もふもふ探検隊! ~ラスボスが味方にいるとゲームがぶっ壊れる~その2
攻略を開始したばかりの大迷宮内部――。
あまりの光源と熱量に溶かされたフロア。
この第一階層は既に阿鼻叫喚、魔力による亀裂とミニ火山が誕生していた。
溶岩エリアとなってしまった階層を眺め、私は肉球を合わせ思う。
ありがたやー!
きっとこの地も後の世で! 伝説の火山が生まれた場所として、魔王様を崇めるモノの聖地となるのだろう!
さて、そんなマグマで満ちた地。
敵の全滅を確認した私――大魔帝ケトスは、目をまん丸に広げてネコのヒゲをきゅ~ん♪
女神、大いなる導きの腕の中から降りて、ズジャ!
トテテテテテ――!
やることは決まっている。
マグマの温泉がブクブクと鳴っている中で、拍手待ちをしている魔王様の足元に行き。
『さすがは魔王陛下! お見事ですニャ!』
絶賛の肉球拍手である!
パチパチパチと鳴る柔らかい肉球音と、弾けるマグマのパチパチ音が重なった。
冷厳なる紳士!
魔王様がふふーんと肩を竦めてみせる。
「ふっ、どうだいケトス! 見ていてくれたかい、このワタシの活躍を! いやあ、こうやって魔術をぶっ放すのは久々で、ついつい年甲斐もなくはしゃいでしまうね」
ドヤる魔王様を茫然と見る残りのメンバーたち。
おそらく、魔王様のすばらしさに感動しているのだろう!
ま、まあ……こんなもんを、いきなりぶっぱなしますか? あれ? 魔王陛下って、ケトスさまと同じタイプ?
的な事をヒソヒソと語っているが。
気にしない!
ジロっと私が睨み、絶賛するのニャ! の合図を送ってやると。
こほん。
咳払いをしたマーガレット君が、間の抜けた声を上げる。
「ひゃー、すごいっすね! で――でも大丈夫なんすか? これ、大迷宮が崩れたりしません? ケトスさまも、ロックウェル卿さまも、たまーに……三回に一回ぐらいはやらかすんすけど」
おい、余計な事は言わんで宜しい。
「あははははは! 私はあの子たちの師匠だからね、それくらいは対策済み。今の魔術は規模さえ大きいが――基本は敵対する生物だけを光と熱で包み、蒸発させるだけ。生物集団を対象とした最終処刑執行魔術だから問題ないさ! その証拠に、ほら、ちゃんと宝箱は無事だろう?」
「ところどころ焦げて、灰になってますけど……あー、ケトス様の視線が怖いんで、はい。全部無事です」
言われて魔王様が炭となったいくつかの宝箱に目をやる。
「こ、これは擬態を得意とするダンジョン宝箱型のモンスター。シェイプシフターに分類される存在だね。ああ、そうだろうそうだろう。魔物の化けた宝箱だったから灰となった、そういうことにしておかないかい?」
汗を一筋流す魔王様を眺め、思う所があったのか。
大いなる導きが、嬉しそうにくすりと笑んだ。
「ふふふ。あなたは相変わらず変わっていないのね、クリストフ。その場のノリですぐにそういう誤魔化しをする。楽園を捨て魔王となり……、落ち着いてしまったのかと思ったのだけれど、少し安心してしまいましたわ」
クリストフという名は、レイヴァンお兄さんの名前にもついていた。
一族の名前か、ファミリーネームか……洗礼名などのケースもあるか。
楽園の名前のルールに詳しくないが、おそらく魔王様の名を示す一部なのだろう。
本名はその名を利用され、魔術に用いられないように私が独占……じゃなかった、守っているから言えないけどね。
同郷の女神の言葉を受け、魔王様は静かに微笑した。
「ワタシは変わったよ……もう、あの時のようには笑えなくなってしまったからね」
「そうね。ごめんなさい、少し無神経だったかもしれませんわね」
んーみゅ。
二人の間にも、いろいろと複雑な事情があるのだろうか。
まあ、聞かないでいるのが正解かな。
魔王様がだれかに語りたくなったのなら、話してくれるんだろうし。
眺める私に、魔王様が言う。
「ケトス、宝箱の回収を。なんというか……うん、たぶん早く回収しないと、マグマで溶けちゃうかもしれないからね」
『あー、そうだった! それじゃあ――今のでレベルも大幅に上がったから、やっちゃいますね!』
言われて空気を変えた私は、ズジャ!
脚のモコモコ部分まで膨らませ、詠唱を開始!
