血染めのレッドカーペット ~ニャンコの前に絨毯を(以下略)~後編
それは陛下と呼ばれし男の顕現。
仰々しい登場シーンで、大魔帝ケトスである私より目立ちやがったのは。
陛下と呼ばれる、シルクハットを被った大柄の吸血鬼。
いかにも伯爵さま!
といった感じの出で立ちの、体格のイイ美丈夫である。
まあその身長は人間より頭二つ分は大きく、わりと威圧感のある覇者風な人物でもある。
ヒナタくんのかつての仲間だったらしいが。
はてさて。
まあ、とりあえず伯爵呼びでいいか。
荒野と半壊した城を背景に、カワイイ私は身体を宙に浮かべ。
尻尾を風に靡かせ――ふふん♪
挑発的な邪悪ニャンコモードで微笑んでやる。
『なーんだ、伯爵さん。君、人間だと思っていたら古きヴァンパイアなのか。ふーん、じゃあもしかしてカーマイン君も。そちらの物騒な騎士さん達も――全員、純粋なニンゲンじゃないのかな?』
黙っていたカーマイン君をジト目で睨んでやる。
王の騎士団。
その手に握る聖剣や魔力剣が、私の眼光を受けガタガタと震え始める。
伯爵を含め外見の特徴で一番目立つのは、色素の薄い肌。
そして、冷徹なマネキンのような顔立ちを支える、髪と瞳の色だろう。
濃い黒に、人間味の薄い赤目。
おそらく血を吸われ眷族となった者達か。
『どういうことだい、カーマインくん。君は、自らが闇の眷属であると私に伝えなかったね。わざとかい? 人間として助力を願ったのか、それとも人間と敵対するものとして助力を乞うたのか。それではだいぶ事情も変わってしまう筈だが。どうなんだい?』
私達をこの地に招いた聖騎士は跪いたまま。
更に頭を強く下げる。
「すみません……聞かれなかったので、言う機会を逃してしまって。ただ、この世界が危機に陥っているのは事実なのです。そして、それは――他の大陸に住まう人間種や亜人種、そして魔の眷属と呼ばれる者達も同じ。我等は一つの脅威と戦っている同志です」
『そうか――まあ君を信じるよ。嘘は言えない契約だしね。それにしても……ヒナタくんが君に感じた懐かしい魔力っていうのは、その伯爵さまによるアンデッド支配だったのかな? で? そこで様子を眺めている伯爵さまは、自己紹介をしてはくれないのかい』
嫌味な口調で言って、私は伯爵さまとやらをチラリ。
じぃぃぃぃ。
魔術師としての私の興味を引くには、十分な力ではある。
『濃い魔力を感じる事からすると、君は長老級に生きた不死者と思われる。この世界でのヴァンパイアの性質はまだ把握していないけれど――やはり原初、種や血族の始祖に近い存在なほど強いのだろう? 魅了の力を扱えるようだが、それはリリスの力を魔術式として転用しているのかな? ふむ。原初の神を用いた女神……リールラケーとは異なるベクトルで引き出した、真祖の力か……ちょっと興味があるね』
瞳の中に魔術式を輝かせる私。
とってもかわいいね?
大柄な伯爵さまは、尖った爪と異常に長い指で頬をポリポリ。
困った様子でヒナタくんを見て、問う。
「ヒナタ様。いったいなんなのですか、この生意気なネコは……」
かつての旅の友。
女子高生勇者のヒナタくんが黒髪を闇に輝かせながら、んー……と考え。
「そうねー……厳密には違うけど――あたしのお父さんの、部下……みたいな? まあ、かなり強くてね。今のあたしの師匠のような存在よ。ま、あたしを見捨てたこの世界の連中よりは、信用してるわよ? 悪いけどね」
「貴女様ほどの魔術師のお師匠……!?」
さすがに驚愕だったのか、伯爵さまがようやく私に注目する。
ふふーん!
