いきなり突撃! ~ニャンコのアジト訪問~その3
オフィス街の一等地! 月も綺麗な社長室!
アニマル達の宴は盛大に行われていた。
今夜はみんな大好き酒盛りタイム! 飲めや歌えや、どんちゃん騒ぎ!
”好きなだけ”飲んでいいと言われた私――。
素敵ニャンコな大魔帝ケトスは、モフ毛を膨らませて。
モコモコモコ♪
フレンド招集魔法陣で二柱の友を、緊急召喚したのだった!
このカードゲーム会社の社長さんで異能力者。
金木白狼くんの持っている高級酒で、酒盛りをしているのだが。
『クワワワワワワ! お代わりだ、余は実に気分がいい! もっと追加のお酒を、持ってくるのである! 許す、疾く許す! あの棚の一番高級な白ワインを余は所望するぞ!』
ニワトリさんがそう、叫び。
ワンコが続いて、尾をバタタタタタタ!
『おうおう! 我、えらーい神ぞ? すんごいつよーい神ぞ? ぐはははははははは! 我を愛でよ! 我を褒めよ! 今宵は無礼講。我の威光を気にせず、存分にモフるが良かろうなのだ! がははははははははは!』
「あー! もう、かわいい! さすが、ウチのワンコね! お酒も美味しいし、ニャンスタ映えする景色だし、いやあ、勝手について来て正解だったわね!」
と、白い鳩さんが朝陽の如く後光を照らし、バササササ!
なぜだろうか。ふと気が付くと、うん。
いつのまにか。
棚に並んでいた高級酒の数々は半壊! ほぼ全滅。あと三十分もすれば底をつきるだろう。
我等、三獣神!
白銀の魔狼ホワイトハウル、神鶏ロックウェル卿。
そしてニャンコな私!
ついでに一緒に様子を見に来た、鳩さんこと大いなる光の分霊体による「三獣、プラス鳥連盟」により蹂躙されているのである。
被害総額は一億を超えているだろうが、私は契約に従っているだけ。
好きなだけ飲んでいる、それだけである。
何も問題ない。
で!
オフィス街といえば接待!
接待といえば高級寿司! 一流オフィス街の、超一流お寿司屋さんの出前を取り、どこのお店が一番おいしいかの食べ比べをしている真っ最中!
ついでに洋食屋さんの出前も取って、イイ感じ!
ちなみに、足りなくなってきたお酒は問題ない。
会社地下にあるレストランフロアのワイン貯蔵庫を襲撃……、じゃなかった、貯蔵庫から社長さんのお金で購入!
ついでに。
世界のお酒を扱う創業百年以上な有名店から、お酒を購入!
契約は、この部屋にあるお酒なら好きなだけ飲んでイイ。
つまり、この部屋にさえ運び込んでしまえば! それはこの部屋の酒なので、好きなだけ飲んでいい契約なのである!
いやあ、私ってば、あったまいい!
シャンパングラスを肉球の上で回し、ごっきゅん♪
最上階から下々を見下ろし、ぷはぁ~♪
大魔帝たる私は、くはははははははっと嗤ってやったのだ!
『いやあ! 他人のお金で飲むお酒って、なんでこんなに美味しいんだろうね~!』
濃厚カマンベールなチーズが進む、進む!
黒コショウの効いたアスパラのベーコン巻きの脂が、シャンパンと程よく調和してグッド!
モフ毛を歓喜に靡かせる私もカワイイわけだが。
先ほどから大金を支払いまくっている部屋の主――。
ハクロウくんは酔いの目立つ、細めの三白眼をぼぅっとさせ……ひくり。
喉を鳴らし言う。
「もふもふ動物……天国……。友人とは聞いていたのですが、なぜニワトリにシベリアンハスキー……そして白い鳩。ここは動物園ではないのですが?」
『賑やかな方がいいじゃないか。あ、でもさあ。言っとくけど失礼な事は言わない方がいいよ? こいつら、ある意味で私よりもヤバい連中だし』
忠告したのだが、既にこのトカゲ顔の男はだいぶ酔っていて。
ふむ、とワンコの正面に座り込み。
じぃぃぃぃっぃぃい。
「まさか、このシベリアンハスキーが神だというわけでもないでしょうし。ただ可愛いだけのファミリア。マスコットなのでしょう? ええ、わかります、分かりますとも。商品にはこういった、愛嬌がありキャッチーなモフモフも必要でしょう」
腕まくりした腕を伸ばし。
ナデナデナデ。
ワンコ、突然のモフに顔がドヤってムフっていく。
『グハハハハハハハ! すまぬな、ケトスよ! この者、社長であったか? ――我の方がマスコットに向いていると言っておるのではないか?』
応じる白銀の魔狼ことホワイトハウル。
ワンコは年商も凄そうな社長さんから褒められたと判断したようで、むっはー!
