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裏ステージ裏の物語 ~友達~ 【SIDE:社長自宅】



【SIDE:異能力者ハクロウ社長自宅】


 セミの声さえ届かない程の高層――天高く聳えるビルの最上階。

 直通エレベーターさえある最高級フロア。


 ほどよい冷房の涼しさに包まれた億ションには、二匹の獣と一人の人間がつどっていた。


 その中の一羽が、ザァァアアアアアアァァァっと闇の結界を展開し。

 ジィィィィィ。

 真剣な顔で、魔法陣をクワ! っと覗き込んでいる。


『クワワワァアアアアアアァァァ!? ケトスめっ、まーた安定していた筈の未来を書き換えおったな!?』


 事件の終わりを見届けるケモノ。

 その名は、神鶏ロックウェル卿。

 かのニワトリこそが――かつて魔帝ロックとして魔王軍に所属し畏れられ、感情のままに暴れていた怨嗟の魔性である。


 そんな彼は自称、大魔帝ケトス一番の親友でもあるのだが。

 その言葉が真実かどうかは、彼の逸話を刻むグリモワールには記載されていない。


 ただ一つ、真実と分かっていることがある。


 魔族ものが未来視を得意としていることだろう。

 出会ったモノ、或いは出会っていないモノの運命さえ――全てを読み取る力があるのだというのだ。

 もっともそれは本人も望まぬほどの力だった。

 見たくもない、知りたくもない、本来なら変える事もできない終焉さえ見えてしまう力だったからである。


 ただし救いはある。

 確定した未来であっても変える手段があったのだ。


 その代表こそが禁術ともよばれる禁呪。

 定まった未来、定まった明日さえ捻じ曲げてしまうほどの魔術式を持つ魔術群。

 一定以上の規模の大魔術、文字通り強力故に使用を禁じられている魔術の事である。


 そんな禁呪が張り巡らされる部屋の中。

 部屋にいる白いワンコが、禁呪で冷蔵庫からリンゴジュースを取り出し。

 バウ?


『卿よ! そなたも飲むか?』

『くわわわわわ! 余は! 今、忙しいのだ! アイスとしてなら喰らってやっても良いぞ!』


 ワンコが禁呪で、リンゴジュースを林檎アイスと林檎酒へと変換し。

 禁呪で、ニワトリさんの目の前に転送。

 転送アイスをクチバシで丸のみにしたロックウェル卿が、瞳をきつく尖らせ。

 クワワワワワ!


『うまし! アイス、うまし! しかし、ケトス……あのやんちゃネコめが! 自分で世界を救い人類生贄フラグをバキっと折っておいて、今度は逆、自分で世界破壊フラグを建設してどうする!? コケッコカカカカ! ええーい。仕方がない! 余の出番であるな!』


 騒いだニワトリさんは、蛇の絡みつく独特な形をした宝杖を握り。

 難しい顔をして。

 何度も、何度も魔術を発動させる。


 そう――確定した未来を大きく変える存在が、禁呪以外にも存在した。


 それこそが、魔法陣のヴィジョンに映るドヤ顔の黒猫。

 丸いフォルムの大魔族。

 肉球の足音でさえ禁呪レベルの影響力がある、殺戮の魔猫。

 大魔帝ケトスである。


 確定している未来さえ、あのネコの散歩一つで全てがひっくり返ってしまうのだ。


 だからこそ、確定した未来に辟易するロックウェル卿は、その破天荒さに憧れていたのだろう。

 希望を見たのだろう。

 しかし、今――この瞬間だけは、話が別。


 針の穴にノコギリを通すような、ありえない繊細さと精密さを要求される魔術を操作し。

 ぜぇぜぇ……!

 ロックウェル卿の鳥足から浮かぶ魔法陣が、赤い輝きと共に解き放たれる。


『グワワワワワ! コケケー!? ええーい! ケトスめ! まーた、新しい滅びルートを作り出しおって! 何がショゴスエンペラー君であるか! これでは消した分の滅び以上に、ますます新しい滅びが生まれてしまうではないか!』


 何度かそう叫んだあと。

 慎重に魔術式を調整し……世界に向かい、干渉。

 鳥のジト目で――未来を睨み。


『…………。これで、クリア……であるな? もう、滅ばんな?』


 ライカと大魔帝の物語。

 その終わりを遠見の魔術で眺め――鋭く赤い鶏の瞳を細め。

 更にじぃぃぃっぃぃぃ。


 それがニワトリ姿の神、神鶏ロックウェル卿の大切な役目でもあったのだろうか。


 転移門をくぐり、ライカに魔王城を案内する黒猫。

 そのドヤ顔を確認した卿は――川の魚を狙う猛禽類の顔で翼をバサ!