ドヤ顔でアッカンベーをしてやったのだ。
「ワタクシの性質を言い当てている所をみると――ただのドヤ顔ネコではないということは、分かるのですが……なるほど、それは素晴らしい。カーマインに聖剣ドウェルグミキサーを授けたのは正解であったという事でしょうか」
ま、その授けた聖剣は私の爪とぎになってるんですけどね。
ともあれ。
私は慇懃に、恭しく会釈をしてみせる。
『さて――自己紹介がまだだったね。人に何者かを訊ねる前に、こちらが名乗る事を失念していたよ』
玉座を顕現させた私は、床に這うレッドカーペットを奪い。
合成素材として使用。
簡易的な謁見の間を再現し――ニヤリ♪
赤と闇のコントラストの中で、朗々と告げてやった。
『異界より助力を願いし者達よ、初めまして――我が名はケトス。大魔帝ケトス。どこかのくだらない異世界のせいで傷心だった勇者ヒナタを支え、共に生活するモノ。まあ、彼女の説明にあったように今の魔術の師匠さ。家庭教師を兼ねた、護衛の契約召喚獣みたいなもんだと思ってくれてもいいよ』
敵意はないが、自慢するためだけに黒い靄を発生させ。
ザァアアアアアアアアアァァァ!
闇の霧に包まれたまま――私はいそいそゴソゴソ!
着替えを開始!
猫の姿のまま、聖職者の服を着込み。
ででーん!
大魔帝ケトス、ネコちゃん神父モードである!
『騎士達よ、平伏したまえ――魔王陛下の腹心たる我の顕現なのだからね。ああ、伯爵さん、君はそのままで構わないよ、無礼ではなかったからね。ただし、君の部下達は少々、気位が高すぎる――絨毯の上で転がるネコは邪魔するべからず、そんなマナーさえ知らないのだから』
言って私は神父服の裾から肉球を輝かせ。
ずん!
闇王の騎士団に向かい、強制的な服従姿勢を取らせる。
絵にすると――。
玉座に座る神父コスプレニャンコに跪く、騎士団である。
……まあ、ツッコミどころ満載だけど気にしない。
紅い瞳を輝かせ、大柄な伯爵とやらが鋭い声を上げる。
「さすがに、我が部下を手に掛けるのはご遠慮願いたい。彼らは我が忠臣とはいえ、かつては人間だった者。この世界には人権というモノも存在しますのでな。これ以上を望むというのなら、ワタクシも本気を出さざるを得なくなります」
『本気ねえ、試してみるかい?』
偉そうに告げた私!
その肩から垂れる、シックなびろびろ肩掛けを――バサササササ。
神父のストラが! イイ感じに風になびいている!
一触即発とまではいわないが。
けっこうなピリピリムードを壊したのは、女子高生勇者。
フーセンガムを紙に包んで亜空間ゴミ箱に捨てた、ヒナタくんのツッコミである。
「ていうかケトスっち、あんたねえ。なによそのネコ用の神父服は、それじゃあただのコスプレでしょう……? 普通にいつもの人型神父姿になればいいじゃない」
玉座の上からにょーんと後ろ足をのばし。
肉球を覗かせながら言ってやる。
『あの人型の私はおそらく、本物の聖職者で教師だった者の魂だろうからね。この灰と血の世界で顕現したら最後――浄化の力が周囲全てのモノを焼いてしまうかもしれない。話し合いをする前に全てを浄化するのは悲しいだろう? 遠慮ってヤツさ』
言いながらも私は浄化の光を空に向かい――ぶしゅぶしゅ!
花火のように飛ばしてやり。
ぶにゃははははは!
ただの威嚇であったが、私の聖職者としての腕は十分に理解されたはずだ。
周囲がざわつく。
ただ――その何人かの喉は、ごくりと鳴っている。
光を眺めているのだ。
このうちの何人かは、心のどこかで浄化を願っているのだろう。
さて、確かめておく事がある。
『この大陸に住まうモノからは生命の輝きを感じない。伯爵さんだっけ、君。この大陸の全員を眷族にしているのかい? もしかして、この世界が再び勇者に救援を求めている理由って、君を退治して欲しいからだった、なーんてパターンだったりするのかな』
「いえいえ、とんでもない。ワタクシはあくまでも平和のために動いておりますので、誤解されたくはありませんな」
言いながらも伯爵は異常に長い指を鳴らし、一面に広がる荒野を映し出す。
この世界の荒廃した様子を見せているのだろう。