頭をモフモフ撫でられ――超ドヤ顔。
『おーおー! 我、世界カードデビューをしてしまうか!? ぐははははは!』
『いや、カワイイには可愛いけど……そういうんじゃ、ないと思うよ?』
揺れるシッポがまあ、偉そうな事。
その横。
酒瓶をクワワワワワっと傾け、白と赤のワインを空け続けるニワトリさんが、ファサ!
自慢の尾羽を揺らし。
召喚媒体となっているカードを興味津々に眺めて言う。
『ふむ――なるほど、これがこの世界の能力者達が扱う異能。魔術式を改変した魔術の一種であるか! なかなかどうして、興味深いではないか!』
翼で握ったカードの力を引き出して見せ。
ビシ!
ズバ――! バササササ――ッ!
十重の魔法陣を発動!
『余こそが神鶏。余こそがロックウェル卿! 魔術カードよ、我が意に応え――その力を示すがいい!』
『って、ロックウェル卿!? もう異能の発動の仕方を覚えたのかい?』
翼を輝かせた超大物ニワトリさん。
ロックウェル卿が発動したのは、魔術カードと呼ばれる補助カード。
まあ今のカードはただの補助。
場に出ている魔物を、一時的に破壊されない無敵状態にするサポート効果なので……。
あんまり意味がない……。
というか、お酒を飲んでるだけの今の私達全員を、一時的に無敵化させてもねえ?
ともあれ。
魔術名が刻まれたそのカード効果も、私達ほどの魔族ならちょっと魔術式を弄るだけで発動できるという事だろう。
耳まで酒による赤みで火照らせるハクロウくんが、ひっくと喉を鳴らし。
腕を組んだ真顔で言う。
「はて? なぜこのニワトリは、ワタシしか使えない筈のカード異能を発動しているのですか?」
『そりゃあ、彼も神だからねえ……』
「神……、ですか。異世界の神とはそんなに存在しているモノなのですか?」
トトトトトトっと、手酌で高級酒を注ぐハクロウくん。
表情を隠すようなその細い瞳は、どこか遠くを眺めている。
『あくまでも神属性を持ったモノなら、それこそ山ほどいるさ。誰かから一定以上信仰されれば、ステータス情報としての神属性は付与されるからね』
「この世界に、神はいるのでしょうか」
酒を呷り、彼はぼそりと言った。
なかなかセンシティブな質問である。
『答えは同じさ。あくまでも神属性を持ったモノならば、大勢いるんじゃないかな。じゃあそれは本物の神なのかと言われたら、何とも言い難いね』
「そうですか。もし神に出逢えたのなら、なぜ父と母を死なせてしまったのか――その理由を訊ねたかったのですが。仕方ありませんね」
冷静な声で言って、男はワンコに抱きつくようにもたれかかり。
ぐぅぐぅぐぅ……。
ワンコが言う。
『眠ってしまいおったな』
『お酒もかなり入っているし、弟くんを心配していたからね。さっき無事を確認したし、落ち着いたんだろう』
答える私は優しい顔をして、彼のにゃんスマホから各種、超高級お寿司店の出前ボタンを。
カカカカカカッカカ!
超連打!
注文をする私に、後光を纏う白鳩さんが言う。
「あ、あんた……あいかわらず容赦ないわね……」
『だってこれは、彼の弟くんを助ける代金のようなものだろう? そこをケチってしまえば、弟くんの価値が下がってしまうだろう? 私はこの兄弟のために、あえてこうやって散財をさせているんだよ。そう、あえてね!』
うんうん、と持論を展開してチーズをつまむ私にニワトリさんがバサササ!
『ケトスよ! 余はケンタッチーっぽいフライドなチキンを所望するぞ! 疾く注文するとよかろう!』
『はいはい、さすがに高級老舗お寿司店にはないから――ああ、またピザを頼もうか。フライドチキンならサイドメニューにあるだろうし』
コケケと首を横に倒し、卿がハテナを頭に浮かべる。
『なんぞ? ケンタッチーはないのであるか?』
『もう店が閉まっちゃってるんだよ。こういうオフィス街の高級老舗お寿司店なら、夜でも融通が利くけど――ああいうのはチェーン店だろうからね』
ふむと考え。
『ならば、これで解決である!』
言ってニワトリさんが発動させたのは、例のカード。
きゅいんきゅいん、ききっきぃぃぃん!