 更に、瞳をジィィィ。


 未来を眺める瞳で、今度は床に落ちた米粒を探すような仕草で――赤目をギラギラギラ。

 上を見て、下を見て――。

 やがて大きく、息を吐き。


 物語の終わりを確認したのだろう。

 自慢のトサカをぴょこん♪

 尾羽を揺らしながら、両翼を広げ――バサササササササ!


 羽根が舞い散る空間で、勝ち誇った笑みを浮かべる!


『クワックワワワワ! これで今回の案件は大丈夫であるな? どーこにも、見落としはないな? うっかり、また地球を割る未来は出てこないのであるな? よーし! チェック完了である! 素晴らしい! 実に素晴らしい余の活躍! これでは余の逸話を刻むグリモワールが、また分厚くなってしまうではないか!』


 ちなみにこのニワトリさんが現在いるのは――先ほども少し触れたがセキュリティーも完璧な、お高いマンションの一室。

 勿論自分の家。

 ではなく、押しかけた人間の家。

 今回の事件で知り合った男――長身老け顔の苦労人、金木白狼かねきはくろう社長の自宅である。


 他人の家なのに、大魔法陣を形成し陣地を作成。

 クワワワ――と大魔術を行使していたのである。


 彼はそのまま自慢の羽毛を、膨らませ――もこもこもこ!

 トテテテ!

 クワっと高級ソファーの背凭せもたれに陣取り、ビシ!

 ズバっとポーズをとる!


『クワワワワワ! さすが、余! ケトス一番の親友! フォローもばっちり完璧だったのである!』

「あまり羽根を飛ばさないで欲しいのですが――さきほどから、一体なにをやっているのですかロックウェル卿さん」


 と――。

 自宅仕事用のシャープな眼鏡の位置を指で直しながら、顔を尖らせたのは――。

 この家の主。

 カードゲーム会社社長の金木白狼かねきはくろう


 年齢より少し老けて見える苦労人である。


『ハクロウよ、見て分からぬのか? この素敵ポーズの意味をな?』

「風見鶏の物まねですか?」

『たわけ! この素晴らしき余と! ただの魔除け彫像を一緒にするでないわ!』


 荒ぶる魔力を放ち。

 天と地を揺らす神鶏にもひるまず、ハクロウ氏は真顔で更に言う。


「ふむ――ソファーの上で翼を広げ、ポーズを決めたまま胸を張る。そして風見鶏でもない……つまり、これは褒めて欲しいのですか?」

『ほぅ、ようやく理解したか! それでこそケトスと共に散歩を果たした、ケトスの従者! さあ余を崇めよ! 讃えよ! く褒め称えよ!』


 偉そうに言われたハクロウ社長は、ニワトリさんの頭をナデナデ。


「しかし、申し訳ない。ワタシにはあなたがどれだけ偉大な魔術を行使していても、理解ができませんからね。可愛い鶏が偉そうにビシズバっとしていることしか分かりませんよ? 本当は風見鶏の物まねだったのではないのですか? 風見鶏はとてもいいものです、ええ、実に素晴らしい。まずフォルムがいい。あなたをモデルにした風見鶏のカード……次はこれでいきますか」


 更なる褒められ待ちだったロックウェル卿は、トテトテテと絨毯に降り。

 はぁ……。

 呆れた顔で社長のシャープな爬虫類顔を見上げる。


『おまえは本当に、なんかズレておるのう。ケトスの言うておった通りのニンゲンだ……。余は知っておるぞ! 変人というやつであるな!?』

「あなたには言われたくないのですが――まあいいです。そういえば――御注文のチキン、もう届いていますよ? 熱いうちに頂くのが、一番効率がいいのです。いいですか? こういう出前を早く届ける有名店は、調理後すぐに届ける事により鮮度と味を保つ、企業努力を……って、聞いてないですね。別に構いませんが――支払いは済ませてありますので、机に置いてありますからね」


 グルメの話となってはロックウェル卿の顔色も変わる。

 漂うチキンの香りに気付いたのか、周囲に音符マークが飛び始めていた。


『おー! すまんすまん。しかしのう、フードデリバリィとやらが便利で助かるのは理解できるが、余には分からぬ。なぜあやつらは転移魔術を使わないのであろうな? この季節に外を歩くのは暑いであろう?』

