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進撃のネコ神 ~邪神は高らかに笑う~その4



 ネコと和解した異世界――迷宮国家クレアリスタ。

 ダンジョンとネコ魔獣。

 そしてニンゲンと亜人種が共に暮らす街には、まだ昨夜の宴の名残が目立っていた。


 まあ、多くの人が灰状態から復活したのだ。

 待ち続けていた家族や仲間は、本当に嬉しかったのだろう。


 いったいいつから放置……、というか信仰のためのエサにされていたんだか。


 さて!

 そんな宴の余興の中でも太陽は登る!

 全ては魔王陛下のため、私は今日も頑張らないとね!


 私が活躍し、私を信仰する者が増えれば!

 その信仰も、私を通じて魔王様の元へと届くのだから!


 ビシ――!

 よーし! 今日もイイ感じに決まった!

 肉球の凹凸の角度まで計算された、美しい決めポーズ完成である。


『そんなわけで――話を進めようか!』


 スイートルームな宿屋の一室。

 白黒模様なネコ店主からのルームサービスを受け取った私達三人は、それぞれに飲み物をズズズズ。


 メンバーは引き続き、そのまま!


 大魔帝ケトス、いつもの素敵モフモフニャンコ!

 女神で異世界の主神、大いなる導き!


 そして。

 成長しないと未来が途絶えてしまう可能性の高い、私の生徒!

 元引きこもりで死神貴族!

 現在メキメキ成長中のヘンリー君!

 以上の三名で、集めた情報をまとめている所であった。


 ちなみに。

 何故宿屋の店主がネコ魔獣なのか、その理由は単純。


 既にここはネコの国。

 大魔帝ケトスによるダンジョン領域上書き、つまり《ネコ汚染》を受けた世界となっているからである。

 ダンジョンをサポートする施設は全部、私の眷属ネコに占領されているんだよね。


 そんないつもの説明を記録クリスタルに記述していく私を、じっと眺め。

 ヘンリー君がジト目で言う。


「いや、駄猫教師さあ……占領されているんだよねって、軽く言ってるが――大丈夫なのか? その人たちの生活とか、そういうことちゃんと考えてるのか?」

『って! あれ? ヘンリー君、なんで私の心の声が聞こえて……って、ああ、そうか。君、魔眼の力がある程度コントロールできるようになっているのか』


 感嘆とした声が私の猫口から漏れて、ヘンリー君の前髪を揺らしている。

 痩せすぎってこともなくなったし。

 元は悪くない顔立ちだったのか、線の細い翳ある王子様って感じになってて、ちょっと笑えるね!


 鼻高々にヘンリー君は胸を張り、ドヤ!


「当然だろう! ボクだからな! ほら、駄猫! 頑張ったボクをもっと褒めてもいいぞ! なーっはっはっは!」

『いや、まあ本当にすごいし褒めてもいいけど。なんかその笑い方……ロックウェル卿とホワイトハウルみたいだね。どこで覚えたんだい、その偉そうなドヤは……』


 変な笑い方を覚えてしまった生徒に、んーむと悩む私も可愛いのだが。

 何故だろうか。

 私をじっと見ていた大いなる導きが、気付いていらっしゃらないのですね――と、口元を隠しながらふふふっと微笑んでいる。


『まあいいや! 修行の成果がでているってのは素晴らしいね。ただ――私の心の中って、うっかり入りこんじゃうと二度と戻ってこられない、闇空間とかもあるし……一応、心のブロックを強化してと。えーと、元店主さん達が心配って話だったっけ』

「心配ってほどじゃないが、まあそういうことだよ」


 露骨に目線を逸らす青年の顔を、うにょっと眺めニヤニヤ。

 モフ毛をもこもこ膨らませ私は言う。


『心配なくせに素直じゃないなあ。安心しなよ。店を乗っ取っても元店主さんを追い出すわけじゃないからね。頭を撫でよ! 我が働くから、ご飯を持ってくるのニャ! って、ギブアンドテイクな関係を作っている筈だよ』

「まあ、共存できているなら構わないが……あと、その貌はやめろ!」


 元店主の人の状態まで気にするなんて。

 前のヘンリー君にはそこまでの余裕はなかったのだが――ちゃんと成長している。

 ということだろう。


『心を読む能力もちゃんと使いこなしているみたいだし、回復の奇跡もバッチリ覚えたし。じゃあ次は何を教えようかなあ』

「おまえなあ……育成ゲームじゃないんだから、そんなに詰め込まなくてもいいだろう? ボクにも休暇は必要だと思うんだけどなあ!」


 ここまで元気なら、まだまだ大丈夫だろう。


 私とヘンリー君の会話を、ふふふっと微笑みながら眺めていた大いなる導きが、シャラン。

 腕輪を揺らし、頬に手を当てる。


「自信をお持ちになってください――ヘンリーさんは、よくやっていらっしゃいますわ。レベルも本当に上がるのが早いですし――さすがはケトス様の弟子、覚えも早く吸収もいい。わたくしも導き甲斐がありますわね」