「ご覧ください、この世界の有様を。主要な都市はまだ機能しておりますが、離れた場所はこの通りの滅び――眷族化は仕方のない処置で御座います。なにしろ、弱き者はみな死に掛けてしまいましたので」
『滅んでしまう前に、眷族にすることでその魂を存続させたってことかい? っていうことは――それほど、この世界は追い詰められているのか』
たしかに。
戦力や人材を確保するためには悪くない手だ。
本来消失する筈だった人間。その燃え尽きる魂を吸血による眷族化で現世に留め――確保。
世界の危機に立ち向かう手駒へと、転換できるのだから。
「そう思っていただいて構わないかと」
『しかし、それは相手の同意があるかどうか。そして、強制的な隷属かどうか。それでだいぶ話が変わってくるね』
吸血鬼の眷属となったフードの騎士団に目をやった後。
私は声のトーンを変えて、猫口を蠢かす。
『一応確認しておくよ、君――強制はしていないよね?』
緊張が走る。
ネコのきまぐれ、心の機微に触れる何かがあったら――。
この闇は荒れ狂う。
そんな空気を騎士達も感じているのだろう、その額から荒野に落ちる汗が……。
ぽとり……ぽとり。
静かな気配の中で、鳴り続ける。
しかし、伯爵は平然としたまま――微笑みすら浮かべて応じた。
「もちろんでございます。ワタクシが行ったのは、吸血鬼化による延命だけ。だからこそ、ワタクシは我が政策に反対する大臣さえも制御できなかった。あの者も眷族であったのに、強制支配をしなかった。それがなによりの証でございます」
心を読もうとするが――。
ざざ……ざ……。
ノイズが走って読み取れない。
少なくとも――心を読む力を妨害できるほどの存在という事だ。
まあ、私の心読みは基本的に人間に効果を発揮する力。効きにくいのは、相手がニンゲンじゃないっていう理由もあるだろうが……。
仕方ないのでカーマイン君に目をやると、魔導契約済みの彼がこくりと頷く。
嘘ではないという事だ。
つまり。
この世界は本当にかなり切羽詰まっているのだろう。
もし手を貸すならば、遊んでいる場合じゃないか。
『さて、事情は少しだけ見えてきた。で? 本当に私と腕試しをしたいって言うのなら構わないけれど、どうする?』
「ふーむ、いえ。やめておきましょう。まだ死にたくありませんのでな。いや、吸血鬼なので、もう一度死んでいるようなモノなのですが、あはははははは!」
え、どうしよう。
これ。
吸血鬼が死んでる死んでない問題って、結構……繊細な部分だし。突っ込んでいいのか悪いのか、微妙な所だよね?
悩む私に、伯爵が言う。
「ワタクシの渾身のジョークなのでしたが、面白くありませんでしたかな?」
こいつ、この私に気を遣わせたくせに!
後で、機会があったら肉球パンチしてやろう。
口を三角にして、ネコ眉間に青筋を浮かべる私にヒナタ君が言う。
「伯爵は昔っからこういう奴なのよ。で? 伯爵、あんたの紹介はどうする? 当時の情報でよかったら、あたしがしてあげてもいいけど。だいたい、なんであんたが陛下とか呼ばれて、一国の主になってるのか、こっちも分かんないんですけど?」
問われた伯爵さんは、シルクハットを外し――ササササ!
慇懃に礼をしてみせる。
「いえご心配なく。初めましてケトス様。ワタクシは当ヴァージニア城の主をさせていただいております――名は、ブラッティ=マリアン=ヴァージニア。血の伯爵と呼ばれておりますが、勇ましいのは名前だけで……いやはやお恥ずかしい」
こういう猛々しい二つ名で、かつ、分かりやすく謙虚なことをいうヤツって。
たいてい、強キャラなんだよねえ……。
ヴァージニア伯爵は、紅い瞳を輝かせ、そのまま言葉を紡ぎ出す。
「さて、まずは正式な謝罪をいたしましょう。この度は、こちらからお招きしたのに無礼があったようで、大変申し訳ありません。我が国の大臣が行った非礼……大変ご不快でしたでしょうが、どうか平にご容赦を」
なるほど。
やっぱり反撃で城を壊した事は分かっているようである。
『何の話だい?』
「おや、おかしなことをおっしゃる。我が城内に入り込んでいた、大臣を名乗る不審者を取り除いていただいたのでは?」
自らの手で攻撃せずに、私に攻撃させた――か。
まあ、その大臣とやらも生きてはいるのだろうが……。
