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獣を呼びし獣 ~アニマル大戦争~



 太陽と、そしてその光によって生まれた闇。

 大いなる光が見守る中で、大いなる闇もまたモフ毛を膨らませ戦場を見る。

 光と闇が交互に輝く戦場。


 崩れた祭壇の間。キリンを祀る神社の上空にて行われる聖戦。


 そこには二匹の神が対峙していた。

 一匹は黒猫。


 大いなる闇とも呼ばれし、ステキなモフモフねこ魔獣!

 その名も大魔帝ケトス!

 つまり――私である!


 もう一匹は、くびのながーいキリンさん。


 麒麟として連れてこられた日本で神となり生き続けた、偶蹄目。

 あのキリンである。

 姿は動物園のキリンさんそのものなのだが、なんともはや、嬉しいことにそこそこ強い。


 数百年の信仰を受けたその力は、本物だったのだ。


 細い顔から放たれる霊力――。

 いや、魔力は十重の魔法陣を発動できるほどの力を秘めていた。


 横に伸びた耳をピョコっと蠢かし、鼻を震わせキリンさんが――。

 吠える!


「我は麒麟! 愚かで身勝手な人間どもがそう望むのなら、我は恐怖をもって汝らを支配しよう! 譬えこの身、キリンだとしても――我が神格は麒麟! 全ての動物を統べる者! 故に、人すらも支配する神の獣! 泰平を導く安寧なる神獣ナリ!」


 さて!

 四神の一柱。玄武の結界を纏い、神々しく輝くキリンの顔を睨み。

 大魔帝ケトスたる私も、ニヒィ!


『君の異能、私達とは異なる魔術式による力の発動は大変興味深い! とても知識欲をそそられる! さあ、もっと私に見せておくれ!』


 そう! 相手はちょっとだけ強い。

 異界の魔術や、異能に興味のある私にとっては好都合!


 いやあ、異能持つ人間が相手だと、ちょっと本気モードな私が触れただけでパキン。

 存在が消し飛んじゃうからね。


「あまり我を甘く見るでないぞっ!」

『甘く見てなんかいないだろう? 私はね、とても嬉しいんだ。このフィールドは大いなる光の結界で覆われている。私の結界でも覆われている。更に言うならば、日本自体がダンジョン領域という結界で包まれている。この意味が分かるかい?』


 問いかけに、キリンさんは存外に長いシッポを風に靡かせ。

 ススススゥっと瞳を細める。


「我に逃げ場がない、そう言いたいのであるか?」

『いや。そういう話ではないさ』


 告げて、私の身は揺れる。


 太陽と闇が交錯する空。

 雷のバックミュージックの中で、私は――。

 くくくく、くくはははは、くははははははははは! 片方の肉球で顔を覆っての、三段笑い!


「うぬ? 気でも狂うたか、異界の神よ」

『いーや違うよ! 心して聞くがいい!』


 ビシっとキリンさんを指さし、私は言った。


『なななな! なんと! この結界内ではちょっと本気で私が暴れても! 普段は怒られるからできない魔導実験をしても! 世界があんまり壊れないのである!』


 ないのである! ないのである! ないのである!

 私の素晴らしき言葉が、結界に反響しこだましたのであった!


 しばしの沈黙の後。


「あー……異界の神よ。すまぬが、言っている言葉の意味がよく、分からないのであるが?」


 耳をピョコりながら呟くキリンさんを、再び指差し。

 ビシ――ッ!

 ちょっとテンション高めに私は宣言!


『いや、だってさあ! 君たちのところの狙撃手くんたち? あの戦いの時も、ついうっかりビルを真っ二つにしないように、慎重に戦ったしさあ。この神社を祟る時もやりすぎないように、こうなんつーか――。崩しちゃいけない積み木を、ショベルカーで一個一個、丁寧に掴んで運ぶみたいな? そういう、ネコちゃんが苦手な繊細な作業が続いてたしさあ。フラストレーションが溜まってたんだよねえ!』


 モコモコモコっと荒ぶる魔力を赤く染め、更に追撃!


