にゃんこ教師帰還! ~はじまりはいつも波乱~
前回の事件が終わり、ニャハニャハうきうき!
さあ!
召喚しちゃった転移帰還者達との交流!
すなわち――教師生活に戻ろう!
と思っていたのだが。
戻るべき学校の座標が何故かズレていて、転移した先は校門の外。
ようするに、結界外であった。
ここで賢い私は、瞳を閉じて考える。
どーせまた、なにかが、おこっているのだろう、と。
予感は的中。
うっすらと瞳を開けてみると、そこには魔物の群れがズラリ。
校門の結界に阻まれ、ダンダンダン!
重い扉を叩いて、開けろ開けろとシュプレヒコール。
「ぐおこぉぉぉぉぉぉぉっぉ!」
「しゃげぇぇぇぇぇぇ!」
「メメケケー!」
まるで魔界動物園が崩壊し、ヤベエモンスターがあふれ出した!
そんな光景が広がっていたのである。
さすがに地球にこんなファンタジー生物はいないし、どこかの勢力が学校を襲いに来たと思うべきなのだろうが……。
なんなんだろうね?
ともあれ。
この、魔物さん校門で門前払い事件が、今回の騒動の始まりだったのである。
◇
さて、記録クリスタルを起動した私は、一旦落ち着き。
もういいかな。
すぅっと息を吸った私は――赤き瞳をカカカカッカ!
ぶわっとモフ毛を逆立て、牙をくわ!
『にゃにゃにゃぁあああああぁぁぁっぁ! いったいこれは、なんなんニャァアアアアアアァァァッァァ!』
思わず毛を逆立ててしまう私。
大魔帝ケトスだね?
ようするに強くてかわいいということだ。
驚いている理由は一目瞭然。
先ほども述べたが。
結界で守られていた学園の周囲に、異形の魔物がズラっと並んでいたからである。
簡易鑑定はエラー。
未知の魔物である。
ちなみに――モフ尻尾をくるりと揺らす私は現在、腕の中。
私を抱き上げても筋肉痛にならなくなった青年が、ぼそりと呟く。
「駄猫、おまえさあ……記録クリスタルの撮影のために、わざと大袈裟に驚いたフリをしただろ? そういうのって、どうなんだ?」
更にちなみに、この声の主は――。
死神貴族のヘンリー君。
魔王城から共に学園へと帰還する予定の生徒で、冥界の王族。
元引きこもりの青年である。
『だって後の世で、私の記録映像を見る人もいるわけだろう? 驚いてモフ毛を、ぶわぶわっと膨らませるネコちゃんってかわいくない?』
真剣に、腕の中でヘンリー君を見上げる私に。
「そりゃあカワイイかもしれないけどさあ……これ、どうするんだ? 焼き払っちゃってもいいか……判断に困るんですけど」
たしかに、彼の言う通り。
校門結界をバシバシする魔物達は、ものすっごい邪魔だし近所迷惑である。
その魔物達の頭上には、コモンやらアンコモンやら。
意味の分からない属性が表示されている……レアリティ? なのかな。
『うーん……数だけはすごいね。竜やら悪魔やら、騎士団やら。共通点がまったくない。これは学長となっているヒトガタくんの眷属でもないし。とーぜん、我等が魔王城からの眷属でもない。強さは……どーなんだろうね』
「ちょっと待ってろよ。えーと……」
ヘンリー君が、少し精悍になった顔を尖らせ――器用に操作できるようになった魔眼を発動。
心を読む代わりにレベルを読む。
私も使える鑑定魔術の一種なのだが。いやあ、私は強すぎて、相手が弱すぎるとレベル差とかがまったくわからないんだよねえ!
いつもの庭の蟻んこ理論!
とまでは言わないが、差があり過ぎると区別なんてつかないのである。
「レベルは、戦闘向きじゃないこのボクよりも圧倒的に低い。ボクがいうのもなんだが、雑魚だね。まあ数だけは大量だけど……なあ駄猫。こいつらは――召喚魔術の類で呼び出された幻獣になるのか? レベルは見えるが、ボクには魔術式が見えないんだけどさ、こいつら生命反応がほとんどないよね?」
死神の彼が生命反応を感じる事ができない。
魔法生物……あるいは魔術そのものか。
ふむ。
『どことなくだけど……人間が作り出した創作、ゲームの敵モンスターといった印象だね。なんかレアリティっぽいのが浮かんでるし。敵なのか味方なのか。それが分からないから私も困っちゃうんだけど、どうしよ。これ』
チラっと私はヘンリー君を見る。
「はいはい、あんたの出番だよ。お願いしますよ。大魔術師でネコ神なアンタが本気を出せば、たとえ法則が異なる存在でも正体看破ぐらいできるんだろう? 何事も慎重に、敵の正体を見極めてから――そういう教えなんだろ、分かったから! ちゃっちゃとやっちゃってくれよな、先生!」
『ええ! やっぱり私の力が必要かあ! しょーがないなあ!』
必殺、私ができるんだけど他人にお願いされるまで待つ攻撃!