「無茶を言わないでください。異能力者でさえ転移の力は貴重な能力、一般人に使える筈がないでしょうに。おそらく、あなた達の世界の魔術だけが異常なんですよ」


 常識を知らないアニマル達にぼやく社長。

 その長く筋張った指がサラサラサラ。

 メモ帳に今回の事件で入手した知識を書き込み、新カードとして作り出そうとペンを躍らせている。


 その横。


 バウバウゥゥ! と、譲り受けた魔術カードに歓喜するのは一匹の神獣。

 白銀の魔狼。

 こちらはこちらで、ニワトリ並みにヤバい神狼――ホワイトハウルだった。


『そうはいうがなあ! ダンジョン領域日本に順応してきている者達は、そろそろ転移も可能になっているがのー! 我の散歩巡回コースにいる婆さんなど、転移スキルを使いこなし、全国に観光旅行に行っておったぞー?』

「ああ、スナイパーライフルを使ったりしているお婆さんのランカーでしたか。あれもやはり、にゃんスマホによるゲームの能力を利用しているのですね。あなた方の登場で、一般人がにゃんスマホに頼ってスキルを発動しているのか――はたまた、異能者なのか。区別がつかなくなっているらしいですが……」


 そこまで言って、ハクロウ社長は考える。

 異能者であることが普通となる、そんな社会、ありえないと思っていたが。


『今は既にその状況になりつつあるという事であるな! クワワワワワ!』

「あまり心を読まないで頂きたいのですが?」


 モフモフアニマルのカードを心に浮かべている社長を見て。

 ワンコがにやり。


『能力による読心術ではなかろうて、今の卿が行ったのはただの推測。戦術の基礎であるぞ? なーんだ、社長とやら! その程度の戦術も身に着けておらんのか!?』


 と、ちょっと酔っ払った貌で、ホワイトハウルは液状オヤツをちゅるちゅる。

 そう。

 今更であるが、社長の自宅は極悪アニマル二匹に占拠されているのだった。


 動物が好きだったと今更知った社長。

 彼にとっては異界の知識を語るモフモフが遊びに来ている、ただそれだけの感覚である。

 たとえそれが、すげえヤベエ獣だと畏れられる存在だったとしてもだ。

 特に気にした様子もない。


「それで、結局ロックウェル卿さんはケトスさんの動きを追って何をやっていたのですか? 途中何度も、魔術……ですか? なにかをされていたようですが」

『ああ、世界を救っておったのだが?』


 と、伝えたのはロックウェル卿ではなくホワイトハウル。


 ロックウェル卿は食べるのに忙しいらしい。

 バケツのように大きなチキンの詰め合わせを抱え、鳥足を延ばして――。

 どでーん!

 ケンタうまし! ケンタうまし! と、衣もジューシーでサクサクなフライドチキンに貪りついている。


 会話はできそうにないとハクロウはワンコを向いて、ぼそりと言う。


「世界を救っていたとは……些か大袈裟過ぎるのでは――? といいたい所なのですが、あなた方の事です。おそらく、真実なのでしょうね。素晴らしい、とても興味があります。いったい何をなさっていたのですか?」


 答えても問題ない事ならば、できるだけ質問には答える。

 それが彼と魔狼との契約。

 とある魔術カードの対価。げぷぅ……っと、リンゴ酒の吐息を漏らしたホワイトハウルが、盟約に応じ――。

 チキンの脂にまみれたワンコの口を開く。


『言ったとおりだ。あやつが魔王様より頼まれた役目は――ケトスによる滅びの未来を回避する事。ああやって、昔から……未来を読み、滅びの芽を摘んでおるのだよ。ほんの少しの変化を与えてな』


 情報の香りを感じたのだろう。

 ハクロウ社長はメモ帳を開き、キリっとワンコを眺める。


「そんなことが可能なのですか?」

『実際、あやつはそれをやっている。ケトス本人が本格的に世界を滅ぼしかねない事件、出来事があった時には必ず……文字通り飛んでいって、未来をズラしておるからな。そうだのう……ハクロウよ、そなたはバタフライエフェクトという概念を知っておるか?』