私はスゥっとネコ目を細め、猫口から牙をギラリ。
『まあ、君の国の内政やゴタゴタなんてどうでもいいけれどね。聞きたいことは一つ。君は私達の敵かい、味方かい』
「ワタクシはいついかなる時でも、強い側の味方でございます。あなたがたが世界をお救いになりそうならばそちらに、負けそうであれば相手側に。どちらにでも柔軟に対処いたす所存でございます」
いけしゃあしゃあと。
こいつ、感情論を除外し損得で動く商人タイプの存在なのか。
『ま、後からいきなり裏切られても困るし。そうはっきりと立場を言って貰った方が助かるけどね。で、なんでヒナタくんはこいつが嫌いなんだい』
「ハッキリ聞くわねえ。まあ理由は単純よ。こいつがあたしをこの世界の主神に売ろうとしたからよ」
へえ……、あまり穏やかじゃない話である。
しかし伯爵は眉を下げ、困った顔で慇懃に薄い唇を蠢かす。
「売るだなんて人聞きの悪い。世界を救った勇者様の幸せのために、ワタクシは神とあなたとの婚姻話を進めただけではありませんか?」
「はぁあああああぁぁぁ! なにが進めただけではありませんか? よ! それが売ったっていうのよ! いかにも心外みたいな顔をするんじゃない!」
ぐぬぬぬぬと唸る、ヒナタ君。
のらりくらりと躱す伯爵。
なんかいきなり変なことを言いだしたぞ、こいつら。
また彼らだけで話されても面白くない。
私はスキルを発動させ、会話割込み。
『ちょっと待っておくれよ。結婚って、当時のヒナタくんってまだ中学生を卒業したぐらいか、高校に入りたてぐらいだろう? それに結婚を進めるって、めちゃくちゃ犯罪だろう!』
伯爵が、商人の顔でニヤリ。
「何をおっしゃいます。相手は神なのですから、年齢など関係ないでしょう? それに、ワタクシも神から直々に頼まれたら、断れませんしな。いやはや、共に仲間として冒険をしたあなたを送り出すのは辛かったのですよ?」
ブチっと何かが切れる音が、横から聞こえた。
「なぁぁぁぁにが辛かったよ! あんた! ウキウキでウェディングドレスを用意してきたでしょうが!」
「はて? 神、直々からのご注文でしたし――当社の商品を全てお買い上げいただきましたからな。いやあ、あれは実に素晴らしい取引でした。あなたは神と結ばれ、ワタクシはお金と結ばれる。誰も損をしない素晴らしい話でしたのに、なぜ。なぜあなただけは、あれほどに御暴れになられたのか、ワタクシ、いまだに理解ができませぬ」
こいつ、相当なタヌキ親父だな。
さすがヒナタ君の元、旅の仲間。
そのまま喧嘩になっても面倒くさい。
『ていうか、ヒナタくんが神に求婚されたってのはマジなのかい?』
「ええ、マジもマジ。その通りなのでございます。そしてヒナタ様はそれを全力で拒み、聖剣を発動――神を絶対悪と認定。魔との戦いも終わり平和となった地で、勇者と神の対立。新たな戦いの火種が生まれたのであります」
歴史を語る王の顔で――。
演技じみた仕草をまじえて伯爵は語る。
「まあ神も悪かったのですけれどね、勇者であるヒナタ様をこの世界に引き留めようと……多少強引な手を使われていた。そこで更に怒り狂ったヒナタ様は、ついに聖剣の力を最大級に引き出し、神を滅ぼしかけた――。神は確かに傍若無人な御方ではありましたが、神は神。創造主でございますからな。さすがにこちらも神を滅ぼされるわけにもいかず……泣く泣く勇者様を追放することとなりました。これが滅亡の勇者ヒナタ様の偽らざる逸話。いやはや、悲しい歴史の一ページでございますな」
とても悲しい顔で言う伯爵。
対するヒナタくんは、まさに般若の顔で唸る。
「ちょっと待ちなさいよ! 途中まではあってたけど、だいぶ端折ったじゃない! 脚色しまくってたじゃない! あたしが婚姻に頷くように、延々とネチネチネチネチ、嫌がらせを続けてきたアンタたちの事を絶対に忘れないんだからね! あれは裏切りよ、裏切り! なんで世界まで救ってやったのに、意味わかんない神と結婚までしないといけないのよ!」
う、裏切り?
追放?
まあ、間違ってはいないのだろうが……。
平和になった地で――神と勇者が喧嘩するって、そりゃ一般人にとってはいい迷惑だよね。
あれ?