『暴れられるって素晴らしい! まさに好機! このモヤモヤを解消するための魔術合戦! 実にすばらしいストレス解消じゃないか!』


 人々の瞳には――。

 赤き魔力を纏い膨らむ、可愛いニャンコが見えているだろう。


 なぜだろうか。

 キリンさんは目を点にして。

 戦いを見守っている屋敷のニンゲン連中が顔を青褪めさせ。

 遠くで見ている異能力者の社長、金木白狼かねきはくろうくんが頬にジト汗を垂らしていた。


 トカゲ顔を尖らせて、くぎを刺すように。

 彼が似合わぬ大声を上げる。


「ケトースさーん! お願いですから、地球は破壊しないでいただきたいのですがー?」

『大丈夫だよー! もしなんか間違って地球を壊しちゃってもー! 直すからー! ちゃんと修復できるからー! 気にしないで―!』


 私の眷属であるネコ魔獣達は、パチパチパチと肉球拍手で絶賛なのだが。


「いや、直すって! 壊す前提なのですか!?」

『心配しないでおくれー! 本当に、ちょっとだけ、ちょっと一回壊れるだけだから―! すぐに無かった事になるから―!』


 よーし、言い切った!

 これで後顧こうこの憂いはなし!


 ネコ魔獣としてのモコモコもふもふ獣毛を輝かせ、アメリカンドッグの串をグールグル!

 魔術文字を刻み。

 犬歯を覗かせ私は闇の中で――唸る!


『さて、そんなわけで――! まずは小手調べ。異能解放:魔術カード発動!』


 ゴゴゴゴゴゴ!

 しゃびしゃびしゃきーん!


 異能名は――カード召喚。

 《パズーズデーモンの顕現》

 ハクロウくんの弟くんから、コピーしたままになっているカードを発動させる。


 闇の霧の中から浮かんできたのは――。

 悪魔の大群。

 群れ集うデーモンたちである。


 まあ昔のゲームのラストダンジョンにでてくるような、仰々しい悪魔を想像して貰えばいいだろう。

 群れとなって舞う悪魔を見て、キリンさんが鼻からむふーっと息を漏らす。


「ほぅ! 召喚カードを使役する能力であるか! だが、その程度の虚影の眷属など。麒麟の名を冠する我の敵ではないぞ!」


 叫ぶや否や!

 ゴロゴロバギギィィン!


 キリンさんが空を駆ける度に、踏みしめるひづめから神雷が鳴る。

 雷を纏い宙を踏み込むステップ。

 舞にも似た空中疾走そのものが、呪術詠唱になっているのだろう。


 キリンさんに向かい魔炎を飛ばしていたデーモンさん達が、ぎしりと歪み。


「うごごごぐぐぐ……ぅ……」


 私の呼んだカードのデーモンたちの身体が呪術によって溶けて、消えてしまう。

 キリンさんは蹄を鳴らし。

 ふふーん!


「大魔帝ケトス! いかに貴様が規格外な外なる神といえど、ここは地球! 長年の信仰で得た我の力、容易く突破できると思うでないぞ!」


 告げるそのキリンの身には、霊力とよばれる魔力が集っている。

 ……。

 なんか信仰って言ってるけど。


 どうもどっかのビール会社の――。

 チーリンビールうめえ! っていう人間の感情しんこうが、加算されているような気もする……。


『なるほどね、麒麟信仰をしているのは君達の組織だけじゃない。例の、あのビールを好きと思う感情が、君の力に上乗せされてるってわけか』

「汝の召喚、あっぱれであった。なれど――我には届かず! 見よ、我が秘術!」


 キリンさんがパカラパカラっとまるで馬のように空を駆ける。

 太陽に反射されたキリンの体躯が、あんがい綺麗に輝いているのだが――。

 はてさて。


 このまま放置すればそれなりに強力な呪術陣が、蹄ステップによる刻まれてしまう。

 まあ、妨害すればいいだけなのだが。

 私はじっとそれを眺めていた。


 むろん、異界の神の力を確かめたい。ただそれだけの理由である。

 使えそうなら魔術を盗めばいいしね!

 祝詞に近い歌が――キリンさんの口からモゴモゴと紡がれる。


「青龍・白虎・朱雀・玄武・空珍くうちん南儒なんじゅ北斗ほくと三態さんだい玉如ぎょくにょ


 それは詠唱か。

 はたまた歌そのものか。呪力を帯びている事からすると、やはり異界の魔術なのだろうが。

 残念ながら私はあまり詳しくない。


 ちなみに――神だけあって、めちゃくちゃ凛々しい声で詠唱を続けているのだが。

 こりゃたしかに。

 とばりの中に隠れて顔を隠し――この声で神託を告げていたのなら、それなりに威厳があったのかもね。


「大魔帝ケトスよ、もう遅いぞ! 我の秘術は完成した!」

『おー! 待ってました、ねえねえ、次は私にどんな魔術をみせてくれるんだい!』


 わくわく、どきどき!

 そわそわ~♪


 好奇心の毛玉である私は、瞳を輝かせギンギラギン!