「ええ、まあ。乱暴な言い方をしてしまえば――風が吹けば桶屋が儲かるみたいな理論ですよね」


 カードによる蝶の魔物を異能召喚してみせて、社長の男は続けた。


「蝶の羽、そこから発生するそよ風程度の羽ばたきであっても、未来に大きな影響を与える。転じて、過去に飛んで本来なかった、羽ばたきをわずかに起こすだけでも……未来は大きく変わってしまう可能性がある……どうでしょうか?」


 満足げに頷き、ホワイトハウルが唸る。


『然り――卿は全てを見る者として、将来あるはずのケトス災害を防いでいるというわけだ。先程のあやつは海の中にいる魚をパチャリとさせていた、そこでケトスの注意が海に向き……その青さを注目することとなった。それがケトスの言葉に変化を与え、変化したケトスの言葉がライカの心にも変化を与えた――ライカは自らの意思で、ケトスと共に世界を滅ぼす機会を放棄したのだよ。結果として、卿は魚をバチャリとさせただけで、世界を救ったというわけだ』


 アニマル達、二柱が何を見ていたのかを知らないハクロウは……。

 眉間にぎゅっと濃い皺を刻む。

 睨んだのではない、よく分からなくて困っているのである。


「青だとか、海だとかはよく分かりませんが。ともあれ、ロックウェル卿さんがケトスさんを想い、裏でずっと行動していた……そこだけは理解できましたよ」


 口の端でほんの少しだけ笑みを作り。

 けれど、淡々とハクロウは言葉を漏らした。


「ロックウェル卿さんは友達思いなのですね」

『コケーッコケケケッケエ! 余はケトスの一番の親友であるからな!』

『グハハハハハハハ! 卿は冗談も嗜むのであるな! ケトス一番の親友は、我、白銀の魔狼であろう?』


 グハハハハハ!

 コケケケッケ!


 二柱が、獣の笑い声を上げて――ジロリ!

 バチバチバチと紅い魔力が広がっていく。


『余の方が先に一度解散した後、ケトスと再会したのであるがのう?』

『我の方が先に、魔王軍時代にケトスの友となっていた筈であるが?』


 そんな、どちらが一番の友か問題で荒ぶる魔力の中。

 ハクロウ社長が言う。


「ワタシもケトスさんの友達になれるのでしょうか? 昔から分からないのです、友達の作り方というモノが……なぜ、皆さんはそんなに友達を簡単に作れるのでしょうか。とても、理解できません」


 ぼそりと呟いた、その顔を見て。

 ニワトリさんとワンコが魔力を引っ込める。


 その顔に浮かんでいたのは、同情。


『ハクロウよ、おぬし……友達がおらぬのか?』

「いえ、ちゃんといますよ――ホワイトハウルさんも今、握っているではありませんか?」


 ワンコの手に、ニワトリさんと魔狼の目線が向く。

 そこにあったのは、魔術カード。

 そう、カードゲームである。


『のう……ホワイトハウル。こやつ、マジでカードゲームを友達だと思っておるぞ?』

『こやつの能力の顕現は、カードのみを友達としたことで発生したのか。なんと哀れな……』


 二柱は過去視の魔術を発動させ――。

 カードから召喚した魔物と仲良く遊ぶ、そんな学生時代のハクロウ社長の過去を眺め。

 互いに、うーむ……と唸りを上げる。


『イマジナリーフレンドの召喚能力……ともいえるのかのう』

『想像の友をカードとして具現化させるほどに、孤独であったか……弟はアレだしのう……』


 二匹の獣は喧嘩を止めて。

 ポンと悲しい男の肩に肉球と翼を乗せた。


「なんですか、その顔は……」


 神たる顔で、二柱は言う。


『よい、なにも言わずともよい――余には分かっておる。今日からそなたは、我等の友だ』

『悲しき人間の男よ、もう案ずるな――汝には我らがおる。機会あらばケトスにも友になるよう、頼んでおこう、だから、安心せよ?』


 シリアスモードで憐憫と同情を浮かべる二柱に、ハクロウ社長は考え込む。


 何か失礼なことを言われていた気もするが――。

 まあ、友達が増えるのなら別にいいか。

 と。


 ここで怒りだしたりしない所が、変人だと言われる所以ゆえんだということを。

 彼自身が気付く日は、おそらく一生来ないだろう。




 『裏ステージ4オマケ』

 ステージ裏の物語 ~おわり~

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― 新着の感想 ―
[一言] ・・・カードが友達? 友達をカードにしたんじゃなくて? モデルならいいけどカード素材にしてない?
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