である!
「だいたいさあ。学食のオムライスを食べたいからとっとと行くのニャ! そう言いだして、まだ眠ってたボクをこんな朝に叩き起こしたのは、おまえなんだからなっ!」
言われて私は青い空を見る。
まあたしかに、まだだいぶ早い時間――ようするに早朝である。
スズメはちゅんちゅん♪
キジバトがホッホー!
生徒の登校時間には、まだまだ余裕がある時間帯だ。
さて、誤魔化すためにネコの魔眼を発動。
『くははははははは! 学び舎を襲う不逞の輩どもよ、我の魔眼を甘く見るな――!』
と、なんとなくカッコウイイ台詞を言ってみる!
とーぜん。
そんな言葉は必要ないのだが……ヘンリー君が呆れた息を吐いているので、早く見よう。
魔術式の名残を辿り、術式の変化を把握――。
だんだんとその実態が見えてくる。
プリティな肉球をぷにっとネコの顎に当て、私は紳士的な声で呟いた。
『これは、ふーむ――長方形の召喚媒体……カード召喚の魔術かな。レアリティみたいなのは文字通りカードのレアリティそのものっぽいや。ゲーム化結界の亜種になるみたいだね』
「カード? って、トランプって意味じゃないよな。法則を捻じ曲げ……格上相手にも戦える状況を生み出しやすいゲーム化結界は……まあお約束だけど」
眉を顰めるヘンリー君の怪訝そうな息が、私のネコ髯を僅かに擽る。
『ああ、なんかターン制で互いに手札をもってバトル! とかやってるゲームがあるだろう? トレーディングカードゲームっていうのかな。実際のカードを使ったゲームもあるだろうけど……ああいうのって、魔物とか、勇者とかの絵が描かれているカードを使うよね? 描かれた想像上の存在を、直接、手駒として召喚できるようにしているようだね』
つまり、どこかに召喚士がいるわけなのだが。
魔物が多すぎてノイズが酷い。
てか、こいつら……いったいなんのために学校を囲ってるんだろ。
「なるほどなあ。ウチもゾンビ系ガンシューティングゲームの空間を生み出して、魔術制限を加えたりしてたし。で、どうするか考えてあるのか? 提案その一だ。とりあえず倒していいかもわからないし、学長に連絡を取ってみるってのはどうかな? 後で怒られるのも嫌だろう?」
『そうしよっか――……』
モフ耳をぴょこんと立て、連絡を取ろうとしたその時だった。
「やっと見つけたぞ! この不正野郎!」
妙に勇者っぽい声が、私のモフ耳を揺らした。
私を腕に抱いたままのヘンリー君が振り返ると、そこにいたのは――。
警察官姿の若者である。
コスプレ……ではなさそうであるが……。
これが本物の警察官なら、それはそれでヤベエな。
トカゲのような雰囲気のあるポリスボーイは、鋭い眉間を尖らせ。
私をビシっと指差し。
「貴様があの噂の大魔帝ケトス! チートを使ってランキングを独占してる、インチキ野郎だな!」
ふと、私のセンサーがビビビっと蠢いた。
なんだか、とってもイヤ~な直感があったのだ。
こいつ。
正義が空回りして暴走する、いわゆる一番厄介な偽善者タイプの存在では?
そんなネコちゃんの勘が、ヒシヒシとモフ毛を揺らすのである。
「なあ、駄猫……ボクさあ、こういう無駄に熱いヤツって苦手なんですけど?」
『えぇ……私だってそうだよ。どうする、これ?』
私達はヒソヒソと内緒話。
「どうするって言われたって……おい、この残念ポリスマン……こっちを見てるんですけど? ボク、関わり合いになりたくないんですけど?」
『無視して、行こうか?』
このまま転移して逃げようかと思った矢先。
残念ポリスマンが再び私達を指さし。
「おい、こら待てーい! 無視をするな、無視を! 本官を愚弄すると、公務執行妨害で逮捕してやるぞ!」
『いや、だって絶対に君めんどくさいヤツじゃん』
しまったぁぁあああああぁぁ!
ついつい返事をしてしまった。
「貴様! そのネコのアバターを解除しやがれ!」
『いや、アバターじゃないんですけど……まあいいや』
よっと私はヘンリー君の腕から降りて、くるりんぱ!
