追いかけ回し続ける巨大にゃんこ――である。
大食いにゃんこが暴れ続ける中。
景色は悲惨だが、こっちのネコと女子高生はのんびりと見学。
『そりゃ、聖なる属性を弱体化させたところで……闇属性を強化させちゃったら、こうなるよね』
「あー……なるほどねえ。ぷぷぷー! この騎士さん達、ケトスっちの事を――聖なる属性で戦うタイプのプリーストネコ魔獣だと勘違いしたのね!」
くははははははは! と、縦横無尽に影が暴れる戦場を見て、私とヒナタ君は大笑い。
『ねえねえ! どの騎士が最後まで残るか、賭ける?』
「いいわねえ、あたしはあのちょっと背の高いおじ様ヴァンパイアに賭けるわ!」
私達にとっては日常的な風景だが。
カーマイン君が、慌てた様子で言う。
「こ、これ本当に大丈夫なんですか? 殺さないみたいな話の流れだった筈ですけど」
『大丈夫さ。影を食べているだけだからね。彼らの魂は影ごと取り込まれて――私の夢世界、ドリームランドに幽閉されているだけだし。ちゃんと生きているよ。今頃、遊園地の清掃でも命令されてるんじゃないかな?』
まあ、長くいるとみんな猫になっちゃうけど。
……。
そん時はそん時ってことで!
ちなみに、彼らのリーダーが降伏を宣言したが。
私達は聞かなかったことにして、のんびりと観察を続けた。
お灸をすえる、というやつである。
「陛下! どうかお助けを……、ひ、ひぎやぁああああっぁぁ!」
「お前達が望んだ戦いであろう。客人が本当に、我が騎士らの尊き命を喰らうつもりであったのなら、止めに入ったが――これは命を奪わぬ説教のようだからな。それにだ、余は告げたぞ――やめておけと。それでもどうしてもと言うから、セッティングしたまでだ。自分で蒔いた種である、その責任を学ばねばなるまい。諦め、しばし反省せよ」
天からの声は、反省しろとの言葉。
この模擬戦自体が、暴走する部下達への灸ということか。
これで騎士達は大人しくなるだろう。
話し合いを進めるにはまず実力を示す必要がある。
この蹂躙もある意味で必要な儀式とも、言えるのかもしれないが……。
ふと、賢い私はシッポを揺らし考えていた。
騎士の驕りを叩き潰した。
実力も示した。
その結果――未来が分岐したのである。
『ヒナタくん、君が旅をしていた時って、あの伯爵の職業はなんだったんだい?』
「種族が種族だからふつうに戦っても強かったけれど、職業的な意味での役職は商人よ。それがどうかしたの?」
『いや、ちょっとね――』
会話にもちょっとでていたが、やっぱり商人か……。
商人の職業にある者って、フォックスエイルみたいに頭が回るタイプが多いんだよなあ。あの狐も、私が介入するまでは、大陸一つを完全に掌握していたわけだし。
世の中には得体の知れない強さというモノが確かにあるのだ。
戦闘の実力だけじゃない狡猾さがあるから、あまり油断をしない方がよさそうである。
この模擬戦も、彼らの敗北も――全てが伯爵とやらの計算だったのだろう。
……。
あの男。
本当に食えない男のような気がする。