 キリンさんが口をブモモモっと歪ませ、雷をカカカ!


「貴様の余裕もそれまでよ! 見よ、我が最強の眷属! 四神顕現、獣帝招来舞踏(しょうらいぶとう)!」


 それが魔術名の代わりなのだろう。

 一際に大きな神雷が鳴り響き、大地に九字を刻んだ。


 発生する煙は周囲を包み、魔の霧へとフィールドを変更させる。

 焼き芋さんの煙の中に、そっと包まれたような空気の中。


 獣達それは、現れた。


 シャピィィィィイイイイィィ!

 大空を飛ぶ、鳥の鳴き声だった。

 なにかペチペチとした感触が、観察する私の肉球を撫でている。


 続いたのは虎の唸り。

 爪による衝撃波が、霧を裂きながら――こちらに向かって飛んでくる。

 斬撃をアメリカンドッグの串でいなし、私はネコ髯をくね~ん!


『なるほどね、召喚系統の異能だったのかな』

「まだまだおるぞ!」


 霧を纏う青りんご色の龍が、ぶしゅぅぅぅぅぅっと龍の息吹で私の獣毛を擽る。

 更に。

 尾を龍とする巨大なカメが、そのまま私にのしかかり攻撃!


 私は逆に、肉球にカメの腹部分を乗せてくーるくる!

 怪我をさせないように、そっと地面に降ろしてやった。


 霧が晴れた、フィールド。

 再び太陽が目立つ景色の中にいたのは、キリンさんを囲むように佇む四つの獣神。


 白虎。玄武。

 朱雀。青龍。


 ゲームの中でもよく出てくる、いわゆる四神である。

 麒麟神としての権能を用い、神を召喚したのだろう。


『ふむ。まあ君が麒麟として生きていたのなら、繋がりがあるとされる彼らを呼ぶことも容易だってことかな。なかなかやるじゃないか。正式な手段で呼ばれた四柱の獣神……魔力によるコピーとはいえ、実物に近い伝説の獣神を直接目にできるとはね。さすがに驚いたよ』


 感心した私はにゃんスマホを構え。

 パシャリ!

 記念撮影をして、魔王様に送信!


 魔王様なら、モコモコで白い虎の白虎を、とっても気に入ってくれそうな気もするのだが。

 返信を待つ私に、キリンさんが不満げに言う。


「いや、四神であるぞ? なんぞ、その余裕は……」

『だから、驚いて魔王様に写真を送ってるだろう?』


 白虎の召喚方法を求める、魔王様からの返信を確認した私は――。

 じぃぃぃぃっぃぃい。

 キリンさんからの指示を待ち、待機している白虎……でっかい白いトラさんの顔を見る。


『ねえねえ! 君、いい毛並みと牙をしているね? 魔王軍に入らないかい?』

「た、たわけ! 白虎くんが怖がっているではないか!」


 キリンさんが眷族を守るように、前に出て。

 ブモモモモモ!


『えぇぇぇ? この子、私に魔王様へのお土産をどうぞ♪ って、呼びだしてくれたんじゃないの?』

「どこをどーするとそういう都合のいい発想になるのだ! これだからネコ魔獣は……っ! もういい! 我もやる! 全員、続け! 一気に大魔帝を調伏ちょうぶくしてくれようではないか!」


 五種の霊力が膨らんで。

 全員が神速で私に攻撃を仕掛けてくる。


 が――!


 ここはダンジョン領域日本、有名な神であっても本領を発揮できないのか。

 あまり攻撃に殺気を感じられない。


 ……。

 いや違うな。これ。


 ――え? 麒麟様に呼び出されたはずなのに、なんでキリン?

 ――い、いや? まあ、召喚されたし悪いキリンじゃなさそうだし、従うけどさあ。

 ――どーする、皆の者……ちん、いと困りけりなんじゃが。

 ――おほほほほほ、なんだっていいわ、見て! このわたくしの羽毛!


 それぞれが、あんまりやる気になっていないようだ。

 まあ、麒麟様じゃなくてキリンさんだしなあ……。

 四神にとっては、偽物みたいな……けれど神格だけは本物な、よく分からん存在に呼び出された感じなのだろう。


「み、皆の者! どうしたというのだ!」


 キリンさんが、しゅん……としはじめている。

 うーみゅ……。

 可哀そうなので、私は強敵を見る顔でキリンを睨み。


『ふむ――さすがは麒麟神。油断していたよ。そちらが伝承の神を扱うなら――こちらもその力に応えよう。麒麟よ、そして麒麟に呼ばれし四獣の神よ! 刮目せよ! 我が魔術の秘儀を!』


 告げて、私はちょっとだけ本気モード。


 その魔力を獣の直感で読み取ったのだろう。

 ゾゾゾゾゾ……!