『我はケトス! 大魔帝ケトス! ダンジョン猫の王たる存在也!』
今の混沌の中で習得した魔術を発動!
肉球を翳し、ドヤ!
モコモコっと黒き獣毛を輝かせ――とりゃっとジャンプ!
『ダンジョン猫奥義! 《ぜーんぶ我のモノなのにゃ!》』
着地と同時に、焦げる地面に肉球タッチ。
ブブブ、ブオォォォン!
七重の魔法陣を展開させ、迷宮内全ての宝箱と食料を回収!
いわゆるオリジナル魔術。
最終進化を遂げたダンジョンネコ魔獣の奥義でもある。
今は実質的な私専用魔術だが――おそらくそのうち。
私も知らぬネコ魔獣が、この魔術を習得する日もくるだろう。
『ふー! これでこの迷宮内に落ちている宝箱は全部回収できたから、ちょいちょいっと解錠していくね~! って、なにヘンリーくん? どうかした?』
「いや、駄猫。いま、お前――迷宮内に落ちている宝箱全部って言ったか?」
と――先ほどの魔物……悪霊王?
名前はもう忘れちゃったけど。強敵とやらを死神図鑑に登録しながら、ヘンリー君が言う。
『うん、言ったよ? まあさすがに、魔物が隠し持っているモノはこの魔術じゃ奪えないけど。階層とか関係なく、全部の宝箱を拾って貰っちゃったよ! たぶん今頃、黒幕さんが保管していた食料とか飲料も、ぜーんぶ盗んじゃったんじゃないかな? ほら、これ迷宮の外の食料品だから、買い込んで籠っていたのはたぶん間違いないね』
宝箱を解錠して種類別に分ける中。
マーガレット君がいつものことっすよと、分別に協力し亜空間に収納する前で――。
ぐぬぬぬぬ。
ヘンリー君が唸る。
「ていうか! おまえ! なんでもう七重の魔法陣を発動してるんだよ! レベル一から上がったばっかりだろうが! ずるいじゃないか! ボクはあんまりレベルがあがってないのに!」
『嫌だなあ。忘れちゃったのかい? 私は分類すると低級猫魔獣。レベルが上がるのに必要な経験値が非常に低いのさ。逆に君は死神で王族だからね、次のレベルに必要な経験値が多いんだろう。ほんのちょっとの種族差と職業差だよ』
頬のモフ毛を輝かせ笑う私に、腕を組んだまま彼は言う。
「そりゃあまあ、種族や職業によって必要な経験値が異なるとは習ったけど、ちょっと異常じゃないか? ほんのちょっとってレベルじゃないだろ」
『まあ――敵がそれほど強力だったのかもね。わざわざ黒幕さんがダンジョン内で強敵に分類される魔物を第一階層に運んでくれたんだ。しかも大量にね? それを一網打尽にしたんだから、レベルなんて五百ぐらい簡単に超えちゃうよ!』
言われてバサササ――!
死神名簿を発動したヘンリー君は、私のレベルを確認し。
げんなりしながら肩を落とす。
「うわあ、マジじゃないか。おまえ……ネコ魔獣の良い部分だけ都合よく取り込んでるのか? これ。やりたい放題だな」
今の私のステータスをまじまじと眺めるヘンリー君。
その髪を、背後からニョキっと湧いた魔王様の息が揺らす。
「へえ、それがキミの固有スキル。鑑定スキルの亜種、死神名簿か。面白いスキルだね」
「うわぁ……っ――て、! ま、魔王さん? ど、どうしたんですか!? ま、まさかこの駄猫を駄猫って呼んでることを怒ってるとかですか……っ!?」
ヘンリー君の私への駄猫呼び。
それは悪意ではなく、親しみを込めて言っている。
その事を魔王様も知っているのだろう。
はははははっと笑い、手をパタパタとフレンドリーに振る。
「キミたちの関係は新鮮で微笑ましいから、問題ないよ。教師となったケトスの新しい一面を垣間見えたしね。杖からずっと見ていたし――っと、まあそれはいいや」
言葉を区切り、こほんと咳払い。
悪い魔術師の顔で魔王様は言う。
「ところでヘンリーくん。キミはたしか結界魔術が得意だって言っていたね? 確認したいんだけど、今のレベルアップで発動できるぐらいにはなったかな?」
「え? ま、まあ発動はできるようになっていますけど。ボクの結界は引きこもり結界。もう一人のあなたから外界を見なくていいように……そう苦笑されながら授けられた魔術なので。残念ですけど、ダンジョンで使えるような汎用性は……あまりありませんよ?」
って、ヘンリー君。
なんで魔王様にはちゃんと敬語使えてるの? 私の時、めっちゃ駄猫呼びだよね?
