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それぞれの正義 ~ワンコ、吠える~その2



 校舎の屋上に、魔力の風が吹く!

 ネコちゃんのモコモコ獣毛と、しっぽを揺らしている!

 心もちょっと揺れていた!


『さあ、どうか! 人類の皆さん、わたしとハッピーエンドで終わりましょう!』


 赤き瞳をぎらーん!

 感情を暴走させ、支離滅裂な夢を語る少女を前に――。

 大魔帝にゃんこでケトスな私は頬を……ポリポリ。


 魔性の魔力に圧され沈黙する周囲に代わり、私はにゃほん!

 ふわふわ猫毛を靡かせて、フフーンと相手を睨み――。

 ビシ!


『あのさあ? ちょっと何を言っているのか分からないんだけど……! なんで人類を生贄にすると、ハッピーエンドになるわけさ!』

『だって、わたし――地球に戻ってからライカのお話をたくさん読んだわ。みんな悲しいお話ばかり。あの日の博士みたいに、謝ってばっかりなの。それって悲しい事じゃないかしら?』


 まあ、そりゃそうなのだが。

 さすがに、宇宙開発の犠牲になった犬を茶化す話にはならんだろうしね。


 胸元にそっと手を置いて、夢見る少女よろしく。

 彼女はお花畑な脳内を全開にし、こちらの精神に攻撃を仕掛けてくる。


『きっとみんな、お別れの日の博士たちみたいな顔をして、泣いたのね。ああ、なんて悲しいバッドエンドなのかしら。そうやって空を見上げたんじゃないかしら。わたしには分かるわ。だって、わたしを憐れむ心が、ほら! こんなにも私の力となっているんですもの!』


 伸ばす手から花が咲く。

 これに触れると精神を汚染され、扇動状態になるのだろうが……私は、あんよの肉球を踏みしめ。


 ビギシビギシビギシ!


 扇動の波動が漏れているので、彼女と私の周囲だけを闇の槍で覆っていく。

 学長のヒトガタくんがやっている事と同じ。

 魔術的な結界で囲い、扇動電波が外に漏れないようにしているのだ。


 そんな魔術の応酬に気付いたのだろう。

 時間を稼ぐようにキリンさんが、雷鳴の魔力を蹄に浮かべ――つぅっと視線を細める。


「なるほど、我が麒麟として見られたことで麒麟神の力を得たように――宇宙に散った犬よ、汝も人々の感情と心のエネルギーを受け化生けしょうへと変化したか」

『そうよ、えーと……麒麟さん? キリンさん……? あなたもだいぶ変な動物なのね。ど、どっちで呼んだらいいのかしら』


 そりゃ望郷の魔性も混乱するわな……。

 見た目は、まごうことなき動物園のキリンさんだし。


 上下の口を斜めにさせ、クワっ!

 角を赤く光らせたキリンさんがバリバリド-ン!

 雷を鳴らしながら唸る。


「たわけ! 麒麟でもキリンでもどちらでもよいではないか! 我を見て、ああ、この方は麒麟神としての力を得たキリンだと理解した上で、新鮮な草木を差し出し、その上でご機嫌伺いをするのが礼儀であろう!? これだから年長者を大切にしないアニマルは……まったく。さすがは大魔帝殿の生徒であるな、礼儀がなっとらん!」

『えぇ! わたし、なんで怒られてるのかしら!』

『キリンくんさあ、君……さりげなく私をバカにしなかった?』


 とりあえず、シリアスな空気は散ってしまう。


 それでもその重圧はかなりのもの。

 ライカ=ノスタルジアくんの魔力が大きいのだ。

 その魔力を受けても平然と立っていられ、また会話もできるキリンさんはやはり既に神としての器になっているのだろうが。


 他の人はちょっとまずいな。


 私はこっそりとショゴスエンペラーくんに目線を送る。

 彼は頷き、更に分裂――私とキリンさん以外の、魔術戦争中の生徒達を含む味方全員を対象に、スライム結界を発動。

 その身を液状結界へと転身させる。


 これでひとまずは安全確保。

 安堵の息を漏らしたキリンさんが、鼻の頭に浮かんだ汗を魔力で拭きとり。

 キリリ!