 キリンさんに困惑していた四神の顔に、覇気が宿る。


 よーし!

 キリンさんのために本気にもなったようだ。

 私はそのまま詠唱を開始!


『神は言った! 世界には終末が訪れると! 我は預言に従い、その道を先に覗くもの也や! 我こそがケトス! 大魔帝ケトス! 獣を統べる魔猫の王なり!』


 太陽で包まれていたフィールドが、今度は闇の煙で包まれていく。

 黒いモヤモヤ!

 これはいつもの演出!


 ……。

 ではない――。

 それなりに手順を踏む必要のある、召喚儀式を発動しているのだ。


 キリンさんが、今までにないほどのシリアス顔で唸りを上げる。


「いかん! あやつ、とんでもないものを呼び出そうとしておる!」


 もう遅い。

 そんな吐息を漏らすように、私の口は言葉を発する。


『聞け! 大いなる獣よ、今、この異界にて我は招こう! 顕現せよ(サモン)黙示録の巨獣(マスター・テリオン)!』


 世界が――軋んだ。


 ◇


 告げた言葉に惹かれ顕現したのは、私の使役召喚獣。

 終末の獣、大いなる獣(マスター・テリオン)

 直視できぬほどの暗澹とした魔力を纏った、多貌の獣である。


 獣は支配を象徴する鉄の魔杖を宙に浮かべ、ぎしりと多眼で世界を睨み。

 雄々しく、唸った。


『オオ! ここが地球。地獄の果て、那由他なゆたのセカイから眺めし、千年終わらぬ滅ばずの世界。ホロビコソガ。我が本懐。人類よ。我をミタならば平伏せ!』


 悍ましき声が、平和の世を揺らす。


 見た目は、キメラっぽいというか……。

 ヤマタノオロチの豹さんバージョンを想像して貰えば、まあ近い存在になるだろう。

 王冠を被った豹さんの顔が一杯ある、ネコ化の獣である。


 ちなみに。

 大魔王ケトスとの決戦の時に呼び出して、互いに一瞬で滅ぼした召喚獣でもあった。

 あの時は出番がなく終わってしまったが――。


『さて、イヤな予感がするガ。我を呼びし、大魔術師は……』


 終末の獣は、召喚主である私を眺め――。

 じぃぃぃぃっぃい。

 七つある貌を、複雑そうに歪め……はぁと獣の息を漏らす。


『やっぱり、キサマか。大魔帝ケトス。すまぬガ、こう……ナンドモ、ヨバナイデ、欲しいノデ、アルガ?』


 まあ一応、由緒ある存在なのでその召喚難度はかなり高い。

 というか本来なら、不可能に近い。

 そんな規格外の存在なので――たぶん、ネコに召喚されているのが気に入らないのだろう。


 私は大人ネコの余裕を見せるように、紳士な声で告げる。


「いいじゃないか別に、だって君――終末まで暇なんだろう? 黙示録の未来を変えるための修行だと思って! ほら、前向きに行こうじゃないか!」


 世界が終わるほどの危機に顕現して、色んな悪さをする聖書の獣だからね。

 さすがに大物。

 伝承を知っているのならば、動揺が走るのだろう。


 四神も、キリンさんも顔色を変えて――ごくり。


「バカな……っ、黙示録に記されし異教の終末。地獄より這い出る、獣神をも使役するというのか!」

『はははははは! 伝説の召喚獣を使役できるのは君だけじゃないって事さ! さあ行け、第一の獣! 滅ぼさない程度に、四神と遊んであげておくれ!』


 ビシっと指差す私に、四神もキリンさんも困惑。

 なぜか、マスターテリオンは動こうとしない。


『どったの? お腹痛いとか? 顔がいっぱいだし、ついつい沢山食べそうだもんね』


 問いかける私に、獣は言う。


『いや、異教伝承のカミ――四神はヨイが。そのリーダーが……キリン……であるぞ。これが、此度の召喚世界でタオスべき我の、テキか?』

『いや、倒しちゃダメだよ? 脅かすぐらいでいいんだけど』


 いっぱいある貌をくねらせ、マスターテリオンは全部の口でため息を漏らす。

 そんな。

 微笑ましいやり取りを見ていたキリンさんが、蹄を鳴らし叫ぶ。


「待てぇぇっぇい! 大魔帝ケトス! そもそも、だ! 絶対、これは呼んだらダメな奴であろう!? 問題になる前に引っ込めないと、世界の終わり! 最終戦争が始まってしまったら、どう責任を取るつもりであるか!」