『なんたって! 主神クラスの私と君が教育してるんだからね! これくらいドバドバっと成長して貰わないと、こっちが困っちゃうよ。ねえねえ! 何を教えようか! やっぱり見た目が派手な超範囲大核熱魔術でも教えて、戦闘力の強化とかかな!?』


 ドヤる私に、ヘンリー君が怒鳴る。


「なんでお前が偉そうにしてるんだよ! ていうか、なんだ、その物騒な大規模魔術は! あぁぁぁぁぁぁ! それに! また話が逸れているじゃないか。今日の議題に話を戻すからな!」


 言って、仕切る彼は死神名簿を顕現させる。

 レベルもメキメキ上がっているので、だいぶ開示できる情報が増えているのだが。

 まあ今は関係ない。


『たしかに君の言う通りだ。敵が次の手を打つ前に、動かないとね』

「ああ――だが、悔しいけれどボクにはこれといって気付く点はなかった。でも、ナニかが裏で動いているっていうことだけは、なんとなく分かる。嫌な直感、予感……って言ったらいいの? よく分からないけどさあ、なんか不快な介入な気配を感じたんだよね」


 なんとなく嫌な予感みたいなモノがする。

 それも予知の一種である。


「二人は何かを気付いているんだろう? ボクとしては、そこをちゃんと隠さず説明して欲しいんですけどね。勿体ぶったってイイ事はないだろう?」


 告げて紅茶を口にするヘンリー君。

 彼曰く、私も大いなる導きも何かを察してはいるが口にしていない。

 そう言う事らしいが。


 珍しく眉を顰めた大いなる導きが、ぼそり。


「わたくしも、まあ……この迷宮国家に仕掛けられた性格の悪そうなカラクリは――どうせ、あの方たちでしょうねえ……みたいな直感が確かにありますが」

『え、やっぱり君もそう思う? こういう、陰湿なやり口って大抵あいつらだよね……』


 私と大いなる導きが目線を合わせて……ああ、やっぱり。

 互いに何を考えているか察したようである。


 朝のクロワッサンを、口いっぱいに入れたタイミングの私ではなく。

 大いなる導きが、飲み物で少し濡れた唇を動かしてみせる。


「わたくしとケトス様が考えている事はおそらく同じ。あの光の柱の真下にある大迷宮。そして、ダンジョンと共に育った国家クレアリスタの民。この二つの影にある、とある存在のことなのでしょうね」

『そ、こんなに都合よく大迷宮が存在するとは思えないからね。絶対、あいつらが裏で糸を引いている筈だ』


 ボヤく私達は、露骨にげんなり。

 あからさまに尻尾を落とし、耳をかわいく後ろに下げる私にヘンリー君が言う。


「その口ぶりからすると――あの大迷宮を作ったのが古き神、ようはあのヤンキー女か、その仲間だって言いたいのか?」

『ご名答。まあ話の流れから予想はできていたのかな?』


 頷くヘンリー君が眉を顰める。


 古き神、特に女神の性格の悪さ――出会った時の、うわ……こいつやべぇ……感を知らないからなあ。

 疑問を解決するように彼は言う。


「古き神ってそんなにヤバいのか? ボクが知る伝承、いわゆる創世記で伝わる楽園の住人は神々しい存在。アンタほどのマイペースな駄猫が、そこまで露骨に、しっぽを膨らませて揺らすほど嫌う相手には思えないんだけどね」

『ヘンリー君さあ。ちょっと頭の中で、性格の悪い人を思い浮かべて欲しいんだけど。できるかい?』


 言われた彼はアメントヤヌス伯爵を思い浮かべたようだが。

 その思考に直接介入。

 イメージを彼の頭の中で顕現させるべく――私は肉球をパチン!