「敢えて問おう、星のライカよ。我も汝の境遇には同情を禁じ得んが、世界を生贄に捧げるというのなら黙ってはおれん。振り上げたその肉球を、一度おさめる事は出来んのか?」

『無理よ、わたしはもう止められない。自分でも、そう、止められないの。ケトス先生なら、分かるでしょう?』


 少女の瞳が魔性の赤で染まる。


 まあ暴走する魔性の怖さはよく知っている。

 実際、もう一人の大魔王ケトス(わたし)は、そのまま世界を壊しちゃったからね。

 私も暴走すればああなって、本当に世界を壊してしまうのだろうが。


 周りがごくりと息をのむ中――。

 相手の魔力にも怯まない私は、ツゥっと瞳を細める。


『それは自分じゃどうしようもできないから、止めてくれ。そういう意味に受け取っていいのかな』


 少女は考え、困ったように言う。


『どうなのかしら……でも、どちらだっていいでしょう? 赤い力が私に訴えているの。わたしに復讐をしろ。きっとライカは哀しみ、地球を恨んでいる。そんな人々の感情が集まってきているのは、そうね、事実ね。だから私は転生した。人々の心の欠片を集めて――ハッピーエンドを作る。幸せで終わらないといけないの。ねえ先生? 異界でとっても有名な破壊神、ケトス先生。先生の意見が聞きたいわ! わたしがハッピーエンドで終わったら、みんな喜ぶかしら! 人類が滅ぶ前の、最後の授業にしましょうよ!』


 サァアアアアアアアアアァァッァア!


 少女は両手を広げ、フィールドを宇宙に変化させる。

 領域乗っ取りである。

 スライム結界で覆われているモノ、そして神属性を持っている存在は宇宙でも対応可能!


 フィールドの上書き。

 それは宣戦布告と受け取っていいだろう。

 これからアニマル戦争も始まるのだ。


『しょーがない! 教育ってもんをしてあげるよ!』

『嬉しいわ! わたしが触れても壊れない相手なんて、とっても久しぶりですもの!』


 会話の中で――。

 彼女の力の秘密がもう一つ読み解けた。


 その力の源は――人々の想い。彼女ライカを可哀そうと憐れむ心が、集い流れて彼女を神格化しているのだろう。

 ようするに、神属性を得ているのだ。


 少女は星の杖を顕現させ、にっこり。


『我が射手は正義の光。共に塵と舞った星々よ、天地の理を忘れた流星よ。さあわたしに力を貸して! 《スター・デブリアロー》!』


 キィンキィン、キィン!


 宇宙に散っている星々の力を、星の矢として放ってくるライカくん。

 コミカルな効果音なのだが、その一本一本の威力は――強力。以前、ホワイトハウルが破った、魔王城外郭の結界を破る程度の威力はある。

 しかーし!

 そのことごとくを肉球パンチで叩き落とし、私はニヒィ!


『残念だったね! 天体魔術は私の得意分野! こんなもん、肉球で撫でるだけでチョイチョイのチョイさ!』

『え……あのぅ、先生? 下に攻撃を逸らしたら……みんなが、大打撃を受けるんじゃ?』


 相手側に言われ、ジト汗を浮かべた私は校庭を見る。


 ボコボコに歪んだ地面に、みんなが軽く圧し潰されているが……これは。

 星の矢の影響ではない。

 誰かが降ってくる星の矢を破壊した、その余波の影響だろう。


 そこにいたのは職業、殺戮騎士の青年。

 まるで、懐く精悍な猛犬の顔をした立花トウヤくんが、フル装備で暗黒刀と手を振っている。

 疑似的な宇宙空間なので魔力音声じゃないと届かないが、ジェスチャーを見る限り……こっちは大丈夫だと言っているようだ。


 いや、テレパシーを使えばいいのにと思ったのだが。

 そういやトウヤくん、戦闘能力はずば抜けてるけどそういう細かい技術がまだ育ってないのか。

 今度、そういう小技も教えよう!