『えぇぇぇぇ、だって君が先に偉そうに有名な四神を呼んだんじゃん。自分が先にカッコウイイ召喚獣を呼んでおいてさあ、私にはダメって、それはなんか違くない?』


 ムスーっと腕を組んで、私は言う。


 私にカッコウイイと言われ、四神達はまんざらでもない顔をしている。

 ちょっとかわいいかもしれない。


「まさか。我が有名な獣を呼んだから。そんな理由で、このような終わりの獣を呼んだというのか!?」

『そーだよ? 悪いかい?』


 素直に告げた後の沈黙は、長い。


 ともあれ、キリンさんはものすっごく大人の顔をして。

 はぁぁぁあ……。

 大きくため息。


「そうか……ああ、そうであるか。良い、もうよい。もう冷静になったわ。我の負けだ」

『え、なに……急に』


 訝しむ私を嗜めるように、聖獣の顔でキリンさんが言う。


「人間への恨みも忘れよう。何事にも限度があろうからな……、今、汝を見て悟った。我が悪かった。四神を帰還させる故、そなたもその厄介な獣を元の次元へと返還せよ。興が削がれたわ」


 降伏宣言であるが……。

 なんだろうこれ、釈然としない。


 完全に白けた空気である。

 周囲の私を見る目が、なんかすっごいジト目なんですけど。


 まあ、マスターテリオンを見る、ハクロウ社長の瞳はキラキラと輝いていたが。

 彼は例外か。

 新カードに使えないか、頭の中で検討しているのだろう。


 しかし、私は何かモヤモヤしてしまう。


『えぇ……なにこれ、なんかこっちが悪いみたいじゃん……すんごい、空気が読めないネコみたいじゃん』

「いや、我が悪かった。全面的にな。過ちを認める。巫女にも謝罪をしよう、だから互いに冷静になろうではないか」


 素直に過ちを認める。

 この場面でそんな正攻法でくるとは、こいつ……意外とやるな。


『分かったよ、分かった。じゃあ悪いけどマスターテリオン! 今回はキャンセルで!』

『あい、ワカッタ。ワレもまだ、終末戦争など御免でアルカラナ』


 告げて鉄の魔杖を振り、大いなる獣は言う。


『ギリなどないが――脆弱なる人間達、キサマラに一応、警告しておくとシヨウ。コイツ、大魔帝ケトスを野放しにスルナ。ワリトマジデ。こいつ、その場のウッカリで世界を本当に、終末へとウゴカスぞ?』


 サラバダ――、そう言葉を残して第一の獣。

 終末のマスターテリオンは召喚陣の中、魔力の海へと帰還する。


 戦いは終わった。

 太陽となっていた大いなる光が、降りて来て――ふっと微笑み。

 がしり……ッ!


『え。なに? そんな顔をして』

「いや、世界が破壊された時に、すぐに再生できるように待機してたんだけど……。さすがにこれはないわー。あんた……さすがの神もドン引きなんですけど……。神たる光をここまでドン引きさせるって、あの、のほほん飄々男の魔王以来よ? マジな話、あんたさあ……普段からどんだけやらかしてるのよ?」


 ものすっごい真顔で、私の肩を掴んだのであった。

 ……。

 ともあれ、戦いは終わった!


 これも全部、私の作戦。

 いわゆる奇策!

 戦いが馬鹿らしくなるほどに、こっちが盛大にやらかす!

 するとこうして、戦闘も終了するという計画だったのだ!


 こうしてしまえば、怪我人もださずにスムーズに話し合いを開始できる!


 振出しに戻っただけだけど。

 それでも会話が成り立つようになったのだ!


 と、記録クリスタルでは都合よく改竄しておこうと思う。

 だって、有名な四神を召喚して自慢したのは向こうが先だし。

 対抗して終末の獣を呼んだだけだし。


 私、悪くないよね?



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― 新着の感想 ―
[良い点] ワンチャン大魔王なケトスが召喚されるかと思いましたが、ここでさらに新規のアニマルが5匹も登場するとは笑 [一言] オモロイぃ
[一言] 終末戦争を回避したキリンさんには中山峠名物【あげいも】を進呈しよう。 衣を付けたじゃがいも一個丸々揚げて、串に3個刺して一串350円とお買い得(* ̄∇ ̄*) ちなみに「しゅうまつせんそう」と…
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