魔術カードの絵柄には、太陽が描かれていて。
星空が見えた最上階フロアを朝陽が照らし始める。
『ほれ、どうだ! 余の魔術カードにより、世界の昼夜は逆転! 朝になったであろう! さあ、注文だ、さあ出前だ! 余に衣パリパリなフライドチキンを捧げるのである!』
『いや、昼夜をひっくり返しても、時間的にはやってないよ?』
ここはソシャゲ世界。
夢の中のゲームの世界とはいえ、基本は人間とネコ魔獣が動かしている社会。
朝になったからといって、お店が自動的に開くわけじゃないしね。
『そうか、つまらんのう……ならば戻しておくか』
言って、今度は夜空の描かれた魔術カードを発動させ。
また夜へと世界が戻る。
……。
めっちゃ使いこなしてるし。
感心する私に、白鳩さんが慌てて言う。
「ね、ねえ――これ、ダンジョン領域日本の住民は一瞬で朝になったり、夜になったり。実はめちゃくちゃ混乱してるんじゃないかしら?」
まあ、そりゃそうかもしれないが。
『大丈夫さ。もうここの世界の住人はとんでもない状況にも慣れてるだろう? 問題ないよ』
「全部、アンタたちのせいだけれどね。まあいいわ、それでこれからどうするつもりなの?」
大いなる光の声が、少しシリアスになっている。
私もちょっとシリアスを意識し応じるか。
『とりあえず他の異能者達がどう動くか次第かな。絶対に転移帰還者達を許さない、死ぬまで戦う! なんて言われちゃったら、こっちもそれなりに動かないといけないし』
「まあ生徒として囲っている以上、そういう責任はでるでしょうねえ」
白鳩状態のまま。
瞳をスゥっと細め女神がクチバシを動かす。
「聖父クリストフ、あの聖人の話では……まだ学園にナニかが潜んでいる可能性が高い。それがあの死神の青年、ヘンリー王子の避けられない死へと繋がっている。あなたはそれを何とかしたいのよね?」
『いや。彼の成長により既に未来は変化している――あくまでも死へのルートが多く存在するだけで、確定している未来ではなくなったが――まあ、方向的には君の理解で正しいよ』
届いたお寿司をパクリと平らげながら、私達は続ける。
『彼もまた、私が預かった大事な命。一度引き受けたからには、責任をもって見守らないとね』
「あの大魔帝ケトスが変われば変わるものねえ……、ま、その方が神としては助かるけど」
告げて、彼女の身体がペカーっと輝き。
白鳩の身が、元の女神の姿へと変貌していく。
「いいでしょう。今回の件、わたくしも近くで協力致します。異能力者集団と話し合う事になるのでしたら、わたくしのようないかにも女神! と、いった美しく、麗しい神の同行は有利に働くことでしょうから」
『え!? 君、まさか話し合いについてくるつもりなの?』
女神は悠然と微笑み、しとやかに唇を上下させる。
「ええ、高級寿司とはすばらしいグルメであると、わたくしは知りました。異能力者集団との話し合いともなれば、この男、悲しき過去に魂を囚われた金木白狼と行動を一緒にするのでしょう? きっと、この彼は――女神への供物にお寿司を献上するでしょう。わたくしは知りたいのです。この世界の異能力者達がかつて何故、争っていたのか。異世界人とどう敵対していたのか。そして、わたくしは知りたいのです。出前ではなく、店で頂くウニの軍艦巻きの味を――」
欲望だだ漏れでやんの……。
まあ、こんな冗談みたいな理由でついてくると言っている彼女だが、その力は本物。
必ず力にはなってくれるだろうが。
『ウニの軍艦巻きねえ……』
「脂ぷっくらサーモンの焙り焼き寿司でも構いません。イクラ軍艦もついていれば、なおよし。全ては光差す道の果て、天から照らす平和への道標。わたくしは寿司を生み出したこの治世を信じ、人々の明日を照らしましょう」
ペカーっと!
女神の威光で夜が明ける。
『って!? まだ朝じゃないのに夜明けにしちゃダメじゃん! ぜったいいまごろ、夢猫ネットでまたあいつらがなんかやらかしてるって、叩かれてるよ!?』
「人々の心が一つになる、それもまた光の照らす答え。わたくしは罵声さえも受け入れましょう」
つか、だいぶ酔ってるな。
こいつ。
まあ神とはきまぐれ。急に同行するというのも彼らにとっては普通なのだ。
ようするに、わがまま。
唯我独尊。
こういう所もある存在なのである。
◇
というわけで。
異能力者集団との話し合いに、女神も参加することとなった。
不安は大きくある。
心優しく、かつてラスボスだった事ぐらいしか不安要素のなかった大いなる導き。
彼女と、この女神は違う。
絶対、なんかやらかすよなあ……大いなる光……。
そうそう! ちなみに。
社長さんが眠っている間に部屋のお酒は全部消失。
我らの胃袋へと消えていった。
ついでに社長さんのクレジットカードには、追加注文しまくった高級酒と高級デリバリーグルメの請求が届くだろうが――。
気付くのは月末以降。
むろん私達は誰ひとり、目覚めた社長さんにそれを伝える事はなかった!
かなりの金持ちの社長さんが、思わず青褪める程の請求に呻く未来が見えているが。
やはり、我等は誰ひとり気にせず。
当然、詫びの言葉も口にはしなかった!
いやあ、お酒ってバカみたいに高いのもあるんだね!