こ、こいつ! 実はちゃんと、敬語を使うべき相手には使えるタイプの引きこもりだったのか!
元だけど。
まあ、ここでツッコムと魔王様の邪魔をする事になるから、我慢しておくが。
魔術の性質を確認した魔王様が悪戯魔族な顔で、ニヤリ。
あ、これ、悪いこと考えてる顔だ……。
「いやあ、そんな事はないさ。この魔術は応用もきく、良い魔術だと思うよ? さすがは異世界のワタシが伝授した技、といったところさ! さて! 今からワタシが座標を把握するから、指定空間に強制引きこもり結界を張っておくれ――できるかな?」
「それは出来ると思いますけど――おい、駄猫」
ヘンリー君が私に目線を送ってくる。確認を取っているのだろう。
よーし!
師匠である私を立てる、その意気や良し!
頷く私に魔王様が言う。
「ケトス。確かキミは、この迷宮全ての宝箱と、黒幕の食糧庫も宝箱と認識してついでに全て盗んだ――さっきの宝箱回収魔術は、そういう認識で合っているかな?」
こちらに話を振られたので解錠する肉球を止めて、宝箱のしかけを尻尾で器用に罠解除。
敵から盗んでいた干し肉を齧りながら、私は言う。
『ええ、まあ。貰えるなら貰っちゃおうと盗んじゃいましたけど――ヘンリー君に何をさせるつもりなんです?』
「いや、なに――。女神クレアを扱う男性神に心当たりがあってね。もしワタシの考えが正しいのなら、彼は今、信仰を失っている状態にある。魔力や体力の回復に食料が必要な筈なんだ。ここまで言えば、もう分かっただろう?」
すぐにピンときた私は、うわあ……っとヒゲを後ろに下げる。
『兵糧攻め、ですか?』
ちなみに、今の魔王様。
ものすっごい悪い顔をしている。
まあ、私も最初は考えていた事だし。
「ああ。信仰を失った神には食料が必須。けれどケトスがそれを盗んでしまった。おそらくそれは黒幕の計算外の筈さ。慌てて追加の食料を回収しに、最奥からでてくるだろうが――。さて、この先どうなると思う?」
魔王様に目線を向けられ、慌ててヘンリー君が細い指を顎に当て。
答えに至ったのだろう。
「なるほど、その前に引きこもり結界で進路を塞ぐ……ようするに相手を閉じこめ強制引きこもり状態を作成、相手の食料確保を封じるってわけですね――けれど、神なんですから、食料を奪ったとしても餓死するわけじゃないですよね? そこの駄猫と違って食料がなくて暴れ出すってこともないでしょうし、どういう意図があるんですか?」
まるで教師に尋ねる生徒である。
苦笑し、答えを得ている私が応じる。
『決まっているじゃないか! 嫌がらせだよ、嫌がらせ!』
「は?」
目を点にするのはヘンリー君だけではなく、横でずっと話を聞いていたモンク僧カインくんも同じ。
大いなる導きだけは、くすりと懐かしそうに微笑んでいる。
演説するように私は話を続ける。
『どうせ最奥に行くにはまだ時間がかかるんだ。その間に地味~な嫌がらせをし続ける事で、相手の精神力を奪うのさ! 魔術やスキルを発動させるには一定の集中力が必要だからね、その源となる精神力にダメージを与えようっていう寸法さ』
「ケトスの正解だ! ご褒美にキミにはモフモフ抱っこの権利を授けよう!」
言われた私は、肉球と猫手を伸ばしダイヴ!
着地イン、魔王様の腕の中!
『くはははははは! っと、撫でられると哄笑モードに入っちゃうので、モフモフは後でゆっくりにしましょうか。というわけで我が生徒! ヘンリー君よ! 魔王様に私の指導した魔術を見せるチャンスなのである!』
「あいっかわらず偉そうだな! 駄猫! ていうか! その人と一緒に居ると、おまえ! ドヤ猫度があがりまくってて、口がまん丸になってるぞ!」
ははははは!
と、笑う私と魔王様にマーガレット君が言う。
「お取り込み中のところ悪いんすけど、ここのダンジョンボスがどうやら話を聞いていたみたいっすね。転移の波動を感じるっすよ。たぶん、第二陣が来ますね」
そんな軽口と共に、揺らぎを感じた彼女は戦闘体勢。
戦場を知る勇士の顔で、三つ編みの後ろから小枝を取り出し。
構え!