『その百倍ぐらい性格が悪くてわがままな女神が、他人の世界に降臨。主神を名乗って好き勝手やっているんだよ? けっこう、嫌な感じがしないかい?』

「伯爵よりも性格が悪くてしかも、強さも神格も更に格上の存在が暴れている、か……まあ、少しは理解できた。――……理解できたから! とっとと頭の中で暴れてるブタ伯爵を消してくれ!」


 ぜぇぜぇと荒い息を漏らすヘンリー君に、大いなる導きが真剣な顔で言う。


「わたくしも知る女神が相手かどうかはわかりませんが、この世界を利用し行っていたことは既に見えています」


 シリアスな口調を維持する女神様は、それはもう神々しく。

 ヘンリー君がついつい見惚みとれているようだが、これはまあウブな彼だからではなく、男性ならば全員が食い入るように見てしまうだろう。


「わたくし達、古き神の力の源は人間達の感情――つまり信仰なのですよ。魔性であるケトス様が負の感情を糧とするように、他者の心に強く影響を受けるのです。ならばこそ――滅びた楽園から追放され、弱体化した古き神が取る手段は一つ。人間を騙し、信仰を得ることにあります」


 このままだとまともな主神や女神も誤解されそうなので、私は口を挟む。


『ああ、ストップ。かつて人に騙される前の彼女、大いなる導きのようにちゃんと人間を導き、救い――その対価として信仰を得て力を取り戻していた。そういう真っ当な女神も勿論いるから、誤解はしないようにね』


 頷くヘンリー君を確認し、私は大いなる導きに先を促した。


「今回のケースも女神が人間を騙し、信仰を稼いでいたのでしょう。所々から、神の奇跡をちらつかせて信仰心を煽る制度が見られましたので……おそらく間違いないかと。この国の聖職者たちがあれほどに狂信的なのは、既に長い歴史の中で、そのように生きるように扇動されていた可能性が高いと思われますわ」


 人間に対して複雑な感情を抱いている彼女。

 それでも思う所はやはりあるのだろう、その美貌には悲壮が浮かんでいる。


 彼女に代わり、私が少しだけ話を続ける。


『人々の心を掴むために利用されたのが、あのダンジョンってわけだね』

「ええ、おそらくは――より多くの信仰を得るために、この世界に降り立った古き神々はあの大迷宮ダンジョンを生成。冒険者が迷宮に入るというサイクルを確立させたのでしょう」


 私は肉球を鳴らし――この国で英雄と呼ばれたダンジョン冒険者たち、上級冒険者の情報を死神名簿から顕現させる。

 その多くが、灰となったまま放置されていた。


 それはなぜか。

 おそらくはダンジョンを完全に攻略されてしまっても、困るからだろう。

 信仰を運んでくる冒険者には、永遠に彷徨って貰わないといけないのだから。


 まあここはちょっと残酷そうなので口にはせず、あえて私は明るい口調で言う。


『ダンジョン攻略には不幸がつきもの。そこで負傷したり、状態異常になったり――時には死亡したり。そんな状態を治すのにはどうするか! もちろん、治す力のある神に祈り、信仰を捧げ治療を願う。ほら! 思い通りになった! ダンジョンを作り、そこに入ることで生活をさせる環境さえ作れば、問題なし! 後は自動的に信仰を運んでくる蟻んこの完成って訳さ』


 考えを整理するように紅茶に口をつけ、一時。

 ヘンリー君が唸る。


「なるほど、読めてきたよ――古き神々は絶対に攻略できないダンジョンを作り、人々に秘宝の伝承や奇跡の逸話を語り、騙し、冒険者たちを招き入れる。終わらないダンジョン攻略をさせていたってわけか。そして生活に必要となる素材や食料品を、ダンジョン内で手に入るようにすれば――生活のためにも、人は必ず迷宮に潜るだろうからな。で、そんな事を企みそうなのは、そして実際に迷宮を作れるほどの存在は誰か。そう考えた時に辿り着く犯人が――」

「ええ、そうなのです。おそらく、わたくしとかつて故郷を同じくする者。古き神のだれか、でございましょうね」


 ここでようやく、繋がるのである。


 まあ、悪そうなことは大抵古き神か魔竜のしわざ。

 そう思っても問題ないんだけどね。

 あいつら、共通して性格が悪いし。


 ゆで卵の頭をスプーンでペチペチして割り、殻を丁寧に剥き……。

 いや、剥けずに悪戦苦闘しながら私は言う。


『しかし目的は何なんだろうね。そりゃまあ、かつてあった力を取り戻すってことなんだろうけど……あのヤンキー少女が古き神だったとしたら、あの学園に侵入していた理由がよく分からないんだよね。私もだいぶ古き神を懲らしめてるから――見つかったらアウトだって、さすがに分かっていただろうし』