 その横。

 女子高生勇者のヒナタくんと、死神貴族のヘンリーくんが、ものすっごいジト目で私を睨んでいる。

 星の矢から生徒達を守った影響か、その姿は結構ぼろぼろ。


 こっちは魔術会話が使用可能なので。

 ギロギロギロリ!


「ちょっと、ケトスっち! なにしてくれちゃうのよ! せっかく隠れて動いてたのに!」

「駄猫! これ、ボクたちがちゃんと成長してなかったら全滅してたんじゃないのか!?」


 め、めちゃくちゃ怒ってる。


 どうやら暴徒と化していた生徒達に紛れ込み、人死にがでないようにこっそりと動いていたようだが。

 にゃはははは、私がついうっかり攻撃をそっちに逸らしたせいで、出てきてしまったようである。


 ここでふと賢い私は考える。

 あれ?


 もしかしてヘンリー君が成長しないと未来が途絶えていたのって……ここで、私のせいで死んでいたから。

 なーんていう、ちょっと残念な理由だったりするんじゃ。


 あんなに何回もシリアス顔で、途絶えてしまう彼の未来を回避しようとしてたけど。

 その犯人ってさ……。

 私だったってことなんじゃ……。


 いやいやいや、あれほど引っ張って犯人が私! なんてことはない。

 そう思い、私はネコの魔眼を発動。

 あ……、やっば……ヘンリー君の未来から、あんなに見えていた滅びが消えている。


 犯人……私じゃん。


 い、生きているのでセーフ! これは私と大いなる導きによる特訓と――そして、事前に張っていたスライム結界のおかげでもある!

 つまり!

 これでショゴスエンペラーくんの存在も必要だったと、後でロックウェル卿に言い訳もできる!


 問題が二つも解決じゃん!

 これでいこう!


『なーんだ、やっぱり全部必要な事だったんじゃん! あー! 悪いけどー! 三人とも、君たちは他の生徒達よりも強いんだー! 攻撃はまだまだそっちにも流れていくと思うから、ちゃんとみんなを守ってあげてねー!』


 頼りにされて、パァァァァァァっと瞳を輝かせガッツポーズをするトウヤくん。

 やはりその横で。

 ヒナタくんとヘンリー君は、ぶんぶんぶんと首を横に振って、NGサインを出している。


 特にヒナタくんは未来視ができるので、これから私とライカくんとの戦いが激しくなっていくことが見えているのだろう。

 まあ、キリンさんもいるし!

 なんとかなるってことで!


 一部の生徒達の抗議を聞かなかったことにして。

 私はシリアス顔で、ライカ=ノスタルジアくんに教師の声で告げる。


『大打撃を受けるんじゃ……だったかな? ふふ、大丈夫さ。私は――私の生徒達を信じているからね』

『そう、凄いのね。わたしにも見えてきたわ――先生は全てを察していたのね。この日のために、先生はあの冥府の王族を取り込み……教育してきたってことでしょう。わたしの力さえ防ぐほどの結界術師に育て上げた、なかなかできることじゃないわね』


 ごくりと息をのむ、少女の首筋に汗が滴る。


 ライカ君の声にあるのは、既に戦場を知るモノの声音。

 シリアスな戦闘モードに移り始めているのだ。

 おそらくそれが、異世界を救った時の彼女、ノスタルジアくんの姿。


 まあ、その言葉の内容自体は勘違いなわけだが。

 記録クリスタルの映像に残しておけば、全部が私の計算通りだったということになり、誤魔化せる!

 シリアスを維持して、私は言う。


『ああ、私は誰にも死んでほしくなかった。だから、ずっと動いていた。それだけのことさ』


 おー!

 堂々とウソをつく私も毅然としている!

 実際、手を打たないと死んでしまうヘンリー君を、鬼特訓で強化したのも事実だし!