彼女は人間としては限界に近い出力の魔力を纏い、ニヒヒヒヒ!
「我が師、我が友。我が冒険仲間――神鶏ロックウェルの名のもとに命ずる。神芽ヤドリギの魔槍よ、今その力を解放し、我の手の中で新たな息吹を宿せ!」
しゃらん、しゃらん!
ジャキーン!
小枝から魔力が伸び、あからさまにヤバそうな魔槍が顕現している。
これが漫画やゲームだったら、なんか変身シーンみたいな様子が映っていただろう。
ともあれ。
「よーし! 準備完了っすよ! じゃあ敵が湧いたら、あたしが戦いますんで! 魔王様とヘンリーさんは、その嫌がらせ計画の方を進めて貰ってて大丈夫っすよ! 逃げられたら面倒でしょうし、どうかこちらのことはお任せをってやつっすねえ! カインさんも! 前衛なんすから、構えてくださいよお!」
「そ、そうでしたな! し、失礼。あまりの事態に、少々面を喰らってしまいましたが。拙僧もお供しますぞ、マーガレット殿」
ロックウェル卿がマーガレット君に授けただろう、ヤドリギから生み出されたあの槍。
おそらくアレは……。
神殺しの魔槍の一面もある、神話武器。
ゲームなどにもたまにでてくる北欧の逸話。
ヤドリギの名を冠するミストルティン系列の魔道具。
そのレプリカなのだろうが……。
あいつ……、こんな危険なモンを人間に渡しちゃったんかい。
いや、まあ私もあんまり人のことは言えないし。
たぶん……勇者の力の一部を引き継いでいるマーガレット君に、自衛を促すためなのだろうが。
ともあれ! その辺りの話はまた今度。
今は、バトル開始の時間である!
魔王様とヘンリー君も行動を開始!
敵がこっちの動きを察知したなら、たぶん今頃だいじなものを抱えて、最奥のアジトから脱出しようとしているだろうからね。
その前に引きこもり結界で拘束!
地図の敵座標に、強制引きこもり結界を張る必要がある。
その時間を稼ぐのだ!
当然、動けるのは前衛二人と、私と大いなる導きになるのだが。
次元を跳躍し、やってこようとする敵の群れに向かい――我等は武器を構え!
ビシ!
『よーし! さっきは魔王様に全部、格好いい所を持っていかれたけど! 今度は私が活躍する時! さあ、最強の魔竜でも神でも、ダース単位でくるがよかろうなのだ!』
「いえ、ケトス様……拙僧、ダース単位は少々こまるのでありますが」
ボヤくカインくんだが、その闘志は本物だ。
さて、今の彼の力も見せて貰う時である。
私とマーガレット君とカイン君。
活躍できなかった組が、チャンスだとばかりに戦闘ポーズをとる!
さあ今こそが、大魔帝ケトスと愉快な仲間たちの活躍シーン!
の筈だったのだが。
女神で主神である大いなる導きが、すぅっと前に出て。
「ここはわたくしが――」
かつて、ラスボスだった時の顔で、冷徹に魔物に息吹をかける。
「聞こえていますか? いまあなた方の魂に直接神託を下しております。わたくしは大いなる導き。かつて楽園に住まい、そして逃げ延びた地にて魔物の母ともなった女神。古き神に従いし哀れなる者よ。大迷宮に魂を囚われし魔物達よ、単刀直入にいいましょう。このわたくしに逆らうというのですか?」
かつて世界を滅ぼしかけた魔物の母。
裏の一面の権能を発動させたのだろう。
ザワザワザワと、次元の狭間が動揺する。
そこには魔物の軍勢が待っていたのだが。
魔力とプレッシャーに負けた魔物が消滅し、宝箱だけを残し去っていく。
リポップ空間に戻ったのだろう。
「ふふ、昔取った杵柄というやつですね。説得で退治、成功ですわ」
爪をニョキニョキさせていた私も、戦いの構えを取っていたカインくんも。
マーガレット君も矛先を失い、複雑な顔を浮かべる。
……。
いや、いいんですけどね。経験値も宝箱も入手できたし。
邪魔されなかったから、成功なんですけどね!
でーもー! 私、あんまりおもしろくないー!
膨らんだネコしっぽを、ブフォンブフォンに揺らす私に気付いたのだろう。
ぎゃぁぁぁぁっと飛んできたマーガレット君が、慌ててネコちゃん抱っこ。
「だ、大丈夫っすよお! ケ、ケトス様の活躍の場面もやってきますよ! ほ、ほら! 今のうちに宝箱の解錠をやっちゃいましょうよ、ね? いやあ、頼りになるケトス様がいるおかげで! 厄介な宝箱の罠を解除できて、助かりますし! 嬉しいっすねえ!」
『そ、そうかい? しょーがないニャ~!』
おだてられた私は、ニヘェっと猫口を丸くさせ。
さっそくウキウキるんるんで宝箱を、抱え。
とりゃ!