追放の理由も……そこまで不当な扱いってわけでもないんじゃ。
いや、まあ……女子高生になりたてぐらいの少女に求婚する神もどうかと思うし。
ヒナタくんが転移召喚を受けた、一方的な被害者であるのは事実なのだが。
な、なんだかなあ……。
『とりあえずさあ、こっちの世界の事情ももっと聞きたいし。落ち着ける場所にしないかい? お腹もすいてきちゃったしね。吸血鬼って言っても、彼らは人間、普通の食事もあるんだろう?』
薔薇から生気を吸う。
とか、すっぽんの生き血しか吸いません! とかだったら、見捨てて帰ろう。
そんな私の心を察したのか、慌てて伯爵が唸る。
「ちゃんとグルメもございますので、ご安心を。ではそうですね……今から城を再建させます故――再建次第、あなたがたをお出迎えに上がります。それまではここから少し離れた場所にある都市で、宿をお取りください。なに、そう長くはかかりません。おそらくは明朝には城の再生が完了します、すぐにでもお呼びできるかと」
『明朝って、明日の朝って事かい!?』
驚いて声を上げる私に、勝ち誇った笑みを浮かべてヴァージニア伯爵が言う。
「ええ、何を驚いておられるのですかな? まさか、明日という事に驚いているので? これは失礼。大魔帝殿には申し訳ないが、我等は吸血鬼――半壊した城とて、一晩もあれば、直せてしまうのですよ。なにしろ我等は闇の血族。魔力は人並み以上にございますから」
なんだ、異界の大物といえどその程度か。
そんな、嘲笑の声が騎士達から洩れるが。
よーし!
引っかかった!
玉座の上で、私は呆れた顔でネコ髯を揺らす。
『いやいやいや、たかが城一つを直すのに一晩もかけるなんて……うわぁ、そりゃこの世界は滅びかけても仕方がないって、そう呆れていただけだよ……。それと、一応こっちは呼ばれた客人。そうやって、異界のモノをバカにしてしまう所こそが君たちの弱さだよ。そして、仮にも世界を救ったヒナタくんを追放した君たちの性根、その傲慢さも理解ができた――この世界は滅ぶべくして滅ぶんじゃないかな?』
ネコの視線は騎士達の厚顔を、じっとりと睨んでいる。
「な……っ」
『さて。悪かったね、驚いてしまって。そして最後の一言は余計だった。それだけは詫びておこう。借りも作りたくないし、非礼の分は返してあげるよ』
言って、私は聖書を開き。
バサササササ!
魔術構造の基礎陣、生命の樹を彷彿とさせる十重の魔法陣を展開。
『灰は灰に、塵は塵に。然らば汝は城であり、其もまた等価な存在なり。我、大魔帝ケトスが命じ、そして我が許そう。土よ、元素よ、因果の砂よ。戻り、集いて、形となりたまえ。フフフフフハハハハハハ! さあ、蘇り給え――遥かな楽園にありし物よ!』
ゴゴゴゴゴゴゴ!
大地が揺れ、大陸が揺れ、世界が揺れる。
聖光が天を衝いた!
光り輝く柱の下――そこに現れたのはゴシック調の古城。
いかにも吸血鬼の伯爵が済んでいそうな、くらーい御城である。
まあ、性格はともかく……これほどの騎士を従えているのだ――規模はそれなりに大きな城である。
あり得ざる奇跡に、伯爵の瞳が揺らぐ。
「よもや――これは……我がヴァージニア城」
『ああ、幻術ではないよ。これは先ほどの失言に対するお詫びさ』
聖書による祈りの奇跡が起こしたのは、城の再建。
そう。
私は一晩ではなく、一瞬で城を半壊前の状態に戻したのだ。
城には時計台が設置されていたのだろう。
カーンカーンと、時間を告げる鐘が鳴る。
鐘の音だけが響く中。
私はハスキー素敵ボイスで告げてやった。
『まさか、君達。この程度の事もできないで私をバカにしようとしていたのかい? いや、言い方を変えようか。これが出来てしまうモノの実力さえ読めずに、小馬鹿にした態度をみせてしまうのは――やはり、君たちの弱点だと私は思うよ』
鳴り響く鐘。
再生した城によって生まれた影。
二つの闇に包まれた、私の影がグワっと拡がる。
神父コスプレモードのネコちゃんの影の筈なのに。
そこには、全盛期モードの私の影が浮かんでいたのだ。
獣の影が、吠える。
『滅びを知る者達よ――せいぜい、我を怒らせぬことだ。今の汝等に対する我が想いは、ムシケラと等価。さして高くはないのだからな』
大魔帝の影が揺れる。
ギギギギギギイィィ。
と、歪に膨らみ――私を嘲笑しようとした者達を、逆にじっと眺め。
赤い瞳をギラギラギラとさせていたのだ。
むろん、ただの嫌がらせである。
ともあれ。
私達は再建した城に招かれる事となった。
自分で壊して、自分で直して、ドヤる。
そんなマッチポンプだったが、気にしない!