もふもふ探検隊! ~ラスボスが味方にいるとゲームがぶっ壊れる~その1
太陽は煌びやかに輝いて、私達の無事を祈るようにポッカポカ!
大魔帝ケトスこと、私。
二番目に最強なニャンコは現在、とある偉大なる御方の腕の中――!
『くははははははは! これこそが我の正位置! 王者ネコにのみ許されし聖域よ!』
ドヤ顔を隠せずに、喉をゴロゴロゴロ!
しっぽをぶるり♪
既にダンジョン攻略の準備は出来て、メンバーも集合済み!
もう、ここは大迷宮の入り口。
冒険者を管理しているギルドが見守る監視塔から、少し歩いた場所である。
まあギルドといっても、今は冒険者施設もニャンコにかなり制圧されているわけだが。
ともあれ!
これから、いざ出発!
ダンジョン最奥に隠れている今回の黒幕をふっ飛ばせ!
――と。
行きたい所なのだが――その前に軽い挨拶をしている所なのだ。
メンバーの中で唯一の現地組。
辮髪モンク僧のカインくんが、眉間にしわを寄せて――皆を一瞥し。
一礼。
なんか異国拳法? 的な仕草で。
礼儀正しそうに筋骨隆々な胸の前で、手を合わせる。
「不肖なるモンク。拙僧が先頭を進みます故、皆様方、どうかご安心ください」
「カインさんっすねえ。あたしはマーガレット、槍使いと思って貰えばいいっすよ。基礎ステータスがレベル一でも高いっぽいんで、序盤は任せてくれていいっすから。よろしくっすね!」
と、花の笑顔で応じたのは、同じく前衛職のメイド騎士マーガレット君。
続くのは、回復と補助を担当する女神、大いなる導き。
「戦場では、はじめましてマーガレットさん。わたくしは大いなる導き。主に能力向上の舞と回復の奇跡を扱いますので、よろしくお願いします」
「へえ、美人さんっすね! 何の職業なんすか?」
「主神と女神ですわ」
「め、女神さまっすか!?」
にっこりおっとり!
マイペースに応える大いなる導きに、マーガレットくんが眉を顰める。
「あー、そりゃまあケトスさまの知り合いなら、神っぽい人がいてもおかしくないっすけど。主神で女神様っすか……」
「あら。もしかして女神になにか嫌な思い出でも?」
はて。
マーガレットくんが女神と関係しているなんて案件、私も知らないのだが。
大いなる導き個人に対する感情じゃないよ!
と、言いたげに頭を掻きながら、マーガレット君が笑う。
「あははははは、いやぁ大いなる導き様には直接関係ないんすけど。ロックウェル卿と冒険をしている時に何度か古き神だ! って偉そうにしていた女神様を封印したりしてたんで、ちょーっと苦手意識があったんすよねえ。あ、でも! 導き様はそういう嫌なオーラを感じないんで、ぜんぜん問題ないっすから!」
ビシっとブイサインをしているマーガレットくんを見るのは、賢き私と、冒険者姿に扮する魔王様。
てか、ロックウェル卿とマーガレットくん。
いつも二人でどんなクエストを受けて、どんだけ暴れてるんだか……。
『魔王様……今の話、ロックウェル卿から聞いてます?』
「いや、卿は伝達の必要がないと感じた事を、秘匿する習性があるからね。どの古き神を封印して回っていたのかは知らないけれど、まあ、問題はないさ。それは卿と彼女だけの物語。大事にしておきたい旅の思い出なんじゃないかな」
まあ、魔王様がいいって言ってるなら別にいいか。
そんな会話の中。
辮髪カインくんが魔王様に目をやって。
「ケトスさま、無知で申し訳ないのですが――そちらの方は?」
魔王様がニヘっと悪い笑みを浮かべる。
「ああ、カインくんだっけ――すまない。ケトスに代わりワタシ自身が語ろう。キミとは挨拶が済んでいなかったね。ここで格好よく名乗り上げ! をしたいところだが、残念ながらワタシの名はどこかの魔猫に独占されていてね――名乗る事はできない。けれど通り名なら語れるよ。三千世界の民、魔術を用いる世界のモノは皆、ワタシをこう呼んでいる! 魔を統べる者! すなわち絶念の魔王――と!」
デデーン!
あー、これ。
魔王様、ワタシ実は魔王なんだよ! どう凄くない?
を、したいのだろう。
まあ、私が相手を驚愕させるために大魔帝ケトスを名乗る時と同じである。
しかし。
この世界は古き神によって作られたも同然の世界、魔王陛下の逸話はあまり伝わっていないのだろう。
あまりピンと来ていない様子で。
辮髪カイン君が硬そうな濃い眉間に、困惑を浮かべる。
「魔王、魔を統べる王ですか。異界に疎い拙僧には、どのような方かは存じ上げませぬが……さぞや名のある御仁なのでしょう。して、職業は?」
「んー、魔術師になるのかな。一応は。まあ、だいたいのことはできるから、頼ってくれて構わないよ!」
口を逆ヘの字にする魔王様は、ものすごいニコニコである。
きっと冒険ができて楽しいんだろうなあ。
一見すると魔王様も飄々としているが穏やかそうな紳士。
その実力が世界最強クラスでヤベエとは知らないのだろう、カインくんが守ってみせます的なノリで再び、胸の前で手を合わせる。
既にメンバー紹介も済んでいそうな空気なのだが、その中で一人。
日光を避けるように木陰に潜む死神貴族のお坊ちゃんが、ぼそり。
私に向かい、不満を漏らす。
「で、駄猫。なんでインドアで戦闘に不向きなボクまで、参加メンバーに入っているんだ?」
『ん? 嫌なのかい? 社会勉強だと思えばいいじゃないか!』
応じる私に、ヘンリー君はシリアスな顔で言う。
「いや、そりゃあ必要ならば力を貸すけど。正直、このメンツだとボクは足手纏い以外の何ものでもないだろう? 卑屈じゃなくて、事実として言っているのは分かるよな?」
まあ連れていかないと、彼に纏わりつく滅びの未来が消えそうにないから!