「ひとつ、思い当たる事がございます」


 大いなる導きが私の代わりにゆで卵の殻を剥いて、お皿に乗せてくれて。

 スゥ……ッ。

 輝く唇を動かす。


「ラストダンジョン。あの方の住まう魔境――魔王城に眠る石像の数々をご存じでしょうか?」


 ウチ……魔境扱いかい。

 いや、まあそりゃそうだけど。


『ああ、ロックウェル卿が返り討ちにして石化ミュージアムにしてある、あの古き神々の彫像ね。もちろん知っているよ? 私が大魔王と戦っている最中に、魔王様を襲いに来た卑劣な連中……って、まさか!』

「はい――おそらく彼等はあの日の襲撃のために、長い間この地に潜んでいた。楽園を滅ぼしたあの方に復讐するため――異世界であるこの地で、信仰値を稼いで神格を向上させていたのではないか、そう思いますの。いままで治療を扱っていた神々が、急に消えてしまったという話の説明もつきますでしょう?」


 神が集団でいなくなるなど、普通はあまりない話だ。

 まあ地球文化の神無月みたいに、神様が宴会をするために一時的にみんないなくなる、ってこともあるだろうが。

 それは例外だろう。


 ならば、何か事情があって消えてしまった。

 そして近年、古き神が関わった案件かつ、大きな動きがあった世界といえば。


 私達の世界。


 彼らは長い間この大迷宮世界と人間を使い、力を蓄えていたのだろうが。

 極悪ワンコとニワトリさんに、あっけなく撃退され。

 封印状態になっている、ということだろう。


『にゃ~るほどねえ。本当にあっているかどうかはともかく――あり得ない話じゃないね。じゃああのヤンキー少女はやっぱり古き神の変装って事かな。その最終目的は、魔王城に眠る同胞らの石化解除ってところだろうね』


 もし石化ミュージアムになっている神々の関係者なら。

 当然、あの城の最強戦力である私の様子も探りに来るはずだ。


 話を聞いていたヘンリー君が難しい顔で言う。


「しかし、犯人が古き神々だとしたら――これから敵はどうするつもりなんだろうな。大迷宮を悪用しての信仰稼ぎはもう利用できないわけだろう? わりと詰んでるんじゃないかな」

『まあ、性格の悪い彼らの事だ――おそらくは迷宮を暴走させて、魔物を解き放ち、ここの国家を滅ぼさせるつもりじゃないかな』


 あっさりといった私に、ヘンリー君が驚愕しながら立ち上がる。


「は!? なんでそんなことをするんだよ!? この国は迷宮をエサに、自分たちで作ったようなモンだろう!? それを壊すなんて、どうかしているし理由が分からない」

『言っただろう。どうかしているんだよ、彼らは。そして破壊する理由は一つ、神の力は信仰を糧としていると説明しただろう? 神々が魔王城で石化している状態で、なおかつ単独で動いていたあのヤンキー女は既にこの地を捨てている。すると人間達は、誰に頼り、誰に信仰を送ると思う?』


 納得した様子で、ヘンリー君は眉を顰める。


「なるほど、この国家を残しておくとボクたちの信仰値が上がり、力を与え成長を促してしまう。むしろ、いまこの国は一刻も早く消すべき場所になってるってことか……」


 冷静に呟き考え、答えを導く。

 まあ、これも授業の一環である。


 答えを導いたことは大変結構! なのだが、彼はコミカルに前のめり。

 ゆで卵を頬張る私に叫ぶ。


「って! じゃあなんでこんなに落ち着いてるんだよ! 早くなんとかしないと、大迷宮から魔物が溢れ出て、街がパニックになるんじゃないのか!?」

『正解。そこまで自分で考えられるのは、まあ悪くない観察眼だ』


 パチパチと肉球を叩き賞賛する私。

 とってもかわいいね?

 更にドヤ顔を浮かべ、話を続ける。


『さて、君に問題だ。たしかに、もう少ししたら大迷宮からモンスターが襲ってくるだろう。まあその予想が外れているなら問題ないが、もし当たっていたら……悠長にしている暇はない筈。けれど私も大いなる導きも落ち着いている――さあ、それは何故でしょう?』


 問われた王子は考え込み。

 すぐに答えを導き出したのだろう。


 大量に湧いている最強ネコ魔獣に目をやり、ハッとこちらを見る。


「ああ、なるほど――だからおまえはこの国にあんなことを……って! じゃあ、おまえ! この世界に顕現した時には既に、ここまでの流れを読んでいたってことか!?」

『さあ、どうだろうか』


 もったいぶって曖昧に答えを返す。

 普通にそうだよ! というよりもなんとなくカッコウイイ!