盗賊クラスにも分類されるネコ魔獣の私は、宝箱係を華麗にこなしてみせる!
『解錠成功っと! んー、なになに、なんだただの伝説の手甲か』
宝箱に入っていたのは、まあよくある伝説の装備である。
私、幸運値が高いからね。
ランダムで中身が決まる宝箱魔術――いわゆる迷宮と契約をされているダンジョン宝箱だと、大抵、最高級品が当たっちゃうんだよね。
すると、自然と食料品の優先順位は下がって、こういう伝説の装備ばかりとなってしまうのだ。
正直、パンとかおにぎりが入っていた方が数倍嬉しいのである。
まあ、食事不可属性はついていないので、解決策はある。
いざとなったら、食材へと錬金術で変換させてしまえばいいのだが。
……。
習得済みのスキル一覧をチェック!
伝説の装備をおいしい納豆に変換する項目を探す私に、何かを察したのだろう。
慌ててマーガレット君が声をかける。
「ちょ! ストップ! 何をしようとしてるのかは読めたんすけど! 手甲ならカインさんが装備できるんじゃないっすか? たぶんまたレベルが上がったので、いや……あたし達は何もしてないんすけど……ともかく! 装備可能なレベルになってるなら、持っててもらった方がいいかもっすよ?」
『あー、そっか。私、手甲系は爪が出せなくなって逆に弱くなっちゃうから、ニャハハハハ! ごめんごめん、カインくんも装備できるって忘れてたよ。はい、じゃあこれ』
ポイっと魔力で浮かべながら手渡す私も、とってもかわいいね?
筋骨隆々な腕を伸ばし。
辮髪を揺らし慌てて受け取ったカイン君が、困惑気味に言う。
「お、お待ちをケトス様! ほ、本当に拙僧がこれを頂いてしまってもよろしいので? これはおそらく破壊力のバランスを考えずに神が作ったとされる武器、皇帝拳。この迷宮で五十年に一度、でるかでないかと言われる程に稀少な……伝説の装備なのですが」
『だって、それ。そのままじゃ食べられないだろう? 要らない要らない、私には興味なし。君の戦力になるなら、納豆に変換するより装備した方がいいだろう』
他の宝箱を開けながら言う私に、カイン君がすぅっとモンク僧の礼ポーズ。
胸の前で手を合わせる、例のアレである。
魔王様とヘンリー君が、引きこもり結界で黒幕を閉じこめ嫌がらせをする中。
マーガレット君がぼそりと言った。
「しっかし、これ、専門用語でチート……でしたっけ? こっちはインチキみたいな能力者ばっかりで、敵さん、今頃超慌ててるんじゃないっすかねえ」
『まあこっちは、正真正銘のラスボスクラスの大物が三柱いるようなもんだし。たしかにそうかもしれないけど、自業自得だね。しかーし! ニャァァァァァ! 私も早く、チート能力使いたいのにニャァァァァ!』
ぷんすかぷんすか!
毛を膨らませてキシャーキシャー!
見せ場を奪われ唸る私に、ジト目でマーガレット君が頬をぽりぽり。
「いや……その宝箱全回収と、食料全回収。んで、開けるランダム宝箱が全部超レアモノになるって、超チートだと思うんすけど……。もしあたしが敵だったら、こんの極悪猫がぁぁぁぁっぁぁ! って、発狂してると思いますよ。わりかしマジで」
『私はもっと派手にみせつけたいの! ドヤりたかったの!』
マグマ地帯を利用した水蒸気爆発とか!
意志ある溶岩流を発生させて、ゴーレムを作ってぶつけるとか!
そういうことをやろうとしていたのに!
ていうか! まともな戦闘が一回もないじゃん!
一回目は魔王様の魔術で一撃粉砕。
二回目は大いなる導きの説得(脅し)で、全員浄化。
プンプンに怒る私もプリティなわけだが。
やはりその可愛さは相手にも、よーぉぉぉっく伝わったのだろう。
相変わらずっすねえ!
と、メイド騎士は不貞腐れる私の頭を、優しく撫でたのだった。
◇
嫌がらせも成功し――我等、もふもふ探検隊は奥へと進んだ!
いざ!
次のドヤタイムを求めて、出発!