トテトテトテ♪
肉球で、ほんわか温かいコンクリートを歩き。
トカゲ顔のポリスマンを睨んで私は言う。
『それで、この騒動はなんなんだい? 迎撃されていない所を見ると、まだ敵ってわけじゃないんだろうけど。ウチの学校に何の用なのさ?』
「だから不正インチキチート野郎の大魔帝ケトスを許さねえ! オレ様はそう言ってるんだ!」
いや、不正て。
まあ、チートじみた能力をもってるのは確かだけど。
どーしよ。
この魔物を召喚しているのはたぶんこの男なのだが、召喚士だけあって、本人はものすごく弱い。
ちょっとでも――。
はいはいどいてね~、とか魔力を翳そうものなら、たぶん即死してしまう。
ヘンリー君が困った顔を継続したまま、私のアンテナ耳を揺らす。
「あぁ……なんていうかさ。駄猫。わかったよ……アンタの代わりに学長に連絡をしたんだけどさあ。なんかこの残念ポリスマン? 最近になってこのリターナーズの学校を発見した、純粋な現代人? 異世界とは関係のない、ノンリターナー? なんて言ったらいいか分からないけど、まあ、日本人らしいね」
現地人っていうことかな。
「勿論、ただの日本人じゃなくて、能力者。まあボク達のような異世界人とはまた関係のない、ごくごく普通の野良異能力らしいけど。このカード具現化能力も、異能の力らしいね。学長がどうしますかって、こちらに逆に聞いて来てるんだけど、どうする?」
『ふーむ……なるほどねえ、地球原産の純粋な異能力者か。そういや異能力者同士の戦いとか、裏の世界的な場所で起こっていたらしいしね。目的を確かめてみないとなんともだけど……で? 残念ポリスマンで異能力者の君が、異世界関係者専門の学校に何の用なのさ?』
せっかくこの私が聞いてやっているのに。
こっちを無視。
この男はなぜかヘンリー君にガンを飛ばし。
「なんだこの細い兄ちゃんは! てめえ、インチキチート野郎の取り巻きか? ああん!?」
警察官なのにガラわっる。
以前のヘンリー君だったら怯んでいたんだろうが。
王子様はそれはもう白けた顔で、はぁ……とため息。
「アンタさあ、日本人ならこういう行為が犯罪だって知っているんだろう? 警察官でもね? とりあえず、ウチの学長も困ってるみたいだから、この魔物を引き取ってくれない? 倒すわけにもいかなくて扱いに難儀してるって、嘆いてるんですけど?」
言ったれ! 言ったれ!
ヘンリー君の嫌味にもひるまず、ポリス帽の位置をきゅっと指で直し。
「学長? はん! あの鉄面皮のオッさんか。オレ様にビビりやがって、ケガをしないうちに帰りなさいなんて言いやがったからな! 追い出されたから! こうして、中に入れる気になるまで嫌がらせをしているんだ!」
『うっわ、だっさ……』
ジト目を受けて、残念ポリスマンは言う。
「うぬぬぬぬ! キャバクラのお姉ちゃんから言われてオレ様が気にしている事を、ぬけぬけと! もう許さん! 勝負だ! いけ、我が正義の魔物達――! この不正野郎どもに痛い目をみせてやるんだ!」
「あ……! バカ、それはマズいって!」
慌ててヘンリー君が手を伸ばすが、もう遅い。
これはすなわち宣戦布告。
『おお、いいねえ――その方が手っ取り早そうだ!』
「謝るのなら今のうち……って、なんだそこの猫。影がモヤモヤっとヤバい感じに膨らんで……っ」
魔力を見る力程度はあるのだろう。
ポリスマンの顔色がざっと青褪めたが、もう遅い。
私はぽかぽかコンクリを肉球で踏みしめ。
くわ――っ!
『なーにが正義の味方だニャ! ネコちゃんに難癖をつける悪い奴には、漏れなく天誅!』
どどどどすすす、どびゅしゅばきゅごごごご!
ピキ――。
ずずずずずめきゅめきゅ、びびびびししししぎぎぎ!
メギギギギギギ!
私のカゲからのびた。
むすうの魔の槍が――すべてのまものさんをくしざしにしましたとさ。
めでたしめでたし。
「いや、めでたくないだろう! どーするんだ! これ! この男! 警察官だろ!? ダンジョン領域日本になる前の公務員だろう!? 気絶させたら本当に公務執行妨害になるんじゃないか!?」
と、ヘンリー君の、大声ながらも妙に冷静な声が聞こえるが。
気にしない。
正義の味方さんが、泡を吹いて気絶しているが!
やっぱり気にしない!
めでたしめでたし――!
……。
とは、ならないよねえ……。