なんだけど。
それを口にするわけにもいかないし。
悩む私に助け船を出してくれたのは、気配りもできる名メイド!
マーガレット君である。
「あぁぁぁぁ、ダメっすよ! それはケトス様の字がぐにゃぐにゃな猫文字で、地図を生成するマッパーとしての才能がないからに決まってるじゃないっすか! 自分から言い出せないからヘンリーさんをメンバーに入れて、マッピングさせようとしてるんすよ! ケトスさま、字が汚いのを実は気にしてるんすから!」
字が汚い。
その言葉に妙に納得した様子でヘンリー君が頷く。
「ああ、そういうことか。まあならいいが――皆に伝えておくが、戦力としてのボクは本当にあてにしないでくれよ? モンスターを図鑑に登録することと、結界魔術は得意だけど……それだけしかない。他は素人に毛が生えた程度。戦闘のプロとは経験も違うからな」
なーんか釈然としなくて、私は魔王様を見上げ。
『魔王様、私、別に字、汚くないですよね?』
「え? ……あー、どうだったかなあ……」
何故か魔王様は露骨に話題を避けるように、こほんと咳払い。
迷宮についての考察を口にし始めたのだった。
◇
ダンジョンに入ったのは、それから三十分後。
メンバーは――。
前衛に、モンク僧カインくん。メイド騎士のマーガレット君。
中衛に、マッパーと敵登録担当の死神貴族ヘンリー君。
後衛に、宝箱担当なネコ魔獣の私。魔術師の魔王陛下。サポートと回復担当の大いなる導きである。
前衛が少し軽い気もするが。
私も魔王様も、極端な話、大いなる導きも前衛職の代わりはできる。
実は白兵戦もかなり得意なメンバーとなっていた。
制限下。
つまりゲーム結界領域に入ったのだろう。
やはり全員がレベル一になっている。
迷宮内の景色はよくあるファンタジーなダンジョンそのもの。
松明を片手に、昏い暗黒神殿を進んでいる――そんなイメージだろうか。
人の出入りがあるおかげで、カビの匂いはあまりしない。
ちなみに。
私は肉球あんよが汚れるのが嫌なので、ふよふよと飛行する大いなる導きの腕の中。
いつものドヤ顔である。
さて、いきなり問題が発生。
ダンジョンに突入した途端――罠が襲ってきたのだが。
これも想定済み。
どーせ性格の悪い古き神が相手なのだ、アン・グールモーアの時とは違って、こっちが弱い最初にいきなり仕掛けてくるとは思っていた。
目の前に湧くのは――極悪モンスター達の群れ。
どっからどーみても初層の敵とは思えない、おどろおどろしい連中ばかり。
おそらく……。
楽園にいた魔物や神の力だけを模した、劣化コピーだろう。
なるほど。
ここの魔物は全て、古き神が生み出した紛い物の可能性が高い。
ローカスターのように、かつて人だった者もいるのかもしれないが。
ともあれ。
あまりにも予想通り過ぎて、私はジト目でモフしっぽを振っていた。
『んーみゅ、まさかここまで想定通りとは。敵さんはあんまり賢くなさそうな感じだね』
「ケトス様、拙僧の後ろに御下がりください! この者達は迷宮の悪魔――パーズズ。蝗害を司る神を模したとされる悪霊王。本来なら最下層付近にいる敵なのですが」
叫ぶカインくんが、全員を守るようにギリリ――ッ。
歯を食いしばり、素早い印を結んで僧侶系の防御魔術を張ろうとするが。
魔術師である魔王様が前に出て――。
のほほんと、糸目な笑顔。
「大丈夫だよ、カインくん。これは感謝しないとね、だっていきなり経験値をくれるわけなのだから」
「悠長なことを言っている場合ではありません! この者達は本当に強敵で、一度引きましょう!」
本当に心配してくれているのが分かるが。
私と大いなる導きは、これから何が起こるのか……だいたい想像ができているようで――。
魔王様の後ろにサササっと隠れる。
案の定。
レベル一の魔王様が、ただの木の枝を魔術の杖代わりに構え。
足元に星の魔法陣を展開。
世界に漂う全ての感情を糧とし、詠唱を開始。
「星の大樹。紅蓮の導き。さあ――愚かなる反逆者に裁きの光を。最終決戦魔術:スターライト・エクゼキューター!」
そして。
光が迷宮を駆け巡り。
星型の十重の魔法陣が、第一階層で発動した――!
むろん。
こんなところで使っていいレベルの魔術ではない。
複数の大魔術師による三日三晩の詠唱と、修行と徳を積んだ大司祭が同時に祈祷を重ねる事で、ようやく発動が可能となる。
絶大な破壊力をもって戦争を終わらせる事を目的とした――最終手段。
異界の賢人たちにより開発された儀式魔術である。
具体的には、世界の命運をかけた最終決戦で使うような超極大規模の魔術。
そう思ってくれていいだろう。
卑劣な罠による魔物の奇襲は失敗。
てきはぜんめつした。