 地上から、女子高生勇者と死神のジト目が睨んでいるが、気にしない。


『先生にはいろいろな事が見えているのね。じゃあ聞かせてくれないかしら。どうして、わたしの物語はいつだって悲劇で終わっているのかしら。もう少し、希望のある物語として語ってくれても良かったんじゃないかしら。先生は、どう思うのかしら?』


 ライカの物語、その先にある話は悲劇だけではないのだが。

 とりあえず落ち着かせるのが先か。

 今、ここで語ってもきっと逆上させるだけだろう。


 教師の声音で、なだめるように私は言う。


『私は悲劇を捻じ曲げ美談として語るよりも、悲しい話は悲しいままでちゃんと伝える事も必要だと――そう思うけれどね。それは教訓となり、後の世代の戒めとなる。世界に散っているお伽噺とぎばなしが悲劇で終わりがちなのは、そういった警告の意味もあるのだろうからね』

『そうなのかしら? よく、分からないわ。みんな、幸せになった方がいいと思うのだけれど――それが先生の答えなのね』


 ライカ君が、星の杖を掲げて魔術を構築。

 しかーし!

 魔術式を妨害し続けながら、私は瞳を細める。


『さて戦闘も中断しているし、いい機会か。私も君に質問だ。異世界からの帰還者でそれほどの強力な魔性である君ならば、間違いなく私の存在を知っていた筈。なぜ、あの化学ゴーレム施設のニンゲン達に、私の存在を教えていなかったんだい』


 犬の少女は、ふふふふふっと無邪気に微笑む。


『だって、伝えてしまったら、あの人たちは戦いを避けるでしょう? 主神さえも恐れる魔猫神、そんな怖い人と戦えるほど、あの人たちは強くないですもの。だからね。戦いになって……先生があの人たちを殺してくれるのなら、それはそれで良かったんですもの。悪い人たちは、悪事を許さないネコちゃんに滅ぼされておしまい。それだってハッピーエンドでしょう?』


 でも、そうはならなかった。

 私は正義扇動を受けないし、伝承のように人間を無条件に殺したりはしない。


 会話を続けながらも、私は相手の手の内をどんどんと暴いていく。


『ふむ、なるほど。やはりライカくん、君は行動を制限されているね? 君は――自分の手を汚そうとしないのではなく、汚すことが制限されている。君は君自身で彼らを殺せない……魔導契約かそれに類似する盟約がなされている。違うかな?』


 少女の顔が、感心に揺らぐ。

 杖を浮かべたまま、パンと胸元で両手を当てて彼女は言った。


『まあ! 正解だわ! 本当に凄いのね、先生は――それだけ凄いのに、どうしてわたしの心を分かってくれないのかしら』


 瞳を赤く染め、風に揺らぐ巻き毛を靡かせ――。

 彼女は魔性としての言葉を続ける。


『わたしをね、拾い上げてくれた人がいるの。いえ、人じゃないわね。あれはきっと異世界の神様だった、とっても強い、神様だった! その人と約束したの。生まれ変わる前のお約束よ。恩には報いないといけないでしょう? だからわたしは約束の範囲内でだけ行動するの。それくらいの自由は許されるわよね? だって、わたし、とっても可哀そうなんですもの!』

『へえ、その話――ちょっと見せておくれよ』


 その隙を見逃さず、私の赤い瞳は鑑定の魔眼を発動。

 彼女の本当のステータス情報を表示しているのだ。


 猫の口が蠢き言葉を発する。


『なるほどね。宇宙に散り、エーテルの海を揺蕩たゆっていた君の魂を拾い上げた、お節介な神との契約か。哀れだから転生はさせてやる、けれど復讐は許可をしない――か。その神様は知っていたんだろうね、復讐それを願った時に、君が魔性化してしまうと。まったく、分かっていたのならちゃんと記憶を消しておいてくれればよかったのに。魂の記憶を継続したまま、無責任に転生させないで欲しいんだけど』


 ったく、どこの世界の無責任な神だと。

 私は過去視の魔術を発動。

 後でその世界に乗り込んで、説教してやる!


 そんな気分で、ネコのモフ毛を逆立てプンスカと肉球を唸らせていたのだが!

 見えてきたのは……!

 なんと! 私もよく知る、黒き翼の貴公子!