 これもドヤの奥義である――が。


 完全に読み切っていたわけではないが、まあ言わない方がカッコウいいので黙っておこう。


 既に先ほどの質問の答えが、ウニャウニャっと騒ぎ出している。

 動きがあったのだ。


「あら……やはり。悲しいことに、迷宮の魔物達が来ましたわね、本当に……楽園の同胞たちは、変わっていないのですね」

『ま、大いなる光だって君だって変わったんだろう? 全員が全員、どうしようもない連中ってことはないだろうさ』


 私は騒がしくなってきた外に、目をやった。

 全ては想定の範囲内で進んでいる。


 外では、戦闘が開始されていたのだ。


 その主役は――当然、街に徘徊するネコ魔獣軍団。

 そう。

 いまここは、私の権能によってネコの国となっているからね。


 乗っ取られた宿屋の主人がネコ魔獣になっているように、施設全部がネコに占領されている。

 当然。

 ダンジョンの入り口を守る監視塔にあたる施設も、もふもふネコ魔獣に占拠されているわけで。


 太陽の下。

 ネコの、声がした。


「ぶにゃ!? ここは我等の縄張りだニャ!」

「我こそが大迷宮の伝説の魔物? 知らぬわ! ニャー達の縄張りを荒らす者は、たとえ神だとしても容赦はせん!」

「ぽかぽか日光浴の邪魔をするニャ! やっちまうのニャ!」


 言葉を発することのできるネコ魔獣の一部が騒ぎ出し。

 巨大な魔法陣が天を衝き――そして。


 爆音が、響き渡る。


 外を見ると、そこには一面のモフモフ。


 撫で撫でしてご飯をくれる人間や亜人類。

 迷宮国家クレアリスタの民を縄張りの一部と認識した彼らは、にゃふー!

 人間達に結界を張り――完全防御。


 侵入してきた伝説クラスの魔物の首を、一撃で刎ねるネコ魔獣がズラズラズラ!


「にゃ~にが伝説の黒鱗魔竜ニャ! 生意気なトカゲにゃど、ドラゴンステーキにしてくれるニャ!」

「ギニャハハハハ! 魔竜狩り! 新鮮お肉の冷凍保存ニャ!」


 飛び交うネコ魔獣による、大魔術の数々。

 中堅クラスの世界ならそのまま壊せそうな程のネコ戦力が、迷宮から溢れ出るモンスターだけを狩り続ける。


 わっせわっせ!

 ネコ魔獣たちが、街を守るべく大奮闘!


 これには人間達もさすがに唖然。

 ネコに捧げる信仰値が、みるみるうちに上昇しているようである。


 その様子を眺めるヘンリー君が、うわぁ……っ。

 と、引き気味に言う。


「ネコ無双じゃないか……ネコってこんなに強かったのか?」


 疑問に応えるように、私はネコのヒゲをふふーん!


『私の眷属は特別に強いからね。そして私という存在が降り立った世界では、モフモフした魔獣は軒並み基礎能力が強化される。ネコだから気まぐれなのが玉に瑕だけど、既に《ネコ汚染》が進んだ世界は安全安心。最強のボディガードで傭兵な彼らが――無報酬で縄張りと決めた街を守ってくれるってわけさ』

「これ……相手の女神さあ。絶対、かなり昔から計画を立てていたんだろうけど……。ちょっと立ち寄っただけのおまえに全部、台無しにされてるんじゃないか?」


 そうかもしれないが。

 そもそも悪だくみをしている女神が悪いんだし。


 私、悪くないよね?


「まあ、相手がそれだけ腹を立てているのなら動きも分かりやすいかもな。ボクならこの騒ぎに乗じて街の住人に成りすます。そして隙を狙って――チャンスを待つんだろうが」

『そういうこと! 今の君の死神名簿を使えば、正体も看破できるってことさ。じゃあ私達も魔物を狩って、肉素材もゲット! ついでに街の安全も確保しようじゃないか!』


 ビシっと外を指さし、私は――くははははははは!

 完璧な作戦である!


 ドヤる私を眺めるヘンリー君の顔には、まるで偉大なる師を見るような。

 尊敬のまなざしが浮かんでいた。


 筈だったのだが。

 その顔はすぐにジト目になる。


「駄猫さあ……アンタ、口元がゆでたまごの黄身で、すんごい事になってるんですけど?」

『あれ? 尊敬の眼差しじゃなかったの?』


 ヘンリー君はなぜか何も答えず。

 私の口元を、綺麗に拭き取った。



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― 新着の感想 ―
[良い点] あやや…。女神の企み終了((o(^∇^)o)) [一言] ケトス様の前では企みさえも破壊される…。 正に破壊神ですね((o(^∇^)o))
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