 レイヴァンお兄さんの冷徹クールな冥界本気バージョン。


 大きく筋張った手で、鼻梁を押さえ。

 つぅっと涙する冥界皇帝風の神。

 その姿を見るに……たぶん偶然ライカの魂を発見してしまって、事情を知り――手を差し伸べちゃったんだろうなあ……。


 モフモフ好きで、死者の転生をも可能とし。

 異界の冥界にまでちょっかいをかけられる――冥府の神。

 そういや、条件に当てはまってたね……。


『どうしたの先生? なにかすごい顔をしているけれど』

『いや、三千世界は狭いねって思っていただけさ』


 あとで、どつき倒しに行ってくるか。

 そりゃ魔王様の兄なのだ、絶対にモフモフに同情するよね。


『まあいいや! で? 君自身は、あの施設の関係者には手を出せないんだろう? それは制約で禁止されている復讐になるからね。おそらく生贄の儀式の核に使うつもりなんだろうけど、君が介入できないなら――もう計画は破綻している、ここらで終わりにしないかい? 君は私には勝てない。潮時さ。今ならまだ間に合うよ』


 終わりを告げる私に、少女は首を横に振る。

 その指が、こっそりと動き魔術を展開。


 再び、ぺちんと下に叩き落として私は言う。


『あー、ちなみに私に扇動の力は無効だからね――もう一度試してみようとしても無駄さ』

『あら? じゃあどうして扇動の力を振り払ったのかしら?』


 ちっ、意外に目ざといな。


 私は状態異常を無効化するし、正義よりの思考じゃないから平気なんだけど。

 彼女は現代科学の力も知っている。

 そこに、もしもということもある。


 その万が一という可能性が、私の敵化――その時点で人類滅亡確定なので警戒しているのだが。


 プンプンと唸り。

 ワンコモードに転身して、ノスタルジアくんが折れた犬耳をぴょこり!

 ビシっと肉球で私の眉間を指さす。


『ふふふ、先生にも弱点があるってことね! いいわ! わたしも、ちょっと嫌な手段を使ってあげる!』

『いやあ、弱点っていうか――自分の力の強さをちゃんと警戒しているっていうか。なんていうんだろうね?』


 しかし、相手はこちらの弱点を本当によく把握している。


 相手は動物の女性。

 ……。

 くそぅ……私が一番戦いたくないタイプなのだ。


 これ、わざと犬化したな。


 そんなネコちゃんの複雑な感情を知ってか知らずか。

 ワンコになった彼女は言う。


『先生はとても良い人よ。日本に散っている寂しい心の勇者たちをかき集めて、日常を取り戻してあげようとしているんですもの! けれど、わたしにも譲れない願いがある。この心は止められないの! 会いたいわ! ああ、会いたいわ! わたし、あの日に泣いていた、博士たちの涙を拭ってあげないといけないの!』


 吠えたワンコは、ダダダダダ――ッ!

 キリンさんのように、蹄の代わりに肉球で空を叩き魔術ステップ!


 ぐぐぐぐ、ぐぉぉおおおおおおおおおぉぉぉん!

 それは科学式を含んだ魔術式か。

 私も知らぬ異形な魔術式が、宇宙空間と化した天を覆う。


 効果はおそらく転移陣。

 格納庫から科学ゴーレムを大量召喚しているのだろう。


 ザッザッザ!

 ザッザッザ!


 もはや聞きなれた音に、私はげんなりと耳を下げる。


『って! またそれかい! そいつ自爆するから、すっごい嫌なんですけど!』

『それはそうでしょうね。だって、この子たちはケトス先生と敵対した時のための時間稼ぎ。そのために作らせたんですもの! 強大過ぎることがあなたの弱点、優し過ぎる事も弱点! そしてなにより、その逸話が有名な事こそが最大の弱点! だって、戦う前に対策を立てる時間が作れるんですもの! 触れたら自爆してしまう繊細な子たちを使って、わたしはそこの人たちを生贄に捧げるわ!』


 犬の瞳が、私の後ろで怯む金髪ブロンドリーダーを睨む。

 そういや、まだいたんだっけ。


 できることならば、ライカとしては大事な人の映像を使った彼らをガルルルル!

 直接手に掛けたいといった所なのだろうが。

 それは彼女を転生させたレイヴァンお兄さんとの契約違反。


 魔導契約なので、絶対に抗えない。


 はてさて、次々と顕現してくる科学ゴーレムも厄介だし。

 またあの作業を繰り返すのは面倒だし。

 どーしたもんかなあ。



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